Chapter 011_古代戦争の行方①
「…フィリア!君は…な、なんてコト言うんだ!?」
翌朝。
天気は薄雲の広がる晴れ・・・
「・・・落ち着いてアメちゃん。私は・・・」
「落ち着け!?できるハズないだろっ!そんな…そ、そんなコト!信じられない!!」
ヤマラージャ様は花のエルフと繋がっている。
まだ、行動には出ていないみたいだけど・・・私達が彼らと接触したことも恐らく、スグに伝わるコトだろう。
本当は、
魔王級(魔族の中でも高位で、【不老】あるいは【不死】で、その種族の族長に選ばれるコトが多い。)の魔族がまだ沢山、生存している。
1万2千年前、
半島へ行くと言って聞かなかったアミちゃんを・・・
・・・聞いてもらえたのは。ココまで・・・
「はいはいアメ君!マシェリィにコーフンしちゃう気持ちは痛いほど分かるけど…でも。時と場所を選ぼうね。落ち着いて。まず、音量を下げようか…」
ちょっと怒った顔のフルートに
肩を押さえられ、諭されたアメちゃんは
「っ…」
バツが悪そうに下を向き
「で、でもっ!」
スグに私に迫り
「彼は!ずっとボクに…ね、姉様に!」
「・・・診断したわけでは無いので。ソコまでは・・・」
幸いなことに、
ヤマ様がエルフに報告にする頻度は低く。
さらに、そのやり方も“直接”会って・・・という原始的な方法のようだ。
だから、急いで対処すれば
まだ間に合う。
だから、”これから”どうするか?を、早めに決めて。
全員の意識を一致させないとね・・・
「…青チビ。」
「…え゛?そ、それって…ボ、ボクのこと…?」
「…他に居ないだろ。ソレより…」
ひどい言い草で話し始めたのはルクス。
ルクスも昨日の会談に参加していたから・・・何か
言いたいことでもあるのかな?
そう思って、注目すると・・・
「…ココロを読めるっつーコイツが言うんだ。疑う余地はねーだろ。」
・・・と。
加勢してくれたのだった。
だから私も、改めて
「・・・ソレにね。アメちゃん。」
アメちゃんを瞳の
真ん中に入れて・・・
「・・・もしかしたらヤマ様も。アメちゃんと同じかもしれない・・・」
「同じ…?」
「・・・何らかの契約を結ばされ。エルフに利用されているのかもしれない・・・」
「!?」
ウリエルによれば、ヤマ様のココロは
「利用…されている!?」
・・・私と、そして”彼女”と”彼女”に対する謝罪。
アメちゃんへの心配。「逃げろ」という叫びで
いっぱいだったという・・・
「・・・はい。嘘をつく一方で、アメちゃんの無事な姿にホッとした様子でした。エルフへ報告するコトにも葛藤があるようでした。」
「そ、そぅ…なんだ……そ、そっか…そっか!」
だから、
「・・・もし・・・」
アメちゃんが、もし・・・
「・・・もし、”殿下”が。あの方を全面的に信頼できると仰るのなら。」
まだ出会ったばかりの私達に“ソレ”は無理だけど。
“神話の時代”からの付き合いがある
アメちゃんなら・・・
「・・・次の機会に、ヤマ様を【診断】してみましょう。」
「診断…治癒魔法?」
「・・・ん。少なくともソレで。あの方の嘘が【契約】によるものなのか?【呪い】や【薬】によるものなのか?はたまた、本心からなのか・・・分かるハズです。」
・・・そう思って口にした
私の提案に
「…おい。」
最初に声を上げたのはルクスで・・・
「…そうじゃ無くたって疑われてんだぞ?治癒魔法まで見せて。もし、違っていたら…」
「・・・その時は・・・」
・・・もちろん。
「・・・倒すしか。ないでしょうね・・・」
・・・
・・
・
…
……
………
…
……
………
…
……
………
「…陛下。どうか、そう。気を落とさずに…」
人間と交渉するために半島に向かった殿下が
誰も予期せぬ形で”戦果を上げた”
とのニュースが飛び込んできたアノとき…
「…」
我ら魔王軍は一次的に勢を増したのだった。
…ソレはそうだ。
陛下と人気を二分する…しかし、”控え目”という
印象の強い…殿下が。単騎で。
有無を言わせぬ神域の魔法で
エルフの森を一つ。
大樹を一つ。
一夜で沈めた…とも、なれば。
発奮するのは当然だ…
「間もなく…も、もう間もなく!…お、お帰りになるに違いありませぬ!!」
しかし…
喜びは日を追う毎に冷め。兵の勢は鈍り。
唄声は小さく、自信は心配へと変わっていった…
同盟を組んだハズの人間は敵となり、
戦歴の筆はエルフの手に握られ、
森の緑が少しずつ拡がっていった。
まるで、ソレが理であるかのように…確実に。
着々と…
「…もぅ。あの子の笑顔を。青を。長い髪を見なくなって10年ぞ?堪えるのも。もぅ…限界。ぞ…」
陛下は弟である殿下を溺愛されていた。
殿下はご自覚が無いようだったがソレは、
誰の瞳にも明らかな
姉弟愛を”超えた”想いだった。
一向に帰ってこない殿下を想う陛下は
日を追う毎に意気消沈していった。
