Chapter 031_お話し
「・・・おじいちゃん。来たよ。」
ルボワ2日目。
実家の隣にあるおじいちゃん・・・ロジェス様のお屋敷にやって来た私は早速、
恩師の元を訪ねた。
「…」
けど・・・
「…ごめんなさいねフォニアちゃん。折角来てくれたのに…この人、今年に入ってからは寝てばかりで…」
「・・・んーん。」
ベッドで眠るおじいちゃんは静かな寝息を立てたままで。
返事を返してくれる事は無かった・・・
「・・・診断するね。・・・すー『祈り込めて擁する』ダイアグノーシス・・・」
その理由は。明白で・・・
「・・・『右手を右手に 左手を左手に 手と手を合わせて 祈り込めて給る』ケア。・・・これで少しは、楽になるはず。」
「そう…どうもありがとう。」
「・・・ん。でも・・・気休めにしかならないの。ごめんなさい。」
「ふふふ…そんなの気にしないで。可愛い孫に唱えてもらえるなんて…この人は幸せ者よ。それに…」
おじいちゃんの不調の原因。それは・・・
「…この人、もう70になるのだもの。仕方のないことだわ…」
「・・・」
たとえ、未知の失伝魔法を宿したとしても・・・治癒魔法では
“絶対に治せない”だろうと言われているモノゴトが3つある。
それは、
1.先天性疾患
2.死
3.そして・・・老い
この予想はずいぶん昔からされていたらしく、
出会った頃のイレーヌに見せてもらった治癒術の教本にも書いてあった。
リブラリアにはエルフという【不老】の種族がいるし、
お伽噺にある【不死】の生き物も現実に存在する・・・例えば、
私の召喚獣であるツィーアンとツィーウーは1度倒したんだけど。
それは肉体が滅びただけで龍という“存在”の死ではないそうだ。2柱は今も
クルリ湖で精霊として(魔物としては滅びたし1度肉体も失っているけれど、
今は私の魔力でそれも取り戻している。)仲睦まじく暮らしている。
だから“治癒魔法では不可能”と言われている事であっても、
それを克服する手段があるのかもしれない。
けど・・・少なくとも
今の私に、そんな都合のいい知識や技術は無い。
おじいちゃんを診断した瞬間、例え優羽魔法を唱えたとしても
根治出来ないと・・・そう、直感した。
魔法には限界があると。それが理であると・・・痛感した。
「・・・ごめんね。おじいちゃん。」
こんなに力をもらったのに、
私はあなたの力になれない・・・
「…フォニアちゃん。それはあなたが謝ることじゃないの。そんな言葉かけられても、この人はもちろん。私も嬉しくないわ。」
「・・・」
「…それより。今日まであなたがどんな冒険をしてきたのか…あなたがどれほど成長したのか、教えてちょうだい。そうしてくれた方がずっと嬉しいわ!」
ベッドサイドのテーブルに自分と私のお茶を用意して。
おばあちゃんは手招いた・・・
「・・・」
私にもっと力があれば・・・そう思わずにはいられない。
けど、現実はそうじゃない。
なら、私は・・・
「・・・ん。・・・それじゃあ、まず・・・ドワーフ王国でヒュドラを倒したお話・・・」
私は、自分にできる最大限の事をしよう。
私がどれほど成長したか・・・どれほど先生たちに感謝しているか・・・
「まぁ!それは楽しみね!」
「・・・ん!」
それを知ってもらうために。
・・・
・・
・
「・・・ただいま。」
「お姉様だ!お帰りなさぁぁーいい!」
「ねさまぁ!かえりぃぃー!!」
「うふふっ…お帰りなさいませ。お嬢様っ」
夕方までおじいちゃんの家で過ごした私は、再び実家へと戻った。
朝から雨だった今日は農作業もお休み。
賑やかな声が、私を出迎えてくれた・・・
「・・・ロティア。ティシアも。・・・いい子にしてた?」
「うんっ!…あのねあのね!ローズさんがご本を読んでくれたの!」
「ぎゃおー!がおぉーっ!」
・・・どうやら暇を持て余していた2人を
ローズさんがあやしてくれていたようだ。
どんなお話を聞かせてもらったのかな?
「ねーねー、お姉様。お姉様は女の子が好き?」
「・・・・・・う?」
・・・は?
突然放たれた謎発言に硬直する私をよそに、ロティアは言葉を続けた・・・
「あのね。ローズさんが読んでくれたご本ではね。女の子の騎士様が侍女の女の子を好きになっちゃって。でも、お母様に反対されて、2人で内緒の旅行に行っちゃって…」
「ぎゃおー!!ばばーん!!」
か、かけ落ちラブストーリー!?しかもユリユリ!?
6歳と3歳に読み聞かせる話じゃないよね!?
「…旅の途中でドラゴンと戦って、騎士様が侍女さんを守って結ばれる~…ってお話だったの!…ねぇねぇ。お姉様も騎士様だよね?騎士様になって女の子好きになった?ロティア…ね。ロティア、お姉様のことが好き…大好きっ///」
「テーもっ!!」
そう言ってロティアとティシアは私にしがみ付いた
「・・・私も2人の事が好きよ。」
「わきゃぁ!!」
「きゃっ、きゃっ!」
「・・・・・・」
2人を抱き留めながら変態メイドに目を向けると・・・
「…///」
「・・・」
「えへへ///」
「・・・・・・」
もちろん妹達の純粋な家族愛は嬉しい。
けど・・・この本を読んでいるメイドの事は、普通にひく。
何が「えへへ」だと言うのか・・・い、いったい何を考えながら
この本を読んでいたというのか!?
