眠りの電話
この世界の神は、公衆電話が少なくなっていくことに、とても嘆いていました。
そして、神は人類に、『眠りのテレフォンカード』を与えました。そのテレフォンカードで電話をかけると、その絵柄のカードの通りに、眠りが与えられるのです。
しかし、そのテレフォンカードもどんどん使われていき、残りは最後の1枚となりました。
……これは、この日本における、有名な都市伝説である。そのテレフォンカードを入れて、『00』の番号をかけると、何かが起こる……。
そんな、よくある都市伝説である。
ここに、一人の平凡な、大学生が居た。
この大学生は、見た目はほんとうに平凡だった。平凡だったが、好奇心は旺盛で、都市伝説を片っ端から探しては試す、そんな生活を送っていた。
大学生の名前は、ノゾミ。
ノゾミは、『眠りのテレフォンカード』を、探していた。
コンビニ、販売店、フリマ……。この世の全てのテレフォンカードを集めたと言っても過言ではないくらい、ノゾミは集めていたのだ。そして、『00』の番号をかけては、失敗に終わっていた。
「あー、この街のテレフォンカード売ってる所も、もう見尽くしてしまった…」
ノゾミは落胆した。
この『眠りのテレフォンカード』の都市伝説は、ノゾミが最も好きな都市伝説だ。
どんなことが起こるのか、この目で見てみたい。それが彼女の望みだった。
「いたっ!」
ふいに、真昼の空から何か頭に突き刺さった、とノゾミは思った。いや、実際突き刺さった訳では無いのだが、それくらい痛かったのだ。
ノゾミは頭に突き刺さった(としておこう)ものを、頭上から取った。
すると、それはカードだった。
そのカードは、真っ黒だった。そしてひっくり返した裏面は、真っ白だった。
「きっと、これが噂のテレフォンカードに違いない!」
ノゾミは近くにあった、公衆電話に駆け込んだ。
そして、『00』の番号に電話をかける。
「……」
ついにこの、ずっと追い求めていた都市伝説が、目の前に現れるなんて…!今日はなんてラッキーな日なんだろう……。
そう思いながらかける。
しかし繋がらない。
「ちぇ、やっぱり間違いか……」
「チャオ!ぜーんぜーん間違いなんかじゃないよ!」
「え!」
「ハロー?こんにちは、この、私が!神です!」
「電話間違えたかな」
「まって、まって?切らないで!神だから紙みたいに薄っぺらいジョークしか、思いつかなくてごめんね!?いや、もうここ何千年も人と話してなくってさー」
と、自称、『神』が語り出した。
「いやー、カラスが眠りのテレフォンカード、どっかに隠しちゃったみたい!的な?感じでー、前はね?どんどん眠りのカード量産してたわけー。でも、そのカードが最アンド強だしー、巣を離れた隙に、神様権限で、空から落としちゃいました!てへぺろ!」
ノゾミは絶句していた。
なんだこのチャラ男のような神は。
絵に書いたようなチャラさ!
「あー、そこそこー。チャラいなんて思っちゃメッだぞー?」
そしてウザい。
「うーん、困ったなあ。もうキミがこのカード使っちゃったから、都市伝説始まっちゃってる系なんだけど……」
「え?!そうなの?!それ、先に言ってよ!」
「めんごめんご!」
「このカードはね、黒か、白で選ぶ道が変わっちゃうんだよね。キミは、えーと、黒い面を上にして入れたかな?ふむふむ。となるとー?」
「いや、クイズみたいに言われても困るんだけど……」
「なんと!黒い面を上にした場合!人類仲良く、永遠の眠りのコースです!!」
「あ、ちなみに白い面上にした場合は永遠に生きるコースね」
「え!?それって、ヤバくない?!私のせいで、みんな眠りについちゃう……?!」
「大丈夫大丈夫。そんな時は、また都市伝説を作ってテレフォンカードを落として、やり直せばいい!」
その声を最後に電話からは、何も聞こえなくなった。
ふと、ノゾミが辺りを見回すとそこは闇だった。
「……さっきまで、あんなに明るかったのに」
すると、目の前に丸く、光が集まってきた。
その光はどんどん明るくなっていき、やがて、ノゾミの手に収まるくらいの球体になった。
「やっほー?チャオ!!」
「うわっ!」
「ぎゃー!まって落とさないで!」
球体からは、あの自称神の声がした。
「この世界はどの世界も少しずつ地続きなんだ。パラレルワールド?的な感じなんだよ。並行してんの。その並行世界のなかのどこかにこの神…あ、この球体ね。落として、その世界に委ねるんだよ!」
「なにを?」
「生きるか、眠るか!」
「ちなみに残ってる世界はあと1つ!」
「その世界の判断によって、君たちの、いや、この並行世界の運命が決まる!」
「さあ!神を神業で投げちゃって!」
寒いジョークを無視しながら、ノゾミは球体を放り投げた。
と、思ったら、いつ間にか球体が手元に戻っていた。
「あちゃー、あっちの世界も黒い面を上にしちゃったよ!」
「キミとはここまでだね!では!良い眠りを!」
そうして人類は永遠の眠りについた。