第16話 敵を削ぐにはまず敵の味方を削ぐ事から
【前回】これからに想いを馳せるカルストゥーラ
第16話 敵を削ぐにはまず敵の味方を削ぐ事から
――孤独以上の恐怖はないだろう?
「っ~……!!」
「……ふふ。」
「……非常に、食べにくいんだが。」
「お美しいです、お嬢様。あ、これからはお嬢様ではなく主神様と」
「辞めてくれ。私はまだ普通で居たい。」
「はい、お嬢様。」
「ほら、言った通りになったでしょ?」
「……ん”ん”。」
新しい素体の状態はかなり良好だ。正直必要かどうかは悩んだが……一応生物としての最低限の機能を残した事もあり、こうして相変わらずシルアの作ってくれた料理を食べられるとはいえ、その様子を恍惚とした表情で見られては居心地が悪くて仕方ない。
ただそれを幾ら言った所で響かないであろう事は百も承知だ。これは大人しく諦めて適当に付き合ってやるぐらいが丁度良いだろう。何せ、何にしてもまともに相手をするのが面倒で仕方ないのだから。
それにしても、多分これはカルゼグルージだろうなぁ……。
どうやら私が知らない内に新調された、というよりは改装され、新たに設立されたらしいこの食堂は何と言うか本当に馬鹿でかい。この服装でもそうだが、この王城の内装は全てこの服がより際立つよう調整されたらしい。
お陰でこれまで王城らしい赤と金の煌びやかで、かつ人間らしい建築方式だった城の内装が今では黒々とした王城と言うよりは魔王殿と呼ぶ相応しい場所となり果てている。黒と紅が基調とされた内装は私でも呆れるぐらいだ。
とはいえ、ここまで事が進んでしまっては今更元に戻す事も出来ない。何より、ここまで話が進んでいると言う事は確実にルイスも結託している事だろう。そうなればそれこそ止めようがない。
うん、良いや。考えるのは辞めよう。
数十人は座れそうなこの物々しい食堂で、たった1人で食事をすると言うのは寂しいものだ。まぁ傍には盆で顔の大半を隠しながら楽しそうな様子のシルアだったり。それら全てを眺めながらにたにたとしたフリューデが居て助けの手も求められやしない。
そんな考えても仕方ない事を何処かへ追いやるように、そのシルアが料理してくれて。カルゼグルーズが献上してくれたらしい竜の肉をふんだんに使ったステーキの切り身を口に運ぶ。
……美味しさだけが優しいなんて、随分結構な事だ。
「ふふ。初めての食事がドラゴンなんてねぇ。」
「……嫌味にしか聴こえないんだが。」
「まさかぁ。私がそんな事を言う訳ないでしょ?」
日常的なんだよ。
「お嬢様、今度私と踊ってください!」
「パーティの予定もなければ、私は何処かの貴公子でもないんだが?」
「お嬢様は我らが主神様ですから!」
「辞めてくれ、あんまり持ち上げ過ぎないでくれ。」
「そんな事は言うけど……愛し子。貴方の魔王っぷりたるはそれ相応だと思うわよ?」
「この服装がそれを助長してるだけだっての。……はぁ。どうせわざとだろう。」
「はい!」
「……やっぱり。」
「魔王と言えば……お嬢様。本日のメニューは燐金梅、人魚のスープ。野菜はドライアドで作った物になります。」
「……本当に何処までも魔王だな。」
この素体が体になってから初めての食事ではあるが、ちゃんと味覚も機能しているらしい。偶然か、昔から飲んでいる燐金梅の味はちゃんと憶えている関係から自分の味覚がおかしいかおかしくないのかぐらいはちゃんと分かっている。
「それで、愛し子。これからの方針を聞いても?」
「まずは国家防衛力の強化と脈輝種の量産。それと並行して、国内の文明開化も行う。既に主要となる脈輝種達は造り終えてはいる。それぞれが誕生の時を待ちわびながら地下深くに存在する培養ポットの中で眠ってる。後は……そうだな。脈輝種の種族別に軍隊も用意してある。まぁああれらも区画ごとにまだ培養ポットで眠ってるけど。」
「じゃあもう戦力面に関してはあんまり問題がないのね。」
「うん。強いて言うなら少しでも多く情報が欲しい。他種族の歴史を、他種族の知識を、他種族の文化を、他種族の技術力を。その全てを求めて将来的には侵略を重ね、最終的にはこの世界に生きる全ての生物の脳と、必要に応じて体を作り変えて世界統一を謀る。……その為にも侵略する順番は慎重に選ばなければ。」
なるべく国外に人を出したくはないが、同時に私自身も外には出たくない。如何せん、この国内で色々とやる事がある上、まずはこの人間の国の事を深く識る必要もあるし、突然この国が色々と改革されたのも相まって外交関連もいつまでもアルフに全振りしておく訳にもいかない。
国家であるとはいえ、一応は組織である事も間違いではない。その関係からアードに報告書は行っているだろうし、恐らくだがそこから経由してルイスにも報告は行っているだろう。それにも目を通しておかなければ。
「そうなのよねぇ……。情報収集はどうするの? 貴方が行く訳ではないでしょう?」
「勿論。専用の隠密特化の脈輝種の軍隊も作ってある。あれは早々に起こして稼働させる。」
「お嬢様、その脈輝種はどんな特徴を?」
「時に人を喰い、時に影となり、時に寄生体となって世界を覗く脈輝種にした。」
「……成程。ですがお嬢様、それですと情報伝達が遅れるのでは?」
「全ての脈輝種の軍隊にはそれぞれマザーを設けた。」
「マザー。」
「言葉の通り、母体なの? じゃあその子である脈輝種の軍隊の隊員達とは何らかの精神的な繋がりが……?」
「そう。どのマザーも自分と連結した子のコアを生み出す事が出来るようにしてある。そのコアの7割を黒いタールのような物質へと変化させ、それを人間と同じ大きさになるまで細胞分裂を高速で繰り返して子を作る。その上、残りのコア部分である3割に関しては仕方ないけどそれ以外の部分は必要に応じて霧状にも影状にも変形させられる、ある意味形状を持たない新たな派生脈輝種を無限に作り出す。それを世界のあちこちから各国を監視させ、来る時に備えてありとあらゆる“準”要人に寄生させて少しずつ洗脳を施させる。」
「準?」
「頭は狙わないの?」
「親玉にはしっかり絶望してもらわなければならないからな。敢えてそれを支えるべき立場の者達を手中に落とす。平たく言えば外堀から埋めるんだ。そして、最高の絶望顔を叩き出す。それでこそ、私の世界に対する復讐は成立する。」
――次回「第17話 徹底した管理と秩序の元に」
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