「・・・ご飯のあとは、お姉ちゃんが絵本を読んであげるね。」
今夜から妹達の読み聞かせは私がやろう。うん。
「本当ぉ!?やったぁ!!」
「ねさまっ、やたー!!」
「・・・ローズさんはお土産の整理をお願い。」
「ぶーっ…お嬢様のお話、私も聞きたいのに…」
このメイドは情操教育に悪い。しばらく妹達から離しておこう・・・
・・・
・・
・
「…ねぇ、フォニアちゃん?」
「・・・う?・・・何でしょうか?おかーさま・・・?」
夜・・・
意地悪だけど寂しがり屋なエルフと、大胆なのに細かいドワーフと、
せっかちなのにマイペースな人間の男の子と、脳筋だけど打たれ弱い獣人が
トラブルを起こしながらドラゴン退治に向かう・・・という、キャラ設定が
チグハグな絵本を読み聞かせると。
妹達は、ドラゴンに出遭う前に眠ってしまった・・・
お布団の上で2人のお腹をポンポンしていると、お片付けを終えた
お母様とお父様が私達3人を包むように
お布団に入って来たのだった・・・
「今日はどんな一日だった?」
お布団に入ったお母様は、優しく優しく・・・
洗いたてのタオルでお包みするように、私を抱きしめてくれた・・・
「お…おい、チェルシー。オレにもフォニアを…」
「…まだ入ったばっかりじゃない。ダーメーよっ。」
「・・・んふふ。おとーさま。順番っ・・・順番よ。」
「ちぇっ…」
そう言うお父様も、実はロティアとティシアを抱えていたりする。
3人まとめて抱きしめるつもりだったのかな?・・・贅沢モノめ。
「・・・おかーさま。今日はね。ずーっとおじいちゃんの所にいたの。」
「そう…ロジェス様はどうだった?」
お母様のお胸で喋った私の声はくぐもっていたし、
吐いた息で熱かったに違いない。
一方、お母様の声は、お母様が私の頭に喉を当てているから、
骨伝導で響いちゃう。
もちろんウルサイとかじゃなくて、なんて言うか・・・
・・・くすぐったい。
「・・・おじいちゃんは瞼を開けてくれなかったけど・・・でも、おばあちゃんと一緒に私のお話を聞いてくれたの。」
「良かったな…」
「・・・ん。成長したね。って・・・言ってもらえたの。」
「ふふふっ…背も伸びて、大きくなったものね。」
「・・・ん!・・・あとね。チェスを貰ったの!」
「…もらった?」
「・・・おじいちゃんは・・・もう。乗れそうにないから。って、おばあちゃんが・・・チェスを連れて行ってあげてほしい・・・って・・・」
チェスは私と同い年の11歳。
サラブレットじゃないので。騎馬馬として、まだ現役。
でも、ここ数年・・・おじいちゃんが体調を崩してしまったのに、
気位の高さが相変わらずのせいで・・・ずっと、人を乗せていないんだって。
寂しかったに違いない・・・
「そうか…よかったな。フォニア。」
「大事にするのよ?」
「・・・もちろん!明日の朝、久しぶりに朝練に行くね。」
「おっ。久しぶりだなぁ!」
「ほんとね…」
「・・・んぅ。・・・最近お寝坊さんだから、起きられるかなぁ?」
「ははっ。チェスのため…だろ?」
「ご飯用意して待っているから、気をつけて行ってらっしゃいっ…」
「・・・ん!」
久しぶりのお散歩・・・喜んでくれるかなぁ?
私の事・・・覚えているかな?
忘れられていたら、とても悲しいけど・・・でも、何となく
覚えていてくれる気がするの。
だから・・・楽しみ!
「・・・ふぁ・・・」
「・・・おとーさま。だっこ・・・」
「えぇっ…もうなの?フォニアちゃん・・・」
「・・・ねむねむしてきちゃったの。眠る前に・・・だっこ。」
「よし来た!おいでフォニア!!」
「・・・ん~」
今日は一日・・・お話してばっかりだった気がするの。
「・・・おとーさま。おかーさま。明日もお話・・・聞いてくれる?」
でも・・・まだまだ話足りない。
「あぁ!もちろん!」
なのに・・・もう、限界・・・
「明日は何のお話をしてくれるのかしら?」
時間を止める魔法って・・・無いのかなぁ?
「・・・あし・・・た・・・は・・・・・・」
林檎です。
いつもご覧いただき、本当にありがとうございます。
さて。
「3rd Theory 学園編」の投稿に関して活動報告を上げました。
今回は皆さんも予想していると思いますので、投稿開始日とペースについて事前にご説明させて頂きます。
ご覧ください。
・・・よろしくね。
ちょっぴり改訂
・・・よろしくね(23/10/22 15:55)




