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Chapter 029_実家

「キャッ、キャッ!」

「す、凄いっ…」


夕方・・・

お昼過ぎにルボワに着いた私だけど、挨拶をしていたら

いつの間にかこんな時間に。


馬をロクサーヌさんに預け、

ローズさんと急いで実家に向かったら・・・偶然にも!

畑から帰ってきた家族と玄関で鉢合わせ!


ただいま!の挨拶を終え、お土産を渡して、

ご飯を食べた私。


今はローズさんに淹れてもらったお茶を飲みながら、

皆とワイワイお喋りの最中だ。



「へ〜…鳥を生み出す魔法なんてあるんだなぁ…」

「・・・ん。【銀翼魔法(シルバー・ウィング)】って言うの。」

「子守に王宮魔法を唱えるなんて。お嬢様くらいでしょうけどね…」


銀翼魔法は金属性第6階位に位置し、

銀(Ag)の魔法核から鳥を生み出し、操る魔法だ。



「ふふふっ…。ティシアったら、あんなに喜んじゃって!」

「おやおや!これは珍しい鳥ですねぇ!」



召喚魔法じゃ無いから術者自ら操作しないといけない・・・つまり、ラジコン

なので、ちょっと神経使うけど・・・発動子が指輪だから、

指を動かすだけで操作できるし、見た目も楽しいので家の中で飛ばしている。



「・・・」


・・・って、ちょっと待てよ。

もしかしたらこの魔法。アレが出来るかもしれない・・・うん。

今度試して・・・



「でも…お姉様?こんなふうに、空中で止まっていられる鳥さんなんているの?」

「・・・う?」


考え事をしていた私に声をかけたのは、銀の小鳥から目を離さないロティアだ。

この魔法は術者のイマジネーション次第で、色々な鳥を生み出せるん

だけど・・・今回は。屋内で遊ぶために、小さな【蜂鳥】を生み出した。


アドゥステトニア大陸にはいない鳥だから不思議に思ったのだろう。

ホバリングする鳥なんて珍しいものね・・・



「・・・これは蜂鳥って言うの。パド大陸のジャングルにいるんだって。」

「ハチドリ…ふーん…」

「ハチしゃん?トリしゃん?」


ロティアとの会話に入ってきたのは、末の妹であるティシアだ。

蜂鳥をじーっと目で追いながら聞いてきた。


「ハチドリって言うんですって。ティシアちゃん。」

「ハチ…ドリ…ハチしゃんなの?トリしゃんなの?」

「・・・蜂みたいにブンブン飛ぶ、鳥さんよ。」

「えと…は、ハチみたいなトリしゃん!」

「・・・ん!」


伸ばしたその指に留まらせてあげると、ティシアは嬉しそうに。

キャッキャと言って(くちばし)をつついた。


こんなに喜んでもらえると、唱え甲斐があるね!



「フォニアお前…何でそんな鳥の事を知っているんだ?」


続けて聞いてきたのはお父様。

蜂鳥の知識は前世の記憶からだけど、リブラリアにも存在すると知ったのは・・・



「・・・大図書館で。大昔にパド大陸を大冒険した獣人さんの本を読んだの。」


全ての獣人が奴隷とされる以前は人も獣人もドワーフやエルフも、種族間の

差別や偏見が今よりずっと小さくて、異種族で同じ街に住んで冒険したり

お仕事したり・・・友達になったり結婚したりも当たり前だったらしい。


私が読んだ冒険録の作者は大昔の犬人族の獣人さんだったけど、

パーティーメンバーは人間とエルフだった。



「なるほどなぁ!パド大陸かぁ…どんな場所なんだ?」

「・・・私も直接行ったわけじゃないけど・・・広いジャングルと、果てしない砂漠が拡がっていて・・・アドゥステトニア大陸にはいない、珍しい動物や植物。魔物も沢山いるんだって。」

「へぇ~…なんか大変そうな場所だな?」

「・・・ね。・・・未開の地も多くて、まだ分からない事がいっぱいあるって書いてあった。」


「へぇぇ…パド大陸にはこんな生き物がいたんですねぇ!」


ロティアの指先に移った蜂鳥を見ながら、そう言ったのはデシさんだ。

デシさんはアドゥステトニア大陸で産まれた(獣人の“種族としての”故郷はパド大陸と言われており・・・傀儡(くぐつ)国家だけど一応。獣王が支配する獣人王国も存在する。)獣人だから、パド大陸の地を踏んだ事は無いはず。

