Chapter 041_雨と炎
戦場は街の近く・・・みんなで造った、堀のすぐ側まで迫っていた。
「・・・すー『礫よ 穿て』グラベルアロー!」
水堀に架けた簡素な橋を渡った私は、まず礫矢魔法を行使!
「射貫け!」
生み出した128個の、小指の先程の小さな石英の礫を周囲の魔物めがけて一斉に射る!!
『ギッ…』
『ギギ!』
礫矢魔法は射程が短いし、他の【矢】系統の魔法より精度も低いけど・・・その分、発現が早くて強力だから、咄嗟に唱えるのにうってつけ!
礫は蜘蛛の甲殻を貫き、周囲の蜘蛛は一瞬で倒れた
「おわっ!?…って!フォニアちゃん!?」
「・・・ん!」
「おぉ!お嬢が帰ったぞ!!」
「やった!これで勝つる!」
「みんな!!お嬢が来たぞ!!」
「フォニアちゃん!!」
「待ってたぞっ!!」
「「「「「うぉぉぉぉーーーー!!!!」」」」」
すると、周囲にいた人たちが歓迎の声を上げてくれた。
みんな、待たせてごめんね!
「遅いぞフォニアァ!!」
「・・・ごめんなさい!お祖父様。」
少し離れたところでジャイアントタランテラと戦っていたお祖父様も、こちらに気付いたようだ。
「フォニア!お前は右翼へ向かえ!!」
「ロジェス様が苦戦しているのっ!助けてあげてぇー!!」
「・・・う!?」
おじいちゃんが・・・苦戦!?
お祖父様とクロエさんが指し示す右手を見ると、そこでは火柱が上がっているではないか!?
「・・・もしかして・・・傀儡!?」
「…分かったらさっさと行け!」
「頼んだわー!!」
「・・・頼まれた!」
私は急いでその場所を目指した・・・
・・・
・・
・
…
……
………
「来るぞっ!構えろぉっ!!」
蜘蛛たちの襲撃は激しいものだった
『『侵略者なり』ぃぃii~huΦハァアアーーボホゥウゥゥrrrrrr!!』
「た、耐えてぇえっ!!!」
「あちゃたたたっ…!!」
昨日の…1回目の襲撃では、お嬢様がほぼすべての魔物を無力化してくれたおかげで…お嬢様と冒険者2名の脱落だけで…乗り切ったものの。2回目の襲撃では多くのけが人を出してしまった。
襲撃が止んだ夜の間に治癒術師様が多くの仲間を救ってくれたけど…その時のショックで挫けたり、逃げ出した者も少なくなかった。
そして、人数が減ってしまったというのに…
「あぁ…また溶かされちゃった…『その身を呈せ 護れ』シールド!…もう、これで何個目の盾よぉ…。」
今日は朝から、大量の蜘蛛と多数の傀儡が現れた。
みんなで頑張ってはいるけど…
「新兵!突風合わせろ!!」
「へ、は、はいぃ!!」
「いくぞぉ!!」「はぁいぃ!!」「「…は、『林の願い 北の森を往く』ブレス(ゥ)!!」」
『ギギ…『iiiiiiiiiiiiiいWaい場茨の願い花の森を這う』ニードルぅ!』
「ぐっ!!流石に重いかっ!!みな、避けろっ!!」
「ぎゃあっ」
「2人とも大丈夫!?…て!?」
『ほhoohohohooooo炎よしし侵略者なりi』
「く、来るわっ!!伏せてぇ!!!」
「ΦhaアーボールゥUUÜЮū~!!」
「ぐわっ!!」
「きゃぁあっーーーーー!!」
私達の前に現れたこの傀儡が…とにかく強いっ!!
『ニードルぅ!「ぐぬっ!?」ニードリュ!「ぎゃぁっ!」にーdru!!「きゃあぁっっ!!」ni-$!!』
『HIHIHIHIHIhヒヒ日日比火火火の粉よwww技倭災い振り撒き痣字アザAZU仇と成せ ファイアーあろ~!!』
「ぐぬおぉぉ!!」「ぎゃっ!!」「あつっ!!あつつっ!!」
その傀儡は2つの首を供えたジャイアントタランテラの姿をしており、2本の前脚に白い糸で括り付けた剣と矢を発動子に仕立て、連続して魔法を行使してきた。
ジャイアントタランテラ自体が傀儡を操っているのなら、“まだ”良かったんだろうけど…先生が隙をみて、その顎に剣を刺したというのに何事も無かったかのように動いているのだ!!
たぶん…ジャイアントタランテラの何処かに傀儡を操作している別の蜘蛛が埋め込まれているのだと思う。
でも、それを探している余裕なんてない!
なにしろこの傀儡が宿しているのは…発現が速い木属性魔法と、殲滅力の高い火属性魔法なんだもの!!
「くうっ!!わ、わしらでは分が悪い!!」
「で、ですがここを抜けられると…」
「後続の多くは一般市民です!!私達でやるしかありませんっ!!」
先生とジャメルの風魔法はジャイアントタランテラにはほとんど効果を成さず、
私の金属魔法は発現が遅くて反撃のチャンスを掴めない!!
