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まほー(物理)  作者: 林檎とエリンギ
1st Theory
55/476

Chapter 053_教えてマイマスター!

「・・・すー、はぁ~・・・」


息を整えて・・・



「・・・んっ!『リブラリアの(ことわり)第1原理 綴られし定理を今ここに 煉獄(れんごく)よ 万物に死を 万事に終焉(しゅうえん)を 万感に忘却を 炎と炎と炎の(おり)で 永久をも()かす絶縁の劫火(ごうか)』エクスプロー「ストォォォーーーープッッ!!!」・・・・・・むぅ。」


雨の日が多い風雨の月にしては珍しく晴れた、静かな夜・・・



「こんのバカ弟子が!!」

「あいたっ!・・・むぅー!殴らなくてもいいn「いきなり成功させる奴があるか!!」・・・成功?」


焚火(たきび)の前でいつもの様に師匠から魔法を教えてもらっていた私は師匠の許可を得て、その二つ名の由来でもある煉獄魔法(エクスプロージョン)の練習をしていた。



「あぁ、成功だ!!本当に初見で行使する奴があるか、バカ!失敗しろ!!」

「・・・理不尽。」

「理不尽なのはお前の瞳と喉だ!!!」


詠唱の途中で師匠の表情が変わったと思ったら・・・どうやら、本当に私が行使できるとは思っていなかったようだ。

呪文は覚えたし、効果も理解したから多分できる。って言ったんだけどなぁ・・・



「はぁ…全く。お前の瞳はどうなってやがる?」

「・・・どうと言われても・・・」

「…いいか。当分、私が見ていない場所で火魔法を行使するな!分かったな!?」

「・・・う!?火魔法をっ!?・・・な、なんでっ!?」

「危ないからだ、バカ!!お前いま、魔力をしこたま込めていただろう!?あんな膨大な魔力を込めて暴走したらどうする!?」

「・・・むぅ~う~!暴走なんてさせないもん!!」

「唸るなっ!!!私がいいと言うまで無許可の火魔法は禁止!!…ついでに、他の属性もアレンジ禁止だ!!」


師匠はなかなかに厳しい。

あれはダメ。これはダメ。アレンジするな。最低限の魔力で行使しろ・・・


とにかく私に、徹底的に。基本の“き”の字を教え込もうとしてきた。


おじいちゃんはそんな事言わなかったし、イレーヌはむしろ私の意見を積極的に取り入れてくれていたから・・・思うがままに魔法を行使してきた私にとってそれは、とてもストレスの堪る事だった。



「・・・やだ!唱えた通りにしたい!!」

「そういう事は基本を身に着けてからやれ!!」

「・・・赤い炎なんて必要ないもん!」

「必要だ!!」

「・・・効率悪い。温度低い!環境破壊!!」

「お前はただ、有り余る魔力をぶち込んでいるだけだろうがっ!!」

「・・・出来るんだからいいんだもん!!」

「良くないっ!!すぐに干上がるだろう!!」

「・・・干物じゃないもん!!」


特にここ最近・・・そう。アラクネを倒してからというもの、師匠の教えは紙を重ねるように厳しくなった。

アレンジにしろ、火魔法にしろ・・・今日までは、禁止されていなかったのに!!



「はぁ…。いいか?お前の魔法は目立つ。そのままではいつか、誰かの目に留まり…利用されるぞ。…それでいいのか?」

「・・・」

「お前の魔法、そのものを否定しようとは思わない。魔力調整が完璧に成ったら好きに唱えればいい。だからそれまではいう事を聞け!!」

「・・・う~ぅ〜!!」

「そもそも…お前の中で出来上がっている定理を繰り返して何になる?それは修行になるのか?」

「・・・そ、それは・・・」

「気付いていないなら教えてやる。お前がやっている事は…ただの独りよがりだ!」

「・・・っ」


師匠の言葉はストレートで・・・そして、真理だった。



「普通は…私も含めて…魔法を宿すには長い時間がかかる物だ。それを一足飛びしているお前は大切なモノを取りこぼしている。」

「・・・大切な・・・モノ?」


「それは…挫折(ざせつ)だ。」

「・・・」


「上手くいかなくて、何が悪いのか探して、悩んで、見つからなくて、絶望して、それでも(すが)るしかなくて…だが、どうする事もできず…挫折するんだ。…そしてある日突然。諦めた頃に唱えた通りになる…。…それが“宿す”という事だ。」

