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まほー(物理)  作者: 林檎とエリンギ
1st Theory
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Chapter 006_天使との出逢い①

「あっ…」

「・・・う?」「ん?」「はいぃ?」


それはある暑い夏の日の事。



「…っ!!」

「う!?お母様っ!?」

「お、おい!どうしたチェルシー!?」


朝食の最中、突然お母様が口に手を当てて立ち上がりそのまま外へ駆け出した!

どうしたの!?



「チェルシー!何処へ行くー!!」

「……お手洗いじゃ無いですかねぇ?」


慌てて立ち上がったお父様に対し、あくまでも冷静なデジさんは淡々とそう返した。

ずいぶん慌ていたように見えたけど・・・トイレ?

・・・そっか。



「・・・そっか。」

「そうですよぉ!…さ、お嬢様ぁ。お食事の続きを…」

「・・・ん。」


こういう事は深く追求しない方がいい。私も食事を再開することにした。

ちなみに、我が家のトイレはお外にあります。くしゃいからね・・・



「…へ?便所?し、しかし…ずいぶん慌てて…」

「きっとスグに戻ってきますよぉ。…暫く待ってみましょう。」

「し、しかしデシさん…」

「おんやぁ?旦那様は奥様のお手洗いを覗くようなご趣味がぁ?」

「!?そ、そんなわけ無いだろ!」

「では待ちましょう…」

「むぅ…」


さすがのお父様もそこまで言われて追いかけるつもりは無いだろう。しぶしぶ席に付いたのだった。


テオドール君。女の子にはいろいろあるのだよ。


いろいろと・・・ね。


・・・

・・






「ただいま…」

「チェルシー!」


戻ってきたお母様は少し青い顔をしていた。しかも…



「大丈夫か!?」

「あ、テオ。今は…」

「チェ、チェルシー!?オレは心配して…」

「大丈夫だから…。でも、今はごめんなさい。今は…」


駆け寄ったお父様を手で制し、お母様は俯き加減に「今は…」と繰り返した。



「・・・」


ひょっとして・・・



「…奥様ぁ。今日は教会へ行った方がいいですねぇ。」

「そ、そう…そうよね…」


教会・・・やっぱりそうか。デシさんの言葉に私も確信を持つ。



「教会!?そ、そんなに悪いのかっ!?」


この国・・・私の住むエディアラ王国において「教会に行く」という言葉には“お祈りをささげに行く”という意味の他に“治癒術を受けに行く”という意味がある。

今回は後者が目的だ。


教会にヒーラーがいる・・・というのは、ファンタジーではおなじみの設定。

人々の傷を治し病気を癒すという行為は確かに尊く、慈悲深く・・・そう。神聖なものだ。

でも実は、エディアラ王国で最大勢力を誇るこの“教会”・・・【ヒナ教】の教会堂で祭られているのは土属性を司る豊穣(ほうじょう)の女神【ヒナ様】。治癒(ちゆ)属性を司る神様は、また別の宗教が祭っている。


では何故、大地の女神様の元に治癒術師が?という疑問は尤もだ。これにはもちろん理由がある。


最大の理由は何といっても、ヒナ教がこの国だけでなく世界中で広く信仰されているから。

国や地域差はあるけど、それなりに大きい街なら必ず1つはヒナ教会があるという。


例えば【デュクサヌ経典(きょうてん)】という聖典・・・賢者が書いたとされる説教集。聖書みたいなもの・・・を国教として崇める【デュクサヌ・ウェーバル宗主国(しゅうしゅこく)】って国がある。全国民がデュクサヌ経典の信者・・・というか、経典を信仰する人たちが建てたのがこの国で、国民の信仰は篤く、経典を拠り所に清貧を重んじた慎まやかな生活を営んでいるという。

なのに、どういう訳かその聖都(この国の首都であり聖地)にも堂々とヒナ教会が建っているらしい。


ヒナ様は豊穣の女神であると同時に子宝の神様でもある。そしてお祭り好き。

産めや殖えや、祭りだわっしょい!大量生産大量消費のプラカードを高らかに掲げ、終わらない春を全力で謳歌(おうか)するパリピなヒナ様を質実剛健(しつじつごうけん)を美徳とする国に(たてまつ)って良いのか・・・(はなは)だ疑問である。


ちょっと脱線したけど、要するにヒナ教会は世界規模の組織ってこと。

だから出生率が極めて低い治癒属性使いを“探して”“集めて”“派遣させる”のに都合がいい。

治癒術を受けるにはお金がかかるから、ヒナ教会には莫大(ばくだい)な富が転がり込んでくる。そのお金を元手に優秀な人材を集まる事ができる。

そんなループを千年以上回し続けたヒナ教会は、結果として治癒術師をほぼ独占し・・・中堅国に匹敵する経済規模を持つに至ったのだそうだ。

・・・まさにヒナ様の()()()()()(唱えた通り:思う壺、計画通り、我儘を叶える・・・というような意味)。



「大丈夫だから…そんなに心配しないで。ちょっと診てもらうだけだから…」

「ちょっとって…」

「・・・教会・・・治癒術師様のとこ?」

「えぇ。そうね…」

「・・・私も行く。」


実はずっと行ってみたいと思っていた。

治癒魔法とはどういう物か・・・とても興味がある。



「フォニアちゃんも…?」

「・・・ん!」

「…よろしいんじゃ無いですかぁ?」

「そう…ね。…うん。フォニアちゃんなら…」

「・・・ん!お支えする!」


お母様。フォニアは頑張るよ!

頑張って世界の至宝、治癒術師様の奇跡の技をかっぱらってやんよ!

