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Chapter 013_魔弾の射手

「分隊長!!」


行軍を始めて2日。月が照らす野営地で


それは始まった…






「あぁ?…なんだぁ?」

「監視をしていた兵が遠方を走る騎兵…恐らく敵…を発見したとの事です!」

「あー…どうせ近づいてこないんだろう?」

「え、えぇ…まあ…」

「…近づいてきたら迎撃。それまでは待機。以上だ。」

「イエッサー…」



その日は朝からどんよりとした曇り空で蒸し暑かったが…夕方から

涼しい東風が吹いてくれたお陰で過ごしやすい夜となった。


歩き通しで疲れた歩兵や奴隷どもは眠りこけ。比較的体力が余っていた騎兵は

焚火を囲んで冗談を言い合っていた。

平和な夜だった…



『ッ…』

「…うん?」


まさか、そんな夜が






『タァァアァーーーーーーンッッッ………』


悪夢のはじまりになるなんて…



「な、何の音だ!!」


野営地に突如、甲高い衝撃音が鳴り響いた。

驚いたオレは思わず日記を書く手を止め。叫んだ



「んぁっ!?」

「ふぁ!?な、なゃんだぁ…!?」


同じ焚火に当たりウトウトしていたアレクシと、

ほぼ寝ていたブレーズも目を覚ました。


静かな野営地に轟音が響いたのだ。

驚かない方がおかしい



「敵襲――――――!!!」

「だ、大丈夫か!?」

「どうした…!!」

「く、首がっ…寝違えたっ!」

「くそっ!!どこからだぁ!!」


離れた場所から味方の叫び声と、どよめきが聴こえてきた。



「テキシュウ…敵襲だと!?」

「おいっ!どうした!?」

「今の音は!?」


分隊長であるオレ達3人は敵襲と聞いて放置するわけにはいかなかった。



「と、とにかく行くぞっ!!」

「お、おうっ!」

「あぁ!…って、剣!オレの剣!!…ちょっ、まーてーよーっ!!オレの剣知らねーか!?」


驚いた者。起こされた者。唖然とする者…

馬たちの(いなな)きも重なり、野営地には混乱が拡がりつつあった…



「お前の剣は薪の横だろ!!」

「先行くぞ!!」

「そ、そうだったぜ…って!!…ちょっ!まーてーよーっ!!置いてくなー!!」


急いだ方が良い…

そう思った時だった。



『ッタァァアァーーーーーーンッッッ………』

「なにっ!?またか!?!?」

「なんだっ!?!?」

「うっせーなぁ!!何の音だ!?おい!!」


再びの轟音。そして



「てぇぇぇきしゅぅぅ――――――――!!!!!」

「どこからだ!」

「なっ!!ち、治癒術師――――!!治癒術師をよべっ!!レイモン隊長がやられたぞ―!!!」

「無駄だぁ!!首がねーだろーがぁぁぁ!!」

『ヒーヒュヒュン!!!』

「お、おいっ!!あっちだ!あっちで一瞬、光が!!」

「どこからだーーー!!」

「てーきしゅぅぅぅーーーーーー!!!」


味方の叫び声!?

混乱の渦が拡がっているのは明らかだった!!



「お、おいッ!今…」

「レイモン隊長だとっ!?」


オレとアレクシの2人はエヴァーナ騎士団の中でも

レイモン騎兵隊長の下に就いている。

だから隊長の事は…あの、勇猛果敢で鍛え抜かれた体を持つ

隊長の事は、良く知っている。


そんな筈はない!そう思ってはいるが…



「いくぞ」

「おうっ!」


この目で確かめないわけにはいかなかった。



「ちょっ!!まーてっ…まてって!!待ってくれー!!」


デブでのろまのブレーズを気にしている余裕なんてなかった。



「こっちか!!」

「そのはずだ!!」


オレ達は走った。



「ご、ご主人!今の音は…」

「きゃぁあ!!」


「どけっ!!」

「散れっ!!散れぇぇ!!」


「お、お助けをぉ!!」

「ご主人っ。オ、オレ達はどうなるっ!?」


奴隷どもなんか気にしている余裕も

なかった。



「てぇぇきしゅぅぅぅーーーーー!!!」


やがて見えてきた天幕の横には…盾を構えた歩兵と、

慌てふためき、彼方の平原を見つめる騎兵の姿。

そして



「お、おい!?うそ…だろっ………」


篝火(かがりび)に照らされ揺らめく…赤黒い池



「……………まさか…」


その中に横たわる…首なしの人型



「あっちだ!」

「あっちから見えたぞっ!」

「オディロン分隊長!アレクシ分隊長!!ご指示を!!」


指示を仰ぐ部下を無視したオレ達は



「…」「…」


嫁さんに治してもらったと…何十回聞かされたか分からない…

当て布だらけの 軍服


雑に刺された…憧れの 銀勲


(さや)までボロボロの古びた ロングソード


不細工な顔をくしゃくしゃにして自慢してきた、娘がくれたという

リボン…



「レイモン…たい…ちょう?お、おい…オディロン……」

「あ………ありえん。こんなことが…あ、あるはず…」


それは良く知る人の体だった。

だが…


「…あ、あの。レイモン隊長が死ぬなんてあr……………


オレに顔を向ける途中の。



『ズガァァァッッッ……!!!』


アレクシ…の。が…



『………』


轟音に引きずられ……



「アr…」


名を告げる暇もなく、



『…』


その首なしの人型は…



『ドザッ…』


…崩れ落ちた。






『タァァアァーーーーーーンッッッ………』


続けて聞こえてきたのは…あの音。


それは1秒にも満たない出来事だった。

1秒足らずで…


アレクシのページが途切れた。






「………………んなぁぁぁぁんだぁぁぁあーーーー!!!」

「てぇぇきしゅぅぅぅーーーーー!!!」

「ふ、伏せろっ!!伏せるんだァァァ!!」


場は大混乱に陥った!!