そんな陛下の姿を見れば、兵や民の士気も当然、落ちる。
我輩とボルレアスが支えてはいるが、
最近では戦争以前に。祭り事さえ…
「ァイヒアが探しに行っております。何卒、ご辛抱を…」
「…」
戦時のさなか、殿下を探しに行くと言って聞かぬ陛下を
宥めるのに。我輩がどれほど苦労していることか…
「アミ………」
…まったく。
「…、」
コンナ時だというのに………
………
……
…
………
……
…
………
……
…
「…逃げるのか?ボルレアス卿?」
あれは…そう。
いよいよ敗色が濃くなり。
各地で抵抗していた仲間たちが次々と”降伏”の灰旗を挙げ始めた。
終戦まで100年を切った。
激しい嵐の日のことだった…
「………そうだ。わg…いや。…”ワシ”は。逃げるのだ。奴らに怖じ気づいて…な…」
…卿の率いる竜人族は│晶の《クォーツ》ドワーフの郷にほど近い
山の中腹に居を構えている。
ドワーフと”持ちつ持たれつ”の関係を築いている彼等は、技術欲しさにドワーフを襲った人間…毒花に率いられた…に侵略され…
「し、しかし!まだ…」
「まだ…だと?…女子供を残らず囚えられたこの状況が”まだ”だと思うか?”既に”…で、あろう?」
「っ!?」
…もはや、国は。部隊は。
体をなしていなかった。
逃げ惑い、乞い諂い。
筆跡は消され、書き改められ。
土地は次々、緑に飲み込まれ。
王国の…陛下の…永久の炎は正に。
風前の灯火だった…
「…連中め。助けたければひとりで来い…などと抜かしおったわ」
「どう考えても罠であろう!?」
「…ソウ、分かっていても。行くしかあるまい…」
囮や人質…といった戦法は人間達の専売特許だった。
味方のうちは…仲間の反対意見も多かったのは確かだが…頼もしかったソレだが、敵に回れば脅威以外のナニモノでもない…
「し、しかし…」
…しかし。
陛下が意気消沈している中
卿まで去ってしまえば…
「考え直すことは…」
引き留めようと告げた
我輩の言葉に…
「…」
…無言で。
真っ向から向き合った卿は
「………、」
一瞬、
瞳を背け
「…っ」
…ヘビのような攻撃的な瞳で
我輩を…
「…無理だ。」
…そして。
扉の向こうの陛下を睨み
「…“一族”を背負わぬ貴様らに。何が分かる…」
「っ!?キ、キサマアァッ!?」
「…ヤマラージャ。貴様も同じk…」
「…ふざけるな!!」
玉座の間の前…
静寂の御前回廊に響いたコダマを
「…」
最期まで聴いた卿は
「………頼んだ…」
2度と振り返ることは無かった…
………
……
…
………
……
…
………
……
…
「やめんか!カルチャクラ!!」
…ア・テンポ20,909年…開戦から800年強。
魔都シアリアは毒花率いる敵軍に完全に包囲された…
『グギュッ、オ゛…ギ、ギグッ…ッ!
ギ、ギジュオ゛オ゛オ゛ォォーー!!!』
【門番】トリノプスと【沼蟹】カルチャクラ。
そして【首無】アスラムと、我輩…
陛下の守りは今や、我ら4人…
「そ、そーさいぃ…カ、カリチャクラ。が…」
「クソぉっ!!」
…いや。
獅子王レオンが討たれ動揺したカリチャクラが
理性なき魔物に変じた今。
陛下の守りは3人と1匹になってしまった…
「で、でっけ…」
「トリノプス!見とれとる場合ではないわっ!ヤツはもう…ヒトには戻れん…っ!…アレは純粋な魔物だ。油断して近づくと我輩らもヤられるぞ!!」
「お、おっす!…き、気を付けm…」
「お前は引き続き門を守れ!スライム一匹入れるな!」
「りょ、りょかい…」
状況は絶望的…では、あるものの…
『ギギュヂオォォーーー』
シアリアはユーラカーラ湖に包まれた
1つの島から構成されているため、敵の接近する方法は
”船”と”橋”に限定される。
巨大蟹に変じたカリチャクラが圧倒的に有利なのは
間違いない…
『ギギュヂオォォーーー』
巨大な化け蟹は湖上に浮かぶ船をいとも簡単に貫き沈め、
湖面に無数の赤紋を生み出していた…
「すっげ…」
エルフも。人間も。ドワーフも。
…寝返り。隷属化された同胞さえも…
ソノ蟹は、濁りきった瞳で
映るモノ全てを貫き、切り裂き、押し潰し…
…口に運んだ。
「カリチャクラ…っ…」
…理性無き、沼地最強の捕食者が
ソコにあった…
『ギギュヂオォォーーー』
矢も槍も魔法も魔道具もすべて、
血塗られた鋼の甲殻の前では無意味だった。
巨大で、機敏。
しかも、2本の脚で立ち上った化け蟹は、鋏も含めた残り全て…8本の…脚を
別々に動かし捕食を続けた。
先程までの苦戦が嘘のように…
「くそっ、くそっ……」
圧倒的だ…しかし。
ヤツの固有魔術は
狐の獣人や、ドラゴンジジイのように
都合よく化けたり戻ったりできるモノではなかったハズ。
ヤツは…カリチャクラは…
『ギギュヂオォォーーー』
…それも。
覚悟の上だったハズ…
「クソッタレめ…っ………」
………
……
…




