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バレー部のタチバナさん  作者:
バレー部のタチバナさん
10/38

9 曖昧


「……あれ、私重村に妹の名前言ってたっけ?」


 身内にデート現場を見られてパニック状態の私から出てきた第一声はまさかのコレだ。重村曰く「結構前に言ってた」らしいけれど心当たりがない。一体いつのことだろう。


「いや、私の名前はどうでも良くて……! お姉ちゃん、もしかして、……彼氏?」


 妹の驚き声に、我に返る。

 正直、重村が家まで送ると言い出したときに、近所の知り合いに見られるかもしれないとは一瞬脳裏をよぎったけれど、まさか部活帰りの妹に出くわすとは。


 どう答えよう、と思考を巡らせながらふと気づく。

 私、さっきまで重村と手繋いでたよね? 絶対香帆はそれ見てるよね?

 コレ、付き合ってないですって言う方がオカシイよね?


 誤魔化すことを諦めた私はコクリと頷いた。

 びっくりした妹は声こそ出さなかったものの、ムンク顔で自転車を倒してしまう。

 姉妹の謎の場面に出くわした男、重村は慌てつつも香帆の倒した自転車を立て直す。


 香帆の登場で初デートの余韻は呆気なく散ってしまった。



 ■


 クラスメイトの玲香と莉子、有希(ゆき)に昨日のデートの報告をすると、途中まではウンウンと話を聞いてくれていたのに、最後の最後でゲラゲラと笑われてしまった。


「ハハハ! 何それ、めっちゃカオスじゃん!」

「こんなに変すぎる雰囲気のぶち壊し方聞いたことない」

「親にバレるんじゃなくて、妹って……!」


 教室の窓際の壁にもたれかかる玲香は「お腹痛い……」と過呼吸気味になりつつ、左目から滲み出た涙を拭っている。


 昨日はなぜか姉妹2人で重村を見送り、腰の抜けた香帆の代わりに私が家まで自転車を押して帰った。

 反抗期真っ盛りの妹は、姉の彼氏の存在を両親に打ち明けないというデリカシーは持ち合わせつつも、心は上の空で、晩ご飯を食べながらも意識ははるか彼方にあった。その様子に、普段はマイペースなお父さんが「香帆の好きな俳優さん、今テレビに出てるぞ」と珍しく気を遣っていたぐらいだ。


 そんな妹も一晩経てば落ち着いたようで、朝から機嫌良く目玉焼きにかける調味料を吟味して、そのせいで部活の朝練にちょっと遅刻しそうになっていた。ある意味これが通常運転だけど。


「でも良かったじゃん。彼氏と進展あったみたいで!」


 みのむしのようにカーテンに包まりながら顔だけヒョッコリと現した莉子は、梅雨の中休みが続く今日この頃のように晴れ晴れとした笑みを浮かべるけれど、私の心の内はそうではなくて。細い糸が絡まってしまったかのようにモヤモヤとしたものを抱えてしまっている。


「うーん。まぁ、そうなのかな……?」

「あれ、何か悩みでもあるの?」


 窓際の自分の席の机に腰掛けながら、有希は紅茶の紙パックのストローから口を離して意外そうな顔をした。


 今日と来週の月曜・火曜に返却される予定のテストや、2週間後に控えた夏休みの話題で、朝のホームルーム直後の教室はワイワイと賑わっている。

 自分の胸の内を明かすというのは、なかなか勇気がいることだ。他のクラスメイトが近くで話を聞いていないことを確認してから、耳を寄せてきた3人に小声で訳を話し始めた。


「私自身が彼氏のことをどう思ってるのか、よく分かんないんだよね」

「……気持ちが曖昧ってこと? でもそうやって悩むってことは好きなんじゃないの?」

「どうなんだろ。カップルっぽいことをして、ちょっとずつ意識しているのは事実なんだけど。うーん……」


 ウジウジと考え込む私に、玲香と莉子と有希は互いの顔を見合わせ、怪訝そうな表情を浮かべる。


「例えばの話ね。もし明日私が転校することになって、重村と距離が出来て会えなくなったら、気持ちは冷めていくと思う。上手く言えないけど、その……。一緒にいるから気持ちが流されつつあるだけなのかなー、みたいな」

「そ、それは……」


 きっと私の感情は、少しの距離が生まれればプツンと儚く消えてしまうほどのヤワなものなのだ。『会えない時間が2人の愛を育てる』なんてフレーズを耳にしたことがあるけれど、私の場合は逆で、会えなかったらこの気持ちは一瞬で枯れ果ててしまうのだろう。


 そんな私の思考回路を断ち切るように、ポンと紙パックを置いた有希は右手を突き出して私のおでこをピンと指で弾いた。


「い、痛っ。地味にちょっと痛いんだけど……!」


 ジクジクと痛む患部を抑える私を呆れた目で見ながら、「香里は難しく考えすぎ」と有希は言い放った。


「一目惚れでもしない限り、一緒に時間を過ごして人を好きになる訳でしょ? それがたまたま香里の場合は、付き合うのが先か、気持ちが先か、順番が逆なだけかもしれないじゃん」

「……それは、一理あるかもしれないけど」

「私も有希の考えに賛成。まだ付き合って1ヶ月も経ってないんでしょ? 焦って答えを出す方が絶対辛いって。もうちょっと長い目で見てもいいんじゃない? もし仮に、好きになる前に関係が終わってしまったのなら、それはそれで良いじゃん」

「そう、なのかな……?」


 首を傾げる私に、玲香と有希の2人はブンブンと首を縦に振る。


「あたし今まで彼氏いたことないから分かんないけど、告白されて『まぁいっか』で付き合う子って割と周りにいない? 彼氏のことなんて『好きかも?』ぐらいで別に良いでしょ。てか最悪の場合、ダメだったら振ればいいじゃん!」


 ドヤ顔で顎の下にVサインを作る莉子に「それを言ったらおしまいでしょ……」と有希は遠い目をしていた。




香里ちゃんのクラスメイト(8組)

玲香(バスケ部)、莉子(テニス部)、有希(陸上部)

※覚えていなくても読めます。


女子のグループって4〜6人ぐらいが1番居心地良いですよね。(主観ですが、3人が1番色々と難しい気がします。)


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