Chapter 012_古代戦争の行方②
「…んなぁっ!?こ、降伏しろ…だと!?」
終戦4日前
「・・・ん・・・」
エルフが宣戦してから約5,000年…
「…ふっ…」
…そう。5,000年。
細かくいうと4,920年だ。
毒花もまさか、これ程の長い間抵抗されるとは
思っていなかっただろう…
大軍団を送り込んでは。壊滅して帰っていく…という歴史を
凝りもせず。
数百年おきに繰返し綴ってきた…
「・・・」
…2日前までは。
「ふふ…、ふふふ…ふはははははー!!」
異大陸の魔女を名乗るこの小娘が現れるまでに
受けた我輩らの被害はカルチャクラの脚一本のみだった。
しかし、
9本残っていた脚は魔女の魔法によって凍てついた湖に固定され。
半分を魔女に。
もう半分をドワーフの鎚に
いとも容易く
持っていかれた…
「ははは…はぁ…」
さらに、
獣人の小娘に光を奪われたカリチャクラは、
それでも戦意を失わずに咆哮を上げたが…
…そのまま。
魔女の火魔法と、エルフの風魔法によって
瞬く間に炭に変じたのだった。
5,000年の長きに渡り、シアリア島を守護してきた
一匹の英傑が迎えた
あっけない結び目だった…
「…笑わせてくれるな。小娘…」
門前に立ちはだかるトリノプスが
どのように敗れたのかは…分からない。
…我輩は、陛下の守護をすべく
カリチャクラが崩れ落ちた瞬間、王城に駆け込んだからだ。
…しかし、
御前廻廊で最期の時を待つ我輩の耳に…そして全身に響いた
夜を震わす轟音と地響き。そして城を揺るがす衝撃から
巨体を誇るヤツもまた、倒されたコトを悟った…
「我輩…魔王国総裁にして【閻魔】の名を賜ったヤマラージャ・バルナプゼルプス・マルバス=クィリーン。…陛下の砦として。敵に背は見せぬ!!…傲るでないぞ小娘!!」
…カリチャクラもトリノプスも
己のすべきコトをした。
ココまでやって来たのが、魔女ひとり”だけ”
であるコトが何よりの証拠だ。
「・・・ん。・・・そう言うって分かってたよ。でも・・・ごめんね。主人に命令された以上。伝えないワケにもいかなくて・・・」
「主人…そうか。お主も大変だな…」
「・・・仕えるべき主人の為に戦える分。貴方は幸せよ・・・」
「ソレは………そう、かも。しれんな…」
「そうよ・・・」
“ふたり”は…本当に、善くやってくれた…
「…ところで小むす…魔女よ。」
「・・・う?」
「…名を何と?」
「・・・聞いてどうする?奴隷の名前なんて。どうせ、遺らない。」
「…そんな事はなかろう。命短し貴様らと違い。我輩は【不死】だからな…」
「・・・・・・・・・そう。ま・・・いいけど。私は“ドゥーチェ”っていうの。」
「ドゥーチェ殿…だな。心得た…」
「・・・忘れていいわ。“綴られし”ヤマラージャ総裁閣下。」
「ふっ…それは嫌味か?」
「・・・あら?・・・そう聞こえたのなら、そうかもね・・・」
「ふふっ…失礼な小娘だな。礼儀がなっとらん。」
「・・・お生憎。育ちが悪いものでね・・・」
「ふははは!」
「・・・もおっ・・・」
「…はぁ~…失礼した。ドゥーチェ殿。」
「・・・んふふふっ。」
「…うむ?」
「・・・んーん。ただ・・・仲間以外に名前を呼ばれるのも。悪くないな。って・・・」
「…そうか。」
「・・・そうよ。」
「あぁ…そうだな。悪くない…」
次は…
「…さて。お喋りはこれくらいに…」
「・・・ん・・・」
…我輩の番だ。
「すー…」
…長い戦いで荒れた廻廊には。
我輩と…
「はぁ〜・・・」
…魔女の息遣いだけが響き。
「…」
「・・・」
静寂
「「 」」
そして、
『ッ!!』
一気に踏み込み
「いくぞぉっ!!」
魔女に迫った我輩は
勢いをそのままに
『ズヴォ!!』
4つの腕から4つの戦斧を打ち下ろ…
『、』
「!」
しかし、
その時には既に黒い影はなく…
「・・・」
ガラ空きになった…
「っ!?」
脇腹に!?
だかっ!!
「さぁせるかあぁ!!」
迫る夜に、
「『林の願い』」
戦斧の柄を叩き!!
「『北の森を往く』ウィンド!!」
唱える!!
