第15話 汚物は消毒だ
あぁやっぱりそうだ。やっぱりな。
とはいえ私が最後にここを訪れた時と大分印象が異なる。私が手を貸してやったのも相まってそれなりに反映していたというのに、今では殆ど衰退していると言っても過言ではない。
私の縄張りである森から数㎞離れた妖狐の国……否、里。聞く所に因れば、ここの王宮に例の攫われた6人のエルフの子らが居るらしい。
ただあまり良い噂は聞かない。
私がここを訪れてから幾度となく流れた長い時間の中で、何度も行われた代替わり。それにより、今の妖狐の王様は随分と品行が宜しくないらしい。
「それもふしだらな方に……な。」
聞けば、女遊びが好きらしい。更に調べた所、攫われたエルフの子供達も皆女であり、処女な上に二桁にも満たない子供ばかりだとか。
私はこういうのが本当に、大嫌いだ。
肉欲とはよく言ったものだが、結局は家畜と何が違うのやら。獣と知的生命体の違いも分からん家畜共など一掃してしまえば良いだろうに。
エルフ達は自らの子供達を攫ったのは人間だと言った。しかし、元より嗅覚に優れていないあいつらにはと人間に化けられる妖狐の違いなど分かる訳もない。
これだけ獣臭いというのに、それでも。これでは森の狩人の異名を持つエルフですら、太古の物となってしまっているのだろう。
王宮の中を堂々と、誰に許可を取る訳でもなく練り歩くも幾人かは私の事を知っているようで。中には跪く者、恭しく頭を下げる者などもおり、大層その無能な王様とやらに苦労させられているのだろう。
直ぐに風向き良くしてやるからな。……私の為に。
恐らく王の間であろう、それなりに好ましい襖の扉。それを、そこに張られていた結界諸共指で軽く弾いて吹き飛ばす。
すると、どうだろうか。大方、今から始めようとしていたんだろう。大量の酒に料理、そして恐らく何処かから攫われてきたであろう布切れ一枚を羽織って蒼い顔をしていたであろう女達と。……やたらと高そうな服装に身を包んだ妖狐の男。
……はぁ。
「やぁ、妖狐の王。下賤で下等と罵る人間に化けてまで攫った6人のエルフの子供、訳あって必要になったから返しに来てもらいに来た。」
「な、はぁ……!?」
「随分と知性の足りなくなった現王であるお前に知恵を与えてやろう。あの地区のエルフは “全て”、私の庇護下なんだよ。もう契約の対価も払ってもらっているし、とっとと連れ帰って茶でも飲みながら読書をしたいのだ、私は。如何なる相手であろうと契約は契約。破るとうちの右腕もうるさいし、私自身も約束1つ守れん奴は大っ嫌いでな。……ああ、そうそう。そういえばこの国と昔に契約を交わしたな。ん……あ、不可侵だったな。100年程前のお前の先祖と交わした契約。確か……永久の不可侵を。ちゃ~んと書物として残した物もあるはずだが、もはや捨てた訳ではあるまい? それに、王になる時に先王から聞かされているとも思うが。60年程前に、1度オークの軍を追い返してほしいという願いも正当で相応の対価と引き換えに叶えてやったが。」
「な、じゃ、じゃあお前が、お前のような無礼者があの邪王なのか……!?」
色々と随分なご挨拶だな、若造が。
「邪王。……はぁ、邪王か。それが私の呼び名だと言うなら随分と皮肉な名を賜った物だな、私も。私は契約と対価さえしっかり守ればちゃんと願いを叶えてやったし、交渉されれば快く受けてやったと言うのに。」
「う、うるさい! あ、あの子らはあいつに必要なんだ!!」
「あいつ?」
「あれは、巫女に捧げる!! 我ら妖狐の繁栄の為に!!」
その癖、妖狐以外の物と交わろうとしてるお前にそんな大層な事が出来るとは思わないんだがな。
「さて。質問の答えを聞こう。……従順か? それとも抵抗か?」
「お、おおお前なんかに僕が」
「あぁそうか。では、さようなら。」
ぱちん、と指を鳴らしてこの部屋の中を暴れ回る炎で出来た龍。それはふしだらで無能な妖狐の王だけではなくそんな愚か者の遊女となっていた者達ですらも焼き尽くし、食い殺す。
無論、中には被害者である彼女らまで殺す必要があったのかと問われるかもしれないが……これは正当な行いだ。“汚物は消毒する” という、れっきな。
「……さて。どうせ放っておいてもその巫女とやらが玉座に座るだろうし、さっさと仕事をこなすか。」
全く、面倒なものだ。