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五 救出 一

 別に、恋愛感情を意識してデートに行くのではない。そうでなくとも、ただ楽しみのためだけに時間を費やすというのは生まれ変わってから初めての試みになる。これまでのところ、冒険そのものが自分にとって大きな娯楽という一面を持っていたからだとも気づかされた。


「ええっ? いいんですか?」


 クロールの顔色が急に良くなった。


「はい」


 実際、その気になればこの街には遊ぶための施設がいくつかある。前世でも大人の出入りするような賭博場もあれば、子供が楽しむような遊園地もある。


「じゃあ、じゃあどこに行きますか?」


 勢いこんで質問する彼の姿が微笑ましい。


 ただ、賭博はやめた方がいいだろう。遊園地も、はしゃぎ過ぎて倒れられたら困る。


「水族館はどうですか?」


 一番無難な提案をしたら、目を輝かせてうなずいた。


「明日までに絶対回復しますよ」


 遠足を控えた子供のように宣言した。


「お大事にして下さいね」


 話は一区切りついた。明日までどうやって時間を潰そう。この状況だと、自分だけ外に出るのもはばかられるし。


「師匠はどんな冒険をしてきたんですか?」


 うまい具合にクロールから話を持ち出してくれた。やぶさかではないものの、転生云々は控えた方が賢明だろう。


 そうして選んだ冒険譚をいくつか話す内にお昼になり、ご飯を挟んでまた話した。


 夕方近くになり、クロールがうつらうつらし始めたので打ち切って寝て貰うことにする。私も喋り疲れたので一休み。


 翌朝。すっかり元気になったクロールと共に部屋を出た私達は、ようやくギルドを出た。蛇足ながら、こうした宿泊は誰でもするからぐだぐだ噂話をする人はいない。当事者が深い仲になるのは勝手な反面、良くも悪くも他人にはドライでもある。


 ともかく水族館に進んだ。そこは二階建ての頑丈な石造りの建物で、出入口の ガラス戸は両開きになっている。


 それを手で開けて、受付でお金を払いパンフレットを渡されてから見学を始めた。


 最初に入ったホールにはかなり大きな吹き抜けのプールがあり、青緑色の甲羅を備えたウミガメが何匹かのんびりと泳いでいる。


 プールを仕切る手すりには、要所要所に干した小魚を何匹か入れた金属製の四角い穴がこしらえてあった。クロールが備えつけのピンセットでつまんでプールに入れると、目ざとく見つけたウミガメ達がいっせいにぱくぱく食べ始めた。


「食いしん坊な奴らですね」


 にこにこしながらクロールはピンセットを私に渡した。そのとたん、ウミガメの 一匹がヒレを勢いよく水面に叩きつけて飛沫が私の顔にかかった。


「きゃあっ!」

「あはははははは」

「もうっ、笑わないで下さいよ」


 ぶーっと膨れながらも、実はそんなに悪くない気分だった。


 私が小魚を放ると、同じようにウミガメが口に入れ始めた。


「可愛いですね……?」


 クロールの姿がない。 

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