Chapter 006_コレット・ミシュレ
「・・・う!?同級生!?しかも・・・ラエン騎士団長の娘さん!?」
「…うん。いっしょ…だね!魔女…様…」
戦場に咲いた一輪のリンドウのような彼女はラエン騎士団長エルネスト・コント・ミシュレ様(さっきのオッサン)の一人娘。コレット・ミシュレちゃんという。
歳は11歳。誕生日が私より早いから先を越されちゃっているけど・・・同い歳だ!
「・・・ん!一緒だね!・・・お友達になって!」
実は私、これまで沢山の人に会ってきたにもかかわらず・・・同い年の子と会うのは初めてだったりする。
しかもこのコレットちゃん。なんと来年、私と同じく学園に入学するというではないか!
これはもう、お友達作りの大事な大事なアタックチャ~ンス!!
と言うわけで、お手々繋ごう!
「ふえっ!?を、をともだちぃ!?お、おおおおおしょれおほいれしゅーーー!!」
あぁ・・・人見知りしながらも抑えきれない好奇心。純粋な笑顔。中途半端な礼儀作法。自信の無さ。それでいて他領の騎士団長がいる天幕にガッツリ入って来る遠慮のなさ。
これが正しい包まれ娘というものか・・・勉強になります!
私も真似しようか・・・
「…今更お嬢様がそんな態度とっても、ワザとらしいだけだと思いますけど…」
人の心を読んだ上、余計なこと言わないの!ローズさん!!
「おぉっ!?…なんだ?もうお友達になったのか!?良かったなぁ!コレット!!」
「おとうしゃまぁー!!」
「おぉっ!?」
汗くさオヤジが帰って来ると、コレットちゃんは再びその陰に隠れてしまった。
「…うぅぅ///」
「どうしたコレット…?」
真赤な顔で脚にしがみ着く娘と、困った顔で笑うローズさん。そして、差し出した手を宙に浮かせた私を見たエルネスト様は娘の頭を優しく撫でながら…
「…す、すまないフォニア卿。失礼をした事は私から詫びる。だからどうか…見捨てないでやってくれ。」
そう言って頭を下げたのだった。
エルネスト様が私に付けてくれている【卿】という言葉は、貴族同士で使う敬称だ。
身分を気にせず、対等な相手として扱う・・・そんな思いが込められた言葉。
・・・いいお父さんじゃん。
「・・・大丈夫です。気にしていません。どうか・・・私のような若輩者に頭を下げないで下さい。お願いします。」
「す、すまない…」
エルネスト様に断りを入れた私は、コレットちゃんに再び瞳を向けて・・・
「・・・コレットちゃん。これからよろしくね。・・・私の事は名前で呼んでくれると嬉しいな。」
「はうぅ…!?」
「ほら、コレット。フォニア卿もこう言ってくれているぞ?」
「うぅぅ…」
唸りながらも
「ふ、フォニア…さま?」
「・・・様いらない。」
「ふぇっ!?」
「…コレット様。お嬢様はコレット様とお友達になりたいそうですよ?」
「・・・ん!お友達になろ!コレットちゃん。」
「…」
「ほら、コレット。こう言ってくれている事だし…」
コレットちゃんは、私とローズさんとエルネスト様を見回してから・・・
「…っ///」
恥ずかしそうに・・・真っ赤になりながら・・・
「フォニア…ちゃん…」
・・・唱えた。
「・・・ん!コレットちゃん!」
「フォニアちゃん…」
「・・・コレットちゃん!」
「…えへへへ。フォニアちゃん!」
「・・・んふふっ!コレットちゃん!」
ヤバイ。キュン死す・・・
・・・
・・
・
「…話は済んだか?小娘。」
コレットちゃんとのお名前キャッチボールが落ち着くと・・・背中から不機嫌そうな声が聞こえた。
そういえば・・・
「・・・お呼びでしょうか?お祖父様?」
この人の事を忘れていたよ。
忘れていた・・・なんて言うと。また不機嫌になるから・・・さも平然と答えると
「おぉ!フォニア卿はベルトラン卿とお話の最中だったのかい!?これはこれは失礼した!!ずかずかと上がり込んだ私のせいだな!どうか、お許しを…」
エルネスト様がそう言ってお祖父様に頭を下げてくれた。
「…エルネスト卿のせいではない。どうか頭を上げてくれ。」
エルネスト様はお祖父様と同じ身分だ。そんな相手に頭を下げさせるわけにもいかないだろう。
だから。エルネスト様にそう言われたお祖父様は、あまり私の事を責められなくなる。
おっちゃんナイスフォロー!
