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中編

「国王陛下に謁見の許可は頂いているのでしょうか?」

「許可か? いや取っていない」

「それならば謁見できないのでは?」


 フィラニアとレオリスは皇族専用の馬車に乗り、王宮へと二人で向かっていた。

 昨日の話で国王を脅し無理矢理王族主催のパーティーを開催させようとしていた。だが脅す前にまず国王と会えるかどうかという問題が出てくるのだ。

 フィラニアはレオリスがどうやって国王と会うのかが不思議に思った。


「そもそもオレは国王陛下から呼ばれたからな」

「ある程度分かりました」

「そうか。理解が早くて助かる。ナナニカ王女ではできないことだろう」

「ありがとうございます」


 フィラニアが察したのは、国王がレオリスに謝罪か何かをするために王宮へ呼んだということだ。

 その理解の早さをレオリスは褒める。それを軽く受け取るフィラニア。

 レオリスが一番知っている同年代の女性はナナニカだ。そのせいで女性のハードルが極端に下がっている。それはフィラニアも変わらないことだが。


「作戦の確認を今一度しておきたい」

「ええ、そうしましょう」


 フィラニアとレオリスは昨日決めていた大まかな国王攻略作戦の手順を細かく詰めていく。

 二人は頭の良さと性格の悪さを存分に活用し、会話内容を予測し最善の選択をできるよう話し合う。

 パターンA、パターンB、パターンCと幾つかの想定されるパターンを考え、それぞれ用のプランを1、2、3と幾つも用意した。

 頭の良さで幾つものパターンを考え出し、性格の悪さで有無を言わせず頷くことしかできないプランを幾つも作り出した。

 これは復讐の準備の一つなのに、これをされる側である国王を復讐するんじゃないかと言ってもいいくらいだ。


「あとはそれぞれで臨機応変に対応していくとしよう」

「そうですね。失敗は許されませんから」


 二人の雰囲気はまるで戦争のための作戦会議をしているかのような重さを持っている。

 そして話が纏まったところで馬車が王宮へと到着した。


「やるぞ、フィラニア嬢」

「やりましょう、皇太子殿下」


 二人はグータッチをしお互い気合を入れて国王攻略作戦を開始することにした。

 その二人の姿はお互いの背中を預け合い信じ合っている歴戦の猛者のようだった。


###


 二人が馬車を降りると、待っていたのは一人の執事だった。その執事に案内され着いた場所、そこは応接室。それも使うのは年に一回あるかないかくらいの、最高級の応接室。

 中に入ると陽当たりもよく、隅々まで掃除が行き届いており、壁には絵や剣などが飾られていて、高級そうな物が幾つも置かれていた。そして部屋の中央にあるテーブルは大理石でできており、ソファは動物の毛皮が使われている。

 最高級の応接室に相応しい部屋。


 そんな応接室に案内されたということは、余程重要なことを話すという意味だ。

 この部屋は防音能力も高く、ドアを閉めれば決して外に声や音が漏れない設計になっている。

 相手であるレオリスを満足させつつ、誰にも知られてはならない話をする場所として最適だと言える。


「少々お待ちください」


 二人が部屋に入りソファに座ると、執事は国王を呼ぶために部屋から出ていく。


「少しでも厳しいと思ったのなら脅す方向でいきましょう」

「ああ、そうした方がよさそうだな。国王陛下も本気のようだからな」


 フィラニアはレオリスに作戦を微妙に変更することを提案すると、レオリスもそれに同意した。

 二人からしてみれば、国王が本気で自分達をどうにかしようとしていることが分かる。だから脅す方向でいくことも選択肢の大きな一つとして組み込んだ。


「失礼する」


 ノックをし低い声が聞こえる。そして部屋の中に入ってきたのは国王だ。

 国王は静かに二人の向かいのソファに座る。二人を一瞬だけジッと見て、何かを感じ取ったようだ。


「この度は、我の愚かな娘が大変失礼なことをした。それについてまずは謝らせてくれ。済まなかった」


 国王は自分の娘であるナナニカがした行いについて謝り深く頭を下げた。

 その様子を二人は少し見た後、レオリスが国王に頭を上げるよう言った。


「今回の件での処分を甘んじて受け入れる覚悟がある。我と娘は煮るなり焼くなり好きにしていい。だけれどこの国には王国の民には危害を加えないでほしい。こちらが要求を言うのはおかしなことだが、それだけは伝えさせておいてくれるとありがたい」


