Chapter 004_学園初日
「講義を始める前に…。え~っと…プリモ、セコンド、トロワ。君らの席無いから。早くこの部屋から出ていきたまえよ。」
翌日。
最初の講義である【魔導入門】を受けようと準備万端で待っていた私達に、講師の先生が告げた最初の言葉がそれだった
ちなみにこの学校にオリエンテーションなんて親切な物はない。時間割表なんてものも無い。
初日に配られた全学年全クラスの全授業が書かれた一覧表から自分に課せられた講義を探し出し、自分でカリキュラムに沿った時間割表を作らないといけないのだ。
教科書や参考書は購買に行って自分で手に入れないといけない。もちろん有料。先輩のお下がり・・・中古品も売っているけど、そこそこいいお値段。最悪、買わなくてもいいけど・・・それで講義に置いていかれたとしても、その責任は生徒にある。
鐘は鳴るけど高級品である時計(リブラリアで時計と言えば【懐中時計】の事。壁掛け時計は存在しないし、柱時計は普及していない)は個人で持っていない限り無い。
受講する講義を自分で調べて、必要な道具を用意して、とんでもなく広い(建物は30棟以上。広い校庭が7つ。魔法演習専用の広場が5つ。馬場が2つ。校庭より広い畑(!?)が2つ。用途不明の空き地がいっぱい。決闘場が1つ。闘技場が1つ。それ全部合わせたのより広い森が1つ。・・・以上が学園の所有する施設だ。)学園の中で目当ての教室を探して、時間前にたどり着かないといけないのだ。
それを考えると、異世界島国の教育システムが如何にコンパクトにまとめられていたか、良く分かるよね・・・
「・・・う!?」「え…」「はぁっ!?なんでなんでなんでぇ!?」
話は戻って・・・
先生の突然の追放宣言に私達は抗議の声を上げる。
席がない!?出ていけ!?!?そんな・・・
「そんなに驚かんでよろしい。」
落ち着いた雰囲気のおじいちゃん先生はそう言った。
「無理言わないでよ先生!?講義受けちゃダメなんて…あたし達、何かした!?」
学園の講師は全員、国が選んだ偉い人や優秀な人なので権威も高く、授業態度が悪かったり楯突いたりすると平気で受講禁止にされたり・・・最悪、退学させられてしまう。
このため先生に対しては気を使わないといけないし、それもまた教育の一環とされているんだけど・・・
でも、だからといって・・・まだ何もやっていない最初の講義で出禁くらうのは理不尽すぎると思うのですが!?
「コレコレ。早とちりするでない。お前達三人は飛び級じゃわい。」
「「「「おぉぉぉっ!!!」」」」」
その瞬間、教室のクラスメイト達が声を上げた。
「・・・」「ふーん…」「と、飛び級…あたしがっ!?」
4年生で学科ごとに分岐するものの学園の講義にはしっかりとしたカリキュラムが組まれており、1年生から順に内容が難しくなるよう構成されている(異世界島国にいると当然のことと思いがちだけど・・・膨大な知識の中から、誰に何を教えるか選んで、順序だててカリキュラムを組むのって大変な事なんだよ?)
このため、学年ごとに与えられた講義を順々に受けていくのが基本なんだけど・・・
「お前さん方3人は入学試験の結果をもって本講義の内容を履修したとみなされておる。さっさと上の学年の講義に行くがよい。」
・・・例外もある。
テストの結果や講師の判断で講義内容を理解していると見なされれば、飛び級となるのだ。
もちろん逆に、留級されることもあるんだけどね・・・
「セコンドとトロワはこの棟の3階…11306教室じゃな。プリモは一旦外に出て、第8講棟の第2講堂へ向かいなさい。」
「…うん?」「せ、先生!フォニアだけ別なの!?」
あ、あれ・・・?
