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まほー(物理)  作者: 林檎とエリンギ
1st Theory
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Chapter 004_ただのよくあるお伽噺

さてさて、この【黒の物語】

ぶっちゃけ勇者物の、ただのよくあるお伽噺で、私の物語とは無関係だから端折(はしょ)ってもいいんだけど・・・リブラリア人の認識率70%を超える常識レベルのお話だから

かいつまんででも覚えておいて損はない。


・ ・ ・


むかーし昔の大昔。

人間はエルフ、ドワーフ、そして獣人と共に、魔族と戦っていました。

数で勝る連合軍に対し、魔法で勝る魔族軍の力は拮抗しており戦争は何百年も続きました。


長い戦争の中で人々は次々と魔族に捕まり奴隷にされ、二度と帰っては来ませんでした・・・


しかし、そんなある日。

アドゥステトニア(私が住んでいる土地の名前。アドゥステトニア大陸という。)の大地に1人の女の子が産声を上げたのです。

彼女は黒い瞳を持って生まれ、魔法の才に恵まれて全ての属性を宿し(魔法を使えるようになることを“魔法を宿す”と表現する。)、成長するとエルフよりも、ドワーフよりも魔法が得意になりました。

女の子は信頼できる仲間と共に次々と魔族を退け魔族の王様である魔王を倒し、長きに渡る戦争を終わらせ、世界に平和をもたらしましたとさ。


・ ・ ・


「めでたしめでたし…」

『パチパチパチ…』


お母様は真黒な表紙の薄い本をそっと閉じて、私に語り始めた・・・



「…どうだった?」


どう?と聞かれても・・・



「・・・なんで戦争を始めたんだろう?」


お伽噺にはよくある事だけど、物語のスタートラインが急すぎる。

異世界転生した私が言えた義理じゃないけど・・・



「えっ?…う、う~ん…何でかしらね?魔族は人間を奴隷にする悪い奴だから…じゃないかしら?」

「・・・人間も獣人を奴隷にしてる。」


リブラリアには現役で奴隷制度がある。

犯罪者に対する刑罰としての奴隷もいるけど、大多数は

獣人という種族に対して課せられる奴隷制度だ。


まあ、この話は別の機会にするとして・・・



「それは…」


このままだと話が進まなさそうなので・・・



「・・・何か、悪い事をしたのかな?」

「…そうかもしれないわね。」

「・・・ん。」


自分で聞いといてなんだけど、ぶっちゃけ

そんな事はどうでもいい。


お母様が言いたいのは、要するに・・・



「ま、まあそれはそれとして、フォニアちゃんの瞳の色は…」

「・・・その女の子と一緒。」

「そう…そうなのよ…」


黒い瞳なんて前世では何の自慢にもならなかったのに、

世界が変われば常識も変わる。


リブラリアにおいて黒は特別な・・・森羅万象の色



「フォニアちゃん。あなたが魔法が得意なのは、その瞳のせいよ。たぶん…間違いなく。」


瞳の色と適性属性の話を聞いたのはこの時。


網膜の色素は、なにワケ分かんない仕事をしているんだ!普通に遺伝しとけ!!


と、叫んでやりたい。



「瞳の色も、魔法が得意な事も…あまり人に知られちゃダメよ。」

「・・・なんで?」

「それは…」

「・・・それは?」



「…攫われちゃうから。」


リブラリアの魔法の才能は生まれ持った“運”に因る。

これは一見、貧しい者にもチャンスがあって、ファンタジーなステキ世界のように見えるかもしれないけど・・・現実はそんなに甘くない。


もし、地位も名誉も土地もお金も持っているけど、

魔法の才能に恵まれた子供がいなかったとしたら・・・どうする?


答えは簡単・・・買えばいい。



「・・・攫われちゃうの?」


これは後で知ったことだけど・・・リブラリアは養子縁組制度が

悪い意味で整っており。お金と地位があれば、見ず知らずの他人でも

簡単に家族に出来るそうだ。貴族が養子を迎える事なんて日常茶飯事。

養子を斡旋する専門業者もザラにいるらしい。


養子に迎えられた子供は大切に育てられるというから、人身売買・・・

とまでは言い切れない。現に、貧しい親が子供に幸せになってもらうために

養子に出す事も多いらしい。


貴族がやる事だから当然、それなりのお金が動く。必然的にグレーな方法に

手を染める人もいる。


過去には実際に、子供を誘拐・・・なんてことも。



「さ、さすがに無理やり連れ去られるなんてことは、そうそう無いと思うけど…とにかく!知らない人について行っちゃダメよ?お菓子をくれるって言われても絶対にダメだからね!」


