後編
それからレオリスは友人に頼んで、自分がローレンスに対して何もしていないことの証明の手伝いをしてもらった。それと同時にフィラニアは以前自分がローレンスにされてきたことの証拠を集めた。
その後二人で王国にある新聞社に行き、集めた証言と証拠を渡す。そしてパーティーが終わった翌日に号外として出すよう頼んだ。正確には王族関係なこともあり、最初は断っていた新聞社の人をレオリスが帝国の力を使い潰すと脅して解決した。
そしてパーティーが始まった。
「そういえば少し頼まれたことがあったから、復讐完了後にフィラニア嬢に伝える」
「分かりました。因みに誰から頼まれたことなのかだけ、教えてもらってもよろしいですか」
パーティーが始まり続々と貴族達が集まってきていた。突然のパーティーだが国王主催というのが大きく、多くの貴族が参加せざるを得ない状況だったと言える。
パーティーが盛り上がるのを待つ二人は復讐には関係の無い会話をしていた。二人がこのように話すのはとても珍しい。二人はお互いのことを復讐共犯者としてしか見ていない。そして相手のことを利用するのは難しいとも思っていた。
「フィラニア嬢の父上だよ」
「……父、ですか……。嫌な予感がしますね」
(お父様は偶に突拍子もないことをするのよね……)
レオリスが頼まれた相手をフィラニアの父だということを伝えると、フィラニアはあからさまに嫌そうな顔をした。
フィラニアが婚約破棄をされたことを報告しに行こうとした時、レオリスも連れてこい、と言われて一緒に行ったのだ。そこでお願いされたのだろう。
フィラニアの父は一言で言えば親バカ。娘であるフィラニアのことが好きすぎるがあまりローレンスの家を潰そうという計画も練っていた。
流石にそれはまだ早いということでフィラニアが一旦止めた。最初は止まりそうになかったが、フィラニアが怒り気味で言うとすんなりとやめた。フィラニアの父はフィラニアのことが好きで逆らえない存在でもある。
「いやいや、とても良い知らせだ。これが現実となれば確実に大勢の人が喜ぶことになる」
「因みに、その大勢の中にわたしは含まれていますか」
「それはフィラニア嬢次第だとしか言いようがないな」
フィラニアは大勢の中に自分が入っているか疑いレオリスに問いかけたが、レオリスは確かにとしか言うしかない返答をする。フィラニアはこれ以上聞いても無駄だと思い、潔く引き下がった。
ただフィラニアはそれは多分自分にとって良いことではないと思いつつ、相手が皇太子だということで追求はできないと思った。
「そうですね。では復讐後を楽しみにしております」
「ああ、楽しみにしておいてくれ」
フィラニアは心にも無いことを素晴らしい笑顔を使うことで誤魔化す。レオリスはそれが嘘だということを分かりつつ、嫌味のようなことを言った。
性格が捻くれている者同士でしかできない会話だろう。
「そろそろ良いんじゃないか」
「そうですね。パーティーが始まって一時間くらいが経とうとしてますから」
フィラニアとレオリスは復讐へと向かう。
レオリスは一枚の紙を持ち、証拠となる文章が書かれた書類が入った封筒を持ち、二人揃って部屋を後にした。
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パーティーの参加者が揃い、とても盛り上がっていた。
ただその盛り上がりは空元気のようで、心の底から楽しんでいる者はいなかった。
それもそうだろう。国王がこんな時にパーティーを行うということは何らかの意図があるに決まっている。王女は皇太子に公爵令息が公爵令嬢に婚約破棄をしたのだから。それも理由が浮気だということは周知の事実。
一番怯えているのはローレンスの家族だが、当の本人であるローレンスとナナニカは二人で楽しく自分達の世界へと入っている。
「ナナニカ、ローレンス、前へ」
国王がナナニカとローレンスを自分の前へと呼び出す。
