Chapter 003_学院教授(代理)
林檎です。
本話、結構長めです。ご了承くださいませ X'<
漢字ミスを発見!?
改稿しました!!申し訳ありません―!!(21/10/27 21:00)
さらに見直して。ちょっと改稿してみました。(24/09/16 09:20)
・・・よろしくね。
「・・・私の講義はこれで終了です。続きは師匠・・・ローデリア様がやってくれる(かもしれない)ので。師匠から聞いて下さい。それでは、ごきげん・・・」
「ちょっと待ったぁーー!!」
「・・・う?」
今日で講義は最後…
僕らの天使フォニアちゃんから半月ほど前にそう聞かされてから、僕達はいろいろと準備をしてきたのだ。
「フォニアちゃん…先生っ!いままでありがとうございました!!」
「「「「「ありがとうございました!!」」」」」
「・・・う!?」
「未就学児のフォニアちゃんに学院で講義をやれ~…なんていう、ローデリア様の無茶ぶりに応えてくれたうえ…」
「とっても分かりやすくて楽しい講義をしてくれた貴女様への感謝のしるしと!」
「唱えた通りの未来をお祈りして…」
「ささやかながら、お別れ会を開きたいと思いまーす!!」
…ここ。オクタシア魔導学院…通称“学院”…はリブラリア最高峰の
魔術教育に特化した学校だ。
研究機関であるオクタシア直結であり、
エディステラの学園と違って入試もカリキュラムも無い。
お金さえ払えば誰でも所属できるし、講義を聞く事もできる。
年齢制限だってない。
だから貴族が見栄を張る為にフォニアちゃんくらいの子供を通わせる
事もあるし、特に何の研究もしないまま院生で居続ける人もいる。
ここは・・・所属する事が重要な学校じゃなくて、
自主的に何かを成す事が重要な学校なのだ。
「・・・あ、ありがと・・・」
それは講師陣も同じ。だから講義の内容にも”かなり”ムラがある。
やる気も内容も千差万別。
けど、すべての教授と準教授が講義の開講か、論文提出を求められている(流石に講師陣は仕事をしないと辞めさせられる)から…そのどちらか。あるいは両方を選択している。
そんな学院の中でただ1人。講義もしなければ論文も出さないけど、ずっと教授で居続ける人がいる。
それが…煉獄の魔女様。ローデリア・クニャージ・ドゥーシ・マチェニフスカ様だ。
この人が辞めさせられないのは、ひとえに魔女の名のおかげ。
魔女様は元学院生で、学院に所属しながら軍に務めて(仕事をしながら
院生になる人も多い)いたらしい。
そしてその最中…魔女となられた。
これは魔導研究の最高峰を謳っておきながら数十年
魔女・魔術師を輩出できずにいた学院にとって
願っても無い大事件だった。
学院関係者はあっという間に魔女様を教授に…学院の顔に仕立て上げた。
教授になった後のローデリア様も、最初のうちは気まぐれで
講義をしていたらしいけど…ここ数年はまったく顔を見せていない。
けれど、1年ほど前。
突如として魔女様が講義を再開すると張り出され
学院が沸いたのだった…
………
……
…
「おぉ~い!バージェチカ!」
「…ん?あぁ…セーニャか。」
「お前も行くのか?魔女様の講義!」
「まぁなー。」
僕はもちろん。おそらく…現在の学院に所属するほとんどの者は魔女様の講義を聞いたことが無いだろう。それほど長い期間、あのお方は講義を開いていなかったのだ。
「噂になってるもんな!!」
「“伝説”だもんなぁ…」
けれど、魔女様の講義は中々に面白くて人気だったという“伝説”(この学院は何でもかんでも、すぐに”伝説”に仕立て上げる)が残っている。
「魔女様の講義なんて初めてだよなー!…何年振りだっけ?」
「たしか…9年ぶりとか書いてあったか?集まった全員が初めてだろう?」
「ちげぇねぇ!」
そんな経緯もあって。
魔女様による伝説の講義を聞こうと集まった者で大講堂は超満員。
「うわっ。立ち見かよ…」
「仕方ないだろ…」
席に空きは無く。僕とセーニャは講堂入り口の脇に見つけた隙間に身を寄せ
その時を待った…
「バージェチカは…魔女様。見たこと有ったっけ?」
「いや…お前は?」
