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Chapter 032_時間の魔法

「おねーさまぁ!アレがそう!?」


カレント2,181年 恵土の月1日。天気は快晴。



「おっきぃね!」


馬車(ラレンタンド商会に用意してもらったレンタル)から

身を乗り出したロティアと、その横から顔を覗かせたティシアは

見えてきた領都ノワイエの巨大な城壁に感嘆の声を上げた。



「・・・ん!近づくと、もっと大きいよ。」

「へえぇ…」「はわぁ…!」


実家で数日過ごした私は家族と共に、初めての家族旅行に出発した。

旅行と言ってもただの観光じゃない。目的はもちろん・・・



「いよいよ…いよいよなのね…」

「・・・ん。お祖母様も伯父様、伯母様も・・・もちろんお祖父様も。待ってるって・・・」

「母さんも姉ちゃんも…か…」

「テオ…」


・・・目的はもちろん。本家のみんなに家族を紹介する事。

凱旋の時に立ち寄ったこの街・・・お父様の生家であり、

ピアニシモ家の本家がある領都ノワイエ・・・で、私はお祖母様と結託(けったく)して、

領主閣下の協力も得て、お祖父様を説得し。家族に逢ってもらう約束をした。


閣下公認のため、お祖父様に逃げ場はない。

これが政治というモノだよ!!



「…ノワイエの壁…ルボワのと違って立派なんだね!お姉様!」

「・・・ん!詳しい事はお父様に聞いてね。」

「おとーしゃま?」

「お、おいフォニア!ここでオレに振るのか!?」

「・・・滞在期間が短くて・・・あまり詳しくないの。」

「テオ…あなた、16歳までこの街に住んでいたんでしょ?娘たちに街の紹介くらい出来るわよね?」


「わくわく!」「わっくわっく!」「・・・わくわく!」


「ま、まあ…よ、よし!…あ、あの城壁はな。もし敵が攻めて来た時に…」



だからこれは、家族にとって初めての里帰りとなる。


私個人はピアニシモ家の養子だから本家は“我が家”だし、お父様にとっては生家

だけど・・・他の皆はそうじゃない。


特に、お母様にとっては・・・結婚して十年以上経って初めての挨拶。

感慨もひとしおだろう。



「…城壁の高さは12m。総延長は約3km。建立は400年ほど前だけど…増改築を繰り返し、火事や魔物の被害で補修もしているから当時の物は僅かだそうです。…因みに、戦争の被害はまだうけていません。」

「へぇ~…敵さんが攻めてきた事は無いんだ…」

「…えぇ。エディアラ王国ではこれまで何度となく闘いがあったけど、戦場になるのはエヴァーナや…せいぜいラエン領まで。ノワイエが戦場になった事は無いの。」

「へぇ〜…」


「…ほら、正面向って右の…壁から塔が生えていて、丸くなっている所。」

「あっこ?」

「…うん。あそこだけ…上半分の色が違うでしょ?あれは56年前にヒポグリフって魔物がやって来て、壊してしまったから治したの…」

「まものしゃん?」

「そう。…お空を飛べる魔物だから、城壁の上で騎士団が戦ったの。壁が壊れたのは、そのせいよ。」

「こ、こわいね…」


「へ、へぇ~…そうだったのか…。あ!もしかして…北東の壁の色が少し違うのも…」

「あれは…172年ほど前に起きた貴族街での不審火に因るものだったはずです…」

「はぁ~…ナルホドなぁ!ずっと不思議だなぁと思っていたが…やっと謎が解けたぜ!」

「テ、テオ…。あなたが一番、感心してどうするのよ…」


「・・・ロクサーヌさん。詳しい説明。ありがとうございました。」

「い、いえ…」


リブラリアは異世界みたいに交通手段が発達していないし、

集落と集落を行き来するだけでも1日かかるほど広大であるため“里帰り”

という習慣がない。


結婚する時も、貴族でもない限り親への挨拶なんてしない。

だから、近くの集落に住んでいない限り、祖父母や従兄弟・・・

第3親等以上離れた相手に生涯会えないのも、普通の事。



「フォニア卿は城壁に登った事…ないの?」

「・・・残念ながら。興味は有るんだけど・・・」

「先日立ち寄った時も、凱旋の挨拶や晩餐会で忙しかったですものね…」

「そう…。なら今度、登らせてあげる。」

「・・・いいの!?」

「もちろん。公開している訳じゃないけど…禁止しているわけでも無いから。時々…団長が留守の時…団員が家族と眺望を楽しんでいるコトもある。…皆様もよろしければ。」

「ほんと!?ロティアも登ってみたい!!」

「テーも!!」

「お、オレも!!」

「ふふふ…ありがとうございます。ロクサーヌさん!」

「…お安い御用。」


でも・・・そうは言っても、やっぱり会いたいじゃない?