 レオリスは国王と会う度に思うことがある。何故こんな素晴らしい父親がいるのに娘はあんな風なのだろうか、と。国王は他人思いの優しい人物、それに対して王女は自己中心的で横暴な人物、本当に血は繋がっているのか怪しいとさえ思ってしまう。それがレオリスが思ってしまうことだ。


(パターンAみたいね。それなら少しの間皇太子殿下に任せることにしましょうか)


 皇太子殿下が可能性的に一番高いと言っていたパターンが、この最初に謝罪をすること。そして自分と王女を犠牲にしてもいいと言うことだ。

 パターンAではレオリス主軸で話を進めることになっている。そして話の中盤でわたしも参加する形だ。


「分かっています。ナナニカ王女とローレンス公爵令息二人の責任なので、国王陛下や王国、そして王国民に危害を加えるつもりは全くありません」

「感謝する」

「それと、ナナニカ王女とローレンス公爵令息の婚約をオレとフィラニア嬢は認めています」

「……それは許されないことだ。いくら二人が婚約を認めようと、我が認めることはない」

「それは、何故でしょうか」


 レオリスは国王の望みである王国や王国の民には危害を加えないことを約束した。その上でナナニカとローレンスの婚約を認めてほしいと遠回しに言った。

 けれどレオリスとフィラニアの希望であるあの二人の婚約は認めるわけにはいかないと国王は言う。それに対してレオリスは国王に理由を尋ねた。


「婚約破棄、それ自体は我はあまり問題だとは思っていない。だが婚約破棄の理由の嘘で相手を貶めたこと、そして浮気をしていたこと。それは人として決してしてはいけないことなんだ」

「ナナニカ王女やローレンス公爵令息から話を聞いたのですか」

「そうだ。二人とも筋が通っていない上に、自分勝手なことばかり言っている。そんな二人を一緒に居させるわけにはいかない。だから二人とも身分を剥奪し、平民として生きてもらうことにするつもりでいる」


 国王は自分の娘を平民にすると言っている。それはつまり一生娘と会えなくなる覚悟があるということと同義。

 その発言と覚悟を見てフィラニアとレオリスはプラン0でいくことを決めた。


 プラン0とは国王の思考を読み取り、臨機応変に事を進めていく作戦だ。

 幾つものプランでは攻略が難しいと思った時の非常用でなるべく使いたくないプランだ。

 けれどそのプラン0もフィラニアとレオリスが力を合わせれば容易いことなのには変わりない。


「身分剥奪には賛成です。けれどオレ達の辛さ悔しさはそんなものでは収まることはない。ですので、身分剥奪に国外追放、それに一生二人でいることを強制してください」

「……分かった。それで異論はない。元々あの二人が犯した罪、それに罰を与える権利は貴方達二人にある。それでは今すぐナナニカとローレンスにそのことを伝え、先程言われたことを全て実行しよう」


 国王は少し迷いはしたものの、最終的には納得した。

 そして次に口を開いたのはフィラニアだ。


「国王陛下、よろしいでしょうか」

「あ、ああ、大丈夫だ。いや、その前に君にも謝らなければならないな。我が娘が君の婚約者に色目を使い、奪い取ったこと。済まなかった。ナナニカの代わりに謝らせてほしい」

「いえ、それについては大丈夫です。わたしも皇太子殿下と同じ思いを持ってここにいますから。それよりも国王陛下、わたし達が贈る婚約記念プレゼントに協力してくれませんか?」


 フィラニアはレオリスが国王に認めさせたナナニカとローレンスの処罰の実行方法を提案するため、まず最初に協力を頼んだ。

 内容を言うと前言撤回される恐れがあるため、まず最初は協力してほしいということだけを伝えることにした。


「どういうことか教えてほしいところだが、それは聞かない方が良さそうだ。協力をしよう。せめてもの罪滅ぼしのために」


 国王はフィラニアとレオリスの頭の良さと性格の悪さを感じ取ったのか、内容は詳しく聞かずに協力を約束した。

 それは自分が婚約破棄や浮気などをする娘に育ててしまった罪を償うためだという気持ちも大きくあるのだろう。


(脅さずに協力を約束してもらったのは良かった)


