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Chapter 015_死の行軍

『タァァアァーーーーーーンッッッ………』


それはいつも唐突に始まる



「あの騎馬だっ!!魔法兵前へ!!唱えろォォーーー!!」

「「「『泥よ立て 礎をなせ』『タァァアァーーーーーーンッッッ………』「がぁぁぁっ!!」

「クソっ!!魔法兵やられたぞっ!!」

「そのまま唱えろォォ!!」


彼方は2頭の騎馬で組んだ小さな班をいくつか用意し、時々…思い出したように

攻撃を仕掛けてくる。

魔法の効果範囲を遥かに超えた数百mの距離を保ち…つかず離れず

オレ達の部隊を囲うように動きながら。


攻撃を仕掛けてくるのはそのうち1つの騎馬だけ。


魔弾の射手は1人だけ…それは間違いない。



『積み上がれ』ハウル!!」」


『ダガァァアァーーーーーーンッッッ………』

「がはっ!!!」


そうだ。1人だけの筈だ!

それさえ倒せば…この地獄は終わるはずだ。だが…



「どうしたっ!!築壁破られたぞっ!!しっかりしろぉぉぉ!!」

「む、無理です!!向こうが強すぎますっ!!」

「と、途中で1人やられたとはいえ…デュオで作った防壁を打ち破られたんですよ!!防御など不可能です!!」


その1人が破れない。その攻撃を防ぐことすら…できないっ…

部隊は、近づいては去っていく射手から一方的な攻撃を受け続けていた



『タァァアァーーーーーーンッッッ………』

『ヒーヒュヒュンッ!!!!』

「クソっ!!重騎馬やられたぞっ!誰だ前に出した奴は!!」

「け、軽騎馬は出撃続きで疲弊(ひへい)しております!!とても、これ以上は…」

「おのれぇぇぇーーーー!!」


『タァァアァーーーーーーンッッッ………』


射手の乗る駿馬(しゅんめ)に重騎馬が追いつけるはずがなかった。

射手以外の彼方の騎馬は攪乱優先と見え、近づこうにもすぐに逃げ出し

追いつく事など出来なかった。


仕方なくオレ達は少なくなった軽騎馬で出撃したが…騎馬が到着する前に

(ことごと)く射手の攻撃あるいは魔法、稀に他の騎馬からの攻撃を受けて

打倒されるか、驚いた馬が逃げ出すか…最悪な場合。騎兵が彼方に投降した。


オレ達に残された軽騎馬はもう、数えるほどしかなかった。

出来る事は…何一つ無かった。



「…止む負えん。重騎馬を出して時間を作れっ!!」

「し、しかしっ…」


『タァァアァーーーーーーンッッッ………』

「ぎやぁぁぁーーー!!」


「それともお前が前に出るか!?あっ!?」

「…っ…い、イエッサー…」


進軍を諦める事も考えた。実際、部隊を後退もした。


しかし射手はそれをも許さなかった。


進路を西に向けると途端に、大規模魔法をもって苛烈な猛攻を始め、

東へと追い立てられた。


立ち止まって防御を整えようにも、魔弾がその隙を与えなかった。



オレ達は、これが奴の唱えた通りである事を分かっていながら…

極めて遅い速度で東に向かうしかなかった…



『タァァアァーーーーーーンッッッ………』

「ぎゃぁぁー!!」


『タァァアァーーーーーーンッッッ………』

『ュゴッ…』


『タァァアァーーーーーーンッッッ………』

「がぁっ!!」


『タァァアァーーーーーーンッッッ………』

「ぐあぁあぁぁっっ!!」


「…」


奴の狙いは、3日後にやって来る陛下にオレ達をぶつける事だろう。

だから騎馬を優先的に狙い…次いで隊長、分隊長クラスを狙って来た。

狙いは極めて正確だった。まるで…戯曲に謳われた魔弾のように…

奴の手を離れた悪魔の弾は味方の頭を貫いた。


それが“理”だとでも、

言いたげに…


一方、歩兵や奴隷は相手にもしなかった。


奴隷に相手をさせてその隙に逃げようとしたこともあったが簡単に

(かわ)され。横に回られ、むき出しになった本隊が襲われて

酷い被害を被った。


数十騎の騎馬に突撃させたときは、近づいたところに大規模魔法を

行使され、軽騎馬と重騎馬を合わせて50騎近く失う最悪の結果を

(もたら)した。


いったい…いったいどうしろというのだ!?



