表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まほー(物理)  作者: 林檎とエリンギ
1st Theory
52/476

Chapter 050_戦いの行方

「う、う〜わぁ~…」


戦いの途中で雨は上がり、空は灰色の雲に覆われていた。

師匠に言われて旋風魔法(サーキュレーション)の効果を切ると、そこには・・・



「…」

「焼けにょはら…」

「当然だな。」


旋風魔法の効果範囲の関係で私達の周囲だけは元のまま土色をしているけど・・・その外は違った。

真黒に焼け焦げた広場には元が何だったのか分からない黒い塊が点在し、地面には同心円状に物が擦れた跡が残っていた。

当然、生き物など残っていない・・・



「・・・」


その上を踏みしめ、みんなで遺跡目指し歩いていくと・・・



「にゃっ!?皆様、あちらを…」


突然、腰を落として警戒態勢に入ったセドにゃんがそう言った。

その目線を追うと・・・



「あ、アレは…人?」


広場の先にはガルさんが言う通り、人が立っているように見えた。

けど、こんな場所にいるという事は・・・



「…」

傀儡(くぐつ)か…」


私達以外でこの森に入っている人などいないはず。となると・・・ディミトリ様と師匠が言う通り、アレは傀儡で間違いないだろう。

先程の闘いの序盤に私達に2つの魔法を放ってきたのも、きっと・・・



「あ、アレは…ヴァ、ヴァル様…」


ヴァル様・・・というと確か、

ペチュカさんの仲間の・・・



「…余計な事を言うなバカ猫。アレはただの…蜘蛛のおもちゃだ。」

「も、申し訳ありません!」

「・・・」


資料には、ペチュカさんの仲間であるヴァルラムさんはヴィルス帝国の現役・・・いや。除隊していたという書類がルボワのギルドに“わざわざ届けられた”らしいから、“元”軍人さんだ。

遠くて私には見えないけど・・・セドにゃんは、その面影に気づいたのかもしれない・・・



「…ローデリア大隊長!」


振り返って見ると、そう言ったのは師匠の前で膝立ちになり頭を垂れたガブさんだった。

普段とは違う険しい表情

師匠の事を【姐さん】以外の名で呼んでいるのも、この時がはじめて・・・



「…今は休暇中だ。その名で呼ぶな。」

「では、ローデリア閣下。」

「はぁ~…。…何だ?」

「…あの傀儡の始末。この、ガブリエルに任せて頂けないでしょうか?」


ガブさんは師匠の瞳を見上げて、真剣な声でそう言った。



「………」


前を向いたまま。ガブさんとは目を合わせずにその言葉を受け止めた師匠は、やや間を開けてから・・・



「…好きにしろ。」

「アイマム!」


そこは“アイマム”なんだ・・・


・・・

・・






「ふー…行くぞっ!」


ロングソードを抜いたガブさんは1つ息をつき、そして駆け出した



『保、ホホほ…炎よ侵略者なりぃ!ファイヤーボほぉール!!』


ガブさんが駆けだしたのとほぼ同時に傀儡は火球魔法(ファイアーボール)を行使!

さらに・・・



『あ唖~雨粒よho---』


パッと見では確認できないけど・・・背中かどこかに、もう1つの首でもついているのだろう。傀儡からは水矢魔法の詠唱も聞こえ始めた。

たしか、ヴァルラムさんの得意属性も・・・



「ふんっ!『林の願い 北の森を往く』ブレスっ!!」


そうこうしているうちにガブさんは目の前に迫った火球を、先ほどと同じように突風魔法(ブレス)で弾き飛ばした。



『ギきっ…頬捕捕Ю炎よ侵略者なりぃ!ファイヤーボほぉール!』

『ssssssssそそそそそなたは2時弐次虹の使者やややや、てて天下…から地へへへhhhh』


駆け寄るガブさんに傀儡は再び火球魔法を行使!さらに、水矢魔法(ウォーターアロー)も、あと少しで完唱してしまいそうだ!

すると・・・



「ぜやっ!ふー…」


ガブさんは途中で立ち止まるとロングソードで火球を弾き落とし、切っ先を敵に向けて深呼吸。

そして・・・



「『種の願い 彼の地を目指して』


唱え始めた。

風矢魔法(ブリーズアロー)・・・ってことは、もしかして!?


『血血血ぃ〜から空天へぇぇてて天!カラから地へぇぇ〜 ウォォぉータァァーーーーーアロォーゎ!』


直後、傀儡の水矢魔法が発現!

魔法印と共に現れた十数個の水の塊が矢のように先細りになって・・・



『いぃぃぃぃぃーーー!!』


一斉に放たれた!



「『青き森を往く』ブリーズアロー!!」


直後、ガブさんの風矢魔法が発現!

