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まほー(物理)  作者: 林檎とエリンギ
1st Theory
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Chapter 048_魔女の弟子

日中は激しかった蜘蛛たちの襲撃も夜になればいったんお休み。

アラクネはどうか分からないけど・・・タランテラは昼行性の生き物なのがその理由だ。

だから、こういう時こそ距離を稼ぐために移動するのかなぁ・・・と思っていたんだけど・・・

ローデリア様曰く


「余程面倒な相手で、急ぐ必要があるなら考えるが…そうでない限り、そんな事をする必要は無い。人間とて、夜は行動が鈍るだろう?休める時に休む…それがサバイバルの鉄則だ。」


・・・だ、そうだ。

経験者の言葉はためになるね。



「・・・『炎よ 侵略者なり』ファイアーボール!」


そして、夜は私の修行の時間でもある。



「…うむ。魔力調整はずいぶんマシになって来たな。」

「・・・ありがとうございます。」

「状況に応じて魔法を柔軟にアレンジできるのはお前の強みだが…だからといって基礎をおろそかにしてはいけない。そういう戦い方をしていると、持久戦や物量戦でボロが出る。…分かるな?」

「・・・・・・はい。よく・・・分かります。」

「どんな状況でも…例えば、自分が傷を負っていても。仲間が目の前で命を落とそうとしていても。…冷静に唱えられるようにならなければ、いざという時、本当に大事なモノを失う事になるぞ。」

「・・・」

「…そうらない為にも昨日教えた基礎練習を毎日繰り返すんだ。同じ魔法を、同じ数だけ、同じ魔力で、同じ強さで行使する…単純で退屈な訓練だが、この積み重ねが力になる。…分かったな。」

「・・・はい。」


世界一の火魔法使いから火魔法のレッスンを受けるなんて・・・こんな贅沢は無いだろう。

ローデリア様は、言葉は悪いし厳しいけど・・・でも。教え方は丁寧だった。


ディミトリさんがコッソリ教えてくれたところによると、ローデリア様は過去に教壇に立った事もあるらしい。教え方が上手なのは、そのためだろう。

でも・・・それにもかかわらず、これまで弟子をとらなかったのは、どうしてだろうね?






「しかし…お前の火はなんで、そう、蒼いんだ?余計なリソースを使うな。」

「・・・この方が威力が高いからです。これは譲れません。」


ま。それはともかく・・・今は修行に集中集中!



「威力が高い?…そんな炎、見たこと無いぞ?」

「・・・そんな事は無い筈です。例えば・・・薪を燃やした時、薪のすぐ上の火は青いです。・・・ほら。」


火は赤い・・・と思われがちだけど、それは・・・間違ってもいないけど、正確でもない。

火の色は燃焼時の温度が高くなると赤から青へと変化していくものだ。

つまり、火の色は赤い時もあれば青い時もある・・・という事。

ガブさんが番をしてくれている焚火も、よく見ると薪のすぐ上・・・温度の高い場所・・・の火は青くて、離れるにしたがって赤色に変化していく。

ローデリア様にそれを示すと・・・



「…ふむ。」

「・・・う?」


顎に手を当て思案顔になったローデリア様は・・・『ヒュッ』と発動子のレイピアを抜き、前に構え・・・



「…『炎よ 侵略者なり』ファイアーボール」


唱えた。



「・・・わ。」


するとレイピアの先には深い青・・・藍色の炎を纏った火球が現れたではないか!

1度完成された魔法のイマジネーションを変更するのは難しい・・・と、教えてくれた本人が目の前でそれを覆したものだから驚いた。

しかも・・・



「…発射。」


『バシュ―…ドゴォォォォォーーーーーーーーン!!』


「・・・わ!」


ローデリア様が放った火球は直径数mもある巨木を一撃でへし折り、そのまま木、全体を燃え上がらせた!!



「・・・もぉ!・・・『雨粒よ そなたは虹の使者 天から地へ 地から天へ』ウォーターアロー!・・・射貫け!」


行使したままジッと前を見つめるローデリア様の横で、私は慌てて水矢魔法を行使。

64本の水矢を雨のように降らせて消火した。



「・・・急に唱えないで下さい。・・・し、師匠・・・」


文句のひと言でも言ってやろうと思い、そう言うと・・・



「………」


ローデリア様・・・いや。師匠はレイピアを下ろしながら振り返り、じーっ・・・っと私の瞳を見つめた。

そして・・・



「…師匠…だと?」

「・・・そ、そう・・・です・・・けど・・・」


・・・うぅ。

なんか恥ずかしいのは何でだろう?



