Chapter 021_エヴァーナ攻城戦③
『グルァ…』
「・・・う!?」
ツィーアンが西門で起きた事を伝えてくれたのは、戦いが始まって
しばらく経った後だった・・・
「う?…どうしました?お嬢様?」
私の声に、すぐに気付いたのはローズさん。
「・・・ん!陛下に伝えたい事があるの!・・・陛下っ!」
ローズさんに断ってから戦場の真ん中に顔を向け、
叫ぶと・・・
「『… 吹き荒れろ』サンドストーム!!」
「「「「「ぎゃぁぁあーーー!!」」」」」
「ぶっ飛んじゃえ〜!!!」
「さすが姫様です!!」
「ピイィィースッ!!」
・・・陛下はちょうど。
多分、土属性(私の知らない魔法)の・・・砂嵐を巻き起こす(?)魔法で
敵を蹂躙している所だった・・・
「・・・」
「ピース!」って言ってたけど・・・平和的な光景じゃ無かった気が・・・
って。それはいいとして!
「なーにー?万象のきみー?」
どうやら、私の声は届いていたらしい
「・・・西門が開門したようです!ラエン騎士団が敵と抗戦中だって、ツィーア・・・いえ。龍が教えてくれました!」
今回の戦闘におけるラエン騎士団の役割は多岐にわたり、西門の守りの他にも補給線の確保や防御陣の構築と維持、伝令まで担っている。(もともとラエン騎士団は守りに特化した騎士団だから、防衛や後方支援のための兵種が一通り揃っているらしい。)だから、西門に詰めている騎士の数も決して多いとは言えない。
ツィーアンによると敵の数はかなり・・・少なくとも、ラエン騎士団よりは多いとの事。だから、その事を説明すれば追加の兵を派遣するだろうと・・・
「そう…」
思っていたんだけど・・・
「西門はエルネスト殿に任せているわ。何とかしてくれるでしょう。…それより万象の君?ちょっと唄声、小さくない?今はこっちに集中して頂戴ね。」
「・・・う?で、でも・・・」
西門の危機を見捨てるかのような陛下の言葉に、口を挟もうとしたら・・・
「小娘っ!言われた通りにせんか!!…陛下。申し訳ございません…」
「…いいのよ。」
お祖父様に怒られてしまった。さらに・・・
「お、お嬢様っ!言われた通りに…」
ローズさんまでもがそう言って、私を窘めた。
「・・・う~」
でもぉ・・・と、言うつもりでローズさんを見上げると、
彼女は身を屈ませながら・・・
「…お嬢様っ。お気持ちは分かりますが…この戦闘の最高責任者である陛下の采配に口を挟んではいけません。お嬢様はあくまでも、ノワイエ騎士団のいち騎士の扱いなのですから…」
「・・・でも・・・」
「…まだラエン騎士団が崩壊したわけでは無いのですよね?なら…ここで手を出すという事は、任せると言われて、それをお受けしたエルネスト様の信を疑うという事にも繋がります。」
「・・・それは・・・」
「ご心配されるお気持ちは痛いほどわかりますが、ここは…エルネスト様とラエン騎士団の皆様。そして、コレット様を信じましょう。…ね?」
そう言われると・・・
「・・・分かった。」
そう返すしか・・・ない。
「・・・」
昨夜・・・
コレットちゃんは心配の言葉ではなく、応援してほしいと・・・
・・・そう、言っていた。
自分が人を殺めてしまうかもしれない・・・
・・・そう、予感していた。
私の背中にいるローズさんも敵兵をサーベルで切り落としたし、
私を守ろうと身を呈してもくれた。
お祖父様も、傍で戦ってくれているジャン伯父様やロクサーヌさん
ジャメルさんも同じだ。
リブラリアでは魔物という自然災害で定期的に大勢の人が亡くなってしまうし、
この国は十数年に1度くらいのペースで争いが絶えない。
異世界島国みたいに日向見じゃいられない。
いつだって命を奪われる可能性があるし・・・奪ってしまう可能性もある
そんな事、おじいちゃんにも散々、言われた事。
その事を分かっていたつもりでいたけど・・・分かっていなかったんだ。
きっと・・・
「・・・すー、はぁ~・・・」
だから・・・考えが甘いから・・・
師匠はあの時。私に忠告したのだろう。
覚悟を持て・・・と。
「・・・ん!」
ここで負けたら死ぬのは私だけじゃない・・・その覚悟を持つんだ!!
