Chapter 040_束の間
林檎です。
本話、短めです。ご了承くださいませ。
「・・・・・・おとー・・・さ・・・ま?」
麦わら帽子、大きなぬくもり、汗のにおい、真っ赤な夕日・・・
「あぁ、オレだ。フォニア…頑張ったな。えらいぞ…」
お父様の背中で私はまどろんでいた・・・
「・・・みんな・・・?」
「みんなは残った魔物を倒してくるそうだ。…なに、フォニアが頑張ったから、あとちょっとで終わるみたいだぞ?」
「・・・・・・ちょっと・・・?」
「そう…あと、ちょっと…」
お父様の背中にスリスリしながら思い出す・・・
残りの・・・マモノ・・・あとちょっと・・・・・・
「・・・もう、おしまい?」
「そうだ。だから…頑張ったフォニアは、もう、おねんねの時間だ。」
「・・・・・・頑張った?」
「もちろんだ。今日のフォニアは…いや。今日“も”フォニアは頑張った。えらいぞ…」
「・・・んふふっ・・・褒めて。もっと褒めて・・・」
「ははっ。勿論だ。…フォニア、よく頑張った。いい子だ!えらいぞっ!!お前はオレの誇りだ!!!」
「・・・んふふふっ。・・・や、たー・・・。」
そう言って、おとーさまの背中に顔を埋めて・・・
「・・・ねむねむ・・・して・・・き・・・」
「…ほら。たっぷり眠るといい。」
「・・・でも・・・ま・・・」
「…もう…ニアは……だ。しんぱ…い…」
「・・・そっ・・・か・・・・・・・・」
「……だ…」
「・・・よ・・・った・・・」
・・・
・・
・
「…お、…ねー…まっ!」
「・・・・・・・・・ぅ・・・」
「おねーさまっ!」
「・・・う~?」
「おねーさま起きてっっ!!!」
「・・・う!?」
妹にゆすられて私は目を覚ました。
「あぁ、もうっ!ロティア!!お姉様は疲れてるんだから。起こしちゃダメって何度も言ったでしょ!!」
「でもぉっ!!」
「でもじゃありませんっ!…もうっ。」
気付けば、すぐ側にはお母様とデシさんも居るではないか・・・
「・・・お母様おはようございます。デシさんもおはようございます。・・・私は大丈夫ですから、どうかロティアを叱らないで下さい。」
「おはようフォニア。」
「おはようございます、お嬢様ぁ!」
「おはよー!おねーさまぁっ!!」
「・・・おはよ。ロティア。」
「…本当に大丈夫?無理しちゃダメよ?」
そう言いながらロティアをどかしたお母様は、起き上がろうとしていた私の背を支え、ペタペタとほっぺを触り、手櫛で髪を梳いてくれた。
気持ちいい・・・
「・・・ここは・・・おうち?」
「えぇ。…どこまで覚えてる?戦っている途中で眠っちゃったらしいけど…」
「・・・なんとなく。」
「そう…。フォニアちゃんの事は…その後、兵士さんが街まで連れて来てくれてね。…お家までは、テオが連れてきてくれたの。」
お父様が・・・
そういえば、夢現にそんな気がする・・・かも。
「・・・今は?」
「恵土の月の39日。…戦いの次の日ね。時間は…お昼ちょっと前かしら?」
「おねーさま、おねぼーさんだっ!」
「ローティーアー!いい加減にしないと怒るわよっ!」
39日の午前中・・・ということは、丸1日寝てしまったのか。
外が暗いから、てっきり夕方かと思ったけど・・・単純に、雨が降っているだけみたい。
ロティアが言った通り、とんだ寝坊だ。
「・・・魔物は?みんなは?」
「…」
そう聞くと、お母様は視線を外してしまった。そして・・・
「…まだだよ。まだ…帰ってこないよ。」
「・・・う!?」
代わりに妹が答えてくれた。
まだ・・・帰ってこない!?1日も経っているのに!?
「・・・まだ戦ってるの!?」
「たぶん…。ときどき大きな音もするの…」
「・・・いけない!行かなきゃ!!」
そう言って起き上がろうとすると、お母様が私の手をパッと掴んで、そして・・・
「…フォニア。行くのは………‥・と。止めないわ…。。。ただ…」
「お嬢様。ご飯とお召し物。ご用意しましたよ…」
「せめて。ちゃんと食べていきなさい。」
真剣な眼差しでそう言った。
「・・・はい。」
反論なんて・・・出来るはず無かった。
「いっただっきまーす!!」
「「「(・・・)頂きます!!」」」
「おねーさまは朝ごはんだけど、ロティア達はお昼ご飯っ!」
「・・・んふふっ。・・・ほんとね。」
私は家族と、ゆっくりご飯を食べて・・・
「・・・今日もスカートなんだ・・・」
「フォニアちゃんはかわいいんだからいつだってスカートよ!ズボンなんて…母は認めないわ!!」
「・・・いいけど・・・」
ゆっくり身支度をして・・・
「…」
「・・・」
「いいなぁ…ロティアも三つ編みにしたいなぁ…」
「…うふふっ。ロティアちゃんも髪が長くなったら…ね。」
「うんっ!」
「・・・ロティアも一緒?」
「おねーさまといっしょ!!」
ゆっくりと、お母様に髪を結われて・・・
「…フォニア。」
「・・・う?」
「………なんでもないわ。」
「・・・・・ん。」
「…」
「・・・」
「大きく…なったわね…」
「・・・・・・」
今日は赤いリボンでまとめられて・・・
「…おねーさま。また…行っちゃうの?」
「・・・ん。・・・ロティアもお家を守ってね。」
「うん…。また、帰って…来てね。」
「・・・もちろん。」
「お嬢様ぁ!今日はタップリ卵サンドを作っておきましたよぉ!…お腹が空いたら食べて下さいねぇ!!」
「・・・わ!ありがとデシさん!!・・・おいしそぉ!」
「お気をつけて下さいまし!…夕ご飯もたっぷり作ってお待ちしておりますねぇ!!」
「・・・ん!・・・楽しみにしてるね!!」
「フォニア。行ってらっしゃい。」
「・・・はい。行ってまいります。お母様。」
「…無理しちゃ、ダメよ?」
「・・・はい。気を付けます。」
そうやって家族に送り出され・・・
「・・・ん!」
降りしきる雨の中、戦場へと向かった・・・