「オレは一回だけ!軍の公開演習を見に行った時にな!超カッコいいお姉様で…」
セーニャの自慢話が始まりかけた…その時。
『カ―ンッ…カーンッ…』
「…おっ!」
「やっとか…」
はじまりを告げる鐘が鳴り…
「・・・」
「「「「「…?」」」」」
1人の…亜麻色の三つ編みを結わいた。よくは見えないが、暗い瞳の色をした小さな女の子が壇上に立ち…
「・・・こんにちは。始めまして。フォニア・ピアニシモと申します。ご機嫌麗しゅうございますか?」
見た目に似合わず大きくてよく通る声(後で聞いたら、この時は魔法で声量を上げていたらしい…)で…
「・・・本日はローデリア教授の講義にお集まりいただきありがとうございます。ですが・・・皆様に残念なお知らせがあります。」
…唱えた。
「・・・私の師匠・・・ローデリア教授は本日の講義をボイコットしました。」
「「「「「はぁっ!?」」」」」
「・・・そして私を代理に立てました。」
「「「「「「はぁぁぁ~~~!?!?」」」」」
講堂が呆気にとられたのは言うまでもない。
そんな中、およそ教授の代理などできそうもない少女は言葉を続け…
「・・・いちおう。私は師匠から魔法の手ほどきを受けておりますし、師匠と行動を共にした経験があります。少なからず、魔法には自信があります。若輩者ではありますが・・・私でよければ。皆様の研究のお手伝いをさせていただきたいと思います。・・・代理とはいえ、教壇に立つ以上。頑張らせていただきます。」
じゃ、若輩者というか。なんというか…
そんな少女の言葉に呆れ、数人が講堂をそっと出始めたその時…
「・・・言葉だけでは信じてもらえないと思いますので。1回だけ唱えますね・・・」
彼女はそう言った。
少女は見たところ7~8歳なので…魔法を宿している可能性はある。
けれどオクタシアの講堂で子供のお遊戯を見せつけられても仕方ない。
それに、ローデリア様の弟子なんて…
「・・・ん。しょ・・・」
…とても信じられない。
「はぁ…」
僕も…
そう思って立ち上がろうとすると
「お、おい…」
すぐ隣から。声が…
「ローデリア様を…”師匠”って。言ったよな…?」
少女を見つめたままのセーニャが静かに。そう言った…
「…言ってたな。」
セーニャは魔女様に憧れて第3大隊を目指している…そこそこ真面目な奴だ。
だから…その少女に興味を持ったセーニャに興味を持った僕は、もう少し講堂にとどまる事にした。
「軍にいるうちの兄貴が言っていた。ローデリア様には確かに弟子がいるって…」
「そうなのか?」
そう言われてみれば…1か月か、ソレくらい前に。
ローデリア様に弟子がいるという噂を耳にした記憶があった。
ただ、見栄を張って“そう”自称する奴もたまに居るので
気にしていなかったが…
「…らしいぜ。ほら。一昨年…だっけか?ローデリア様がクルリ湖の水龍の番を撃破したってニュース。知ってんだろ?」
「もちろん。大ニュースだったからな。」
【クルリ湖】はドワーフ王国にもほど近い超高難度ダンジョン【ベズイミアニの森】にある静かな湖だ。この湖に水龍の番が生息していたのは何千年も前から知られていたが、誰も手出しできずにいた。
ローデリア様はそれを…討伐したというのだ。
「その時、その弟子もクルリ湖についていったらしいぜ。」
「はぁっ!?…いや。だからってその弟子が何かしたわけじゃ…」
「オレの兄貴が第3大隊所属なのは前に話しただろう。その龍は…魔女様と魔女様の弟子がほぼ2人で倒したって。」
「…い、いや。仮にそれが本当だとしても、その弟子があの子とは…」
「兄貴が言うには…魔女様の弟子は小さな女の子で、亜麻色の三つ編みと黒い…」
そこまで言ったところで
「・・・すー、はぁ~・・・『リブラリアの理第1原理』」
「「「「「!!!!」」」」」
教壇から聞こえたその声に講堂が静まり返った
『綴られし定理を今ここに』
それは、この場に集まる…魔女様に憧れる誰しもが知る
理の詩だった。
『煉獄よ』
呪文を暗記しても。魔法名を唱えても。
決してたどり着けない高みの華…
『万物に死を』
…魔導を志すものとして。
憧れないはずがない。
『万事に終焉を』