『ぺちっ』
「…お嬢様?」
両手でほっぺをペチンと打った私を、ローズさんは訝し気に見下ろした。
「・・・」
私は・・・私を覗き込むように見下ろすローズさんの
『『グクルルゥゥ…』』
・・・その向こうで!
声を待つ2つの虹に、
「・・・ツィーアン!ツィーウー!」
新たな覚悟を持って
「【水あそび】!!」
唱えたっ!!
『グルルヮァ!!』『クルルルゥ!!』
「きゃっ!?…な、なに?」
ローズさんが空を見上げるより早く
2柱は絡まり合いながら小降りの空を駆けあがり
そして・・・
『『グクルルルルワァゥ!!!!』』
デュエット!
「きゃー!なになに!?龍の…固有魔術!?」
「2柱同時に行使!?ま、まるでデュエットですね…!?」
まるで・・・というか。まんまデュエット。
人間が唱える魔法と同じように、呪文を唱えて発現させるタイプの魔術だ。
違いと言えば、
“2柱にしか発現させられない”事と
“2柱で唱えないと発現しない”事かな・・・
(【魔法】は種族に由らず、また、デュエットが必須でも“ない”。
故に、どこまでいっても【固有魔“術”】)
さてさて、この【水あそび】
名前の穏やかさに反して・・・反則級に
強いよ!
「わっ!2柱が魔法印の周りにっ!?」
「き、綺麗…」
「まるで…虹のリングねっ!」
真っ青な魔法印を生み出したツィーアンとツィーウーは、そのまま
円に沿って魔法印の周りを仲良く回り始めた。
その様子はまるで・・・
雨雲の真ん中に、巨大な虹で縁取られた
雲一つない青空が広がっているかのよう・・・
「お、おいっ!あれ…」
「水…雨粒か?」
魔法印からは波紋を拡げながら、次々に水滴が・・・上から下へ・・・
『チャポンッ…ちゃぽんっ!』と音を立てて下りてきた。
さらに・・・
「あ、足元からもっ!?」
「うをっ!!水溜まりから…水滴っ!?」
さらに、私達のいる地面からも『ポコンッ!ポコンッ…』と水滴が浮き上がり
虹に囲われた魔法印の下は水滴でいっぱいになった
「き、綺麗…」
「素敵…」
「な、なによ…?この魔術??…こ、これからどうなるの!?」
水滴で埋め尽くされた一帯は・・・水の中とも霧の中ともまた違う、
幻想的な空間となった。
けど・・・もちろん。
この魔法は、綺麗なだけの魔法じゃない。
「水が空中に止まって…?」
今は2柱が水滴を空中に留めているけど・・・
「ま、まさか…」
「に、にげっ!」
これから何が起こるのか・・・想像つくよね?
『パチィンッ!!』
空の上でその時を待つ虹に、指パッチンで合図すると
『『グクルルルルワァゥ!!!!』』
2柱はすかさず・・・唱えた!!
『シュタタタタタタタタンッッ!!!』
「えっ!?」
「きゃっ!!」
先ほどまで、ふわりと浮かんでいた水滴が
目にもとまらぬ勢いで飛び交い
「ギャッ!」
次々と
「グぇっ!」
敵兵を
「がっ!!」
襲い始めた!!
「がっ!!…ふ、ふせっ!ぐわっ!!」
もちろん逃げ場なんて無い。
魔法印の下に現れた全ての・・・ツィーアンによると、16万粒の・・・
水滴はすべて、
「ギャッ!」
唱えた通り!