欲望のままに、貪欲に!!



「うふふ…お願いするわね…」

「・・・願われた!」


ま、お母様は重病で・・・なんてシリアス展開は無いだろうしね。

だって、お母様の症状には思い当たる節があるもの。

きっと、そういう事・・・



「よし!オレも…」

「ダメよ。」

「旦那様ぁ。今日は水路の整備について相談する大事な日じゃないですかぁ!ご近所様もお越しになるんですから、旦那様が抜けてはダメですよぉ…」

「・・・メ。」

「なん…だとっ!?くそっ!よりにもよってこんな日にっ!…水路の事なんかオレに聞くな!」


私に続いて声を上げたお父様には執行猶予無しで沙汰が下った。

水路は農家の生命線なんだから、ちゃんと相談してきてください・・・



「本当に大丈夫だから…」

「旦那様ぁ。そろそろ行かないとぉ…」

「・・・私がついてる。」


「ぐぬっ…チェルシ~…オレは心配だよぉ~…」


皆の説得にもめげず、お父様は粘った。でも最後は・・・



「…お願い。テオは…た、楽しみにまってて///」



・・・

・・
















「ごめんください…」

「・・・失礼します。」


ルボワ市のヒナ教会は規模が大きく、立派な3つの建物からなる。

こんなド田舎に尖塔(せんとう)まである教会堂と3階建ての寄宿舎(きしゅくしゃ)と入口に強面のおっちゃんが立っている治癒院の需要(じゅよう)があったのか謎だけど・・・一応、このルボワ市は世界的にも有名な【ルボワの森】というダンジョンを有するため人が多い。

怪我人も多いはず。

(もう)かっているのだろう・・・



「…誰もいないわね?」


近づいたとたん、すっごくイイ笑顔になったおっちゃんが開けてくれた扉をくぐると、そこは1列に椅子の並んだ長い廊下のような部屋だった。

たぶん・・・待合室のようなものだろう。


朝食後すぐに来たため、今はまだ朝と言っていい時間。

明るい待合室には誰も居らず、蝉の鳴き声だけが響いていた・・・



「・・・見てくる!」

「あっ!走っちゃダメよ…」

「・・・んー!」


門番のおっちゃんは何も言わなかったけど、扉を開けてくれたということは・・・診察時間のはずだ。

お母様にひと声かけて私は、正面の【治癒室】と書かれた部屋に駆け・・・



「・・・失礼します!」


ドアノブにジャンプして扉をガチャン!

勢いよく開け放たれた扉の向こうでは夢にまで見た治癒術師様が・・・



「・・・」

「もうっ!走っちゃダメって言ったでしょ?フォニアちゃん!…ごめんなさい治癒じゅ…っし…」


治癒室の真ん中にはベッド・・・診察台が置かれていた。

そしてその上には・・・



『ぐーっ…』


「…さま?」


ベッドの上というか・・・仰向けにのけ反り頭と片腕をベッドに乗せ、もう片手で両膝を抱え込んで寝息を立てる一人の美しい女性がそこにはいた。

・・・目の下には隈があり、表情は苦し気。涙の跡もある。紫がかかった長い髪もボサボサ。

ベッドに乗せた手にはお酒・・・ワインかな?・・・が握られており、部屋にはお酒臭さが充満していた。真っ白なシーツは赤黒いシミで汚れている。

そして周囲にはパンくずやお菓子。チーズなど、おつまみ(?)が散乱していた。

要するに・・・



「えっと…」

「・・・治癒術師って大変なんだろうね。」


ヤケ酒の後かな・・・


・・・

・・










「みじゅ、お…しぃ…」

「・・・それは良かった。」


治癒術師様はその後、呼びかけてもゆすっても起きてはくれなかった。

仕方なく私とお母様は彼女をもう一つの診察台に移して、マッパにして、体を拭いて、隣の部屋で見つけた服に着替えさせ、お部屋を片付けて、換気して・・・小一時間経ったところでグズグズと起き出した彼女に水を振舞って・・・今に至る。


「…ねぇ。聞いて…きいて下さいよ奥様ぁぁ。最悪だったん…ですよ!?」

「そ、そうなの…?」


水を飲んで若干回復したのか・・・彼女はお母様に絡んだ。



「そうなの…そうなのっっ!!そうなんですよもうっ!!聞いて下さい!!」

「えっ!?え、えぇ…」

「昨日は忙しくって、それでも頑張って仕事終わらせたんですよ!なのに…同僚がシチュー作ってくれたのに!食べようとしたのに!!…っ!来たの!使者が来たの、使者が!!不幸を運ぶ市長の使者が来たの!!パシリの分際でえっらそうに…デブ市長の胃が痛いから来い!だなんて…。テメーが来いよって言ったのに使者がしつこくて結局出張させられて!!シチューが冷めんだろっ!ってのに接待までさせられて!しかも自分の分だけ!!信じられる!?自分の分だけよ!!私の飯と酒は出さねーのかよ!?ふざけるなデブ!!…で、帰ってきたら急患4人も待ってたのよ!!しかも1人は虫の息!!なんでギリギリ生きてんだよ!!粘ってんじゃねーよ!!シチューはキレイに片づけられてたよ!!!」

「・・・大変だったんだね。」

「そーなの!ちょー大変だったの!!…って、お前に何が分かる!?子供のクセにっ!!私の気持ちなんて分かんねーよ!知った口きくんじゃねーよコノヤロぉー!!」

「うんうん…分かるよ。私も娘も分かってるから…ね?貴女は頑張った。大変だったね…」

「おくしゃま~~~!!!」


メンヘラちゃん・・・

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