超いい人じゃん・・・
「失礼…では我々はお暇しよう。…いくぞ?コレット。」
「う…ん。…また後でね。フォニアちゃ…ん!」
エルネスト様の大きな腕に抱き上げられ、肩に乗せられたコレットちゃんは手を振りそう言った。
「・・・ん!また後でね。」
私はそれに答えてから・・・
「・・・それで、何でしょうか?お祖父様。」
「…」
実に不愉快そうなこの人に向き合った。
「・・・」
話があるのはお祖父様の方なので、その言葉を静かに待っていると、やがて・・・
「…はぁぁぁぁ~~~~」
ながー・・・いため息の後。
「…小娘。お前…この後どうするつもりだ?」
本題を話し始めてくれた。
「・・・どうする・・・とは?」
「この戦に参加するか…という意味だ。」
「・・・」
意見を聞いてくれるのか・・・。
私は公式には、お祖父様に養子入りした・・・娘・・・だから、公衆の場で命令されれば逆らえない。なのに・・・
何だかんだ言っても、やっぱり・・・
だから・・・好き。
「・・・・・・少し・・・考えてもいいでしょうか?」
私はこれまで、この喉で、何千何万という命を奪って来た。
けど、人に唱えたことは・・・おじいちゃんとの模擬戦と、師匠率いる第3大隊のみんなと演習した時だけだ。
当然、人を殺めたことはない。
私に・・・できるだろうか?
「…かまわん。しかし…戦わないなら明日出ていけ。以上だ。」
「・・・はい。・・・失礼します。」
「ベルトラン様。騎士団の皆様。ご機嫌麗しゅう・・・」
私の代わりに挨拶してくれたローズさんと天幕を出た私は・・・
「・・・」
宵闇を照らす楕円の月に答えを求めながら、お宿に向かったのだった・・・
・・・
・・
・
「・・・う!?コレットちゃん・・・戦うの!?」
「う、うん。あんまりお役には立てないだろうけ…ど…」
夕食はお宿の食堂でコレットちゃんと頂いた。
聞けば、このお宿はそもそもラエン領の持ち物だから戦時に際して一部の部屋を接収して彼女や彼女の父であるエルネスト様。私のお祖父様やお祖父様の息子で次期当主であるジャン伯父様(お父様のお兄様)も泊っているんだそうだ。
「・・・すごい。」
話を聞くと、コレットちゃんは自分からエルネスト様にお願いをして来たらしい。
就学を控えているし、母親からは窘められたらしいけど・・・
「…す、凄くなんてない…よ!お、お父様がお母様を説得してくれたお陰だ…し…。」
「・・・エルネスト様が?」
「う、うん。お、お父様は…私が行きたいって言わなくても、連れて行くつもりだったみた…い。わ、私は…いずれラエンの盾にならなければならない私は、戦場を…い、命の奪い合い…を。知らなければならない…って。…お、お父様がお母様を怒鳴る姿なんて…初めて見た…の…」
「・・・」
「わ、私ね。ま、魔女様のフォニアちゃんに自慢できるほどじゃないけど…ぼ、防御魔法が得意な…の。だから…騎士になるの。大好きなラエンの盾になるの。絶対。私の瞳と喉は、そのためにあるの。…絶対。………い、今は…どんくさいけど。それを治したくて、強くなりたくて…学園に行く…の。」
彼女はまだ11歳になったばかりの女の子だ。それなのに、こんなに強い想いで将来を考えているなんて・・・
「・・・凄い。凄いよコレットちゃん。・・・カッコいい。」
誰かの盾になりたいだなんて・・・そんな事。考えた事も無かった。
「ふぇっ!?ま、魔女様のフォニアちゃんの方がずっとずっと…ずーっっと凄い…よっ!…か、カッコいい…よ!!」
私はこれまで、ただ自分の為に唱えて来た。
たぶん・・・これからも。
でも、この子はそうじゃないと言う。誰かの為に唱える・・・それはとても尊い事のように思う。
「・・・ねぇ。コレットちゃん。」
「う…ん?」
「・・・どうしてラエンの盾になりたいの?」
「それは…好きだから…かなぁ?」
「・・・好き?」
「うん。…あのね。ラエン湖って湖があるんだけど…知って…る?」
「・・・もちろん。」
ラエン湖は領都ラエンに面した風光明媚な湖だ。私もゴーレに向かう途中、通り道として立ち寄ったけど・・・澄んだ水を湛えた美しい湖だったことを覚えている。
「ほんと!?嬉しい…なっ!…それでね!ラエン湖の周りってずーっと小麦畑が拡がっててね。金海の月になるとね。小麦の金色が湖に映って、とっても。とーっても綺麗なの!…波がね。風に揺れる小麦の穂と重なってね。一斉に、ざわわーってなってね。とっても…泣いちゃうくらい…綺麗なの。………だから…あの湖と、あの小麦畑と、それを育んでくれる民が…私のたからも…の…」
林檎です。
正しい包まれ娘 コレットちゃんの登場です!
キュン死す・・・
さて、それはともかく!
次回のお話ですが、本編の前に説明用の閑話を1話挟みます。
ですので、明日(21/10/30)は2話投稿となります。
閑話の内容は【リブラリアの地図】・・・【ピクチャー】としての【地図】です。
もっとも・・・素人がフリーのお絵描きアプリで描いたものなので、大したものではございません。あ、あまり期待しないで・・・下さいね?
もちろん、飛ばしていただいても大丈夫です。
以上!
メタ連絡でした!!
ここまでお読みいただきありがとうございます。
ご評価、ブクマ、ご感想頂ければキュン死す・・・
なんちて XD
・・・よろしくね!




