Chapter 047_森の戦い
「「(・・・)せーの!『蛇の願い 万事含みて 取り熟し 花の森を往く』エアポケット!!」」
森に入って2日目。天気は曇り。
「うーし!いいぞ、ガブ!フォニア!!そのまま抑えこんどけよ!!…『業火よ 炎をもって火の粉を払い 熱を持って熱を奪う 焦熱の獄炎』バーン!!」
ローデリア様ご一行はとにかく強かった。
セドにゃんが見つけた敵をガブリエルさんかディミトリさんが相手をして、ローデリア様がトドメを刺す・・・このルーチンワークだけで、ほとんど全ての蜘蛛の群れを数分内に倒してきた。
「やったね、フォニアちゃん!さっすがぁ!」
「・・・ガブさんもタイミング合わせてくれてありがと!」
「…うむ。大体片付いたか…。おい、セド!他はどうだ?」
「当分こにゃいっす!」
「ミーチェンカ、そっちは終わったか?」
「…」
私はいつも遊軍で、ガブリエルさんかディミトリさんのお手伝いをするのがほとんど。
たまに、ローデリア様と一緒に唱えたり、取りこぼしを始末することもあるかな。
あと、一番大事なお仕事として・・・
「…よし。それじゃあ…フォニア。仕事だぞ?」
「・・・ん。・・・すー『雫よ 天の恵を』ウォーターボール。」
襲撃のたびにローデリア様が起こすボヤを消火している・・・
「う~む!フォニアちゃんはさすがだねぇ!…最初は上手くいかなかったけど、もう完璧だ!」
戦いの後、歩きながらガブさんが先ほどの戦いを振り返ってそう言った。
彼の言う通り、最初のうちは私とガブさんやディミトリさんの呼吸が合わなかったり、私のイマジネーションが2人と違ったせいで上手く魔法が行使できない事もあったけど・・・何度かやっているうちに慣れて、上手く合わせられるようになったのだ。
「・・・ん!だんだん分かって来た・・・」
そう答えると・・・
「…フォニア。お前。もう、ガブやミーチェンカ…他の連中も含めて…積極的にはユニゾンをするな。」
「・・・う!?」
思わぬ言葉が斜め前から告げられた。
「え…。あ、姐さん。それはまたどうして…。なにかマズかったですかね?」
「…」
ガブさんとディミトリさんも顔を見合わせてそう訊ねる
折角うまくなってきたのに・・・それを止めろ?なんで?
「フォニアはお前ら2人に合わせてイマジネーションを塗替えている…そうだろう?」
「・・・ん。」
それは、まあ・・・そうですけど?
「フォニアのイマジネーションは既に完成の域に達している。今更、お前ら2人の中途半端なそれに合わせたところで学ぶことなど無いだろう。」
「うっ…そ、そう言われてしまうと…」
「…」
「・・・」
こ、応えづらいよ・・・
「…何のためにユニゾンという技があるのか…知っているだろう?」
ローデリア様はさらに言葉を続けた。ユニゾンとは・・・
「・・・魔法現象の威力を向上させたり、効果範囲を拡げる為」
「…そうだ。個人が保有する魔力は有限だからな。それを合わせれば必然的に効果の向上が見込める。…だが、それをするには術者達の呼吸とイマジネーションを同期させる必要がある。唱えるのは数人なのに、結果を1つにしなければならないのだから当然だ。しかし…真の意味で全員のイマジネーションを一致させることなど不可能だ。…分かるだろう?」
「・・・ん。」
生活環境や教育の違いで人の考え方なんて千差万別。当然、魔法に対するイメージだって異なる。
それを象徴するかのように、魔法発現時に現れる魔法印の模様も人それぞれ違うらしいし・・・発現させる魔法の効果も微妙に異なる。
製紙魔法だって術者ごとに違う紙が生まれているらしくて・・・鑑定士が見れば判別できるそうだ。
「…では、その異なるイマジネーションをどうやってすり合わせていると思う?」
多分・・・
「・・・魔力を消費して・・・」
「そうだ。…ユニゾンをすると“イマジネーションのすり合わせ”の為に魔力を消費する。非効率だとは思わんか?」
「・・・」
・・・確かに。
「お前が保有している魔力はその2人を足した量より多い。故に非効率なユニゾンにメリットなど無い。今後は私が魔法を選んでやるから、お前ひとりでそれを唱えろ。…ガブとミーチェンカはバカ猫と一緒に取り巻きの処理をしろ。」
「アイマム!」「…。」
「・・・は、はい。」
「それとフォニア。お前は込める魔力の量を半分…いや。3割にまで減らせ。」
「・・・う!?」
えぇー!?さ、3割!?