「それにしても…伯父様にお祖母様かぁ…どんな方なんだろう?」

「おじしゃま?おばーしゃま?」

「お父様。の。お兄様…と。お父様。の。お母様…の事よ!ティシア。」

「おとーしゃま…の…おにーしゃま。おとーしゃま。の。おかーさま。………う?」

「・・・」


いつぞやロティアにした祖父母の説明を、

今度はロティアがティシアにしている姿にホッコリしていると・・・



「…フォニア卿。ジャメルが帰って来た。」


再び全力疾走してやって来たジャメルさんを一瞥したロクサーヌさんが、

そう教えてくれた。



「・・・ん!」


前を見れば領都ノワイエの城門もすぐそこだ!


・・・

・・





















「・・・みんな。ようこそピアニシモ家へ!!」

「あははっ!フォニアちゃんこそ、おかえり~!!」

「ホントに良く来たねぇ!!」

「…久しぶりだなテオ。チェルシー殿もようこそ。妹君の妹達もよく来たね!」

「…いらっしゃい。」

「こ、こんにちは…」

「…」


本家に着くと家臣のみんなに加え、お祖母様、ジャン伯父様、ジャン伯父様の奥様であるフランシーヌ様とその息子のリュカ君。そしてお祖父様が出迎えてくれた!!


「初めまして」もいるので、私の方から全員の紹介を軽くすると・・・


「…お、お帰り…お帰りテオ!」

「た…ただいま。おふくろ…」

「まったく、手紙も返さないで…し、心配…心配してたんだよ!!元気にやっているかい!?」

「スマン…。か、家族共々、何とかやってるさ…」


「フォニアちゃん!実家はどうだった~?…楽しかった?」

「・・・ん!お友達に会って来たの!あと・・・馬を貰った!」

「馬っ!?…って、この馬…先生の?」

「・・・ん。もう、乗らないから・・・って。」

「そ…っか…。大事にしてあげてね………」

「・・・・・・ぅん。・・・もちろん。」


「は、初めましてジャン・シェバリエ・ピアニシモ様!!ご拝顔賜り恐悦至極に存じます!!ご、ご機嫌麗しゅうございますか…?」

「あぁ、元気だとも。丁寧なご挨拶痛みいる。…娘さんには世話になったな。」

「い、いえ!こちらこそ、娘がお世話になっております。わ、我儘な娘で申し訳ありません…」

「…はは。そんな事は無かったが…お気持ちは分からんでもない。…お互い、子供には心配させられっぱなしだな。」

「…ふふふ。……えぇ。本当に…」


「…お姉様は…えっと…フランシーヌ…様?」

「お、お姉様!?わ、私の事!?」

「う?う、うん…」

「っ!!!…い、いい子ねぇっ!!」

「うぅ!?え、えぇと…」

「ふふっ!!…私はフランシーヌであっているわよ!!貴女は?」

「ろ、ロティアと申します…」


「えっと…ティシアちゃん…だよね?こんにちは初めまして。リュカ・ピアニシモと申します。ご機嫌良うございますか?」

「…っ」

「…」

「…」

「・・・ほら、ティシアもリュカお兄様にご挨拶は?」

「………げんき。……げ、げんき?」

「う、うん!」



みんな、それぞれ挨拶を始めたのだった。

私はその様子を・・・時々あいの手を入れながら見守っていた。



「…」


その間、この人は相変わらず愛想が悪かったけど・・・



「・・・お祖父様。本日はお忙しい中お出迎え頂き、ありがとうございました。」

「…ふん。」


これは本家に行ってから聞いた話だけど・・・お父様が勘当されてしまったのは、

もちろんお祖父様の考え方も原因の1つだったけど・・・それに反発した

お父様の言動や態度も褒められたものでは無くて、それも大きな理由に

なっているのだそうだ。


それに、お祖父様の意見としては、お父様は“勘当されたから家を出た”

ではなく“家を飛び出したから勘当した”との事・・・


きっと、2人の間にはいろいろなすれ違いがあって、いつの間にか

その溝が拡がって・・・気付けば十年以上の時が経っていたのだろう。



「・・・お祖父様。」

「だからなんだ!?」

「・・・妹たちを抱っこしてあげて下さい。」

「…なんだと!?」


だから2人とも・・・お祖父様もお父様も。意地とかプライドとかテレとか、

思う所はいろいろあるはずだ。



「う~?…お祖父様。抱っこしてくれるの?」

「おじーしゃま…だこー?」

「…」


それでもこうして、この日を迎えられたのは・・・


時間の魔法の力・・・だと思う。



「…ほら、あなた!この子たち待っているわよ…」

「ははっ…。父様…もう。いいではありませんか…」


「お、お義父様。ぜ、是非っ娘たちを…」

「親父…」


けど、もし私に、そのためのひと唱えが出来たのだとすれば・・・



「…ちっ。………ほれ。」

「わーい!」「きゃっきゃっ!!」


こんな素敵な事は無い。

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