Chapter 022_サリエルの使い
「ほーらっ。早く開けなさい!そ・れ・と・もぉ~…まだ戦う?
…私は別にいいけど?」
「…っ………、、、か、かいもん…」
「きこーえなーい!」
「かいもーんっ!!!!」
午後2時 7分前・・・
「・・・もにもにもに・・・」
ローズさんに手渡されたシュリンプサンドで
遅めの昼食を摂っていた私の目の前で、
リブラリアに綴られる出来事が。今・・・
「ここまで、か…」
「くっ…そ…」
エヴァーナ騎士団の事実上の降伏・・・・蜂起の鎮圧が・・・
為されたのだった。
「…まだ油断しちゃダメよ。みんな。」
「ジャコブ…今回の一件を企てたファリフはまだ見つかっとらん。奴を捕まえるまでは気を引き締めろ!」
「「「「「イエッサー!!!」」」」」
本隊に付いて、南門まで来たももの・・・私の仕事はもう無い。
ツィーアンとツィーウーは人の街に降りる事が出来ないし、
陛下と一緒に戦に臨むのが私の役割であり、その後は
飯でも食ってろとお祖父様に言われていたのだ。
だからこうして、クークー鳴き始めたお腹を治めるために
ランチの海老トマヨネーズサンドを食べながら、
解放されるエヴァーナの南門を見つめていたのだった・・・
「・・・もにもにもに・・・」
『グルァ…』『クルゥ…』
『ぎぃーっ…』と。重い音を立てて門が開かれると、その向こうには
不安げなエヴァーナ市民の皆さんが・・・
「…っ!?」
「…?」
「お、おい…あの子…」
「あ、あれは…女王!?ま、負けた…負けたの、か…」
「ひいっ!?…り、龍!?や、やっぱりさっき見えたのは…」
「おい、ちょっと待て。なんで子供がいるんだ!?」
「…陛下かわいいな。おい。」
「でけぇ…龍…カッコいいぜ…」
「最後に良いモノが見れた…これで心残りは…」
「…ふ、ふんっ!だからクーデターなんてオレは…」
「い、いまさら勝手な事言うな!!」
「巻き込まれたオレ達の身にも成れ!!」
「美味しそう…ママー!私もアレ食べたーい!!!」
騎士さんが慌ただしく駆けまわる中・・・
余裕の笑顔を浮かべる陛下と、厳しい眼差しのお祖父様。
微妙な表情で手綱を握るローズさんと・・・
「・・・もくもく・・・」
・・・と、
与えられた仕事を熟す。私・・・
「お、お嬢様…。さ…さすがに…」
「・・・もくぅ?」
でも。お祖父様が・・・
「万象の君ぃ!龍ちゃんたちはもう、いいかもよ!?」
「・・・ほうへふは?」
ほら。陛下も気にしていないみたいだし・・・
「き、貴様…姫様に向かってなんと無礼なっ!」
「レオノールっ!いいじゃない別に…こんなに早く終わったのは彼女のお陰よ?あれだけの魔法を行使したんだもの…お腹が空いて当然よ!」
「は、はぁ…。いや、しかし…」
お腹すいてるし・・・
「………小娘。確かに食っていいとは言ったが…大概にしろ。」
「・・・もくも・・・んっくん。」
やっぱダメか・・・
「・・・ごめんなさい・・・」
・・・
・・
・
「・・・コレットちゃん!」
お祖父様から「邪魔だからどっか行け。」と言われた私は
ジャン伯父様に馬を預けツィーアンとツィーウーに別れを告げてから
、コレットちゃんの待つ西門へとやって来た。
「ひ、酷い…」
陛下と私が大規模魔法で無双した南門と違い、西門では・・・
剣と剣、魔法と魔法による正統派の激戦が繰り広げられていたようだ。
至る所に泥と混ざった血だまりがあり、水路は赤に染まっていた。
そして、折り重なるように・・・倒れ込むように。傷を負って
動かなくなった騎士の姿が数多にあった・・・
「・・・コレットちゃーん!」
多くのヒトが遠巻きに眺める戦場に
足を踏み入れると、すぐに・・・
「フ、フォニ…ちゃ…」
「コレットちゃん!」
水溜まりの真ん中。血まみれで座り込む彼女を見つけた。
駆け寄り・・・
「・・・『祈り込めて擁する』ダイアグノーシス!!」
震えるその身体を抱きしめ、診断魔法を行使。
「な、なん…な…ょ。」
「・・・ん。・・・よかった・・・・無事でよかった。」
「フォニ…ちゃ……そ…」
幸い・・・大事になるような傷は無かった。
全身の赤は、ダレカの返り血らしい。目の前で誰かが傷つき、
その血を浴びたのだろう・・・
私の声には応えてくれたけど、ショックで気が動転し・・・視線が定まらない。
そんな彼女を強く抱きしめていると・・・
「…っ!!エルネスト様!?」
ローズさんが
エルネスト様を見つけて声を上げた。
「あっ!?お、おとーさま!おとー…まっ!!」
「コレットちゃん!?」
すると、コレットちゃんは私を振りほどき
彼女のお父様の下へ駆けた!
「…」
「おとーさまっ!!おとー…まぁっ!!」
そこには・・・
剣を握りしめたまま倒れ伏す、エルネスト様が・・・
「・・・コレットちゃん。」
「おとー…まがっ!!おとーさまがぁあぁ!!」
「・・・分かってる!今、治癒するから。」
「おとー…まぁあぁ!!」
彼女を落ち着かせながら、俯せになるエルネスト様を裏返してみると・・・
「!・・・い、『祈り込めて擁する』ダイアグノーシス!」
「おとーまあぁぁぁ!!フォニ…ちゃ!!おとー…まっをっ…た…ってぇえ!!」
「こ、コレット様。落ち着いてっ!…お嬢様にお任せください。」
「あああぁぁぁーーー!!おとーまぁぁぁ~っ!!」
エルネスト様は・・・
「・・・っ」
はっきり言って、厳しい状況だった。
腎臓をやられている。
しかも体内に何かが・・・これは・・・弾?