私達3人はこれでも、騎士団の中での実力は上位の筈だ。
けど…先生が言う通り、とにかく相性が最悪!!
『んーNoooooooooooooOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOコリ残火よぉ…』
「ま、マズいっ!!残火魔法だ!!絶対に発現させるなっ!!」
やられっぱなし…とは言え、なんとかこの場で耐え凌いでいた私達。けど、魔物も痺れを切らしたのか、ついに王級魔法を唱え始めた!?
残火魔法はその名の通り、魔法が発現した後もなかなか消えない炎を広範囲に広げる非常に厄介な魔法だ。
昨日は発現直後にお嬢様が魔法を食い止めた上、魔法の霜がまだ残っていたから大事には至らなかったけど…今回はそうじゃない。自然の雨じゃ役に立たない!!
後ろで市民が戦っている今、絶対に発現させちゃダメッ!!
「い、イエッサー…」「イエッサー!!」
ジャメルと2人、剣を手に駆け出すと…
『ふふふh…復讐の時は来たぁ』『ニードルぅ↑!』
「ぎゃぁー!!」
傀儡の2つ目の首が、呪文のキー(魔法名でもある)を唱えることで連射が可能…という効果を持つ棘魔法でジャメルを襲った!!
「ジャメルっ!!」
転ばされたジャメルに振り返った…瞬間!!
「いかんっ!!」
『ツー…2222222-..-.-…-つつつ募りし恨み』『ニードルぅ↓』「ゃ!?」
す、す鋭い棘が私の足を…
「っ…たぁぁああぁぁぁっっ!!」
貫いた!!
「あっぁっ…あぁぁっっっ!!!」
衝撃でのけ反ってしまったせいで…中途半端に棘から抜けた足から大量の血が流れ出した!!
あまりの痛みに…光景に!!
「あぁっ!アァァァ――――い、イタイ…痛いぃぃぃ!!!」
「ロクサーヌっ!!くそっ!!うぉぉぉーーーーー!!」
「せ、せんぱい!しっかり…」
私の視界は泥と赤に染まり…
『も桃桃⊿Ⓜも燃え上がらせるぅ』『ニードル→』
「ぜりゃぁっ!!」
「いやぁ…し、し…死にたくない、死にたくないよぉ!!」
『悔恨のh』『二―どぅ…』
「間に合ええええェェーーーーーーーーーェ!!!」
赤と黒が織成す視界の先に…先生の切っ先が蜘蛛下に縫い付けられた残火魔法を唱える喉に、あと、拳1つ分で届くのを目の当たりにした…その瞬間。
『ル』
「がはぁぁっぁぁっ!!!」
先生の剣を持つ右腕に…棘が!!
…さらに!
『炎ぉぉŌoh尾 スプリッドおおおおおおおおおおおおお!!!』
蜘蛛の魔法印が…発現っ…
『『ギキャキャキャキャ!!!』』
笑っているかの様に鳴く蜘蛛を頂点として、魔法印が扇形に拡がる。
それは、私達3人を飲み込み…皆の瞳を赤く染めた事だろう
「うそ、うそうそうそっ!!やだぁぁーー!!」
「ガハッ…ま、マズいぞぉ!!し、新兵ぇぇ!!倒れておる場合か!?…お、お前だけでもに、にげっ、逃げろォォォ!!!!」
「せ、先パイ!!せんせぇぇぇー!!」
「魔法だっ!!」
「逃げろっ!!」
「火魔法が来るぞォォ!!!」
人々の叫び。しかし…
『『ゲキャキャキャキャキャ!!』』
魔法印の後を追うように…私の足元にも!燻る赤い炎が拡がった!!
「ぐっ…」
「あぁ…そんなっ…そんなぁっ!!」
「あ…あ…あつ…熱いっ!!」
泥も雨も物ともせずに。魔法の炎は熱を放ち、足を焼き、雨粒を払い、異臭を伴って…私達を燻す煙を上げた。
『『グゲキャキャキャキャキャ…』』
「お、おのれぇぇぇ!!!」
「ぐ…あぁっ!!」
「あ、熱い…熱い痛いあついいたいーーーーー!!」
蜘蛛の生み出した棘もろとも…私の足は焼かれ
その痛みに…熱さに、苦しさに、惨たらしさに、雨に、炎に…絶望し………
「たすけっ…」
………
……
…
「スプラッシュ!!!」
高らかに聞こえたのは魔法の言葉
『ゲッ!?』『ギャ!?』
一瞬後。
蜘蛛の足元に現れた幻想的な青い魔法印から…極太の水柱が!蜘蛛の巨体と共に天へ伸びた!!
さらに…
「ぐっ…」
「あべべべ…」
「きゃうぅっ…」
吹きあがった水が雨と混ざり、滝の様に空から降り注いだ!
びしょ濡れになってしまったけど…そのお陰で。
「大丈夫っ!?」
魔法の炎は消し止められ、私達は…
「はぁ~…ようやくお目覚めか?寝坊助めっ。」
「おじょぉさまぁぁ~!!!助かりましたぁぁ~…」
「た、たすか………った…の?」
「・・・待ってて!すぐに終わらせるから!!」




