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まほー(物理)  作者: 林檎とエリンギ
1st Theory
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Chapter 007_天使との出逢い②

ちょっとだけ。気に食わなかったので修正しました・・・(21/09/27)

「ぎぼぢばぶい…」


メンヘラ天使イレーヌちゃん18歳はその後、吐き気を(もよお)した。



「だ、大丈夫っ!?」

「・・・バケツ!」


疲れる。

もう、おうち帰りたい・・・



『Å▽xxxλ~†!!』

「ほらっ!全部出しちゃいなさい…」

「・・・よしよし・・・」


ただまあ・・・同情はする。

何しろ彼女はこの街でたった一人の治癒術師。

この街に住む全ての住人。周辺の集落。世界中からやって来る冒険者達。その全て・・・千数百人の命をたった一人で守っているんだ。期待は大きいし、責任は重い。休むことは許されない。

お酒くらい飲みたくもなるだろう・・・



「うぅっ、頭痛い…お腹痛い…肝臓(かんぞう)が葡萄で決壊しそう…」

「・・・お水飲む?」


この街のプリモはいい治癒術師だと評判だ。

親身に話を聞いてくれるし、いつも笑顔だし、美人だし・・・何より、治癒術の腕は一級品。いつも真剣で全力。

だから・・・疲れちゃうよね。



「…もらう。」

「・・・『湧水よ』スプリング!」

「わぁ…こ、子供なのに…ホントに魔法を…」

「・・・どーぞ。」

「あ、ありがと…っ、つめたっ!」

「・・・温まらないうちに、どーぞ。」

「んっく、んっく…ぷはぁー!!おいしぃ~…」

「・・・それは良かった。・・・お代わりは?」

「…ほしぃ」


だから、ちょっとくらいお世話してあげてもいいと思う。

私がしている事なんて、彼女がしている事に比べれば、ぜんぜん・・・



「ふーっ。お嬢ちゃん…そっか。」

「・・・う?」

「う、ううん!その…まだ小さいのに魔法が使えるなんて凄いなーって!美味しいお水をありがとう!ご馳走様っ!」

「・・・んーん。お粗末様。」


「ねぇ、お嬢ちゃん。魔法は好き?」

「・・・ん!」

「そう。じゃあ…治癒魔法にも興味あったりする?」

「・・・んっ!」

「そうっ!」


ベッドから起き上がった彼女にお水を渡すと気分が落ち着いたのか、笑顔を見せてくれるようになった。



「まだ寝ていなくて大丈夫?顔色悪いけど…」


落ち着いた・・・と言っても、お母様が言う通り顔色は悪い。

夜明け近くまで飲んでいたようだし、アルコールを分解しきれてないのだろう。



「大ジョーブです!なにしろ私は治癒術師!では、ちょっと失礼して…」


けれどお母様の言葉を聞いた彼女は座り直し



「すー…」


お腹に手を当て


「…『この手は何を成せるだろう この力は誰が為 小指に薬を 人差し指に毒を 祈り込めて払い清め』ディスペル!」


唱えた
















「…っはぁ~…スッキリしたぁ!」

「・・・」

「…」


・・・?


「そう言えば…あなたたち何でいるの?ひょっとして病気?ケガ!?まあ大変!…そうだ!今回は特別っ。お世話になったお礼にタダで診てあげちゃう!」


??



「あ、あの!えぇと…」

「うん?何かしら…奥様?」

「・・・二日酔いはいいの?」


そう、二日酔いだよ!あんた二日酔いだったじゃないか!!なにケロッとしてんだよ!



「え?だって…ほら。唱えてたでしょ?」


たしかに神秘的な声で神秘的な呪文を唱えていたのは聞いてたよ!見惚れちゃったよ!!神ってたよ!!!

でもっ!



「え?し、失礼ですが…今のって、発現していたのですか!?」



説明しよう!!

呪文を唱え、魔法の効果が現れる時・・・つまり発現する時。その効果範囲には魔法印と呼ばれる模様が浮かび上がるのだ!

魔法の種類や術者のイマジネーションによって現れる時間も模様も変わるから、どんな紋様だったのかを記憶するのは難しい。でも、光り輝くからすぐに分かる。

Chapter 002で製紙魔法(ヴァージンリーフ)を唱えたお母様の手元がほんのりと光った事を君は覚えているかな?


ピカっとなったら来る!・・・それがこの世界で生き残るための心構えだ!!

説明終わり!



「?…あ、あぁ~!そっか!治癒魔法を見るの初めてなのね!?」

「え、えぇ…」

「・・・ん。」


「光んないのよ、コレ。」


えぇっ!?



「ほら、治癒魔法って他の魔法と違って体の中が効果範囲でしょ?それが原因!」

「そう…なの?」

「そうなのです!!でも、人の体が光ったりしたら気持ち悪いでしょ?…お化けみたいじゃない。」


それは一理あるかもしれないけど・・・



「光らないだけでちゃんと発現するわ。それに、光で目がくらんで手元が狂いでもしたら元も子もないしね。」


なんて言うか・・・



「・・・地味」

「フォニアちゃん!!」


奇跡の魔法は地味。



「あはははっ!ホントよねー!!」


それは間違いない


・・・

・・











「『祈り込めて(よう)する』ダイアグノーシス!」


色々あったけど本来の目的を忘れた訳じゃない。


「・・・どう?お母様。」

「う~ん…何にも感じないわね…」

診断魔法(ダイアグノーシス)は調べるだけの魔法だからね…」


イレーヌさんは唱えた通りお母様をタダで診てくれた。

治癒術はお高いから助かるね!



