Chapter 007_森の朝
『チチチ…』
…
『チッ…パチッ………』
「…っ…ん。…ろ…?」
……
「も…ろ…」
「…だ…」
ぅ………
「………ぅ〜…?」
「み…」
『るるる…』
………あれぇ…?
「…こ、こ……」
「みゃっ!…ご令妹様っ!おはようございますですよ!」
『ぶしゃぁー!』
「………う………シュ…ちゃ…」
「にゃんですよ!」
「へびちゃ…」
『シュルルルゥ〜!』
…おかしいな。
「…………う〜…?」
さっきまで
おかーさまと、おとーさまと、あねちゃと、デシしゃんと………
「……………あ。しゃ…?」
「にゃんです!えっと…カレント2,187年 恵月6日。お天気は…え、ええと…」
『ブシュル!ルシュルルルゥ…』
「に、にゅう!?言われなくても分かってるですよ!…コホンッ!ええっと…こ、小鳥さんも歌いたくなる爽やかな晴れなのです!」
『シュルルルッ!』
…雨が振ってて。
お家で過ごそうね。って。話して…
「…………
は、れ………?」
だからみんなで。
お家にいて…
「にゃん!」『ルッ!』
…だから
お客様だと思って。デシさんと一緒に
雨と足音で賑やかな玄関に………
「………………………………………………ハレ…」
「にゃーん!」
『シュルルゥ!』
………………
…あ、
「…ゆめ。」
か………
「…」
「…み?」
『る…?』
「っ…」
「みゃっ!?」
『ブシュルゥ!!』
「ねさまっ!!」
「ごっ、ごれーまいさまー!!」
『シャアーッ!?』
………
……
…
・
・・
・・・
朝・・・
「ねさまっ!!」
・・・ティシアはお寝坊さんな日が多く。
目覚めてからも、ローズさんやシュシュのされるがまま
グズグズと支度をするようなダラシない子になってしまった。
・・・まったく。
ダレに似たんだか・・・
「・・・も?」
朝が弱くて、テントから出るのに時間がかかり、
その間に、勝手に整えられてしまうティシアが
パジャマのまま。裸足のまま。寝癖もそのまま。
起き抜けで駆け寄ってくる事なんて
今まで無かったから・・・
「もぎゅふっ!」
「お、お嬢様!?」
ゆで卵を『もくもく』していた私は
反応がだいぶ遅れてしまい!?
「・・・も・・・も、もっ・・・んぐんっ!」
そ、それでもっ!
口から産卵するのを
乙女の意地で防ぎきり
「うぎゅ、んぐっ・・・。ふぅ、ふぅ〜・・・ん・・・。」
『ごっくん』してから・・・
「だ、大丈夫…ですか!?」
「な、なんとか・・・」
・・・改めて。
「っ…」
視線を落として・・・
「・・・ティシア・・・」
収穫前の麦穂を包むように・・・
「・・・おはよ。」
優しく。優しく・・・
「ねっ…まっ…」
「・・・う?」
「お、おはよぅ…ございます…」
「・・・んぅ・・・」
胸に飛び込んできた”ピョンはね”を
「・・・よし、よし・・・」
お手拭きで湿らせた手で
ゆっくり撫でると・・・・
「…」
・・・しばらく。
『じっ』と『ギュッ』としていたティシアは
「っ!」
意を決したように顔を上げ
「・・・?」
私に向かって・・・
「あ、あの…あのねっ!」
腕の力を0.2kgf増して
「エルフさんを殺さないで!!」
「・・・」
唱えたのだった・・・
・・・
・・
・
…
……
………
「・・・どうして?」
ね様の。その言葉には。
真剣さと厳しさと…
「…え、えぇ…と…」
…そして。
タップリの魔力が含まれていた…
「・・・」
いつも甘々なね様が、初めて私に向けた
漆黒の視線に、思わず
「…そ、その…」
半歩下がって。うろたえ、
「・・・」
「っ…」
目線を外して。
「ぇ、えぇ。と…」
…た、助けを求めて。
シュシュちゃんとローズに瞳を向け…
「…」
「…」
…たん。
だけど、、、
「、、、」
「…」
「…」
ふ、2人ともぉ!
私の視線に気づいてるのに、知らんぷり!?
