Chapter 039_一難去って
『ぶぶぶBBBβΒブぶりひぃ…ブリーズはろぉぉアローーーー!イ射射射居胃―――!』『ももも㎜mm%M燃え上がらせるぅuuuuuuu‥』
「か、風矢が…来るぞっ!!」
「避けろ避けろぉ!!」
「よ、避けろって…どうやってっ!?」
「ジグザグに走れ!!!狙いを定めさせるなぁ!!」
魔法・・・風矢魔法を完唱した蜘蛛の周囲には一瞬、小さな緑色の魔法印が複数浮かび、次の瞬間には風切り音が聞こえた。
「ぎゃっ!!」
「きゃぁっ!」
「ぐへっ!!」
「がっ!!」
「ちょっ!?ジルっ!!…あぁ、もうっ!!!」
逃惑う人たちが・・・次々と。見えない風矢に射貫かれ倒れてしまう。
全員意識はあるみたいだけど・・・すぐには立ち上がれない!
「・・・すー」
もはや一刻の猶予もない。
霜魔法を断ち、次の魔法に集中!
「・・・『老い錆らし囚人 大地の枷を外してやろう』
「なっ!?鉛弾魔法だとっ!?」
そう。おじいちゃんを倒したのと同じ・・・あの魔法!!
あの時と同じように、鉛玉を指と剣の間に挟んで・・・そう!短剣を銃に代えて!
『鈍光散らして敵を砕け』
「し、仕方のないヤツだ…まったく!!」
「…あぁ、先生までっ!?…も、もうっ!えいっ!!…ジャメル防御態勢よ!!馬捨てなさいっ!!」
「い、イエっだーーー!!」
「あぁ、もうっ!何やってるのバカっ!!さっさと立てぇ!」
でも、今回はひと味違うぞ!!
さらに、常時発動させている纏風魔法を短剣に・・・筒のように纏わせて、仮想バレルを生成!
「『その身を呈せ 護れ』シールド!!…先生っ。ジャメル!!これお願いっ!!」
「おぉ!盾か!!…助かるロクサーヌっ!」
「あわわわわっ!!!ぼ、ボクは武闘派では…」
「黙って持たんかぁぁ!」
「男だろぉ!!」
「はいぃぃ!!」
『閃け』レド・バレット!!」
『…悔恨の炎』スプリッドぉぉぉoooo怨温onÅ!!!」
私の魔法と、蜘蛛の2つ目の魔法が完唱したのは同時
『イイイィィィッーーッ…』
「ま、またそれか!?」
「えぇっ!?なにこれ!?…ま、回ってる!?なんでっ!?」
「ひぃぃー!」
円錐形の弾丸は今回も高速スピン!
仮想バレルが弾丸を覆っているからサプレッサーのように働き、少し騒音が抑えられているけど・・・敵に合わせて砲弾サイズにしたから、迫力満点!
「ま、魔法印がっ!?」
「来るぞっ!!は、離れろぉっ!!!」
「あぁぁ…ヒナ様ぁ!!」
蜘蛛の行使した魔法による魔法印も私達の所まで拡がり、地面に扇状に拡がった。
赤い魔法印からは赤い光がチラチラと燻り始め・・・
もう、時間がないっ!
『ィ゛ィ゛ィ゛ッーーッ…』
でも、準備できたのはこっちも同じっ!
いくぞっぉ!!
「・・・『種火よ』インジェクション!!」
原理は異世界の銃と一緒だ。
予め鉛弾の後端に弾頭とは別の薬莢を創り、種火魔法で引火させ、爆発の衝撃波をバレルで圧縮して、弾頭を・・・
「ふぁいあぁぁーっ!!!」
撃ち出すっ!!
『ドグゥォォォォーーーーーンンッッッ!!!』
手の平より大きな鉛弾は光となって、目には見えない筒を駆け抜け、音を切り裂き閃いた!
『キンッ…』
後に残ったのは発砲音と・・・薬莢だけ。
「きゃぁっ!!」
「きゃーーーっ!?」
イレギュラーな運用をしているせいか・・・本来無い筈の、魔法による反作用力を生み出した鉛弾は、その爆風で私を吹き飛ばし・・・隣にいたロクサーヌさんまでをも巻き込んだ
「きゃうぅっ・・・!?」
「なにをやっとるかバカもんっ!!」
「あうぅ…」
「だ、大丈夫ですかっ!?」
身構えていたおじいちゃんとジャメルさんは耐えられたみたいだけど、私は数m吹き飛ばされ、ロクサーヌさんはジャメルさんに凭れてしまった。
あ、後でごめんなさいします!!
