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まほー(物理)  作者: 林檎とエリンギ
1st Theory
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Chapter 055_女子会

「…と、言うわけで。この子がうちの“元”セコンドで…バイトのフォニアよ。」

「あなたが噂のサリエルのお使いちゃんですね!初めまして!シャルロットです!」


街に帰った翌日。

昨日のうちにイレーヌから話があるから来いと言われていた私は家族と朝食をとった後、治癒院へと向かった。


お天気は冷たい雨。

もしかすると、お昼には雪になるかもしれない・・・そんな秋の深まる寒い日だった。



「・・・初めましてシャルロットさん。フォニアです。えと・・・私って噂になっているの?」


治癒院ではイレーヌから新しく本部から治癒術師として派遣されたシャルロット・バトンちゃんを紹介された。

握手を求められたから応えたけど・・・どうやら彼女は私の事を知っているらしい。

噂・・・になっているの?

というか。私は正規の治癒術師じゃないから【サリエルの使い】なんていう大層な称号も持っていないんだけど・・・



「それはもう!あのベルナデット様がベタ褒めしたって大いに噂になってますよ!!私もカルテを拝見しましたが…そのお歳で、あんなにも的確なカルテを書いたなんて信じられません!しかも、上級外科処置魔法まで宿しておいでなんて凄すぎです!!」

「あら?あのカルテを見たという事は…ひょっとして、あなたもベルナデット様の…」

「はい!…私はイレーヌ様の妹弟子にあたります!!」


あぁ・・・カトリーヌちゃんがらみか。

そういえば、領都ではイレーヌのお師匠様に診てもらうとか言っていたかも・・・



「ベルナデット様は…その。…相変わらず?」

「はいっ!相変わらずお歳を物ともせずに男性を翻弄(ほんろう)しまくっていますよ!!」

「あ、相変わらずね…」

「あははは…」

「・・・」


ベルナデット様とは一体・・・?

気になるけど、聞いたらイケナイ気がするから止めておこう・・・



「ま、まあ。それはともかく…シャルロットちゃんは巫女長が引き抜いてくれた逸材(いつざい)よ。確かあなたも…」

「…い、一応。」

「もうっ!一応じゃないわよ!!…フォニア。この子もあなたと同じ天才ちゃんでね。正真正銘、サリエルのお使い様よ!」

「・・・そうなんだ!」

「ま、まだまだ実践経験が乏しいですけどね…。それに、鎮痛魔法(カルマン)は大の苦手ですし…」


聞いた話によれば、知られている限り最高位の治癒魔法である【上級外科処置魔法(トリートメント)】を宿した治癒術師には【サリエルの使い】という称号が与えられ、それを持っている人は世界に数人だけなのだそうだ。

イレーヌもなんだかんだ言って高位の治癒術師だし、シャルロットちゃんに至ってはその数人のうちの1人・・・そんな逸材を引き抜くなんて、うちの巫女長どんだけ。という話し・・・



「何言っているのよ!頼りにしてるんだから!」

「が、頑張ります!頼られました…」


頼もしい助っ人が現れて良かったね!





「………ふぅ。それと…シャルロットちゃんの紹介の他に、フォニアにもう一つお知らせがあるわ。」

「・・・う?」


お茶を飲んで話題を変えたイレーヌが私に向き直りそう言った。

・・・お知らせ?



「えっと…」

「・・・?」


話しかけて来たのに言いよどむ彼女を(いぶか)しんでいると・・・



「…ほ、ほら。イレーヌ様。」

「う、うん………す〜、はぁ〜…よし。…フ、フォニア。私を診断して。」


何やら緊張した面持ちのイレーヌ。シャルロットちゃんに促されると、深呼吸してからそんな事を言った。



「・・・う!?どこか悪いの!?」


驚いてそう聞くと・・・



「そ、そうじゃ無いわよ!…と、とにかく診て!ほら!!」


イレーヌは頬を染めながら、私の手を自分のお腹に当ててそう言った。

不調には見えないんだけど・・・



「・・・?良いけど・・・『祈り込めて擁する』ダイアグノーシス。」

「…///」

「…どうです?どうです?」


真っ赤になって下を向くイレーヌと、明るい声のシャルロットちゃん。

2人の態度の理由は・・・なるほど。



「・・・おめでとう。イレーヌ。」

「あ…あり…がと///」

「おめでとうございます!!イレーヌ様!…お相手はどなたなんですか?」

「そ、それは…」

「・・・んふふっ。私は知ってる!」

「えぇっ!?教えて下さいっ!イレーヌ様ったら、肝心な事は…」

「わーわーわぁ~!!」


楽しい女子会は、まだまだ始まったばかり!


