第3話 追い詰められた相手には更なる毒を
約半世紀と少しの時を経て、ようやっと面白いイベントに相まみえる事が叶った。堕天使というのは私ですらも知識や情報以外に持っている物はなく、幾ら詳しい事を知りたくとも目撃者が少ない事から文献が殆どなく、しかして実物は存在するのだからここへ来る奴らの雀の涙すらにもならない情報を読み漁るくらいしか情報源がなかった。
しかし! しかし、それが今、この屋敷で弱っていると来た。しかも本来であれば彼ら天使にとっては汚点でしかないそれを回収しに来る様子もなく、完全に捨てられたと来た。……ならば、捨てられた物を拾った存在がどう扱おうが此方の勝手だろう。
捨てたのは向こうなのだから。
ただ、贅沢を言うつもりはないがどれだけの利用価値があるのかは確かめておかねばなるまい。どれほどの魔力と知識を蓄え、もしかすると特殊な能力を持っているかもしれないし、考えだすと可能性は尽きない。
……そうだな。まずは御伽噺の魔女のように飛び込ませる為の懐でも作ってみせるか?
何を悩もう、相手は堕天使だ。現世の情報に対して非常に疎く、天使を捕獲する奴は奴らでも死っていれど、堕天使を保護して愛でる存在など聞いた事がないはずだ。しかも弱っているという事は想像以上に此方の言う事を聞くかもしれない、善人ぶって最後にその絶望に浸った顔を眺めながら全てを奪い去ってやればさぞ楽しい事だろう。
シルアに言ってこの時代の本を買わせてきては「本を読むのも好きだが、お前が読んで聞かせてくれている所を見るのはもっと好きだ」とか、「お前の声が好きで、どうしても聞きたくて仕方ないから何度も強請ってしまうんだ」とでも言ってみようか。堕天使であれども所詮は知的生命体、誰かに認められるという承認欲求と言う名の甘ったるい毒は想像以上に。効き過ぎる程に、麻薬と言っても過言ではない程に仕事をしてくれるはずだ。