鉛弾魔法!?撃たれた!?
きっと、立っているのも困難なほどの激痛に襲われながら無理をして・・・
おそらく、娘を守る為に・・・必死に戦ったのだろう。
かなりの血液を失っており、一刻を争う。
外傷は上級治癒魔法で何とかなるものの・・・
普通の魔法じゃ、増血が追い付かない
それに、鉛弾を除去するとなると・・・普通は、外科手術しかないけど
その前に失血死してしまう!
どうする・・・?
「ふぉ、フォニ…ちゃっ!!おねッ!!おね‥っ…まjy…まぁっ!!」
「・・・」
「あぁぁぁ~~~!!おっ…まぁあぁ!!」
残された手段は・・・
「・・・ん。」
・・・ひと唱えだけ。
「・・・離れて。コレットちゃん。」
悩んでいる時間は無い!
「え…」
「ローズさん!・・・周りの人も離れて!!」
「…コレット様。お嬢様が…万象の魔女様がお救い下さいます。どうか…」
「ふぇ………あぁっ!…まじょ…まっ!おねっ…おねがっ…すっ!!」
「・・・願われた!!」
「・・・すー・・・はぁ~~~
・・・
・・
・
・・・ん・・・」
いくよ・・・
「・・・
『リブラリアの理第7原理』」
「フォニ…ちゃ…!どぅ…かぁ…」
「『綴られし定理を今ここに』」
「お嬢様っ。頑張って…」
「『右手で左手を摂り 左手で右手を摂る』」
「…」
「『祈りは翼となり 空より堕ちて光となる』」
「あ、あの子…唱えている?」
「あんな死体の真ん中で…魔法?」
「『光は羽根となり 大地に治と癒を齎さん』」
「治癒まほ…う?だが…あれは手を触れないといけないんだろう?」
「手を握って…目を瞑って…。祈っているみたいだ…」
「『翼を拡げ包み込む 祈り込めて祈る』」
「可哀そうに…大事な人を失ったのね…」
「あれだけ想ってもらえれば…本望だろう…」
「・・・ジェントリーフェザー!!」
エルネスト様は、
まだ死んでないってばーっ!!
「「「「「えぇっ!!!」」」」」
「て…天使っ!」
「お嬢様天使っ…マジ天使っっ!!」
「フォニアちゃ…ん…天使っ!?!?」
あぁ~うぅ~~~~
「・・・///」
じぇ、優羽魔法は・・・ち、治癒属性第10階位の
範囲治癒魔法だ。
普通の治癒魔法と違って、対象に触れることなく発現する。
「あ、あれは…天使!?」
「天使だ…戦場に天使が舞い降りたぞ!!」
「おぉ…おおぉっ!ちょうど日も射して…虹まで架かっているぞ!!」
「マジ舞い降りた天使!!」
「綴れ!!とりあえず綴っとけ!!」
テンシテンシ言うなぁ!
こっちは恥ずかしいんだぁーー!
『ばさぁっ!!』
優羽魔法は世にも珍しい
翼・・・召喚魔法だ。
術者の背中に銀色の翼を召喚し、はためかせる事で周囲に羽根を舞い散らせ、
触れたものを瞬時に治癒する・・・という、
非常に強力な効果を持っている。
「…あ、あれぇ?」
「おっ、お前…気が付いたのかっ!?」
「…え?あれ?そういえば。刺され…。」
「よ、良かった…よかったな!!」
「お?お、おぉ…」
「…おろ?」
「あなたっ!!」
「うをっ!アナベル…って!ラエン兵っ!!」
「いいのっ!!もういいのよ、あなた!!全部…終わったの…」
「…っ………」
因みに、対象は選べない。
敵味方関係なく、羽根に触れた全ての人を治癒する。
今は効果範囲を拡げる必要が無いから膝立ちだけど・・・
翼を拡げて空を飛び、より広範囲に羽根を撒く事も可能。
・・・丸見えになっちゃうから絶っ対っにっ!やらないけどね。
絶対に、“もう”やらないと誓ったんだ!!
「…おやぁ?」
「おとーさまぁあぁ!!!!」
「ぐふっ…お、おぉっ!?コレット!?無事だったか…」
「うんっ…うんっ!!!」
あと、精神的な鎮静・清純・癒し効果もある。
動転していたコレットちゃんも、だいぶ落ち着いたみたい・・・
でも・・・やはりというか。消費魔力は膨大で、膝立ちでも虹魔法を上回る。
飛ぶと消費魔力もうなぎ上り。まず間違いなく、魔力酔いで気を失うだろう。
飛ばない理由はそれもあって・・・王都で行使した時は勝手が分からず
やっちゃったから。途中で気を失って堕天して。
2日ほど寝込んじゃったんだよね。
カトリーヌちゃんが介抱してくれたけどさ・・・
・・・って。
それはいいとして。それよりも・・・
「おじょぉぉさまぁぁ!!そんなっ…そんな天使な姿をどうして隠していたんですかぁ!!もっと早くメイドめに教えてくれなくてはっ///あぁ~…いぃ///!!いいよぉ~///も、もうっ…たまnむッpΣΠhiりふmj♀+♀+♀=姦!!あとでチューの嵐ですぅ!!!」
あの変態メイド。誰か何とかしてよ・・・




