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悠久の宴にようこそ  作者: 夜櫻 雅織
第一章:森の覇者
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第7話 まずは1匹

 ただの真っ黒な影となって森を高速で移動する。

 そもそもとして樹々が太く、密度も高く、そして背も高いこの森が陽に当たる機会は当然の事、明るい事など滅多にない。この森に棲む生き物達は皆この森の環境に応じて進化と成長を繰り返す為、そもそもとして光源なる物を持って歩く必要がないのだ。



 結果、この森に適応出来ていない生き物は直ぐに場所が割れる。



 現に今、私の目には数m先に居るエルフ共がこんな森の中で松明を持って歩き回っているのがよく見える。あれでは捕まえてほしいと言っているような物だ。

 私があまりにも待ちきれず、味見すらもしてしまったのであの堕天使の娘は今しばらく目覚めない。なら、是非とも彼らにその代わりを務めてもらおう。


 折角起きたのに暇なのは好ましくないからな。


 別に贅沢さえしなければ数十年はゆったりのんびりと暮らせるだけの金はあるが、それ以前にルイスとシルアはそのような形での褒美を望まない。悪魔であるルイスは魂の方が喜ぶし、シルアは白蛇(はくじゃ)故になるべく過食部分の多い肉さえ手に入ればそれが死骸であろうが何だろうと構わない。

 私も実験自体はよくするが、その後の死体などどうでも良いし、何なら情報やら記憶、魔力、能力などなどを巻き上げてただの脱げ殻となってしまったが故にゾンビのような会話能力しかなかったりだとか。野を生きる獣以下となった者に興味はない。

 その為、一応は恐怖などの負の感情は焼き付いているだろうからその出涸(でが)らしの魂は非常に熟されているらしく。肉体も肉体で散々私に遊ばれた事から生まれた恐怖により、身が引き締まって丁度良いんだそう。

 生憎と私には肉欲がない。興味も欠片もないのでまぁあのまま文字通り彼らで仲良く分け合って喰って事後処理をしてくれば私としても一番面倒な掃除をしなくて良い。


「……やっぱり、見た事のない植物が多いわね、この森。」

「人間が忌み嫌う森みたいですよ、この森は。」

「へえ、そんな文献は見た事がなかったが……。」

「俺達は一時期人間から本を仕入れる為に街へ行った事があるんですよ。その際にこの森は人間には危険過ぎるって。」


 私が居る上に迷い易く、おまけに夜になるのも早く、とてつもなく広いからなぁ。


「へ~……。それは調べ甲斐がある。誰も入らなかった土地。ならば、誰も見つけていない新発見が……!!」

「もー。だからって変な事して怪我とかしないでね?」

「ああ、勿論! 怪我したら満足に調べられないからね!」


 怪我したら満足に味わえん。


「では、私は先に周辺の警備を。」

「ええ、気を付けて。」


 女性でありながら護衛、か。随分と腕が立つんだな。


 ただだからと言って私の障害になるか、私を止められるかとなると話は違う。あの程度ではお遊びにすらもならない。

 但し、彼らも分かっているはずだ。元々群れで生きる生物と言うのは個々の力が知れているからこそであり、そのような生き物が本当の強者に相対した際、独りっでは何も出来ずに(なぶ)り殺されるだけ。

 常に夜のようなこの森では全体的に暗い私を見つける事もそれなりに難しいはず。何なら足音などさせていないのだから尚の事、だ。

 他の3人のエルフ達の視界から離れ、舐めているのか何なのか。随分と余裕をかましている未熟者な護衛エルフまでの距離を段々と詰めていく。


「……でも、こんだけ大きな森だと覇者とか居そう……。」


 ここに居ます。


「……もっと、強くならなきゃ」

「残念、それは叶わないなぁ。」


 影の一部を触手に伸ばして足を。下腿(かたい)を。大腿(だいたい)を。腹部を()巻きにするかの如く拘束し、そのまま上腕、前腕、手、指を拘束。無論、首にも絡めて口をも塞ぎ、絶望の表情見たさに自らの体すらも影と化して身長を伸ばし、こやつの体重を預かりながらも顔を覗き込んでやれば本当に良い表情だ。

 絶望し、怯え、何とか体を動かそうとしているがそれでも動かない体。なのにそれを受け入れるように、まるで所有物だと言わんばかりに、無垢な子供が人形でも抱き込むかのように抱きしめればはらはらと零れていく涙ですらも大地に触れず、私の影に呑まれて原型を失う。

 そんな小娘を更に絶望させてやろうと、影の中から黒く染まった骨の腕が幾つも抱擁を行い、じわじわと影の中に引き摺り込んでやれば動かないながらに悲鳴を挙げ、泣き喚き、叫び、やがては沈黙に包まれるこの瞬間が何ともたまらない。

 とはいえ、この影は私にとって第2の腹のような物。本来生物的に存在する胃袋とは異なり、肉体的に消化するというよりは常に魔力を吸いあげたり、知識や記憶をじわじわと侵食しては強奪したり、場合によっては吸血も行う “消化” というより、“吸収” に特化した腹。

 その中で一切の身動きを封じられ、自らが発する音以外には何もなく。光源の類も全くないまま、ただ失う物ばかりが増えていき、絡みつく物が増えていく恐怖が感覚越しに伝わってくるこの感覚は何ともたまらない。


 後で、たぁーんと可愛がってやるから。……今はそこで待っていると良いさ。

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