Chapter 018_エヴァーナ攻城戦①
カレント2,181年 金海の月33日 天気は雨
「ふふふっ。いよいよねぇ~…」
「「「「「…」」」」」
「・・・」
丘の上に築かれたエヴァーナの街。
その麓には3万を超える獣人と数千人の兵が立ち並んでいた。
「…姫様。ラエン騎士団から連絡があり西門の配置。完了したとの事です。我が部隊も準備が出来ております!」
「りょっ!」
エヴァーナの街には南門と西門があるんだけど、メインの出入り口は
今いる南門だ。
西門は南門に比べて狭いので主戦場にはならない。
けど、水路(運河)経由で隣国に脱出することが出来てしまうので、その
退路を断つためにラエン騎士団が目を光らせてくれている。
「・・・コレットちゃん。頑張って・・・」
コレットちゃんも今頃、エルネスト様と共に戦いに備えている事だろう。
彼女にこの声が届きますように・・・
「さ〜てぇ!それじゃあ…おっぱじめますかねぇ~!」
「「「「「イエッサー!!!!!」」」」」
デルタ型に展開した部隊の先頭で馬に乗る総司令官の声で今
数千人が1つになった。
敵部隊でも同じことが起こったのだろう・・・夏の暑い雨を
吹き飛ばすほどの圧を感じた。
いよいよ・・・いよいよだ。
「…アリス。歌うわ。」
「歌う」・・・というのは、
合戦に向けて演説をする。という意味。
「はっ!…す~『歌の願い 喉に宿りて 大気を震わし 風の森を往く』」
風属性が得意なアリスさんが拡声効果のある【高歌魔法】を陛下にかけ、
戦場の全員に向けて語りかけるそうだ。
なんでもこれが、リブラリアの合戦のルール・・・というか。
しきたり・・・らしい。
「…シングアソング!…姫様っ。」
「コホンっ…」
・・・
「…エヴァーナのみなさん。おはようございます。」
陛下が例の・・・人を惹き付ける声で話し始めると、戦場に静寂が訪れた。
リブラリアに綴られる彼女の言葉に、この場にいる全員が耳を傾けた。
「ディアナ・ロワ・エディステラ・オリゾンドレよ。…ご機嫌麗しゅうございますか?」
拡声魔法はただ声を大きくする魔法じゃなくて、広い範囲に声を届ける魔法だ。
おそらく、敵部隊全員・・・そして。エヴァーナの市民にも、この声が届いている事だろう・・・
「…私が驚いたようにみんなも驚いたでしょう?こんな事になるなんて…いったい誰が予想できたでしょう?みなさんは巻き込まれただけで、何も悪くない…というのは。勿論よーく分かっているわ!明日になれば、また元通りの生活が戻るから…もうちょっと。待っていてね。すぐに行くわ…」
実際、何も知らず、ただ内戦に巻き込まれただけの市民も居たはずだ。
けど・・・
「…騎士団のみんなが“上官殿”の命令で仕方なく…イヤイヤ付き合わされているのも知っているわ。私も、出来ればみんなを…私を守ってくれるはずのナイト様を…傷つけたくなんて、無いの。勇気をもって唱えてくれれば、エールとパンでおもてなしするつもりよ。…待っているわ。お願いよ…お願いっ…」
雨に打たれながら瞳を濡らし、必死の呼びかけをする陛下は・・・それはもう、
絵になった。
私にあんな命令をした人と同一人物とは思えないくらい、心を打った。
「…」
しかし・・・というか。
やはりというか・・・
「「「「…」」」」」
『ザー…』
返事はなかった。
ただ、雨音だけが戦場を包んでいた。
「…」
やがて・・・
「…そう。」
悠久なるエディアラの大地が瞼を押し上げ・・・
「…それがあなた達の答え…なのね?」
その広大な地平で全てを受け止め、全てを飲み込もうと輝きを放ち・・・
「分かった。…戦いましょう。」
唱えた。
「・・・すー」
陛下からのお願い・・・いや。命令はこうだ。
誰にも真似できない圧倒的な第1声で敵を挫け!
「『リブラリアの理第2原理 綴られし定理を今ここに』」
ローズさんが操ってくれている馬の鞍に登った私は、
発動子たる【漆黒の指輪】を嵌めた右手の人差し指を空に伸ばし・・・唱えた!
「「し、失伝魔法!?」」
「あらぁ!万象の君ったら…大サービスねっ!!」
「『虹よ そなたは光の化身』」
「お嬢様っ!ふぁいっ!!」
「『水空繋いで 天地繋ぎ』」
「…ふんっ。せいぜい失望させるな…」
「と、父様…。頑張れ妹君!期待しているぞ!」
「『万色紡いで 万里越え』」
「お嬢様。しっかり…」
「だーい丈夫ですよぉ!先輩っ!お嬢様なら…」
「『対輪重ねて 対橋架ける』・・・フラーテーション!!!」
呪文の最後に、キーとなる魔法名と・・・
『パチィンッ!!』
指パッチン!!