「そうじゃ。お前さん方は2年1組の【魔導概論】じゃが…プリモは2階級飛びして3年1組の【魔導総論】じゃよ。」
「「「「「おぉぉーーー!!!」」」」」
「に、2階級の飛び級!?」
「何それ凄い!!史上初めてじゃない!?」
「と、とりあえず綴っとこう…」
「フォニアちゃん凄いっ…ねっ!」
「…さすが」
「やっぱり魔女は違うね…」
皆は口々に凄い凄いと言ってくれた。
「・・・あ、ありがと・・・」
認められたことは嬉しいけど・・・1人で上級生のクラスに行かないといけないのは心細くて、ドキドキもするね・・・
・・・
・・
・
そんな訳でやって来た第8-2講堂。
学園の講義は基本的に異世界島国の学校と同じように1クラスが全員入れるくらいの教室で行われるんだけど、時々・・・受講生が多い講義(合格できなかった講義を上級生が再受講している場合・・・いわゆる“留級”)や、先生の趣味・・・で【講堂】と呼ばれる広い教室(大学の講堂のように黒板に向かって斜めに傾斜している講堂もあるけど、そうじゃない講堂も多い)で行われる。
私がこれから受ける【魔導総論】の講義が講堂で行われる理由は・・・恐らく前者だろう。
3年生の講義は総じて難しいらしいから・・・
「・・・ふぅー・・・よしっ。」
息をついて。
講堂の木戸をキィー・・・っと開けると
「…おっ。来たね特待生!早く座れ!」
魔法使い然とした若い男の先生が放ったその言葉で、講堂にいた全生徒の目が私に向いた。
「・・・は、はい!失礼します・・・」
私を瞳に映した上級生達の反応は様々だ。
「いらっしゃい魔女ちゃん!」
「おぉ~…この子が噂の…」
「へぇ~…可愛いじゃん!」
優しい視線も多いけど・・・
「ふーん…こんなチビが…ねぇ…」
「本気かよ…」
「…ただ王女に気に入られただけだろ?」
「・・・」
・・・そうじゃない瞳も少なくない。
私が魔女の名を持ち、陛下に気に入られている事をよく思わない人だっている。
飛び級だって珍しいと言われる学校で2階級も上がったんだ。奇異の目で見られるのは仕方ない・・・
「…魔女ちゃん魔女ちゃん!」
「・・・う?」
ほぼ満席の講堂の中、空席を探して座席の合間を歩いていた私を呼び止める声が聞こえた。
振り返ると・・・
「…こっちおいで。空いてるよ!」
小豆色のショートに朱色の美しい瞳をしたお姉様が隣の席に移りながら笑顔で手招きしていた。
「・・・ん!ありがと。」
「いいのよ。それより…」
席に座った私を見たお姉様はすぐに黒板に視線を戻し、小声になって・・・
「教科書は見せてあげるからすぐに準備して。アルバン先生は待ってくれないわよ。」
「よし。それじゃあ始めるぞ。先ずは軽く2年のおさらいだ。魔導の黎明期から…」
お姉様がそう言った途端、黒板の前に立つ先生は講義を始めてしまった。
遅れてやって来た私を待つ気はないようだ
「・・・ん!」
そのお姉様も周りの人たちも、既に先生の板書を書き写すのに必死だ。
私も慌ててノートを取り出しそれに加わる。
「…魔法という言葉が現れる最初の記録は紀元前…」
憧れの学園生活・・・その第1日目はこうして始まった・・・
・・・
・・
・
・
・・
・・・
「こら、フォニア!寝てんじゃないわよ!!…行くわよ!」
「・・・・・・ふぇ?・・・どこ・・・へ?」
本日の講義【魔導入門】【世界史Ⅰ】【楽器Ⅰ】【算術Ⅰ】のうち、【楽器Ⅰ】以外すべて飛び級してしまった私は校内を走り回るハメになり・・・疲労困憊。
ソフィ先生のホームルームも終わり、クラスメイトが周りに集まってワイワイやっているけど・・・正直言って、お家帰りたい。
何処かへ行くとすれば、チェスが待ってる厩へ行きたい・・・
「部活見学に決まってるでしょ!!ぶーかーつー!!」
「あぁ…今日から新入生も部活解禁だもんね。」
「・・・みんな・・・も・・・行く。の?」
「う、うん…そのつもりだ…よ。」
「…ボク、何部に入ろうかな?…アラン君は?」
「ボクは槍術部かなぁ…名門だし。」
部活・・・そう言えばそんな物もあったかもしれない。
朝のホームルームの前、みんなで部活巡りしようと言ったかもしれない。
気になる部活もあるし、どうせならみんなとワイワイ行きたい。
けど・・・
「・・・また明日。」
帰りたい・・・
フォニアのライフはもうすぐ0よ・・・
「ダメよ!青春は待ってくれないのよ!!」
「・・・きっと部活は待ってくれる。」
帰りたい・・・
あったかい畔邸が待っている・・・
「…もうっ!」
「・・・今日は・・・つかれた・・・」
机に突っ伏した私にナターシャちゃんは・・・
「何よっ!フォニアったらっ!?初日から疲れたとか言って…オバサンなんだからっ!!」
極大魔法を唱えたのだった・・・