二人は結婚を認めてもらえると喜んでいるようだが、周りの貴族達は不安そうにしながら見ていた。
貴族達は心からナナニカとローレンスを断罪すべきだと思っている。そうしなければ帝国から何をされてもおかしくないからだ。
「はい、お父様」
「失礼します、国王陛下」
ナナニカとローレンスは国王の前へと行き、片膝を突いた状態で頭を下げる。少しして二人同時に頭を上げた。
国王は二人を見ると、使用人用の出入り口に合図を出す。
その合図を受けて入ってきたのはフィラニアとレオリスだった。
二人を見た貴族達は不安な表情から絶望へと変わっていく。国王は帝国に売国するのではないか、皇太子であるレオリスが宣戦布告してくるのではないか、などの様々な最悪の未来が次々に思いついてしまう。
「なっ! 何故ここに二人が来るの! ここはわたくしとローレンスのためのパーティーなんですのよ!」
「そうだ! 何故ここにいるのだ!」
「黙れ」
ナナニカとローレンスは二人を見た途端急に立ち上がり、二人に向かって強い口調でパーティーに来たことを聞いた。聞くというよりは追い出そうとしているの方が近いのかもしれない。
そんなことを言うナナニカとローレンスを国王はとても冷たい声で黙らせた。それを聞いた二人は大人しくなる。
「国王陛下、少しお話を宜しいでしょうか」
「許そう」
レオリスは立ち膝をして国王にお願いをする。それを即答で国王は許可した。
これは勿論予定通り。それは二人が文句をいうことからだ。
「まず始めに、これを見てください。これはナナニカ王女とローレンス公爵令息に対しての処罰の内容です」
「何!? どういうこと!?」
レオリスは貴族達にも聞こえる声で言った。
その発言を聞いた貴族達は一先ず安心した。これで問題児二人がいなくなるからだ。この二人がいなくなれば帝国との関係も多少マシになる。
それを聞いたナナニカは急に慌て出す。勿論ローレンスも同じだ。
「詳細を言う。まずこの二人が述べていたオレ達を貶める発言は事実無根。その証明の一部として他の生徒からの署名がここにある」
「そんなはずない!」
レオリスがナナニカとローレンスが婚約破棄をしてきたパーティーの時に言ったことを否定すると、ローレンスがそれに噛み付くように否定した。その否定は嘘だという証明できる皆から書かれた署名をフィラニアが封筒から書類を取り出し、真っ先に国王へ見せた。
「国王陛下、ご確認ください」
「これは……。一部と言ったが、他にもあるのか?」
「はい。二人の嘘の証明やわたし達が受けてきた迷惑をまとめた書類やそれらを証明する証拠もあります」
「そうか。それで弁明はあるか?」
フィラニアは国王に署名が書かれた書類を見せる。それをさらっと見た国王はフィラニアに他の証拠のことを聞き、フィラニアは大まかなことだけを話す。
そして国王は二人に弁明という名の言い訳を聞いた。
「それは何かの間違いですわ! わたくし達は嘘など一切吐いておりません! お父様、わたくしを信じてください!」
「そうです! ボク達は本当に嘘など吐いていません。信じてください、国王陛下!」
(見苦しい言い訳をしているわね。国王陛下がこちら側だということも知らずに、可哀想なこと)
ナナニカが嘘を吐いていないと言い訳をし、それに便乗してローレンスも同じことを言った。そして信じてくださいと二人が言ったことで国王は今まで隠していた怒りを表に出した。
「何を言っている!! 言い訳と証拠、どちらを信じるかなんて決まっている! お主ら二人の婚約などーー」
「国王陛下、落ち着いてください。二人の罰はオレ達に決めさせてください」
「……良かろう」
国王は本気なのか演技なのか分からないレベルの怒りを溢れ出している。けれどそれは最後の一言を言いかけたところで本気の怒りということが分かった。
最後の一言を言っている途中でレオリスが遮る。国王はそれで落ち着きを取り戻し、レオリスの願いを許可した。
