第17話 これだからヤンデレは
【前回】新たに妖狐のルーザが仲間になった
第17話 これだからヤンデレは
――どれだけ遠ざけてもやってくるお前が、私は。
あぁ、全く。……本当に静かに出来ない奴だ。
折角ルーザの事もルイス達に紹介し終え、軽く森の中を私直々に案内してやろうと興が乗ったのに……これだ。
森達もざわざわと音を立て、彼らもこれからやってくる招かれざる客を警戒している。どの植物も、どの樹々もこれからやってくる私にとっての厄災を恐れ、嫌い、震えている。
まるで、あの時の私のように。
私だって最初からこの森の支配者だったわけではない。元々この森には私よりも優れた支配者が居て、その支配者に気に入られて色々教えられ。……そしてそのまま、師匠が愛し、師匠が生かし、育て、護ってきたこの森を私が継承しただけの話。
それすらも、あいつは知らない。これからここにやってくるあの馬鹿な弟も。……そして、それに着いてくるであろう愚か者にも。
「……? ご主人様、良くない気配と予感がする。今からでも屋敷に戻らない?」
「……戻れば屋敷にまで来るだけだ。」
「……敵?」
「いいや。だが味方でもない。」
だからこそ、あいつは面倒なんだ。
ついぞ、その時は来た。忌々しくも懐かしい、森の樹々の合間を流れていく白銀の風。それと共に流れてくる季節外れの綺麗な雪は私にとって不快感を呼び覚ます材料にしかならない。
けれど、これこそが王の血統。正当な王家の血を引き、伝統的な王家の能力。溢れ出る物なのだから止めようもない。
奴が来た、森を荒らしに来た、森を燃やしに来たと師匠の魔法に掛けられて言葉を介す樹々が喚き嘆く。……その声と共に樹々の裏手から現れた、あの種族特有の銀色の髪に銀色の瞳を持つ、あいつの従者。
「……何の用だ、グラフギール。ここはお前のような劣悪種が踏み入れて良い森ではない。」
「おや、これはこれは。こんなちんけな森の賢者もどき、王家の恥晒しではありませんか。ご機嫌麗しゅう。……あの時我々の追手を散々邪魔してくれたあの小汚い魔女はもう居ないので?」
「八つ裂きにされたいのであればそう言え。森はお前を赦さない。あの時も、そして今も。」
「ふんっ、お前のような」
「―――やぁ、随分と久しぶりだね。……僕の愛しい姉さん。」
あの王家に相応しい、蒼銀の長い長髪に冬の空のような澄んだ蒼い瞳。恐ろしい程に穢れのないその瞳は寿命の長いあの種族の中でも特に清く、尊く、そして神聖な物として扱われるに相応しい象徴。
あの国で、あの世界で、あの土地で。……神の子と謳われた、あの忌々しい完璧過ぎるあいつ。
……私とは、掛け離れ過ぎている。
「……二度と顔を見たくなかった。」
「そんな事言わないでよ、姉さん。全く酷いなぁ。」
「で、一体何の用だ。国にでも帰って下らないお遊びでもしてると良い。」
「政治は遊びじゃないよ、姉さん。俺だって頑張ってるんだから。……父上と母上がね、先日ヴァルハラへ旅立たれたんだよ。ほら、もう姉さんを馬鹿にする人は居ない。あの国はもう俺の国。だから、帰っておいでよ。姉さんの事は俺が護るから。」
今さっき大層な言葉を吐かれた所なんだがな、お前の従者に。
「私は貴様の加護など要らん。首輪を着けられ、ただ飼われるだけなど死んだ方がマシだ。何かを愛でたいだけならば、それ専用の奴隷でも攫ってくるが良い。」
「……姉さん。姉さんはこんな所が好きなのかい? 俺は陽の当たる、明るい所が好きだよ。そして、平和も。」
「残念だったな、私は暗過ぎず、明る過ぎんここが大好きだ。陽の光は当たらん癖にちゃんとクリアな視界を保て、とても静かで時折やってくる者共を脅し、時には喰らったり弄ぶのが大好きだ。そして、戦争が好きだ。戦争が起きれば、私達が食べる物も増えるし、救いを求めてここにやってくる者も増える。……貴様には、一生理解出来んだろうさ。」
「そうだね、姉さん。俺は争いはあまり好きじゃないから一生分かんないだろうね。……じゃあ……って、私達? 仲間が居るの? …………そこの獣みたいな?」
「これは私の下僕だ。」
「下僕……。……ねぇ、姉さん。姉さんが望むなら俺、もっと姉さんに相応しい奴隷を幾らでも何処からでも持ってきてあげるよ。そんな獣が二足歩行して、多少呪いの扱いに慣れてる程度の家畜じゃあ姉さんに釣り合わないよ。」