「っ!?」
…我ら魔族は自身の固有魔術で戦う者が多い。
種族に伝わるソレがもっとも効率的かつ、効果的。何より、
自身のアイデンティティの証明となるからだ。
「くっ・・・”普通の”魔法も宿してるなんて・・・」
…おそらく、魔女がココまで戦ってきた相手…各地に残る兵たち…も
そうしてきたのだろう…
「ふははは!何を驚いている!?貴様に…そして毒花にできて。我輩にできぬ道理はなかろう?」
…だが。魔法とはこの物語の定理だ。
条件さえ整えば必ず発現する。
“誰が、いつ”唱えるか?は、問題とならない。
ソレが理というモノだ…
「・・・ごもっとも。」
…さて。能書きはいいとして…
「…」
この小娘…ここまでの戦い振りからして、
素早さ重視の”魔法剣士”だろう…
「・・・いい突風魔法だった。でも、エルフの魔法を宿すことに抵抗はないの?」
「…理の前では、種族など些細な問題であろう?」
「・・・んふふふっ!私も、そう思うわ!」
素早さに関しては獣人の小娘(アレは…長い耳からして、兎の獣人だったか?)に
やや劣るものの、人間であることを考えれば
”化け物”と言っていいだろう。
【刀】(アムリム・ハムリム半島に暮らす晶のドワーフが拵たで”あろう”
ソレを持っている理由は、分からないが…)の扱いに関しても、
”達人”の域をこえている…と、言っていい。
「・・・そういう合理的な考え方。嫌いじゃ無いわ・・・」
だが…
「・・・でも・・・」
…コイツの。魔女の
一番の脅威は
「・・・でも。」
なんといっても…
「・・・勝つのは私。」
「こいっ!!」
「『林の願い 北の森を往く』ブレスっ!!」
速攻で放たれた魔女の突風は、
「くをぉっ!?」
我輩”のモノ”など話にならぬ…エルフよりも数段上の
颶風として…
『ドグォッ!!』
我輩と戦斧。おまけに、背後にあった柱を砕き
そのまま壁へ…
「・・・」
しかもっ!?
「んなっ!?」
剣を構えて先回りだと!?
「させるかっ!!」
唱えてる余裕はない!
腕を前に出し
「ぐっ!」
骨と筋を犠牲に
「むっ・・・」
一瞬の隙を作り!!
「いくぞおぉ!」
大上段に構えていた戦斧を振り下ろしながら!!
「「『『火種よ』』!」」
詠唱は小娘と同時!!
「「インジェクション!!!」」
発現も同時…だがっ
『ドグオォォンッ!!』
魔女のソレは陛下と見紛うばかりの紅蓮となり!
刀から爆ぜ!!
「ぐぬをおぉっ!!」
いとも容易く
我輩の腕を焼き落とし…
「っ。と・・・」
…一方で。
刀を手放し、
炎から逃れた魔女は
瓦礫に飛び降り…
「・・・『邪な願い』」
「!」
捕縛魔法だとっ!?
「まぁーじょおおぉーーー!!!」
戦斧を担ぎ上げた我輩は!
「『林の願い 北の森を往く』ブレス!!」
背に回した腕から
自身の背に
突風を!!
「させるかぁーーー!!」
加速し迫る!
「『原始のも』・・・う?わっ!わわ!」
迫る我輩に、
さすがの魔女も詠唱を中断し!!
「喰らえぇっ!!」
「わきゃあっ!?」
『ガギィン!!』
土煙の中
火花が閃き…
「・・・すー」
「!?」
ノーダメージ!?
「『礫よ』」
それどころか、
礫魔法だとっ!?
ならばっ!
「『湧水よ』!」
「うぅ!?」
コレで、
「スプリングうっ!!」
どうだっ!!!!
「きゃわっ!?」
湧水魔法は”入口のある容れ物”に水を生み出す魔法だ!
水魔法は他の属性魔法に比べ、発現にやや時間がかかるが…
…呪文の短さ故。魔女より先に発現!!
「えぇっ!?み、みず!?まさか・・・」
魔女は、
突然、足元から湧き上がった水に足を取られ…
「・・・c,crater(?)を”容れ物”に見立てたっていうの!?」
解らない言葉もあったが…おそらく、
我輩が戦斧で生み出した“窪み”を発現点としたコトに
驚いたのだろう!
「ふんぬをおぉっ!!」
そして、
「海もコップも。結局は水溜りさ!」…という
殿下の言葉を思い出して放った搦め手は
「しまっ…」
見事に魔女の意識を攫い!
『ブフオォン!!』
絶死の一太刀を!
「きゃあぁぁー!!!」
魔女に浴びせた!!
林檎です!
久々登場のドゥーチェちゃん!
フォニアと“見た目”は結構似ているのですが・・・性格は全然違うみたいですね。
“正統派”不幸な魔女様のご活躍、とくとお楽しみ下さいませ!
・・・ヤマ様との闘いは、次の話で
お終いだけど・・・