「や、止む負えん!!奴隷を前に出せ!!防御円を築け!!」

「「「「「イエッサー!!」」」」」


「ま、またかぁぁ!!」

「た、助けて…助けてくれぇ!!」

「お助けをぉぉ!!」

「はぁはぁ、腹が、減って…動け…」


「ダマれ犬ども!!」

「さっさと前に行け愚図っ!!」


唯一効果的と思える策は周囲を奴隷で固めてオレ達を守らせる事だった。

奴隷は幾ら消耗しても構わない。しかし、奴は積極的には奴隷を

攻撃しようとはしてこなかったため…消耗を抑える事が出来た。

しかし…



「…くそっ!これでは何の解決にもならないではないかっ!!」

「…」

「…」


しかし、それだけの事だった。

正規兵の数が減り、指揮系統もマヒした今。周囲を奴隷で固めた

この陣形では動くこともままならなかった。

しかも…



『タァァアァーーーーーーンッッッ………』

「ぎゃっ!!」


奴隷どもの人垣の向こうを、射手は我が物顔で闊歩(かっぽ)しているようだ。


時々…気まぐれに。僅かな隙間を狙って奴は攻撃を繰り出し仲間の首を

吹き飛ばしていった。


オレ達の命は…完全に奴の喉に委ねられていた。

分隊長であるオレがこうして生きているのも。恐らくヤツの…



「くそっ…役に立たない奴隷どもめ…」


奴隷どもがもう少し役に立てば違ったのかもしれないが…

ここにいるのは廃棄を待つだけの売れ残りばかりだ。“壁”以上の働きに

期待するだけ無駄だった。しかも、飢えと疲労でかなりの奴隷が力尽きて

いたため、その役割すら危うくなっていた。


もう…



「悪魔だ…悪魔がいる…」

「くっ…あぁぁぁ…」

「ひ、ヒナ様…をたすけ…おたすけをぉ…」


「…」


オレ達の意志も限界だった。

元はと言えば…こうなったのも全て、あの騎士団長のせいだ。

あの人と一部の騎士団員が謀反(むほん)を起こすと決めた時。オレは…

オレ達はどうして、それに従ってしまったのだろう?


祖国を…陛下を…ヒナ様を捨ててまで、やるような事だったのか?

師父教?ラヴェンナ?

訳が分からない…


「…レイモン様。アレクシ。ブレーズ………オレは…どうなるんだ?」



………

……






「122名減…そうか…」

「はい…」


翌朝。

27名が逃亡。3名が自害。さらに92名が敵へ投降したらしい。

この日を最後に。遠くで見張る敵兵からあの音が聞こえてくる事“すら”

なくなった。疲れ切ったオレ達は…トボトボと雨の大平原を東に向けて

歩いた。それは行軍というより…敗走だった。



「し、支援…だとっ!?ふ…ふざけるなっ!ふざけるなぁぁあーーーー!!!」


さらに翌朝。

這う這う(ほうほう)(てい)で辿り着いたマロニエの木…敵方の陣営が見える

丘の手前…には。支援物資と(めい)うった食料が並んでいた。


食料も突き。止む負えず…パートナーであったはずの馬を食っていた

オレ達の前に。パンと、エールと、肉と、チーズと、イチジクが

たんまり積まれたマロニエの木があった。



「飯だっ!!」

「あぁぁ~!!ヒナ様ぁぁぁぁ!!」

「お、お許しを!許して下さいィィーーー!!」

「ありがとぅ…ありがとうございますディアナ陛下ああぁぁぁ~!!」


皆を止める事など、出来ようはずもなかった…


………

……
















そして、その日の夜…



「へぇ~…オディロン…フロル…部隊長。殿………か。ハジメマシテ。」

「…」

「あなた…分隊長だったのに、最終的に部隊長になっちゃったなんて…大出世ね。きっと、あなたのお母様もお喜びになるわ!良かったわねっ。」

「…」

「若いのに…騎兵だったのに…行軍なんてまったくの初めてだったろうに。万を超える兵をここまで連れて来るなんて頑張ったわね。凄いわ…」

「…」

「でも…私の居ぬ間に大事な民を傷つけようとした罪は償ってもらわないといけない。たとえ、貴方の考えじゃなかったとしても…ね。誰かが責任をとらないといけないの。…分かるわよね?」

「…」

「…心苦しいわ。あなたとて、元は私の民だもの。出来ることなら、こんな事したくないの。でも…仕方ないわね。恨むなら、あなたの団長殿を恨んでね…」

「…」

「…安心して。あなたが素直に投降してくれた以上、他の兵は丁重に扱ってあげる。」

「…」


「さ、てー…。…お喋りはこれくらいにして。…レオノール。」

「はっ…」

「頼んだわ。」

「頼まれました。」


欠けた月の照らすマロニエの木の下。

手を縛られ(くつわ)を嵌められていたオレは


女王…ディアナ陛下


と、その側近。

そして沢山の敵兵に見守られ、(ひざまず)いていた。


きっと…この中にオレ達を散々苦しめた…悪魔と契約した

射手もいるのだろう。



「・・・」「っ…」


取り巻きの中には2人の…就学もしていないような女児もいた。

なぜこんな所に…?と、思わなくもないが、どうでもいい。


もう、どうだって………






「…いい夜ね。」


まさか陛下…ディアナ“元殿下”とこのような形で再会するなんて

思ってもみなかった。


オレとアレクシとブレーズの3人は彼女と同級生だった。

同じ講義に出席した事だってある。


向うは覚えていないみたいだが…

オレは覚えている。


月光に照らされた彼女は相変わらず美しかった。

その名の通り、月の女神のようだった…



「…」


…オレ達はどこで道を間違えたのだろう?

卒業式のその日…3人で彼女を守ろうと決めたはずじゃ…なかったのか?



「…言い残す事はあるか?」


この瞳は月を見上げる為に。

この手は王国を守る為に。

この喉は大地を称えるために…



「…」

「………では。」


そう誓った…



「…」

「…バイバイ。オディロン…くん…」






………はずだった

林檎です!


見直して、ちょこっと改稿

・・・よろしくぅ~ねっ(23/09/24 23:45)

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