第20話 生き残るのに必死だったから
【前回】 国に天井を築いた
第20話 生き残るのに必死だったから
――形振りなんて構っていられなかったんだ。
……疲れた。
正直どうするかは悩んだが、あまりにもアルジュレッドがやる気満々なので何事も始める時は大変だ、と自分を無理矢理納得させて諦める事にした。恐らくあいつの事だ、時間はかかるだろうが必ず結果は出してくれるだろう。
思い出せる限りの私がこれまで築き上げてきた全てと、元々森の中にあった屋敷の書庫にルイスとシルアが読む前提で用意しておいた資料も複製してアルジュレッドの研究所に放り込んでおいた。
それを伝えるや否やあれだけ普段から私の傍を頑なに離れたがらないアルジュレッドが急ぎ足で帰っていった訳だが。だがそれでこの国が発展するなら良い事だ、今はそう思って深くは受け留めない事にしよう。
疲れてるのにより疲れるのは馬鹿々々しいからな。
それでも、現状私の魔力は一向に枯渇しない。前の体であればそろそろ魔力欠乏症を起こしてもおかしくはないというのに、本当に随分と優秀な体だ。
「主……?」
「あぁいや、少し自分の頑丈さに驚いていただけだ。……今日になってかなりの回数魔法を使っているはずなのに、何なら神代の魔法すらも使ったというのに、それでもまだ私の体は魔力が枯渇する事を知らない。」
「そういう事ですか。それはきっと、主が優秀な証でしょう。この体という意味でも、主の魔力制御という意味でも。」
「そうだな。」
「元より、私から見ても主の魔力保有量は絶大です。……私もいつの日か、それに近付けるようにと研鑽を積み重ねてはおりますが、まだまだ先の未来でしょう。」
そうは言うが、ルイスはあくまで私に負けたというだけで悪魔の中でもそれなりに地位が高い身分だ。年齢の方も私よりも長く、私よりも長寿なこいつからすればあの瞬間は。私に敗北したあの瞬間は、さぞ悔しかったものだろう。
そこで私に弟子入りしようと思い立ったその思考回路は、私から見ても凄い物だと思うがな。
「……私は元々、冬の森に捨てられたんだ。」
竜人が住まうギルジェディーラ国ですらも警戒する冬。元より竜人という種族は大まかに分ければ爬虫類だ、それこそ冬眠の危険性がある事から体温管理には気を付けるようにと国中に注意喚起が流れる程で、必ず1部屋に1つ暖炉があるような何よりも寒さを警戒する国だった。
だからこそ、私は奴らに冬の森へ捨てられた。雪深い森の中、空から実の父親に。元ギルジェディーラ国王に捨てるように落とされて捨てられた。
「後1週間もすれば大吹雪が来るギルジェディーラ国近郊の大峡谷へ、父親によって落とされたんだ。ただ……何の幸運か、私が落ちたのは大峡谷のそこで眠っていた巨大な熊の上でな。大層その熊を怒らせた。」
「……どう、なったのですか?」
「勝った。……勝ったんだ。まだ弱い12歳になる直前の小娘が、竜人でもない幼い私はあの熊を殺した。自分が持っている全ての知識と技術を使い、がむしゃらに魔法を編んで熊を殺した。必死だったさ、死に物狂いだったさ、だからこそ……今、あの時どんな魔法を使ったのかすら憶えていない。」
勝ったと、あの熊が死んだと気付いたのはこれでもかとオーバーキルをした後だった。熊の体の一部が盛大に吹き飛んで原型を失い、血がどんどん白い雪を赤く染めていく。それを見て、ようやっと幼い私は奴の死を理解した。
「……あれが私の人生で初めて命を殺めた瞬間で、人生で初めて狩りをした瞬間だった。まぁ……狩りというには必死過ぎて、無駄が多過ぎただろうがな。」
「……十分、ご立派かと。恐れながら、主。私が初めて命を殺めたのは100歳の時で、父の監督の元でしたので。」
「だがあくまの年齢感覚と私達の年齢感覚は違うだろう。」
「……そうですね。我々悪魔の100歳は、確かに此方の世界で言う所の20歳程度の話です。ですが、それでも悪魔の幼子は基本的に成人するまでは知識を磨きます。……決して、命の危険に晒すような真似はしません。」
「……そうか。悪魔は意外と優しいらしい。」
「悪魔は狡猾ですよ、主。……少なくとも私以外は。」
「あぁ、信じてるさ。」
あぁ、信じてる。
信じていなければこんな話をする事もない。それでも、これからの連携などを考えたら教えておいて損はないだろう。
「外で食べた肉も、皮肉な事にあれが初めてだった。……あの時の事は昨日の事のように憶えている。捌こうにもナイフすらなかったから熊の牙を引き抜き、魔法で綺麗に消毒してナイフの代わりとした。それでその熊の肉を裂いて食べて……食べて良いのか分からない内臓は燃やして捨てた。毛布は近くに沢山落ちていた枝やら何やらを利用してなめして毛布代わりにし、近くで熊が使っていたねぐらがあったから……魔法で綺麗にして、手ごろな大きさの石を幾つか集めて炉を作った。石を魔法で強化した石器で削って……肉塊を刺し、肉塊を刺した石串を引っかける為の石柱も作ってBBQをしたんだ。」
「……成程。主の無駄のなさは幼少期からある物だったのですね。」
「そうでもないぞ。あの内臓について調べなかった事は今でも多少後悔してる。」
「それでも、少なくとも子供の考える事ではありません。」
「そうだな。それには同意する。」
――次回「第21話 こんな事であの人が報われるなら」
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