「・・・」

「お前はまだ挫折を感じたことが無いだろう?それで…どうする?その時が来たら…お前はどうする?」


「・・・・・・・・・わ、分かりま・・・せ、ん・・・」


「…だろう?だが、お前以外はみな、それを乗り越えて宿しているんだ。その時どうすればいいか…皆は知っているんだ。その点に関して、お前は誰よりも劣っている。」


「・・・・・・・・・・・・。」






「…いいか。お前の…そのアレンジした魔法は完璧だ。それは間違いない。」

「・・・」

「だからこそ、普通の魔法も覚えるんだ。…分かるな?」

「・・・・・・・・・はい。」

「焦る必要はない。ゆっくりと…時間をかける事も覚えるんだ。」

「・・・・・・はい。」

「それは必ずお前の力になる。フォニアだけにしか出来ない事と、そうでない事…私の弟子でいたいなら、その両方を宿してみせろ!このバカ弟子!」

「・・・は、はい!師匠!!」


師匠は私に、ただ魔法を教えようとしているんじゃない。私の未来を案じて、よき方に導こうとしてくれているんだって・・・分かる。

だから・・・



「…よし。では、改めて火球魔法の調整からだ!」

「・・・んっ!・・・すー『炎よ 侵略者なり』ファイアーボール!」


「今の火球…僅かに火の粉が散ったぞ?」

「・・・」

「無駄な魔力を込めるなと言っただろう!?」

「・・・はい。・・・ごめんなさい。」

「…やり直し。」

「・・・すー『炎よ 侵略者なり』ファイアーボール!!」


「誰が小さい火球を作れと言った!?教えた通り、こぶし大の大きさで生み出さんか!!」

「・・・ごめんなさい。」

「…やり直し。」

「・・・はい。」


・・・

・・






……

………


「・・・あ、ありがとう・・・ございました。」

「…ふん。…サッサと寝ろ。」

「・・・はい。お休みなさい。」

「…」



「…」


姐さんの、お嬢に対する指導は日に日に厳しくなっていった。

毎日毎日、火球火球火球…調整が甘い、言われた通りに唱えろ、アレンジするな…


直感的に魔法を行使してきたであろう彼女にそれは、多大なストレスになっているに違いない。夜の制限時間になる頃には、彼女はいつもクタクタで…



「・・・くー・・・くー・・・」

「…」


疲れ果て、寝床にたどり着く前にディミトリ様の腕の中で

寝息をたててしまうほどだ。

そんな彼女の姿は…可哀想ですらあった。



「はぁ~…」

「…お疲れ様です。姐さん。」

「…あぁ。」

「…」

「…」


姐さんの部下であるボクに言える事なんて何もない。

でも…


「…なあ、ガブ?」

「…はい?」

「私は…厳し過ぎるか?」

「…」


「正直に言って構わない。私も…悩んでいるんだ。」


姐さんが泣き言を言うなんて…



「お嬢は…そのままでも十分強いと思います。ボクやディミトリ様に合わせないように…と。そうおっしゃったのも、姐さん…ですよね…」

「そうだ…な。」

「なら…」

「だが、奴の魔法は明らかに異常だ。誰かの目に留まるのは時間の問題…いや。むしろ、今まで無事だったのが不思議なくらいだ。そうなる前に…」

「焦って…いるのですか?」


「そ………そう…かもしれん…」

「…ならば、連れて帰ってあげればよろしいのではないでしょうか?」

「しかし…」

「そもそも、姐さんもそのつもりだったのでは?」

「そ、それは…」

「きっと、お嬢は…そのつもりでいますよ?」

「…」


「あ、ディミトリ様!…お疲れ様でした。さ、お茶をどうぞ…」

「…」

「え?何の話をしていたのか…ですか?え~っと…お嬢の今後のお話をしておりました。」

「………」

「ミーチェンカ…お前もそう…思うのか?」

「…」

「ですよね!?」

「だが…こんなに厳しく当たっている私に、果たしてあの子がついて来るか…」

「…」

「そうですよ!ディミトリ様が仰る通り、駄々をこねたのは最初だけで…今はちゃんと、いう事を聞いているじゃないですか!」

「…」

「か、仮にだ!仮にあの子が付いてくると言ったとして………あの子の両親は…どう思うだろうか?」

「それは…ボクなんかより、姐さんが一番理解しているのでは?」

「うっ…」


普段の言動のせいで勘違いされやすいが…姐さんはかなり繊細な心の持ち主だ。

今はペチュカお嬢様の事があって、余計に…



「…」

「あはは!確かに!こんな弱気な姐さんは初めて見ました!」

「なっ!?…き、貴様等ぁ!!」

「お嬢は…フォニアちゃんは、かわいい…ですからね。…お気持ちは察します。」

「ぐっ…」

「…」

「そうですよ!ディミトリ様の言う通りです!いつもの姐さんらしくやればいいんです。あなた様は魔女様…なのですから。」

「…」


「…」

「おっと…そうですね。…姐さん。夜番はボク達が引き受けますから。姐さんもそろそろ…」

「…もう少ししたらな。」

「…」

「なぁっ!?…よ、余計な事を言うな!!誰が…」

「…」

「なっ!?ミ、ミーチェンカのようなロリコンにまかせられるか!?…わ、分かった。世話のかかる奴だな…まったく…」

「あ、あはは…」


何だかんだ言ってもお嬢はまだ子供。

本人に自覚はないみたいだけど…彼女を一人で寝かせて放っておくと、いつの間にか布団を抱きしめている。

…どうやら、抱き癖が付いてしまっているようだ。

そんな彼女が凍えてしまわないように、布団の代わりに抱かれるのが…



「では…後は頼む。」

「アイマム!頼まれました!」

「…!」

「お休みにゃさいませ!ご主人!」


泣く子も黙る、帝国軍第3大隊大隊長様の重要な任務だ。

抱っこ大好きフォニアたん(*´Д`)ハァハァ


・・・り、林檎です。



蜘蛛を巡る戦いも終わり、後は街に帰るのみ!と、なりました。


本小説には「脈略も無く目の前に魔王が降臨!」とか、「ローデリア様に突然追放される!?」とか、「出口に着いたと思ったら遺跡に飛ばされ…無限ループって怖くね?」とか・・・そんな展開は無いので。


お菓子でも召し上がりながら、のんびりお楽しみいただければ幸いです。






ここまで読んで下さり、本当にありがとうございました。


また次のお話も読んで下さると嬉しいです。

ご評価、ブクマ、ご感想いただければ、むせび泣いて喜びます。


・・・よろしくね :>

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