何故そこまでするのかというと、魔法が生活に溶け込んでいるが因だ。

例えば丈夫な紙で重要文書を作る為に、例えば建築現場で、例えば農場で

そして戦争で・・・


魔法は日々の暮らしで利用され、人々に恩恵をもたらしている。

才能があれば重用もされる。


見栄とお金と名誉でお腹を満たす貴族にとって、その全てを手に入れる

金の卵である魔法使いは・・・赤子に唱えてもらってでも

(喉から手が出るほど。の意)・・・


欲しいに違いない。



「・・・気を付けます。誰にも見せません。誰にも付いて行きません。」

「えぇ。お願いよ…私の、可愛い子………」


そんな事言われて、ノーなんて言えないよ・・・






・・

・・・



「さぁ、今日も畑にいくぞー!」

「おー!」

「はい旦那様ぁ!」

「・・・・・・ん。」


そんな訳で、春のうららに陰キャな私。



「ほら、フォニアちゃんも元気出して…ね?」

「・・・・・・んぅ。」


私だって・・・空き地で思いっきり火魔法ぶっ放してみたいけど、

外に出ると人目を気にしちゃって、逆にストレスが溜まるから

最近はおうち時間の方が好き。


キノコ栽培でも始めようかな・・・



「…ごめんな。」

「・・・んっ!?んーん!・・・お父様のせいじゃないの。私の・・・」


あぁ・・・何も知らず無邪気に家の前を駆けまわってお母様を困らせていた

あの頃に戻りたい・・・


これじゃあ、資料室に籠って論文代筆のバイトに明け暮れていた前世と

変わらないじゃないか・・・



「…おんやぁ?旦那様ぁ、奥様ぁ。ご覧くださいまし…」

「ん?」

「何かありました?デシさん。」

「・・・う?」


鬱々とした気持ちのまま、帽子の縁からデシさんが指し示す方を見ると・・・


「・・・車輪・・・馬車?」


我が家の隣・・・今は誰も住んでいないと聞かされていたお屋敷の前に2頭引きの立派な馬車が停まっていた。

馬車には荷物が沢山括りつけられていて・・・お引越しかな?



「も、もしかして…」


両親には心当たりでもあるのかな?

お父様の足元でちょっとだけ顔を上げると・・・



「…うん?おぉ!テオドール!チェルシー殿!久しいな!!」

「「ロジェス様!!」」


「・・・う?」


馬車の影から一人のご老人が現れたではないか。




「お久しぶりですロジェス様!!ご機嫌ようございますか?」

「ご無沙汰しておりますロジェス・シェバリエ・ラングレ様!ご尊顔(たまわ)恐悦至極(きょうえつしごく)に存じます。ご機嫌麗しゅうございますか?」


「・・・わ!」

「お、お嬢様ぁ…」


ご老人に向かって駆け出した両親に慌てた私は急いでデシさんの後ろに隠れた。


お父様とお母様は興奮気味にそのご老人・・・ロジェス様?・・・に

挨拶を始めた。


久しぶり・・・ということは、

お知り合い・・・だよね?



「ははは!また要らぬ年はとってしまったが…しかし、ほれ!この通り元気だとも!2人も息災のようで良かった!」


快活なそのご老人は力こぶを作って笑った。

ご老人・・・とはいうけど、ずいぶん元気そうで若々しいなぁ。

肩幅もあるし、筋肉もすごい・・・



「ところで…それがあの時生まれた子供か?」


デシさんの影から、そっと観察していた私を見つけたご老人は

そう言った。



「はいっ!娘の…フォニア。ご挨拶は?」


相手は姓持ちの貴族・・・【シェバリエ】だから騎士位・・・様。

お父様に促された私は学んだ通り(下を向きつつ・・・)近づいて、



「・・・フォニアです。初めまして・・・?ロジェス・シェバリエ・ラングレ様。お会いでき光栄に存じます。ご機嫌麗しゅうございますか?」


リブラリア式の挨拶とカーテシーをした。



「ほぉ…」


すると・・・



「…まだ…2つか、3つの筈だろう?もう挨拶の作法を教えたのか?」


ご老人は腕を組みながら感心したように『ウンウン…』と頷いた。

正式なものは初めてだったけど、この反応を見るに

間違っていなかったみたい・・・



「は、はい!この子は物覚えが良くて…遊びで一回やって見せたら、覚えてしまったみたいで…」

「・・・」


お母様。私とは遊びだったのね・・・



「ふむ。なかなか賢い子じゃないか。どれ、瞳を見せてみろ…」

「・・・うっ!?」


ご老人が身を乗り出してきたものだから、慌ててお父様の足に駆け寄り、



「・・・ふにっ!」


ギュッとしがみ付いて顔を埋める



「いだだだだっ!フォ、フォニア!!」


えぇい、情けないぞテオドール!

いい年した男が幼女の腕力に悲鳴を上げるとは何事か!



「・・・ぎゅー!」

「お、折れるっ…」

「て、テオ!?止めなさいフォニアっ!!?」


毎晩お母様をいじめているくせに・・・


こんな時は情けなく声を上げるお父様に呆れ、

腕に力を込めていると・・・



「止めんか小娘っ!!」


(くだん)のご老人に



「きゃっ!?」


摘まみ上げられてしまった・・・



「・・・う゛―。」


いわゆる、首根っこ掴まれて『ぶら~ん・・・』の体勢である。

苦しいんですけど・・・



「まったく…おい!なぜ魔纏術を宿している!?教えたのか!?」


私を下ろした、ご老人は

崩れ落ちたお父様と、それを支えるお母様に向き直ってそう言った。


マテンジュツ?何それ?美味しいの?



「…い、いえ。まさか!」

「私もテオも、マテンジュツは使えません!教えるなんて、とても…」

「それもそうか。だが、となると…」



ご老人はそう言いながら私を見下ろし、そして…



「っ!?」

「・・・」


見上げていた私と目が合った瞬間、驚いた顔になり・・・



「なるほど…な…」


何やら納得したご様子。


・・・あれ?マズくない?

林檎です。


誤字報告ありがとうございますっ!

修正させていただきました。


・・・よろしくね(2022/05/10 20:45)


読みやすいように改訂しました!


よろしくねっ!(2023/09/09 22:50)

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