「ありがとうございます。協力してほしいことは一つだけです。王族主催のパーティーを開催してください」

「分かった。いいだろう」


 レオリスは国王に向かって、協力してほしいことを伝える。それは昨日から決めていた復讐、その舞台を作ること。

 それを聞いた国王はどういうことなのか分からず、理由を聞きたそうにしている。けれど聞くのは先程言ったことが嘘だということになるので聞くのを我慢した。

 そんな様子を見てフィラニアが理由を言った。


「わたし達は学園の卒業パーティーという大勢のいる場で婚約破棄をされました。ですからあの二人が身分剥奪などをされる場も大勢の人がいる場所がいいと考えています」

「フィラニア嬢の言う通りです。なのでその大勢がいる場を作るために、王族主催のパーティーを開催してほしいのです」


 フィラニアは直接的ではないが二人にされたことを自分達もやる。簡単に言えば仕返しをする。だからそれに協力してほしい、と。

 それに付け加えるようにレオリスが再び国王に王族主催のパーティーを開催してほしいと頼んだ。


「復讐がしたい、ということか」

「「はい」」


 国王は何かが吹っ切れたのか、二人が敢えて言わなかった復讐がしたいということをあっさりと言う。

 フィラニアとレオリスはその発言に動じず、それどころか声を揃えはっきりと言い、復讐をすることを認めた。


「そうか、そうか。レオリス皇太子もフィラニア嬢も婚約者……いや、元婚約者に尽くしていたのにも拘らず、当の本人達は迷惑をかけ続け、果てには裏切りをしたんだ。それくらいされても仕方がない」

「それをされるのが、自分の実の娘でも、仕方がないと言えるのでしょうか」


 フィラニアは国王に対して、敢えてキツい質問をする。これの返答次第では再び脅すことも視野に入れていた。

 少しでも迷ったら、それはまだ娘を助けたいと思う気持ちが残っている証拠。何らかの切っ掛けでフィラニアとレオリスを裏切る可能性も出てくるからだ。

 そんな質問に国王は迷わず返答した。


「ああ、言える。我にとって子供は最高の宝だ。それを自らの手で捨てるどころか、叩きつけるようなことをするのに抵抗がないと言えば嘘となる。しかし我は国王でもある。王国を正しく導くためには、正しき行いをした者を褒め間違った行いをした者を裁く必要がある。全ては王国のため、たとえ間違いを犯したのが実の娘でも裁かなければならない。そうしなければ誰にも信用されなくなってしまう」


 国王は善を守り悪を裁く。それが国王としてあるべき姿だと思っている。その悪が実の娘でも容赦をしてはならない。そう思っているのだ。

 そして国王は話を続ける。


「それに、我の信念と亡き妻の想いを踏み躙ることになってしまうからな」


 国王は優しく微笑んだ。

 そんな国王を見て二人は一瞬だけ同情した。けれど同情する資格は自分達にはないと考える。

 それもそうだ。たとえ自業自得の行いだとしても、その罪を与えるのは二人なのだから。与える側が同情なんてしたら相手に情を抱いたら、それで迷いが生まれてしまう。そんなことしてはならない。

 だから二人はそんな気持ちを捨てた。


「そうですか、それならよかったです」

「信じてもらえて何よりだ」

「では詳細を話します。具体的なこととしてはーー」


 フィラニアとレオリスは国王に主催してもらうパーティーの設定を話した。


 パーティーの設定は、貴族達を呼ぶ理由は国王の気紛れのパーティー。ナナニカとローレンスには二人の婚約記念のパーティー。そう言って招待することにした。

 貴族達には強制力はないがなるべく来るようにと読み取れる文章を送ることで、できるだけ多くの貴族を呼ぶことにする。

 そしてパーティーが盛り上がってきたところで、ナナニカとローレンスを国王が呼び、その後フィラニアとレオリスを呼ぶ。そしてフィラニアとレオリスがナナニカ達に罰を与え、それを国王が承諾する。そしてすぐに国外へ追放する、というのは大まかな流れ。

 パーティーをするのは二日後の夜、そこで全てを終わらせることを伝えた。


 そうして国王は全てに納得して、話は終わった。


「ではオレ達はこれで失礼する。パーティーの件は宜しく頼む」

「ああ、分かった。最後に一ついいか」

「なんでしょう」

「二人は復讐が終わった後、どうするんだ?」

「「…………」」


 フィラニアとレオリスは国王が二人を心配し聞いた質問に何も答えることができなかった。

 そんな二人を見て国王は助言をする。


「レオリス皇太子とフィラニア嬢はとても似ている。今後の二人を応援している」


 そう言われた二人は何と言えばいいのか分からず、何も言わずに部屋から出ていった。

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