「……。」
「……へぇ。言い訳なし、か。ちょっとは躾に従順さを示せる程度の知性はあるんだね。ちょっと評価を修正しなくっちゃ。」
「それとも何か、1人で居ろと言いたいのか?」
「ち、違うよ! ……姉さんはいつも国内で1人だったからどうにも心配だっただけなんだ。」
「あぁ、そのお陰で1人に慣れたと思っていたんだがな。……ここで今は亡き師匠の裏表のない優しさに触れ、広過ぎるこの場所に1人は寒過ぎるんでな。あの忌々しい祖国のように。」
「……姉さん、これあげる。」
大方、予め私に一定以上近付かないように言われているのだろう。忌々しいあの男、グラフギールは近付かない。
その代わりと言わんばかりに寄ってきたカルゼグルージが渡してきたのは
「……手紙。」
「招待状だよ。4日後、俺達の国で祭りがあるんだ。竜王祭、憶えてるでしょ? ほら、新しい王を祝するお祝い。俺達白銀の竜族は幾つもある竜族の中でも最も俺達の主神に近く、崇め奉られる血族。だからこそ、これまで以上の賑わいになるよ。」
「……行かん。」
「でも姉さん、それが大好きだったじゃない。綺麗で、幻想的で、吸い込まれそうって! この封筒に入ってるカードと徽章を身に着けてたら俺の権限で全部無料だし、何処にでも入れるよ! あ、ちゃんと後でお金払わないといけないからレシートはちゃんと貰って、後で提出してね。じゃあ、来てくれると信じてるよ。それと……姉さん。」
相変わらずこいつは人の話を聞かない。しかも、何が気に入らないってその言葉全てが的を射ている事。……ちゃんと、此方の趣味嗜好や好き嫌いをしっかりと理解し、私にとって都合良くバランスを取ってくれている事。
唯一取れていないのは、何が何でも私の傍に何かしらの形で居ようと言う執着心だけ。
逆に言えば、それさえ我慢してしまえばこいつに悪い所は何もない。あの国に居た頃も、ここに家出をした時も、ここに住むと決めた時も、こいつは私を庇い、私に味方し、そして何より事実通り護ってきた。
だから、完全にあしらう事が。完全に拒絶する事に罪悪感を覚えてしまう、そんな自分が本当に嫌いだ。
そんなこいつはとても寂しそうな空気を漂わせながらも、器用にも優しい顔をしながら私の両手を掬い上げ。撫でるようにやんわりと握る。
「……俺は、何があっても姉さんの味方だから。辛かったら帰っておいで。もし祭りで姉さんに危害を加える奴が居たら言ってね。ちゃんと、殺すから。あ……姉さんが自分で殺したいって言うなら俺はそれで良いと思ってるけどちゃんと報告……って言うか、許可だけ取りに来てね。いや、絶対許可するけど。それでも、知らないうちに居なくなってたら逃げたと思っちゃうから、さ。だから姉さんは」
「分かった分かった。……気が向けば見に行ってやる。」
「っ!! 本当っ!? ありがとう、姉さん!」
「……それと。どうしてもこの森に来たいなら飛んでくるな。森の木々を揺らすな。……その音が非常に不愉快だ。」
「う、うんっ! ごめんね、姉さん。そうだよね、姉さんは今も昔も静かな場所じゃないと安心出来ないもんね。ごめん、俺が悪かったよ。……次からは近くまで飛んできて、そこから屋敷まで歩いていくね。」
これだから嫌いなんだ、このヤンデレ野郎は。
私が言った以上、こいつは徹底してそれを守るだろう。……こいつはそういう奴だ。
ただ話はまだ終わりじゃないらしい。ちらり、と背後を横目に見た後に耳元にまでやってくる。
〔……あの護衛、今回一緒に来たあの護衛。姉さんに酷い事言わなかった?〕
「……もう慣れた。」
〔やっぱり……!! ……チッ。姉さんはこの世で一番偉大な人なのに、何でそれが分からないかな……。……ありがとう、姉さん。じゃあ、またね。待ってるからね。〕
……。
「……ご主人様。」
「よく我慢した。……お前も色々と言いたい事はあっただろうに。」
「ご主人様の方が辛いって、分かってるから。……さぁ、ご主人様。俺達の家に帰ろう? その手紙の事も後にして、今日はゆっくりしようよ。」
「……あぁ、そうだな。」
――次回「第18話 復讐の焔も、立派な原動力なのだから」
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