それだけじゃ、発現できるかどうかも怪しいよ・・・
「お前は保有魔力が多いのを良い事にバカバカ浪費し過ぎだ。少しは節約という物を覚えろ。」
うぅ・・・返す言葉もありません・・・が、しかし・・・
「魔力消費を抑えて、必要十分な効果を出せるように調整しろ。分かったな?」
「・・・でも・・・」
「“でも”じゃない。やれ。」
「・・・」
「返事は!?」
「・・・・・・はぃ・・・」
うぅぅ・・・
出来るかなぁ・・・?
・・・
・・
・
暫く後・・・
「…ご主人。レッサー8。ノーマル10。ジャイアント1。接敵まで30秒です。」
斥候のセドにゃんが音も無くすぐ傍の木の枝に現れ、そう告げた。
19匹の群れ・・・ちょっと数が多いかな。
どうするんだろう?と、ローデリア様の方を見ると・・・
「…ふむ。セドは斥候に戻れ。」
「にゃっす。」
「ガブとミーチェンカは手出し無用」
「アイマム!」「…」」
嫌な予感・・・
「フォニアは風穴魔法で蜘蛛をまとめろ。…いいか。ガブとユニゾンした時の“お前の持ち分”の3割だからな。」
「・・・うぅ!?」
えぇぇっ!?それって、実質1.5割じゃん!?
「ぼさっとすんな!来るぞ!一匹も取りこぼすなよ!!」
「・・・うえぇ・・・」
「返事は!?」
「・・・は、はいっ!すー『蛇の願い』・・・」
ど、どうしよう・・・
唱え始めたものの、普段の1割半の魔力で行使しないといけないなんて・・・
『万事含みて』
風穴魔法は風属性第4階位の・・・その名の通り、風の穴を生み出して周囲のモノを引き寄せる・・・吸引力の変わらない、ただひとつの魔法だ。
魔力を込めれば込めただけ効果範囲が広くなるし、吸引力も向上する。今回はジャイアントタランテラまでいるから、それなり以上の魔力が必要だというのに・・・要求に条件が相反しているよ・・・
『取り熟し』
節約・・・魔力を節約しなくては・・・
でも、効果がシンプルだから節約してもたかが知れているし・・・どうすれば・・・
『花の森を往く』・・・
あぁ、もう時間がない!
こ、この魔法は風の穴を生み出す・・・風の穴を・・・
風の・・・穴・・・?
・・・あ。そうか。
なら、こうすればっ!
「・・・エアポケット!」
完唱すると、蜘蛛たちが1秒後に到達するであろう場所に、微細な紋様の魔法印が発現!
「何あれっ!」
「…!?」
あれ、魔法印です。
魔法印は術者のイマジネーションの影響を受けて変化するもの。だから、同じ術者が同じ魔法を唱えたとしても状況に応じて変化するのが普通だ。でも・・・今回はガブさんとユニゾンした時とは全然異なる・・・風魔法なのに、緑ではなく。黒い色をした魔法印が現れた!
『パァンッ!!』
そして魔法印の隙間を蜘蛛が走り抜けようとした瞬間、魔法が効果を現した!
魔法印が一瞬、すべての魔物を飲み込むほど大きくなった後一気に萎み、それと同時に蜘蛛・・・だけじゃなくて、周囲の木々に茂る葉っぱや小石まで吸い込んだ!
「…ふむ。」
魔法印の中心に現れたのは極高真空空間。
物を吸い込む“空間を生み出す”のではなく、そこにあった空気を“消す”ことで、無から有を生み出す時に消費される魔力をほとんどゼロにすることが出来たのだ!
そのお陰で、ローデリア様が言った以上に・・・1.5割どころか、1割以下の魔力で行使することに成功したのだ。
「・・・わ!」
「フォニアちゃん!」「…!」
勢いが強すぎて私まで引っ張られてしまった!
けど、脚が浮いた瞬間、ガブリエルさんとディミトリさんが抱き留めてくれた・・・
「・・・あ、ありがと!」
私が2人にお礼を言っている横で・・・
「…『炎よ 侵略者なり』ファイアーボール!」
すかさずローデリア様が魔物の塊に火球魔法を行使!
ローデリア様の放った火球は風穴で紅蓮に爆ぜ・・・
「…もう切って良いぞ。」
「・・・ん。」
私が魔法を断つと・・・
「わ、わぁー…」
「…」
ポトリ・・・と。炎を燻らせる黒い塊が落ちて、地面で崩れたのであった・・・
「…ほれ。次に行くぞ。」
「・・・ん。」
・・・うん。
ローデリア様が言いたいことが分かった気がする。
要は“やり様”って事ね。
「…えっ!?そ、それだけ!?」
「…」
サッサと先に向かうローデリア様の後ろを、ととと・・・と、ついていくと。
他の三人も遅れて続いたのだった・・・




