第7話 全ては、この世界から恐ろしい物を一切消し去る為に
【前回】カルゼグルージに引かれた
第7話 全ては、この世界から恐ろしい物を一切消し去る為に
――これまで出来なかった新たな研究成果を。
「さて……と。」
「主、まずは一体何を?」
「龍脈の魔力を利用し、人造人間の生成が可能か実験する。」
「りゅ、龍脈の力を使って!?」
「あぁ。」
何かしらの存在からの監視等を警戒し、深淵の苑内にある私の個人的な研究室……ではなくここ、ルードゥゲイル帝国の深い地下。ここは私が後から作った物ではなく、元々ここからある物だ。
それもそのはず、ここは元々魔力循環クリスタルのあった場所だ。当然、ここは世界の全てに張り巡らされている龍脈の1つがここを通っている。1つ、と呼ぶのが正しいのかどうかは分からないが、少なくとも幾つも枝分かれしたその1つである事は間違いない。
今から私が行おうとしている実験はここでしか出来ない。
「これから作るのはさっき言った通り、龍脈の魔力を利用して人造人間……。又は、それを核とした生物を作り出す事。その為にもまずはその核を作る必要がある。」
「核って……心臓を?」
「それか、それに類似した何かを。まぁしかし、それが一番良いだろうな。」
幾ら深いとはいえ、それでもここはあくまで人間基準の深さ。その為、殆ど龍脈の遥か上ではあったが私が少し加工し、井戸を作る時のように龍脈へ直撃するように大穴を開け。そこから噴水を作り出し、別の場所にある無数の水槽にそれぞれ過剰分を溜めながらも備蓄量を順調に増やしている。だがあれを利用するのはそれなりに後の事だ。
その源流であるここは特に魔力濃度が高く、人間が数回ここで呼吸をするだけで直ぐに高魔力中毒を引き起こして死ぬ事だろう。言わば、ここは人間の化学で言う所の酸素……。酸素という単体だけではただ人間を害す事しか出来ない空間のような物だ。
正直、私ですらも多少呼吸がひりひりするレベルだ。でも、ここでなければ出来ない実験をする必要があるので贅沢も言っていられない。
もしこの実験が成功するのであれば。その後、幾つか実験が成功するのであれば私も今から作る新しい心臓を元にした新しい体を作るのもありだとは思うがな。
夜空がそのまま液状化したような色のただただ溢れる龍脈水に手をかざし、基礎的には超高濃度の魔力の延長線にある存在故に変形させる事は然程難しくなく。必要分の5割増し程の龍脈水の水泡を噴水の上に浮かび上がらせて。それを心臓の形に変形させる。
ここからの作業はこれが魔力だからこそ出来る技術だ。
勿論、多少の知識は必要だが魔法という物は原則、全てが想像から出来ている。それ故、想像力が豊富でそれぞれの作り込みがしっかりしていればいる程にそれで出来た物の質量や特性はひたすら強くなる。
形は心臓でもまだ液体であったそれは私の想像に合わせて形だけではなくその質感も。質量も。そして性質も構築されて龍脈水だけで心臓が完成する。どくどくと、しっかりと脈動し、本来であれば繋がっているはずの動脈と静脈らしき場所の断面からはその心臓で作られたであろう現存する血とは異なってラメの入った蒼色の血を吐き出している。
……素晴らしい。
「成功だ。」
「こ、こんな短時間で……。主、触ってみても?」
「あぁ、構わない。」
まるで何かを下賜するかのように両手を差し出すアルジュレッドの元に着地する人工心臓。それはアルジュレッドの手の上に乗せられたとしても鼓動を辞める事はなく、また液状に戻ってしまうような事もない。
それを支えながらも指で触って触感を確認したり。色んな角度から覗き込んでくれる為、わざわざ私が触らなくても色々と欲しい情報が得られそうな勢いだ。
「……うん、心臓だ。主、ちゃんと心臓だよ。触ってみた感じも勿論そうだけど、機能的にも問題なさそうだよ。」
「そうか、ありがとう。なら次の実験に移ろう。アルジュレッド、それをここに入れてくれ。」
「どういう入れ方をしても良いの?」
「あぁ、構わん。」
予め用意しておいた、龍脈水が満ち満ちた水槽へとその蓋から龍脈水で出来た心臓、炉心が放り込まれ。自然と中央で止まった炉心はその場でこの中にある全ての龍脈水をまるで血液と見立てるように呑み込んでは少し明るい色になった元夜空色の血が無限に作り出されている。
「これだけでも凄いけど……主、こんな事を実験とは呼ばないでしょ?」
「勿論。心臓を作れたのであれば、当然やる事は1つだ。」
予め色々とデータの入れてある端末を操作し、承諾ボタンを押せばその結果は直ぐに実現される。
水槽の中の炉心と龍脈水は何度も言うように、魔力に起因する物。装置から大量の情報を得たそれらはまるで咀嚼するようにデータを呑み込み、その姿形を随時変えていく。
骨格、臓器、血管、神経、筋肉、多少の脂肪、皮の順番で肉体が構成された頃にはもう既に水槽内に龍脈水は一滴もなく。それはつまり、正しく龍脈水を全て利用し、炉心を核とした女性の“素体”が完成した。
出来上がった素体は夜空色の鱗で体の大半を包んだ竜人のような特徴を持っており、その尾は身長の1.5倍を占めている。一応、水槽から取り出して触ってみる感じ、鱗の所はしっかり硬く。素肌の所はちゃんと柔らかいので情報伝達も上手くいっているようだ。
「りゅ、竜種……?」
「……女々しい事に、竜種に対する憧れを捨てられなくてな。すまないな、女々しくて。」
「ううん、憧れに女々しさなんて存在しないよ、主。主の好きなようにするのが一番良いんだ。」
「ありがとう、アルジュレッド。」
「それで……これは生きてるの?」
「いいや? これはあくまで素体であり素材。これと、全く同じ種族の男性の素体も作り出して魔力循環クリスタルにこれを覚えさせて―――限定的に、龍脈と繋がせる。」
「げ、限定的に繋がせるって……ま、まさか!!?」
「あぁ。少なくとも、人間は全てこれに切り替わる。ここで予めこの端末に登録してある色んな種族の男女の素体を作り出しては何度も魔力循環クリスタルに覚えさせ、どんどん帝国民に限り、その全てを新たな種族である脈輝種に置き換える。そうする事でこの国から現存種……。この世界に元より存在する種族を全て各種族の上位互換の脈輝種に転化するのが数ある計画の1つだ。」
幾ら洗脳をしたとしても、ただ帝国になっただけではあまりにも面白くない。少しでも他国にない物を、そして何よりこの帝国全てが私の研究成果に組み替えて箱庭を更に広げて最後には、世界全てを箱庭にしてしまう。
……そうなれば、もう怖い物はなくなるはずだ。何1つ。
――次回「第8話 来る者拒まず、去る者許さず」
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