「罰って、どういうこと!?」
「ナナニカ王女とローレンス公爵令息の婚約をオレ達は認める」
レオリスの言葉でナナニカとローレンスは安心して喜ぶ。周りの貴族達は驚きを隠せないようだ。
けれどその喜びを地に堕とすことをレオリスは続けて言った。
「但し、二人の身分を平民へとし、王国からの追放と王国帝国への入国禁止、そして一生二人でいることを強制する」
「何よ、それ! そんなのお父様が認めるわけーー」
「認めよう」
「お父、様……?」
レオリスが加えて本命の罰を言い渡す。それを聞いたナナニカは反論して国王に頼ろうとするが、その罰を国王が認めた。その結果ナナニカは絶望し放心状態へ、ローレンスはその場で崩れ落ちた。
そしてそこに追い討ちをかける一言を国王が発した。
「この平民二人をこの場から……いいや、この国から追放しろ!」
そう周りにいる騎士達に言うと、騎士達はすぐに動き出し二人を捕らえてパーティー会場から連れ出した。
その光景を見て貴族達は心に思う。この二人は絶対に敵に回していい人物ではない。だから裏切りも嘘もしないよう心がけねばと。
「国王陛下、もう一つ、お願いしたいことがございます」
「なんだ、申してみよ」
「はい。オレとフィラニア嬢の結婚を認めて頂きたく思います」
(!? はっ? えっ、ちょっと待って、どういうこと?)
レオリスが予定にない行動をし嫌な予感がしたフィラニア。フィラニアはその後レオリスが言ったことで頭が混乱していた。
勿論混乱している状態を表には出していない。
「認めよう」
「ありがとうございます」
国王の結婚許可を聞いた貴族達は心の底から喜んだ。これで王国は安泰だと。
そんな周りを見ずにレオリスはフィラニアの元へ行き、フィラニアを抱き上げた。そして颯爽とパーティーを去っていった。
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「これで復讐完了だ」
「それどころじゃありませんよ。結婚ってどういうことですか!」
「フィラニア嬢も慌てるんだな」
レオリスはパーティー会場から去った後、格好良く嬉しそうに復讐成功を一人で喜んだ。対するフィラニアは復讐が成功した喜びよりも、レオリスと結婚するという唐突な出来事で頭が一杯だった。
フィラニアはこのまま一人でゆっくりとした人生を送る計画を一人でこっそり練っていたのだ。それを全てぶち壊され、挙げ句の果てに結婚をするということになってしまった。
それで慌てないわけがない。よくパーティー会場で慌てなかったものだ。
「慌てる慌てないよりも、どういうことか説明してください」
「説明も何も、結婚することになった。それだけだろう」
フィラニアが慌てているところを見て、レオリスはとても嬉しそう。そんなレオリスを見てフィラニアは溜息を吐く。そして悟った。もうこれは結婚するしかないということに。
それと同時に思い出した。
「わたしの父に頼まれたのですか?」
「頼まれた。それにオレも賛成だったからな。オレと釣り合い、尚且つオレと合う女性はフィラニア嬢くらいだからな」
レオリスは二回続けて同じことを言ったように見えるが、フィラニアだから分かることだった。
最初は外見、後半は中身。事実フィラニアは社交界で目立っていた上、レオリス並みの性格の捻じ曲がりさ。レオリスの言う通りだとフィラニアは思った。
「分かりました。結婚しましょう」
「随分と潔いな。てっきりもっと抵抗するかと思ったんだが」
「抵抗なんて無意味なことしませんよ。それに国王陛下が認めた上に、大勢の貴族の前で言われたので、今更変えようがないじゃないですか」
「そういうところが気に入っている」
「そうですか。確かにそういう自分が好きです」
そんな感じで二人は好きと言うよりも、お互いの性格が気に入ったようだ。
ただ気に入ったのが好きとなり愛になるのはまだ先となるだろう。
それでも二人が良い関係なのはずっと変わらない。