Chapter 017_弱気な夜
林檎です。
本話。いつもより短めです。ご了承ください。
「・・・ふぅ~・・・」
午後7時43分。
軍議を終えてお祖父様から「サッサと寝ろ」と言われた私は
あてがわれた天幕へ戻ってきた。
「…ふふふっ、お疲れさまでした。お嬢様…」
「・・・んぅ~・・・」
今日もいろいろ(主に気苦労)あって疲れたよ・・・
早くベッドにもぐりこみたいなぁ・・・なんて。
考える間もなく・・・
「…あ、フォニアちゃん!お帰…り!」
ベッドの上から明るい声が
「・・・ただいまコレットちゃん。・・・ちょっと待ってね。」
「うんっ!」
寝支度を整えたコレットちゃんが
私を待っていてくれたのだ・・・
「今日もお疲れさ…ま!」
「・・・ん!」
癒されるぅ~
・・・
・・
・
「…それではお嬢様。お休みなさいませ!」
「お休みなさいませお嬢様。」
「お休みなさい…アンナさ…ん。」
「・・・お休みなさい。ローズさん。」
髪を解き、着替えさせてもらった私はコレットちゃんと同じベッド(ちなみに、ベッドは愛する娘の為にエルネスト様が大きなストレージバッグ1つを犠牲にして用意した天蓋付きのクイーンサイズ。「…布団が欲しいだ?そこに草があるだろう。」と言い放った、どこぞのお祖父様とは雲泥の差だね!)に潜り込んでローズさんにお休みの挨拶をした。
『…パタンッ。』
「…」「・・・」
2人きりとなった天幕(と、言っても。同じ天幕の仕切られた先にはローズさんとコレットちゃんの侍女のアンナさんが控えているんだけどね・・・)は、光量を絞ったリリー(錬金術の師匠である【嘘】様が発明したホタルブクロ型の机上照明装置。魔力は勿論、私の【卵】から供給されている)の灯だけが支配する静かで柔らかな空間・・・
「…ねぇ。」
「・・・う?」
お友達とのやさしい時間・・・
「いよいよだ…ね。」
「・・・ん。」
「明日は…わ、私も…前線に立つ…の。」
「・・・ん。・・・がんばろうね。」
「うん…」
私とコレットちゃんは配置が違うから離れてしまう。
朝起きて。ご飯を食べたら。その後は、もう・・・
「わ、私…ね。」
「・・・う?」
「…ひ、人を殺した事なんて…ないの。」
「・・・」
「ど、どんな風に感じるのかなっ…て………」
「・・・私だって・・・この前のが初めて・・・だよ。」
「えっ!?そ、そう…だった…の!?」
「・・・ん。・・・魔物は沢山狩ってきたし、人っぽい形をした魔物・・・アラクネとか。ゴブリンとか。アンデットとか・・・も、数えきれないくらい討伐してきた。けど、人は・・・人間は・・・初めてだった。」
「そ、そうだったん…だ…。ま、魔女様だから、てっきり…。」
「・・・そんなことないよ。」
「う、うん…そうだよね。ごめんね。気が付かなくて…」
「・・・んーん。・・・大丈夫。もう・・・大丈夫。」
「そっ…か…」
「・・・あの時・・・」
「うん?」
「・・・初めてスナイピングした時。」
「む、無理に言わなくていい…よ!?」
「・・・大丈夫。それより、聞きたいだろうと思って・・・」
「…」
「・・・気持ち悪かった。」
「そ、そう…なんだ…」
「・・・あと。恐かった。」
「こ、恐…い?」
「・・・いけない事をしたって・・・取り返しのつかない事をしちゃったって。・・・この人の家族や・・・恋人が復讐しに来るんじゃないかって・・・恐かった。私の大事なモノが・・・大好きな人が、いつか奪われてしまうんじゃないかって。恐くて・・・震えて・・・眠れなくて・・・ローズさんに泣き付いて・・・」
「…」
「・・・でもね。ある時こう思ったの。」
「…?」
「・・・私・・・死にたくないって。大好きなみんなを失いたくないって・・・そう思ったの。」
「うん…」
「・・・国同士の因縁とか、領土問題とか、思想の隔たりとか、差別と偏見の歴史とか・・・そんなの、どうだって良かったの。私はただ、死にたくないし明日も生きていたい。ローズさんにお帰りって言ってほしい。コレットちゃんにお休みって言いたい。また家族と・・・会いたい。」
「…う…ん………」
「・・・だから戦ったの。これからも戦うの。自分の為に・・・大好きな人の為に。・・・そう思ったら、ちょっとだけ・・・楽になった。」
「…」
「・・・答えなんて・・・正解なんて。きっと無いよ。でも、悩んでいる時間もない。何もしないわけにもいかない。逃げても・・・問題を先送りしただけ。あるいは、他の人にそれを押し付けてしまうかもしれない。あの時こうしていれば・・・なんて。そんな後悔はしたくない。後悔したって大事なモノはもう、戻ってこないもの。そんなのは絶対に・・・嫌。」
「フォニアちゃんは強い…ね。」
「・・・違うよ。」
「う…ん?」
「・・・私は強いんじゃなくて・・・弱虫なだけ。」
失ったら、きっともう・・・
「私に出来る…かな?」
「・・・」
「でも…うん。分かるような気がする。私だって大事なモノは…ラエンは…奪われたくない。…絶対。」
「・・・コレットちゃん・・・」
「えへへ。…うん。なんだか頑張れそうな気がして来た!ありがと…フォニアちゃ…ん…」
「・・・無理・・・しないでね。」
「うん!でも…」
「・・・う?」
「…応援してほしい…な。大好きな…魔女様…にっ!」
そう言ったコレットちゃんは、ベッドの中で私をギューッと抱きしめた。
「・・・わ///」
「へへぇ~///」
「・・・ビックリ。」
「ほんと!?魔女様を驚かせたなんて…やったねっ!」
「・・・んふふっ!」
「えへへへへっ!」
ひとしきり笑い合った私達は、抱き合ったままベッドの中で向かい合い・・・
「・・・コレットちゃん。」
「うん…」
「・・・いっしょに・・・頑張ろうね。」
「うんっ!」
瞼を閉じた・・・
少し改訂しました。
読みやすくなっていればよいのですが・・・
・・・よろしくね!(23/10/09 22:50)




