四 一苦労 一
それからは力仕事になった。ギルドにも宿泊施設がある。割高かつ前払いで。二人用の部屋なのでなおさらだ。
おまけに、部屋は二階にあるから一人でクロールを担いでいかねばならない。まあ、体格通りに軽かったのがまだしも幸いか。
とりあえず二日分を払い、つきっきりで面倒を見ることにした。でもその前にお風呂にした。
冒険中は、様々な薬品や道具でお風呂に入らなくても一応清潔さを保つようにはしている。クロールもそうしていた。
逆にそうした品が充実し過ぎたせいか、この世界ではお風呂は一種の贅沢だ。
割高なだけあって、ギルドの宿泊施設にもお風呂がある。蒸風呂だけど、これはこれで慣れると楽しい。
仕組みそのものは至って簡単で、二人並べるくらいの狭い雛段の前に水を入れた大きな壺がある。壺は平行に並べたレンガで支えられていて、レンガの間に大きな石を置く。壺は錬金術で好きな時に中の水を加熱できる。水そのものは前世の日本ほどふんだんに使えないから、この要領が主流だそうだ。
脱衣場で服を脱ぎ、髪をまとめてタオルで固定してから浴室に入った。着替えはあらかじめ用意してあるので念のため。
壺は軽く撫でたらすぐに熱くなり始めた。雛段に座ってしばらくすると、汗が吹き出てくる。
あらかじめ用意しておいたおしぼり風のタオルでお肌をこすり、垢を落とした。これは、決まった時間にお掃除係さんがきてきれいにしてくれる。お風呂だけでなくお部屋全体をきれいにしてくれるので、チップはサイドボードに簡単なお礼のメモを添えて置いておく。
本当は、髪も一緒に洗いたい。余程高いホテルにでも泊まらないと無理なので、洗面所で軽くすすぐ他は魔法の小道具を使うくらい。
便利な方に人が流れるのは当たり前だから、いちいちお湯を溜めたり洗わなくてはならなかったりする浴槽が普及しないのは理解できる。でも、だからこそ贅沢したくなる時もある。
そんなことを考えながら垢をすり落とし終わり、お風呂は終わった。使ったあとのタオルはまとめて脱衣場にある洗濯物用の袋に入れておく。
身体をふいてバスローブを身につけ、寝室に戻った。クロールはおとなしく寝ている。
私はソファーに横たわった。無防備過ぎるかなとも思った反面、 冒険中の野営でもなにもなかったし。すぐに寝入り始めた。
目を覚ますと、真夜中だった。灯りをつけないままだったので、お月様だけが目の頼り。クロールは相変わらず意識を戻していない。
起きてからまずはランプに火をつけ、普段着を身につけた。街の人達と同じシャツにズボン。鎧や剣はまとめて別にしてある。
そこでお腹が鳴った。手っ取り早くルームサービスに頼ろう。
ソファーに面したテーブルにメニューがあり、指で画像を押したら調理して持ってきてくれる。料金は現物と引き換え。さすがに、現物そのものがテーブルの上に瞬間移動したりはしない。
クロールの分もいるだろうか。起きてから改めて頼めばいいかな。まあ、大して時間がかかるわけじゃないし、彼のはあとに。蜂蜜トーストに牛乳、サラダの小鉢を選んで注文すると大して時間をかけずに持ってきてくれた。ちなみに受渡しはドアに取りつけた差し入れ口から行われ、互いに顔は見なくてすむ。
「頂きます」
お金とお料理を交換してから、早速食事を始めた。野外で口にするご飯も美味しいけど、たまにはお金を払って食べるご飯も良い。
「ご馳走様でした」
ご飯が終わり、私は眠り続けるクロールをちらっと眺めた。
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