第16話 神にされたり、魔王にされたり
【前回】汚らわしい妖狐を焼き払った
第16話 神にされたり、魔王にされたり
――怨みの種は何処にでも。
あんな無能といえ王様は王様。一気に騒がしくなった城内はその原因である私にかまけている余裕もなくあれよあれよと次なる王の選定で忙しい。
中には此方を見つけて深々と頭を下げる者。跪く者も居る。それらに手を振って、此方も最後の用を済ました。
王城の地下牢、座敷牢と呼ぶ方が正しいのかもしれないそこでそれなりに強力な睡眠薬を飲まされて眠っていた6人のエルフの子供達も回収した。……多少、後に効いてくる下拵えも済ませた。
「……さて、そろそろ」
『そこに……誰か、居ますか?』
殆どがもぬけの殻か。ここに入れられたは良いがそのままその存在ですらも忘れ去られ、ネズミや虫がその骨と残った肉片も貪るだけの暗い座敷牢が連なる区域。そこにまだ、生存者が居るらしい。
無論、構ってやる必要はない。無駄な時間を割いてやる必要も、このまま放置していても良いはずなのにノイズと共にフラッシュバックする幼き頃の自分が、悲痛に叫んでいるのがうるさくて。
……はぁ。
『この匂い……ここら辺でしない、草木の匂いがします。誰か分かりませんがどうか、どうかここから僕を連れ出して下さいませんか? 僕は、僕はもう誰も殺したくないんです。どうか、お姿だけでも』
「扉から離れていろ。」
扉から気配が離れたのを確認すると手加減なく扉を思いっきり蹴り飛ばす。
まだ、年齢としてはかなり若い。それこそ二桁に辿り着いたか、それともまだかぐらいの男にも女にも何方にでも見えてしまう子供がそこに居る。
だがあの特徴的な白い毛並みの尾と耳。そして夜空を落とし込んだような黒い髪に全てを呑み込まんばかりの紫色の瞳には力がある。
それなりに使い道はありそうだな。
「……わあ、凄くお強いんですね。」
「……お前か、呼んだのは。」
「はい、僕です。良かったぁ……。ここの王様、すっごく怖いんですよ。それにとっても気持ち悪くて。僕、男の子なのにこんな服着せられちゃって……。」
「……それで? 魔力が随分と歪んでいるように見えるのはその枷の所為か?」
「は、はい! ……でも、凄いですね。やっぱり僕の事、何か分かってます?」
「あの愚王が言っていた巫女、と言う奴だろう。種族も見た目は人だがその中身は九尾と見た。」
本来、九尾というのは先のハイエルフ同様、九尾の下位互換である妖狐達にとっては非常に神聖な存在。それこそ、彼らにとっての神と同等レベルの存在と見ても良い。
だというのに私が眠っている間にその常識も何処かへ棄てされれてしまったらしい。つくづく、時間の流れとは恐ろしい。
「……僕は、役に立ちますよ。」
「何?」
「旅人さん、どうか僕の事を外に連れて行ってくださいませんか? この枷も外して、貴方の奴隷にしてください。」
「……肉奴隷にされそうになっていた者の言葉とは思えんな。」
「命の恩人である貴方がそれを望むなら、その通りに。」
「断る。生憎、私はその手の獣と区別がつかん行為は嫌いだ。概念その物ごと焼き払ってしまいたいぐらいにはな。」
「それは失礼しました、ご主人様。じゃあ、僕を貴方の犬にしてくださいませんか?」
「カルストゥーラ・ルエンティク。私は、お前の主人じゃない。」
「カルストゥーラ、ルエンティク……。……あぁ、あの決して契約を違えない気高き蛇九尾の神様ですか?」
神……か。
「……人によって呼び名も印象も随分と違うな。つくづく、呆れるよ。」
「僕は九尾のルーザって言います。行く所もないので、連れていってくれませんか?」
「家は? 家族は? 私の所に来ると、2度と外界には戻れんが。」
「わあ、思ったより独占欲強いんですね。良いですよ、むしろ大歓迎です。僕はまだ生きていたい。でも、家も、家族も、あの愚王に焼き払われちゃって、行く所もないんですよ。」
「……子供の癖に、全く悲しそうじゃないな。」
「恨んでますから。……僕の家族、自分達が助かる為に僕を捨てた。捨てる前はまるで奴隷のように扱われていましたし、あんなのは死んだ方が良いですよ。……それに、貴方は僕よりも賢いでしょう? どうか、呪いについて僕に色々教えて下さい。……僕が、気に入らない奴を呪い殺してあげますから。」
「……ふんっ。良いのか? ここで騙してお前を何処かに売り飛ばすかもしれんぞ?」
「構いません。……僕には、貴方以外に縋れる物がありませんから。幾らでも嬲って愛でて痛めつけて可愛がっていただければ。」
狐。妖狐も九尾もそうだが、狐系統の知的生命体は……酷く、歪んでいる。
彼らが呪いを最も得意とするのはこれが理由で、化けたり化かしたり。そして何より、主人と呼べうる存在と結ばれる時にはその全てを投げ売って忠誠と献身の限りを尽くし、狂ったように依存する。
だからこそ、彼らは裏切りの心配がない。賢いのか賢くないのか、自分が少しでも主人を疑い始めると自ら命を絶つ程の絶対的な忠誠心と言う名の第2の人格とも呼べるそれに、この種族は逆らう事が出来ない。
これも一興……か。
それに今更狂った奴が増えた所で何も抵抗はない。
返事をする代わりに今しがた私の新しい犬となったこやつを縛る鎖を踏み砕く。幾ら狂犬だとしても、こんなにも自分の本拠地から離れた所に繋いでいては意味がない。
外す、ではなく破壊した影響かそれによって掛けられていた魔法が溶けて姿が変わる。
幼いように見えていたその姿は見た目こそ、私よりも少し高い青年に。薄らと輪郭だけが見えていた黒い耳と9つの尾が瞬く間に生え、今度は中性的だったその顔つきですらもしっかりと男性の物へと変わる。
そんなこいつは流れるように跪き、そっと私の左足を持ち上げてキスを落とすのも抵抗がないらしい。
「……覚悟は良いらしいな。」
「あ、その顔信じてなかったな。酷いな、ご主人様。俺は嘘吐いてないのに。」
「本当に口調変わったな。一人称も。」
「だってあの愚王、あの話し方しないと頭のねじぶっ飛んで気持ち悪い事しだすんだからしゃーねぇじゃん。俺だってやだよ。」
「では帰るか。屋敷にはお前以外に悪魔のルイス、凑白零蛇のシルア。そして堕天使のルーナと今頃従順になっているであろうハイエルフが居る。彼らには手を出さず、手を取り合い、協力するように。どれも私の奴隷であり、手足であり、下僕だ。」
「はい、ご主人様。……貴方の御心のままに。」
――次回「第17話 これだからヤンデレは」
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