でもやっぱり、気になるのだろう。



「・・・ん。・・・いつか、本物の蜂鳥を見に行ってみたいな。」

「お嬢様ならきっと、その機会もあるでしょう!」

「・・・どうだろう?・・・でも、その時はデシさんも一緒にね。」

「あれ!おやおやぁ…それは楽しみですねぇ!」


デシさんは柔らかく微笑みながらそう言った。


そういえば・・・師匠のもとにいた時。

セドにゃんも、パド大陸に憧れているような事を言っていた。

彼はパド大陸で生まれた獣人だけど、まだ赤ちゃんの頃に両親共々

人間に狩られ、アドゥステトニア大陸に連れてこられたらしい。

だからパド大陸の事は覚えてないんだって・・・


けど、どんなに行きたいと願っても現実にそれは難しい話だ。

パド大陸に渡る手段は一つだけ・・・【ウィルトゥースの橋】という

2つの大陸を跨ぐ巨大な橋を渡るしかない。


けど、この橋を渡るには特別な許可が必要で・・・一般人はもとより、

奴隷である獣人には、とても険しい関門となっているのだ。


それなら他の手段で・・・と思うかもしれないけど、それは

橋を渡る以上に現実的じゃない。

なにしろ、2つの大陸は一番接近している場所でも1kmくらい

離れている(ウィルトゥースの橋は1kmをワンスパンで渡って

いるマジカルな建築物)からとても越えられないし、おまけに

その場所は断崖絶壁の上なんだそうだ。そして、下の海は海流が

物凄く速くて、とても船で渡る事は出来ないらしい。


なら、迂回すればいいじゃん!?って思うかもしれないけど・・・

リブラリアの海には物凄く危険で巨大な海洋性の魔物がウヨウヨしている

から、沖に出る事が出来ないらしい。造船技術もあまり進んでいないのかもしれない・・・

・・・要するに、八方塞がりなのである。



「・・・ん!任せて!!」


でも・・・魔女になった今なら可能性もゼロじゃない!

広大なジャングルと果てしない大砂漠・・・前世でもリアルに見たことが無い

その景色。誰だって憧れるでしょ!?

いつか行くぞ~!!



「あぁっ!!大図書館いいなぁ…ロティアも行きたいなぁ…」


大図書館はリブラリア人なら誰もが憧れる聖地・・・知の殿堂だ。

お母様曰く、私が贈った本のせいで森の木こり(異世界で言うところの“本の虫”)

になったロティアは興味もひとしおだろう。



「・・・んふふっ。大きくなったらお姉ちゃんが連れてってあげる!」

「ほんと!?約束だよ!?」

「・・・ん!約束っ。」


大図書館はウィルトゥースの橋と違ってお金(お布施)さえ払えば

誰でも入る事が出来るし、司書の・・・


・・・ま、これは“その時が来たら”でいいか。



「ねーねーお姉様っ。大図書館ってどんな場所?ご本がいーっぱいあるんだよね!」

「・・・ん!大図書館の中は壁一面が、本棚なの。ご本に埋め尽くされていて・・・すっごく広いのよ!」

「いいなぁ!いいなぁ!!」


みんなと楽しくおしゃべりしている間、ローズさんとお母様は私達を

優しい瞳で見守ってくれていた・・・



「ねぇ、お姉様っ!ドワーフ王国のお話も聞かせてよ!」

「どわふぅ!?」

「・・・ん!いいよ!」

「おっ!それはオレも興味あるなぁ!」

「たしかぁ…お嬢様がローデリア様と、最初に訪れた場所でしたっけぇ?」


あぁ、家族っていいなぁ・・・


・・・

・・






「・・・んんぅ・・・く、苦しいよ。お母さま・・・」


夜。

久しぶりの再会で話が弾み、あっという間に夜も遅い時間になってしまった。

ティシアがお父様の膝の上で眠ってしまい、ロティアも馬車に揺られ始めた

タイミングで、そろそろ寝ようか?という話になった。


まだまだ話し足りないけど・・・デシさんは自室に戻り、ローズさんは

申し訳なかったけど、食卓でストレージバッグに入れて来たお布団で寝てもらい

・・・私達は寝室に移動した。


寝間着に着替えた私がお父様とお母様の間に潜り込むと・・・



「フォニア…」


お母様にぎゅ~っ・・・と。

痛いくらいに抱きしめられてしまった。



「・・・」

「ねぇ…フォニア。」

「・・・はい。」

「あなたがいい子だって事も、凄いって事も…ちゃんと分かっているわ。でも…」


「・・・」

「でも、無理しちゃ…ダメよ?」


お母様・・・



「・・・はい。」


「…本当に分かっているの?」

「フォニア。お前の手紙を受け取った時…オレ達は気が気じゃなかったんだぞ?」


お父様はお母様に抱かれたままの私に、そう語りかけて来た。

とっても優しい声だった。

そんな事言われたら・・・



「・・・ごめんなさい。」


・・・言い返す事なんて・・・できない。



「…いい?フォニア。………私達は…いいえ。私達だけじゃない。あなたのお友達や先生や…皆が。…いつだってあなたの事を心配しているわ。その事を…忘れちゃダメよ。」

「フォニア。お前はオレ達全員の希望で…誇りだ。だから今更、唱えるな。とは言わない。だが…」

「でも無理しちゃダメよ。あなたが傷ついたら…私は…私はっ…」

「みんなフォニアの事を思っているんだ。だから、怪我しないように。無茶しないように。…分かるだろう?」



「・・・はい。無茶しません。気を付けます。心配かけて・・・ごめんなさい。」




家族5人。

川の字になって眠る寝室は優しい月の光で満ち溢れ・・・



「・・・んふぅ・・・」


息も出来ない程だった・・・

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