「ひえぇーっ!!こ、こっちにも来たぁっ!!」
人間とは比較にならない動体視力を持つ龍が
それを扱うとどうなるか・・・
「に、逃げ切れ…がはっ!!」
しかもっ!!
「えぇっ!?ま、魔法印の外にも…攻撃してる!?」
魔法の効果範囲は魔法印の内側だけ・・・なんだけど。
猛烈な勢いで撃ち出された水滴は、その慣性力を武器に
効果範囲外にも猛威をふるう。
・・・ルールもナニも、あったモノじゃないね。
反則です!
スナイピングもだけど・・・
「グッ!ってぇ~…た、盾でガッ…ま、守れない事はゲハッ!!」
「ぐをっ!つ、次から次ゲフッ!!」
ビー玉くらいの大きさしかない水滴だけど、1撃で骨を砕き、
当たり所が悪ければ即死する。
・・・とはいえ、防げない訳じゃない。
全方位から止めどなく撃ちだされる、高威力の水滴すべてに
反応できるなら・・・だけど。
「キリがなっッ!!」
「あぁっ!?あガッ………」
水滴は、ただの【H2O】だから・・・物にぶつかれば飛び散ってしまう。
けど、
飛び散った水は直ぐに集まり水滴に戻って。また飛び交う。
龍による終わりなき【水あそび】に付き合える人なんて、
いないだろう・・・
「こ…こんな事って…」
「私達には1滴も飛んでこないのに…」
もちろん私が味方だと認識している人に攻撃は当らない。
空に架かる一対の虹が私達を見守ってくれているのだ・・・
「な、なんという…」
「ま~万象の君だしぃ!これくらいやってくれると思っていたわ!!」
『グルルァ!』『クルルゥ!』
楽し気なツィーアンとツィーウー。
この魔法は・・・2柱にとっては文字通り【戯れ】なのかもしれない。
私と師匠が相手した時は湖の水を全部蒸発させちゃった(蒸発させても本当なら水蒸気を扱えたはずなんだけど・・・私が教えるまで2柱は【水蒸気】という水の形態を知らなかった)から、この魔術を使われることが無かったけど・・・行使されていたら、危なかっただろう。
「ぎゃっ…」
「…っ…」
ものの数十秒で私たちの周に立っている敵兵はいなくなった。
まだ息がある人もいるだろうけど、戦う事は不可能だ。
離れた場所にはもちろん敵兵が残っているけど・・・へたり込んだり、降参を告げている人も多い。
戦いの終わりは近い・・・
「あ、あははは…乱戦だったのに。ね…」
「もう、1人も立ってねーじゃねーか…」
この魔法は、乱戦にめっぽう強い。
敵があまりに大きかったり、硬かったりするとダメージを与えられないし、
敵味方を区別できないと無差別になって危険だけど・・・それを除けば
多対多の場面で無類の強さを誇る。
「・・・ツィーアン!ツィーウー!ありがと!」
『グルヮァ!』『クルゥッ!』
誰にも真似できない圧倒的な・・・自慢の魔法だ!
林檎です。
やっとネタバレできますが・・・
虹魔法という魔法は
【モーリス・ラヴェル】作曲の【水の戯れ】
という、クラシック音楽(ピアノ曲)から着想を得ています。
ツィーアンとツィーウーが戦っているシーンは、この曲を聞きながら描かせて頂きました。
検索すれば音源も沢山見つかると思いますので、もしよければ、リブラリアの美しい魔法を御耳で聞いてみて下さいね!
ここまでお読みいただきありがとうございました!
まだまだお話は続きますので、次話もご覧いただければ幸いです。
ご評価、ブクマ、ご感想いただければ幸甚です。
・・・よろしくね ;)
林檎です。
改訂作業も【水の戯れ】聞きながら行いました!
・・・よろしくね
(23/10/14 0:35)