・・・

・・






……

………



「…どうぞ。」

「うむ。…すまんな。」


昨日に続きローデリア様は我が家へとやって来た。

でも…昨日までと違って、今日、この家には私しかいない。

フォニアの事で、1度2人で話をしてみたい…という、ローデリア様たっての希望を受けたからだ。



「…ふむ。メリーザか。…美味いな。」


お茶を口にしたローデリア様は、静かにそう言った。



「そ、それは良かったです…」

「これは…あの子が?」

「は、はい…。…ローデリア様にお出しするなら。と、、、」


レジーナ様の影響か、あの子はある時からお茶を集めるようになった。

商人からかなり買い込んでいるようなので、浪費癖が付いてしまったかと心配したけど…

レジーナ様曰く、フォニアちゃんの舌は確か…との事。

だから、将来の事も考えて、そのまま放置しているのだ。


…まったく。

誰に似たんだか………



「くっくっくっ…。チェルシー殿も苦労させられているな?」

「く、苦労と言いますか。その…」


フォニアちゃんには、“聞いていたような苦労”をさせられた事はない。

無理も無茶も言わない(欲しいものは自分で何とかしちゃうし…)し、殆ど駄々もこねない。お勉強も自主的にやっちゃうし、お仕事もソツなくこなしている。

あの子はもう…大人だ。



「心配…であろう?」

「………そう…ですね。」


そう。だからこそ…心配なのだ。

あの子はまだまだ子供だ。身体だって小さいし、経験だって、まだたったの7年分。

なのに心だけ…大人になってしまった。


時には周りの人に子供っぽい仕草や言葉を使う事もあるけど…あの子はいつも打算的で、何か目的があってそうしているのだと思う。

あの年で、もう1人の女なのだ。


でも、ときどき…私達だけに見せる仕草で、声で。子供らしく甘えてくる時もある。

抱いて。褒めて。とねだるあの子の言葉を疑ったら…私はもう、子育てなんて続けられない。


好きな相手にはとことん優しいけど、敵とみなすと容赦しない…それこそ、手段も問わずに徹底的に。


とても(いびつ)で不安定。

欲望に真っ直ぐで…しかも、それを叶える力も持っている。抑制(よくせい)の効かない、かわいい悪魔(てんし)


…それが、私の愛する娘だ。



「いつか…。あの子は大きな敵を作ってしまうのではないかと心配しています。あの子は…目立ちますから。」

「そう…だろうな。」


フォニアは私の自慢の娘だ。誰にも渡したくない。

もちろん魔女にだって。魔女なんかに…



「本当ならこのままこの街で…。あの子に何かあったら私は。私は…っ」


いっそ、

あの子の目蓋(まぶた)を縫い合わせて…

あの子の喉を締め上げて…



「…すまない。」











…………………………なんて…ね。



「………魔女様が謝ることなんて有りません。フォニアを…よ、よろしくお願いします。」

「…」

「ど、どうせ…たとえ禁止したとしても。あの子はきっと。あの手この手を使って。そう遠くない内に…この街を出てしまうでしょう。ルボワは…フォニアには、狭すぎますから…」


あの子は好奇心旺盛で、すぐに何処かへ行ってしまう。


変なとこばっかり似ちゃうんだから…

ほんと。困った子…



「…あの子を必ず。良き方に導くと…か、紙を介してやく…」

「や、約束なんて結構です!あの子はきっと、自分の瞳でその道を見つけます!ひと様におんぶにだっこするような子じゃありません!!」


ま、魔女なんかに負けるものですか!

私は、いずれ魔女となる娘の母親………なのだから。

負けない。負けられない!



「そ、そう…だな。失礼した…」

「っ…ご、ご無礼をお許しください!!」

「…いや、いいさ。きっと、チェルシー殿の言う通りだろう。あの子は…たまたま私を見かけたから、私を選んだに過ぎん。」

「…」


…うふふ。

あの子の負けず嫌いも私から…か。


………うん。

やっぱりフォニアは私の娘だ。

…うん。間違いない。


それが分かれば…

そう、信じていれば…


だ、だいじょう……………ぶ…



「…」

「…」


…うん。大丈夫。






「…そう言えば。」

「…ふむ?」

「そう言えばローデリア様。確か…貴女様にもご息女がいらっしゃるとか?」

「あ、あぁ。そうだが…あの子から聞いていないのか?」

「ご息女がいらっしゃるとは聞きましたが、それ以外は何も…。」

「そ、そうか。あいつ…」

「?」

「いや…なんでもない。で、娘の事か?」

「は、はい!…ローデリア様の娘さんともなると、お綺麗なんだろうなぁ…と思って。ご息女の…お歳は?お名前は?」

「…そ、そうだな。親バカな話ではあるが…綺麗な子だったと思うぞ。」

「うふふっ。親バカは私も一緒です!うちの子が綴られた中で1番可愛いと思っていますもの!」

「くくくっ…ま、それはそうだろう。親なら誰だってそうだ。…うちの娘は16歳。名前はペチュカという。」

「ペチュカちゃん!…可愛いらしいお名前ですね?でも…あれ?ペチュカ、ペチュカ…どこかでその名を聞いた気が…。………あ、そうだわ!確か、どこかのお伽噺に出て来る…雨の…妖精?」

「そ、そうだが…驚いたな。母国の地方に伝わる民話から採ったのだが、よくそれをご存知で…」

「うふふっ。…実は、私の母が民話や民謡の収集に凝っていて、その影響で…」

「なるほどな。そう言えば…あの子や、そのご令妹殿の名も古い言葉から採られているな。フォニアとロティア…【調和】と【巡り逢い】…といった所か?」

「すごい!確かに古語から採りましたけど、エディアラ風の名前にアレンジしているからか、気付く人は少ないのに…。ローデリア様、流石です!」

「くく…まあ、仕事の為に少しばかり古語を宿しているのでな…」

「じゃあ、じゃあ!来年生れる予定の…」


ローデリア様との楽しいおしゃべりは、お腹を空かせた家族が帰って来るまで続いたのだった…

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