「…」

「そ、それで結果は…」


そして気になる診断結果はというと・・・



「…予想はついていますよね?」


ってことは、やっぱり!?



「それでもちゃんと聞きたいんです!」

「それもそうか…それじゃあ発表しますね。チェルシー様の不調の原因は…」


ドキドキ・・・



「…赤ちゃんがいるからです!おめでとうございます!!」

「やっぱり…」

「・・・やったー!」


やったやった!やっぱりそうだった!!



「お辛そうですね…初産の時はどうでした?」


楽しみだなぁ!



「この子の時は、そんなでも…」


実は私、前世で一人っ子だったから姉弟って初めてなんだよね!あ、姉妹かな?



「そうですか…個人差が大きいので無責任に大丈夫とも言えませんが…とにかく、いっぱい食べて下さいね!でも無理はせずに!」

「はい…」


年下って可愛いよね!男の子も女の子も・・・どっちかなぁ?

ま、どっちでもいいんだけど!


それはそうと・・・



「・・・ね、お母様。」

「…うん?」

「・・・私も診ていい?」


イレーヌさんが二日酔いを治すために唱えた魔法は奥が深そうで・・・暴走した時恐いけど、お母様にかけた魔法は“調べる魔法”と言っていた。

万が一失敗したとしてもリスクは低いか・・・ほとんど無いんじゃないかな?


治療できる魔法を覚えたいのは山々だけど・・・診断できるだけでも大助かり!

そう思ってお母様に声をかけると・・・



「え、えっと…」


私の言葉を聞いてお母様は困った顔をした。

これまですべての魔法を初見で宿した事を知っているからイレーヌさんに気を使っているのだろう。でも、きっと心配はいらない・・・



「ん?あぁ~!…気にしませんよ!」


ほらね!

ロジェス先生によると魔力があって、魔法の知識があって、呪文を覚えて、適性があったとしても・・・それを宿すには数ヶ月から数年かかるのが普通だそうだ。


まして今回は適合者の極めて少ない治癒魔法。銀色の瞳でない限り低級でも行使できないと言われている。

彼女が私の瞳の色についてどう思っているのか分からないけど・・・光の加減で濃い栗色とかに見えているんじゃないかな?

だから、子供が大人の真似している・・・程度に考えてもらえるのだ。



「・・・いい?」

「いい…けど…」


では早速!



「・・・すー・・・は~・・・」

「さ~…上手くいくかしらねぇ?」

「…」


お母様のお腹に手を当てて深呼吸をしているとイレーヌさんが私の肩にそっと手を置いた。

心配・・・してくれている?

ちょっと気になったけど・・・それより今は集中しゅーちゅー!



「・・・ん。」


大丈夫。必要なものは全部瞳の中にある。

後は唱えるだけ・・・



「・・・『祈り込めて擁する』ダイアグノーシス。」











「・・・妹。」

「え?そう…なの?」

「・・・ん。間違いない。・・・あと、お母様。ちょっとビタミンが足りてない。」

「ビ、ビタミン!?」

「・・・夏野菜を沢山食べましょう。・・・トマトとか。」

「うっ…」

「・・・妹のためよ?」

「はぁ…」

「・・・返事は?」

「わーかーりーまーしーたーっ…」

「・・・んふふっ。頑張って、お母様!」






・・・私は甘かった。

この魔法の事をろくに知らずに・・・



「…ねぇ、お嬢ちゃん。」

「・・・う?」


彼女を信じ過ぎていた。その行動の意味に・・・気付いていなかった。



「イデンシって…何?」

「・・・」


え・・・っと・・・



「ふーん…なるほどなるほど。男と女って、そうやって見分ける事が出来たんだ…知らなかったわ。」

「・・・」

「…ねぇ知ってた?胎児の性別を知る事って…出来なかったのよ。今の今まで。…診断魔法で体の中を調べられるとはいえ、直接目で見るわけじゃないから…当然よね?」


え、えぇぇぇ・・・と・・・



「そうそう。言ってなかったけどね。診断魔法で診察すると、その結果を“術者に触れている適合者”も知る事が出来るの。これは治癒術師が知識を伝達する為のとても大事な効果なの。…覚えておいてね。」

「・・・」

「私にはあなたの言うイデンシが何か分からない。でも、それで…生殖サイボウがエックスエックス?…とにかく、あなたがその情報で胎児が女の子だと判断したことは分かったわ。さっき言っていた、ビタミン…だっけ?あれも気になるなぁ…。確かに私もあなたのお母様を診断した時、ちょっとだけ栄養不足だって認識できたけど…トマトを勧めようとまでは思えなかった。」

「・・・」

「…あのね。私は別に黒い瞳のあなたをどうしようと思っているわけじゃない。…あぁ、お母様も(にら)まないで下さい。ただ…」

「・・・ただ?」

「なによっ…」


警戒度MAXになって私を抱えたお母様の鋭い視線を受けながら、彼女は



「手伝って、欲しいの…」


彼女は泣いていた・・・



「きっと、あなたなら出来る。私じゃ救えなかった命をあなたなら、貴女となら…。私の知っている呪文も知識も技術も全部あげる。お給料だって渡す。教えてくれるだけでもいい。質問はさせてもらうけど…追及はしないわ。無理もさせない。嫌になったら辞めてもいい。だから…」


こんなにも純粋で切実で慈愛に満ちた涙・・・



「1人だけでもいい。1秒だけでもいいから…生きて欲しいの。…それだけ。」


・・・初めて見たよ。



「…お願いしますっ」

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