「魔女様が完唱したぞっ!!」
「ながっ…よ、よく覚えられるな…」
ながーい呪文の末に唱えた魔法は【虹魔法】!
水属性第10階位の失伝魔法だ!
「んなぁ!?」
「何て大きな魔法印!!」
どんな魔法かって?
「「「「「何だっ!?あれは?」」」」」
それは・・・見上げれば、ひと目で分かるでしょ?
「に、虹!?」
「いや、違う!!あれは…」
「「「「「龍!?!?」」」」
そう。虹色ドラゴン召喚魔法なのだ!
リブラリアの【龍】あるいは【竜】あるいは【ドラゴン】は
様々な容姿をしていて、空を飛べないトカゲっぽいのもいれば
ワイバーンっぽいのもいるらしいんだけど・・・この子に関しては
東洋の“龍”に近い姿をしている。
つまり、翼が無くて長細い・・・蛇みたいな姿。
「キャーキャーッ!龍よ〜!ドラゴンよぉ〜!!こんなの宿しているなんて…万象の君っ!すっごぉぉ〜い!!」
「綺麗っ…」
「さ、さすがお嬢様…」
肌(鱗)の色はカラフルだけど・・・
気象現象の“虹”みたいに、ほわほわしているせいで、
そこまで派手ってわけでも無い。絶妙な美しさ!
「し、しかも双龍…ですか。こんな魔法があったのですね…さ、さすが万象様!」
アリスさんが言った通り、この魔法をひと唱えすると2柱(リブラリアでは龍を神聖視しているため、単位は【柱】)の虹色ドラゴンを召喚する事ができる。
大きくて鮮やかな方が旦那さんのツィーアンで、細長くて淡い方がお嫁さんのツィーウーだ。
『グルルル…』
『クルルル…』
「・・・おいで。ツィーアン。ツィーウー。」
空中に綴られた青一色の魔法印から同心円状の水紋を拡げて
『チャポンッ・・・』っと、降りてきた
ツィーアンとツィーウーは、私が伸ばした手に顔を近づけた。
なでなで・・・
『グルルァッ!』
なでなで・・・
『クルルゥッ!』
「・・・んふふっ。今日はよろしくね!」
『グルワァ!!』
『クルルゥ!!』
因みに肌触りは冷たくてスベスベしている。
表面が濡れており・・・溶け始めの氷に触っているみたいな触感。
夏にはもってこいだね!
「し、召喚魔法…あ、あの天使の魔法の他にも、こんな魔法まで宿しておられるなんて…。“万象”の名は伊達ではないという事ですか…」
うっ・・・
レオノールさんもあの魔法を見ていたのか・・・いやん。
「ふぉっふぅー!私が推薦したのよ!あったりまえでしょぉ〜!!」
そして陛下。
そのテンションは・・・
「綺麗…さすがお嬢様っ///」
「…ふんっ。」
側にいたローズさんとお祖父様も驚いてくれたようだ。
「見ろ、エヴァーナの連中の…あの慌てよう!!」
「あぁ!!これはもう…魔女様しか勝たん!!」
「流石はフォニアお嬢様!!」
「万象様!!」
「魔女様ぁ!!」
部隊の皆からもそんな声が聞こえてきた。
ツィーアンもツィーウーも大きいから威圧感凄いしね。
私もクルリ湖で初めて見たとき、驚いたのなんのって・・・
説明するまでも無いと思うけど、ツィーアンとツィーウーは
クルリ湖に数万年前から暮らしていた水龍の番だ。
【龍】は魔物だけど・・・同時に精霊みたいな存在でもあるらしい。
だから倒すと、この2柱みたいに召喚に応えてくれる場合もあるようだ。
でも、召喚獣には“自由意思”があるから。
気が乗らなかったら助けてくれないし・・・空中に描かれたままの魔法印から、
クルリ湖に帰っちゃう可能性もあるけど・・・
今回は一緒に戦ってくれるって!
因みに。2柱に挑んだ時、一緒に戦ってくれた師匠や師匠の部下さん達も
理論上は2柱を召喚できるはずだけど・・・適性の関係で出来なかった。
「…さぁ~、みんなぁ!!」
騒がしくなった部隊の雰囲気を一喝するかのように、陛下は
自身の発動子である紫水晶の美しいメイスを敵に向け・・・
「筆に後れを取るなぁ!!とおっつげきぃぃぃーーーー!!!!」
「「「「「フラァァァーーーーーーーッッッ!!!!」」」」」
駆け出した!
林檎です。
リア充ドラゴン ツィーアンとツィーウーの登場です。
・・・爆発するがいいさ!
ちょっとだけ改訂しました!
・・・よろしくね(23/10/10 7:10)