魔法印に空気が集まり、そして・・・



「射貫けっ!!」


一斉に放たれた!



「…!」

「にゃは!」


ガブさんの放った風矢は唱えた通り、傀儡が放った全ての水矢に命中!!空中で水飛沫を上げて弾けた!



「・・・す、凄い!」


あ、あんな精密射撃が出来るなんて・・・ガブさん、凄い!!

しかし、ガブさんの攻撃はまだ終わりじゃなかった!



「…次っ、射貫けっ!」


ガブさんは水矢の迎撃用とは別に、風矢を装填しておいたみたい。

風切り音を響かせる不可視の風矢は・・・



『ギャぎ!?』


傀儡に命中!!

後ろに吹き飛ばされた傀儡に、ガブさんが駆け寄り・・・



「ぜりゃぁ!!!」


傀儡の首を()ねた。更に



「っはっ!!」


剣の勢いを殺さないように、その場でターンしながら振りかぶって傀儡の背中をもうひと(なぎ)

最後に・・・



「…これで、終わりだぁ!」


いちど剣を引いて、今度は傀儡の胸に突き刺す!

その、流れるような一連の動作・・・



「・・・///」


め、めちゃくちゃ。かっこいい・・・






「…やったか?」


ガブさんが傀儡を倒したあと、私達も彼のもとへ向かった。

剣の血糊を払って鞘に収め、倒れ伏したままの傀儡を見下ろしていたガブさんだけど・・・途中からはしゃがんで、傀儡をあさっていたので・・・師匠は生死の確認をしていると思ったようだ。


「…はい。お嬢が教えてくれた通り、傀儡の首を刎ね、最後に蜘蛛本体…胸を突きましたので。…間違いないかと。」


近くで見ると、傀儡の胸には蜘蛛の頭がはみ出していた。コレなら本体も狙いやすかった事だろう。

それにしても、コレ・・・グ、グロいなんてもんじゃないね。

地上波ではモザイク付きだね・・・



「ガブリエル様。それは…?」


セドにゃんも気になったみたいだけど・・・ガブさんは剣を持たない左手から蜘蛛の深緑色の血を滴らせ、何か・・・紐のような物を握りしめていた。それは・・・?



「ん?あぁ…名標(めいひょう)だよ。ヴァルラムの…」


名標・・・ドックタグの事だ。



「…そうか。ご苦労…」

「…はい。」

「…」

「にゃ…」


みんな、いろいろ思うところがあるのだろう・・・



「…ガブ。燃やしてやるから退け。」

「…ありがとうございます。」

「ふー…『業火よ 炎をもって火の粉を払い 熱を持って熱を奪う 焦熱の獄炎』バーン…」


その傀儡は・・・師匠の藍色の炎であっという間に燃やし尽くされ、後には灰すら残らず・・・黒い地面だけが残された。



「…行くぞ」

「…アイマム!」

「…。」

「にやっす!」

「・・・・・・ん。」


この先に待っているのは、いよいよ・・・


・・・

・・










「これがアラクネの巣…ですか…」


そこから先、蜘蛛の襲撃が無いまま私達は目的のルボワの森の最深部・・・アラクネの巣である古代遺跡、セプテンアルケーに辿り着いた。


時刻は間もなく夕方になろうという頃。

雲は薄くなり、時折青空も覗き始めていた・・・



「…間違えようがないな。」

「…。」

「に、にゃ〜」

「・・・べたべたしそう。」


森の中、数十mの範囲は一面に渡って白い糸が張り巡らされており・・・糸の隙間に、微かに建物の一部が覗いているような有様だ。

また、周囲には一抱えもある大きな繭玉が点在しており、ここがアラクネの巣である事を如実(にょじつ)に物語っていた。


・・・アベルさん達から聞いていたより、ずっと巣の規模が大きくなっているみたい。

だからこそ、1万匹規模の襲撃を繰り返す事が出来たのだろう。

万軍の蜘蛛姫・・・という異名も頷ける。






「忌々しい…全て焼き払ってやる。」


師匠がそう言いながらレイピアを抜いた・・・その時だった。



「こ、こうさん…降参よ…」


繭玉の影から、ささやかな女性の声。

そして…



「っ!?」

「…!?」

「…お、お嬢…」

「…ぺ、ペチ……」


1匹の小さな子蜘蛛を抱いた・・・



「・・・アラクネ」


蜘蛛の頭から、女性の体を覗かせる1人の・・・いや。1匹の美しい魔物が・・・



「も、もう…やめ…て。…私達の負け、よ。もう、この子達をいじめるのは…やめて。」


雲間から射しこんだ夕日に照らされた銀の瞳から、夕日を反射する銀の雫を流しながら・・・現れた。

林檎です。


誤植がありましたので修正しました。

ご迷惑をおかけしました・・・ (22/07/18 -16:00)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