さらに、
「・・・ティシア。」
目の前から
「ひゃい!」
よく知る音…でも、初めて耳にする
夜の唄が聞こえてきて…
「・・・お願いする時は。相手の目を見て話しなさい。」
私の頭を撫でていた手を引っ込めて。
スカートの前で重ねた、ね様は
「は、はい。ごめんなさい…」
「・・・」
…今度は黒い引力で。
私の視線を引き寄せて…
「・・・ティシア。」
「はい…」
「・・・彼らは敵よ?」
「わ、分かっています…」
「・・・アメちゃんのお姉様を捕まえた敵。」
「はい………」
「・・・私達の・・・命を狙うかもしれない。敵・・・」
「………はい…」
「・・・昨夜。何のために私が彼らを治癒したかは・・・分かるよね?」
「…お、お話をきくた…」
「そう。助ける為じゃない。話を聞くために生かした・・・それダケよ。」
「っ…」
「・・・そして、もう。お話は終わったわ。」
「…」
「・・・分かるわね?」
「…」
「・・・」
「…ぅ?」
…分かるわね?
っ!
「ましゃか!?」
そ、そういえば姿がっ…
「も、もうっ!?」
慌てて聞き返した私に
「・・・”まだ”よ。」
ね様は瞳の色を変えずに答え
「ほ、ほぉっ…」
そして、
私が息をつくと…
「・・・、」
え…
ね、ね様…?
「・・・ティシア。」
「は、はい…」
「・・・彼らのコトは今。フルートとギル様・・・ソレとアメちゃんが見ているわ。」
「アメちゃんも…」
「・・・助けてあげたいなら・・・」
…ソコで
ね様は…
「・・・、、」
「…」
『トン、トンッ』…と。
細い喉を2回タップして………
「・・・自分で唱えて。通してみなさい・・・」
唱えたのだった…
………
……
…
・
・・
・・・
「…よかったのか?」
「も・・・もっ、きゅ?」
3人のもとに
ティシアが駆けて行ったあと・・・
「…お前が寄越したと知れば。連中の答えは決まってるだろ?」
「もきゅもきゅもきゅ・・・」
・・・朝食を再開した私に話しかけてきたのは。
ここまでずっと黙って背中の木に凭れていたルクスだった・・・
「も・・・も、ふぁふぇふぁふふぉひふほ?」
「…はぁ?…あぁ。アメもいる…と、言ったのか。…確かにそうだが…あいつは意見するのか?」
「もきゅもきゅもきゅ・・・」
「…」
「ふぁ・・・ふぁふぁふはひへほ・・・もきもきもき・・・」
「………はぁっ…」
あの3人の扱いをどうするか・・・
実際のトコ。
それは結構、難しい問題だった。
「もきゅもきゅ・・・」
フルートが攻撃してしまった以上、
ナニもせずに帰すワケにはいかない。
「もっ、もっ、もっ・・・も、もっくんっ・・・もきゅ。ちゅぱ・・・」
殺しちゃうのは簡単だけど・・・でも、
チューリップの里方向からやって来た私達に
監視が付いていないのは不自然だ。
「ご主人様!お手拭きをどうぞです…」
「・・・ありがと。」
「にゃんですよ!」
「・・・シュシュ。ティシアが驚かしちゃったみたいでごめんね。でも、面倒を見てくれてありがと・・・」
「にゅふふふっ!お任せ下さいなので〜すっ!」
だからといって、記憶を消すような
都合のよい魔法があるワケでもないし・・・
「…お嬢様。カルマート様に分けて頂いた緑茶を淹れてみました…」
「・・・ありがと。ふぅ〜・・・んふぁ・・・///」
「…いかがですか?」
「ん!とっても美味しいよ・・・」
「よかったです!」
・・・結局のところ。
契約するか・・・嫌がるようなら無理矢理
隷属化してでも。生かして秘密を守らせるのが最適解
に思える・・・
「…ヤレ、ヤレ…だ。…結局。あのチビのせいで余計な仕事が増えたわけか…」
ルクスは”コンナコト”言っているけど・・・
「・・・仕方ないよ。3人の中でも特に。あの・・・ザイロフォンさん・・・は、初めから私達を良く思っていなかったし・・・」
「…だとしても。チビが…」
「・・・そもそもフルートがいなかったら。チューリップの里だって通過できなかったんだよ?」
「ソレは…」
・・・ま。
彼の行動が”良かった”とは、言わないけど。
でも・・・
「・・・尋問したお陰で、花のエルフの生の声を・・・彼らからしか、得られないような情報を聞き出せたのも確か。・・・確かに。もっとスマートなやり方が有ったかもしれない。けど・・・でも。・・・私はコレで。良かったと思っている・・・」
私の言葉に。
「…」
・・・納得は。
していないルクスは拳を軽く握りしめて・・・
「…はぁ〜っ…」
・・・緩めて。
大きなため息のあと、
「…どーなっても知らねーぞ…」
なんて。
言うものだから・・・
「・・・んふふっ。イザと言うときは。アナタが守ってくれるんでしょ?」
お茶碗を手に。
「・・・頼りにしてる。オージ様っ」