まさか子供が…そう思った者がほとんどだろう。
僕だってその一人だ。
『万感に忘却を』
…しかし。
誰もが足を止め耳を澄ましてしまったのは、
『炎と炎と炎の檻で』
よく通るその声故か…
弟子という言葉故か…
『永久をも熔かす絶縁の劫火』
…あるいは。
綴られし理を…せめて、瞳に映したいという。
本能故か…
「・・・エクスプロージョン」
「・・・これくらい・・・カナ・・・」
「あっ…」
「・・・う?」
「イ、イエ…///」
「?・・・」
「「「「「…」」」」」
「・・・・・・・・・」
「・・・では・・・特に質問もないようなので。講義を始めますね。先ずは・・・そうですね。師匠と共にクルリ湖の水龍の番・・・ツィーアンとツィーウーを討伐した時のお話を。魔法編成を軸に。」
それは、フォニアちゃんが魔女に命名される3日前の出来事だった…
…
……
………
「・・・もくもくもく」
「ねーねーフォニアちゃん!デュクサヌでのお話、聞かせてよ~!!」
「たしか…謎の巨鳥を倒したんだっけ!?」
「そうそう!フォニアちゃんが命名されるきっかけになった…」
「・・・もくぅ?」
「…」
フォニアちゃんの話は…噂に聞いていたローデリア様と同じく実践的で為になるものばかりだった。さらに彼女は講義の合間に適性属性ごとの特徴やクセ…本人曰く“属性あるある話”…を盛り込んで笑いをとるようなユーモアまで見せた。
噂を聞きつけた者がさらに集まり、講堂は毎回超満員。普段は閉鎖されている2階席と3階席まで解放され、職員が誘導に駆り出される程だった。…噂によると、オクタシアの元老院の連中まで聴講するようになり、密かにVIPシートが使われていたとか何とか…。
彼女は間違いなく神童だった。
その瞳には確かな理が映り、その喉は妖精たちに愛されていた。
未就学ゆえに断ったらしいが、オクタシアの教授職に勧誘されたのは…理のまま。
ファンも多かったし、“フォニアちゃんのお兄ちゃん会”という危ない愛好会や“フォニアちゃんのお姉ちゃん会”という過激な同好会まで現れた。
講義の続投を望む声も多かったが…彼女はその全てを進学の為に断った。
そして、そんな真面目な所も彼女の美徳とされた。
けど、彼女の最大の魅力は…何と言っても。
「…フォニアちゃん。ケーキまだあるよ?」
「・・・食べる!」
「はいっ。あーん…」
「・・・あーんっ!!んんぅ///・・・もっくもっく!」
食べ物を前にすると実年齢に戻る、この愛嬌だろう。
「おいロリコン!テメェ…」
「なに餌付けしてんだ!?うらやまケシカランぞコノヤロー!!」
「わ、私だって!!…ふ、フォニアちゃん。はい。あー…」
「・・・あーっ!」
「お、お嬢様っ!!そんなチョロい女になってはいけません!!貴女は騎士様なんですよっ!!」
みんなそれぞれ思惑はあるだろう。
僕だって彼女に講義を続けて欲しいと思うし、叶うなら彼女の研究室に入りたかった。
けど…
「…フォニアちゃん。学校…がんばってね!」
「・・・ありがと!」
「フォニアちゃんならヨユーよ!ヨユー!!」
「・・・んふふっ。がんばるね!」
「っていうか、行く必要ないんじゃ…」
「それは言わない約束だろう!?」
「・・・私はまだ子供です。師匠のお陰で冒険者の経験はありますが・・・それだけです。常識も知識も、半人前にもなっていません。だから・・・やっぱり学校には行きたいんです。」
「「「「「…」」」」」
…けど。ここまで真面目な彼女を引き留める事なんて誰にもできない。
「・・・私も頑張ります。だからみんなも・・・がんばって!」
どうか…彼女の未来に幸多からんことを!!!
そして伝説に・・・
林檎です。
次回からいよいよ懐かしい名前が沢山出てきます。
フォニアは無事に故郷ルボワへ帰れるでしょうか・・・?
フ、フラグじゃ・・・な、ない・・・よ?
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次もお読みいただければ幸いです。
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・・・よろしくね。




