第5話 玩具がいっぱい
「それはそうと、お嬢様。わたくしの可愛い友人達からもお1つ吉報が。」
「聞こう。」
「お嬢様が起床されてから少しばかり探索範囲を伸ばしてみた所、この森の浅い所にエルフが住み着いたそうです。」
「……エルフが? それは過去にこの森を私に負け、明け渡した奴らか?」
「いえ、この森の事を全く知らないご様子でしたので、もしかすると別の属派なのかもしれません。わたくしとしてもお友達の目を借りてみただけですのであまり情報は多くありませんが……どれもこれもエルフ特有の高魔力を含んでいる事。そして住み着いてまだ数週間単位である事と、集落のような物を既に作っている事も確認出来ましたわ。……お嬢様の事ですから彼らを外に逃がしなどしないだろうと森から出られないように呪いを掛けてはおきましたが、どうにも頭が回りそうなエルフも数名おりましたので早めに手を打つ必要があるかと。」
「ふむ……。まぁ、その点に関しては周りの樹々を介して一定以上の魔法を行使出来ないよう、常々魔力を吸い上げてしまうとしよう。」
……うん、手まで小さいなこやつは。起きたらまずは食事か?
「……。」
「……はぁ。口の端の涎を拭け、シルア。まだ食事の許可は出していない。」
「はっ、し、失礼しました……。にしても、本当に綺麗な肌ですよね。まだ子供でしょうか。」
「人間の基準で言うならば子供だろうが、中身まで子供とは限らん。……まぁ、それも目を覚まさなければ分からん話だ。そして何より、あの条件に適しているのかどうかも確認しなければならん。」
「……はい。この子が本当に潔癖であれば胃袋の足しには出来ませんものね。」
「あぁ。こやつはここへ偶然落ちてきて、偶然我々に拾われただけ。……まだまだ何かと情報も条件も足らん。ルイスのように、良い子に待っているが良い。」
「うぐっ……。」
そう、条件。ただ先に言っておくが、私は決して善人ではないし、善人ぶる気なんて毛頭、欠片すらも存在しない。ただ私は自ら作り出した条件をそれこそ契約内容であるかのように遵守し、そしてそれを私の従属であるシルアとルイスにも課せ、強制している。
その条件に揃っていない限りは無差別に命を奪う事が出来ないのだ、私は。何もそういう呪いに罹っている訳でも、そうするようにと誰かに洗脳されている訳でもない。これは私が自身を狂った化け物とは違うのだと、それを自覚し、証明し続ける為の拘りでしかない。
“報われるべき存在も居るから”。……なんて綺麗事ではなく、単に面白くないからな。それにそろそろお人形も欲しい頃だ。
お人形。下僕。奴隷。愛玩動物。はたまた玩具。
呼び名など心底どうでも良いが、要はそういう事だ。広過ぎるこの屋敷にいつまでもたった3人では味気ない。それこそ我々には山程時間があり、山程知識がある。……そろそろかつて魔王と呼ばれた私らしく、弱い命を弄び、可愛がるのも面白いかもしれない。
長くこの森に引き籠っている関係もあり、外の情報も詳しい訳ではないので聞き出すのも面白いかもしれないし、単に新たな魔法を生み出す為の研究材料として扱うのも一興だ。
シルアの言う通り洗脳して情報を全て吐かせるだけ吐かせ、その後は寿命が尽きるまで地下牢に縛り付けて永続的にその血や魔力、羽を採取して稼ぐのも面白い。
まぁ安心しろ。……髪一本、記憶や魂、遺伝子すらも再利用してやるからな。