「………」

「・・・」


そのまま、じーっ見つめ合っていると・・・



「…はぁ。…好きに呼べ。」


ぼそっと・・・そんな事を言ってくれた。

なんと!総長こと、あのローデリア様がデr



「今の火球…明らかに威力が上がっていた。少々じゃじゃ馬で扱いづらいが…慣れれば何とかなるだろう。…まさか今更、さらに高みに上がれるとはな…。…一応、礼を言っておこう。」

「・・・い、いえ!・・・お役に立てて光栄です!!」

「それよりお前、よくこんな事に気付いたな?」


私の感動をよそに、師匠はそう言葉を続けた。

えぇと・・・



「・・・火を観察して気付いたんです。」

「…ふむ?」

「・・・魔法はアレンジが効きますが、より自然に近い姿・・・火魔法なら、現実の火にイマジネーションを近づけた方が魔力消費も抑えられますし、魔法現象のリアリティが増します。」

「…道理だな。」

「・・・どの魔導書にも、火魔法は【赤】と記載されていますし、師匠の瞳の色を見ればそれが真実だという事も理解できます。でも・・・別にその印象を魔法現象にまで及ぼす必要は無い筈です。・・・現実に青い火が存在し、温度も勢いも青い火の方が高いです。それなら、それをイマジネートしたほうが効率的だと思って・・・」

「なるほど…な。…うむ。お前の言う事は正しい。」


ご納得いただけたようで良かったです。



「…そういえば、お前が昼に発現した風穴魔法も消費魔力に対して異様に強力だったな。あれも何かを観察した影響か?」


あ、あれは・・・えぇと・・・



「・・・あれは・・・観察の結果じゃなくて・・・」

「ほぉ?」

「・・・何もない空間を・・・イマジネートしたんです。」

「…何もないをイマジネートした…だと?」

「・・・えと・・・はい。」


本当は具体的に超高真空空間を想起したんだけど・・・真空の概念がないこの世界でそれを説明するのは難しい。どうしよう・・・。

と、悩んでいると、タイミングよく・・・



「…フォニアちゃーん!そろそろお(ねむ)の時間だよー!」


ガブさんから声が上がった。

まだお子ちゃまの私は夜8時には寝ないといけない・・・という、ディミトリさんの断固とした意見を受けて、夜の修行には制限時間が設けられている。

もう、その時間のようだ。



「…だそうだ。…ほれ。お前はもう寝ろ。」

「・・・はい。お先に失礼します。・・・今日もありがとうございました。また明日もよろしくお願いします。・・・お休みなさい。」

「…あぁ。」


師匠にそう言って礼をすると、ちょうどディミトリさんが迎えに来てくれたところだった。

差し出された大きな手を握り、土魔法で造った寝床へと向かう・・・



「…」

「・・・う?そうなの?」

「…」

「・・・そうなんだ。・・・師匠がそう思ってくれていたら・・・私も嬉しい。」

「…」

「・・・ん!・・・ふわぁ~」

「…」

「・・・んぅ。・・・お休みなさい。」


また明日・・・


・・・

・・






……

………






「…ガブ。」

「はい?」


夜も更け、フォニアちゃんを寝かしつけたディミトリ様が焚火の下へ戻ってきたころ…

お茶を入れたカップを抱えたまま焚火を見つめていた姐さんがそっと呟いた…



「さっきのフォニアとの会話…聞こえていただろう?…どう思う?」

「どう思うか…ですか?そうですねぇ…」


少し考えてから…



「違うな…と、思いました。」


感じたことを素直に言葉にしてみた。



「…ほお?」

「ボクはこれでも…そ、そりゃあ姐さんや陛下には遠く足元にも及びませんが…魔法使いとしては、それなり以上の使い手のつもりでいます。場数も踏んできましたし、イマジネーションを鍛える訓練も沢山してきました。でも………あの子が言った“何も無い”なんて状態を風属性…いえ。属性に因らず…そんな抽象的で想像上にしかない現象をイマジネートした事なんてありません。当然ながら、そんなものを思い浮かべてしまうとうまく魔法が発現しませんから…。」


魔法のイマジネーションは具体的…自然6属性魔法は特に…なモノでなければならない…というのは常識だ。

けれどあの子は…



「しかし奴は現実に、あんな少ない魔力で、あそこまで強力な魔法を行使した…。具体的な、確固たるイマジネーションも無しにそんな事が出来るはずがない。」

「…彼女には具体的なイマジネーションがあった…と?」

「おそらく…な。」


まだ若かったころ、研究生としてオクタシアの魔導研究院に通っていたころに聞いたことがある。

魔女や魔術師になる者は総じて高いイマジネーション能力を持っている…と。

今回フォニアちゃんが発現した魔法は既知の魔法ではあるけれど、その結果は一線を越えており、また、そこに至る過程は常軌を逸していた。

きっと彼女の瞳には、ボクの瞳に映らないモノが…



「姐さん。フォニアちゃんはいずれ…」

「…さぁ?…どうだろうな?」


そう言った姐さんの顔は…



「くっくっくっ…面白い小娘だ。」


弟子の成長を期待しているものだった…

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