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三 帰ってからが 一

 シチューを暖め直してようやく食事になった。


「頂きます」

「師匠、その台詞は……? ウサギに対する儀式の続きですか?」


 あ、そうか。そんな挨拶(?)も前世の日本くらいしかないんだっけ。


「はい、その続きです」

「分かりました。頂きます」


 真剣にクロールは口にした。


 シチューはとても美味しかった。冒険をしていると、食事くらいしか楽しみがなくなる場面が普通にある。いつもこんな風にありつけるのではないにしても、幸先が良かった。


 二人いるのだし、交代で見張りをしながら寝ることにした。万一に備えて鳴子つきのロープも張っておいた。


 考えてみると、野外で男の人と一緒に一晩過ごすのは初めてだ。にもかかわらず、特にどきどきしない。師弟というのもあれば、冒険しているのであってデートしているのでもないという事情もある。


 それにも増して、前世ではとても恋愛どころじゃなかったし。


 そんなことをつらつら思い返しながら、クロールの寝顔を眺めた。こうしていると、まだ少し子供っぽい。知り合って数日しかたっていないし、これが終わったら離れ離れになる。


 そう。弟子と離れるというのも生まれて初めてになる。初めて尽くしの中で、ナイフを思い出した。


 かすかに縁が残るとしたら、それくらいだろうか。


 時間がきた。私はクロールを起こし、眠りについた。彼が邪な欲望を抱くとは到底思えなかった。確証はなにもない。でも、女性に対する本能的で漠然とした恐怖感を彼が抱いているのは察知していた。


 翌朝。


 なんの差し障りもなく私は起きた。クロールはちゃんと見張りを続けていた。軽い挨拶のあと、シチューの残りを食べてから道具を洗って片づけ、かまど用の穴も埋め戻した。


 キノコのある場所へは、二日目の時間を半分ほど使って到着した。どういうわけでか倒れた木が積み重なり、じとじとした日陰を作っている。


 倒木の間から赤く大人の握り拳ほどのサイズをしたキノコが無数に顔を出している。


「おお、魔炎茸が鈴なりですな」


 こういう時は魔法使いとしての顔が出てくるクロール。ウサギのシチューを食べた時とはまた違った輝き方だ。


「毒はない代わりに食べられないというお話ですね」


 彼に応じつつ、自分でもハッとした。いつの間にか、食べられるかどうかが一番大事な関心になっていた。それ自体は悪いことではないのだけれど。


「では、依頼を実行しましょう」


 クロールが一歩進み出て、革袋を出した。


 それからは、小一時間ほどの作業ですんだ。一番重要なのはギルドの依頼だから、帰り道はできるだけ早く引き上げた。


 街について、ギルドで魔炎茸とウサギの毛皮を出した代わりに報酬を受け取った。合計で、日雇い労働者の五日分くらいの金額になった。


「では精算を。こちらに計算をまとめました。確認して下さい」


 ギルドの職員ではなくクロールが、ロビーで改まった。ごく一時的な師弟としての、最後の実務になる。

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