でも・・・
「フォニアっ!今行くぞぉっ!!」
「はふぅ…。た、助かったわ…ジャメル。」
「い、いえ!それより…蜘蛛は?」
「…見て…みなさいよ。」
「え…えぇつ!?………あ、あれが、お嬢様の…。すごいっ…」
「えぇ…」
「・・・・・・おじい・・・ちゃん?」
「バカもんがっ!」
どうやら私は・・・吹き飛ばされておじいちゃんに助け起こされた・・・みたい。
「・・・ごめん、な・・・さい・・・」
「あぁ、謝らんでよい!」
「・・・クモ・・・は?」
たぶん、倒せたと・・・思う。
でも・・・
「…はぁ。分かっておろう…唱えた通りだ。」
「・・・・・・そう。よかっ・・・た・・・」
「無茶しおって…」
「・・・・・・ん・・・」
覚えているのは、ここまで・・・
・・・
・・
・
…
……
………
「…いい加減放しなさいよ。」
いつまでも私を…だ、抱きしめている新兵の肩を押してそう言う。
「ご、ごめんなさいっ!!」
「…。」
ペコペコ謝る新兵をよそに、守るべきお嬢様を見ると…
「・・・くー・・・」
彼女は細やかな寝息をたて
ナイト様に愛おしそうに抱き上げられていた…
「…よくやった。」
…まだ小さな少女に助けられてしまった事を不甲斐なく、そして悔しく思う。
でも、同時にこうも思ってしまう。
「…」
あぁ…これほどまでとは…
これでは仕方ない…って。
「お、終わった…のか!?」
「み、見ろよ。あの蜘蛛!」
「蜘蛛…って、跡形もないじゃないか…」
「フォ、フォニアちゃんって…や、やっぱりすごかったんだな…」
「いっぱい食べるだけの子じゃ…なかったのか。」
お嬢様の攻撃は常軌を逸していた。
私は金色の瞳を持って生まれたから…これまでにも、戦場で数えきれ無い程の鉛弾を撃ってきたし、他の人が行使する姿だって見てきた。
けど…お嬢様が放ったような、あんなやり方は…あんな威力の攻撃は…初めてだ。
鉛弾魔法はもともと強力な魔法だ。
無防備な相手ならほぼ確実に1撃で仕留められるし、そうでなくても深刻なダメージを与えられる。
上級の名に相応しい、決定打になりうる魔法だ。
でも、いくら強力とはいえ…相手が魔纏術を使えないとはいえ…装甲が硬い巨大な魔物を木っ端みじんにするような魔法では…無かったはずだ。
どうして回転させていたのか?どうして後になって点火魔法を行使したのか?…私には分からない。
そもそも、1つ目の魔法を行使中にもう1つの魔法を唱えたということは、同時に2つの魔法をイマジネートしていたという意味に他ならない。
そんな事…た、確かに。理論上は可能らしいけど、でも………
きっとアレは、お嬢様の瞳の…黒い瞳の成せる業に違いない。
…そう。
だから…仕方ない…
「フォニア先輩…マジぱねぇ…」
「3級の壁は厚いな…」
「さ、さすがにあれは要求されないと思うが!?」
「お、おいっ!それより…」
「みんなっ!き、気付いていると思うけど…」
「…あぁ。」
「…どうする?」
「どうするって…なあ?」
「これ以上、カッコ悪いところは…見せられないよな?」
「もちろんっ!」
「やるぞ、おらぁ!!」
「ね、ねぇ。ジュリーは…アベルは…ぶじ…。だよね?」
「…わからん。かなり飛ばされたみたいだからな。…二人も心配だが、今は…」
「…」
「今は、やるしか無いだろ…」
「あ、あの~…先輩?ぼ、ボクはどうしたら…」
「…馬をとって来なさい。」
「い、イエッサ!」
周囲の声に紛れ、新兵が私に声をかけてきた。
振り返らずに命令してから先生に歩み寄り…
「先生。お怪我は…お嬢様は?」
「…わしもこの子も大丈夫だ。だが…暫く寝かせてやろうと思う。」
「そう…ですね。…今、部下が馬を連れて来ます。先生はお嬢様と…」
治癒術師の下へ…そう出かかった私の言葉は
「…いや。わしは残る。」
その一言に消されてしまった…
「し、しかし…」
「まだ、やることがあってな…」
先生はそう言うと、お嬢様を私に託して剣を抜き…
「借りてくぞ…」
「…」
私の盾を拾い上げ…
「…お前らぁ!無事なら手伝えぇっ!!」
「「「「「先生!!無論ですっ!!」」」」」
「おねーさんも。頑張っちゃうよっ!」
「「「「「クロエお姉様を一人になんてさせません!!」」」」」
「…ふんっ!ジジイがしゃしゃりでおって…。貴様らも準備しろ。行くぞ…」
「「「「「「イエッサーッッッ!!!!!」」」」」
『フュブブブッ…』
「おぉ、チェス!よく戻った!…次はしっかり頼むぞ?フォニアの為にも…な。」
『ヒーヒュヒュンッッ!!」
大勢の戦友と共に深緑色の津波に再び向かった…
「…」
あぁ…その背中。
「…///」
「せんぱーい!!先輩のシュ…」
「ジャメル!」
「は、はいっ!?」
私だって…
「…シュリルをありがとう。」
「い、いえ…」
「あなたはお嬢様を治癒術師のところへ」
「えっ!?せ、先輩は…」
いくら鈍臭い新兵だって、お嬢様を預けシュリルに乗った私の思惑くらい分かるだろう…
「お嬢様を…頼んだわよ?」
そう言った私に、彼は…
「は、はいっ!頼まれました!!でも…」
「…?」
「…で、でもっ!!先輩も絶対戻って来てくださいね!!」
「 」
…生意気なヤツ
「ご武運をっ!!!ボクもすぐに戻ります!!」
「…」
振り返らず…け、剣を掲げて答えた!