「あ、あり得ない!!どこからだっ!!?」


あり得ない!!

今、オレの目の前で何が…何が何が何が…

何が起きた!?



「お…おいっ!!あ、アレクシ!?」


赤い池を拡げるソレに呼びかける。



「…」

「アレクシィィ!!!!」


返事は無いと。起き上がる事は無いと!


分かっていても叫ばずにはいられなかったあぁぁぁぁぁぁああっっ!!




「地平だ!!地平線の彼方で光がっ!!」

「オディロン分隊ちょぉぉーーーーー!!ご指示をぉぉぉぉーーーー!!」

「…なにが…何が何が何が何が…」

「またぁぁぁぁ~~~!!まただぁぁぁぁぁぁーーーーー!!」

「逃げろっ!!ここから逃げるんだぁぁぁぁーーーー!!!」

「お、おいっ!!!敵だろっ!!!迎え撃て!!」

「敵って…何が起きている!?」



「ぜぇはぁー…うをををっ!?なんだぁっ!?はぁ~…なはっ…なぁ何が起きるオディロン!?」

「なにがなにが…」

「ちょおっ!?はーはー…おっ、オディ、ロン!!気をぉ…はぁ~…気をしっかり持てぇ!!ボケがぁ!!」

「ナニガナニガナニガ…」

「はぁはぁ…くっ、クソっ…許せっ!!『雫よ 天の恵を』」


混乱の頂点にあったオレは我を忘れていた…この時までは。


「…ウォーターボール!!」

「がっ!?…ぶはぁぁっ!?!?!」

「起きたかっ!?」

「はぁ、はぁ………ぶ、ブレー…ズ?」

「あぁオレだ!!大丈夫か!?」

「あ…あぁ。…あぁ!」


水浸しで呆然と立ち尽くしていたオレの目の前には、同じく水…いや。

汗だくで。



「はぁ、はぁ…すまん。はぁ~…お、起こすためとはいえっ。と、友に向かって唱えたオレを…許してくれるか?」


肩で息をしているブレーズの

済まなそうな顔があった…



「あ、あぁ…も、もちろん許すさ…」

「そうかっ!」

「それより…れ、レイモン隊長が…アレクシが…」

「分かっている!」


ブレーズはオレの肩を強く握り、強い声で叫んだ!!



「分かっているさ!!だからこそ言うぞ!!…しっかりしろオディローーーン!!」


そして

ぶん殴りやがった!



「がっ!!」


地面に叩き落とされたオレに

ブレーズは叫んだ!!



「いいかっ!!今はお前が騎兵隊隊長だっ!!指示を出せっ!!馬に乗れぇぇ!!敵は12時の方向!!お前もあの閃光を見ただろう!?」

「あ、あぁ…」

「奴だ!斥候が報せた魔弾のしゃ……………

「っ!?」


『タァァアァーーーーーーンッッッ………』



「あぁ…あぁぁぁっうあああぁぁぁっぁぁっぁぁっぁっぁぁあああああーーーーーーーーーーーー!!!」



………

……
















……

………



「・・・逃げよう。」

「…もう?あとちょっと…」

「ロクサーヌ。敵も此方の位置に気付いたはずだ。じきに来る…離脱するぞ。」

「イ、イエッサー…」


お嬢様の戦果は素晴らしいものだった。

そして、容赦のないものだった…



「…お嬢様。しっかり捕まって下さいね。」

「・・・ん。・・・ねむねむ・・・」

「…暫く行ったら森へ。休もう。」

「イエッサー…」


隊長1名。分隊長3名。一般騎兵2名(これは私が直接見た訳ではなく。

後で、ジャン隊長に教えてもらった事だけど…)

これだけ?…と思うかもしれないが、そんな事は無い。


お嬢様はたった1回の夜襲で敵兵すべてに恐怖を植え付けた。

これから決戦に挑もうというこのタイミングで、アウトレンジから

一方的に攻撃を仕掛けられたという経験は、敵部隊に大きな…とても大きな

影を与えた事だろう。


混乱・恐怖・不安………

影響は兵だけじゃない。奴隷達も…馬たちも。



「・・・ふにぃ・・・ろくさーぬ・・・しゃん・・・」

「…何ですか?」

「・・・さ」

「さ?」


こんな事を何回も…何十回も。数時間おきに繰り返されたら

たまったものではないだろう。

お嬢様はそれを…なさるおつもりだ。



「・・・3時間で・・・ぉこしてぇ。」

「…と。おっしゃっていますが…」

「…その通りにしてやれ。頼んだぞ。」


混乱は疲労を生み、恐怖は不信を生み、不安は臆病を生む。

敵部隊は、あっという間に危機に陥るだろう。

魔女様の唱えた通りに…



「イエッサー。頼まれました…」


…お気の毒さま。






「・・・ねむぅ・・・」

「…どうぞこのまま。お休みになって下さいませ、お嬢様…」

「・・・んんぅ・・・ロクサーヌさん。いい匂い・・・」

「…///」


敵は…敵部隊は。

今回の夜襲を企てたのが、こんな小さな女の子だという事を

まだ知らないに違いない。


知ったらきっと、驚くだろう。



「・・・くー・・・くー・・・」

「…」


私の胸で寝息をたてるこの子を指して

あの戯曲になぞらえて、


“こう”呼んでいるに違いない…

林檎です。



【魔弾の射手】・・・中二心をくすぐるステキワードだと思いませんか?

大好物です!


イグニッションふぁいあー!!

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