Chapter 006_森の夜
「・・・すー・・・くぅ〜」
「…」
夜…
「・・・・・・うみぃ・・・」
…お嬢様は。
素人である私から見ても助かりそうも無い
血塗れエロフを治癒魔法無しで救ってみせた。
森の真ん中に、即席の治癒室を作り。
ルクスやギル様の手や、私や御令妹様の足を使って…
「…ふふふふふ…」
…ソレはいい。
さすが私のお嬢様である!
宵空に現れし至高の天使様である!!
5時間にのぼる手術に疲れ果て、
眠ってしまったのも仕方ない。
問題は…
「…お疲れ様。マシェリィ…」
…眠った”場所”が。
問題である…
「むぅううううぅぅぅぅぁぁぁぁ…」
眠る直前…トロンと瞼を下げたお嬢様は、
よりにもよって、コトの元凶であるエロフに凭れかかり
そのまま馬車に揺られ、やがて真理の旅へと出かけられた。
「それは私の役なのよ!代わりなさい!!」
と、言ってやりたいところだけど…
「・・・んふっ、んふふふ・・・あむにぃ・・・」
///…あ、あんな穏やかなお顔でフニャフニャ言っているお嬢様の
眠りを妨げるなんて、そんな大罪!
私に犯せるハズがない!
「・・・くぅ〜・・・・」
「ふふふ…どんな夢を見ているんだい、マシェリィ?」
「//////」
ズルい!悔しい!!
でも、ご馳走様ですぅ…
「…で?お前らの目的はオレ達の監視…それ”だけ”でいいんだな?」
「「は、はい!」」
そ、それはともかく!
少し離れた場所では、私達と一緒に出発した【エロフ♀1】と、遅れて追跡してきた【エロフ♀2】がギル様とルクスによる尋問を受けていた。
因みに、シュシュちゃんはテントの中で(蛇ちゃんと一緒に)御令妹様の相手をしている…
「…ボク達のコトは?…なんて言っていた?」
「な、なんて…?」
「べ、別大陸からお越しの哲学者様と連れの者…としか伺っておりません!…ほ、本当です!!」
追跡者を追ったシュシュちゃんが現場に到着すると
エロフ♀2は、
①エロフの矢によって樹上に縫い留めれ、
②藻掻いたのか…枝からズリ落ち
③しかし、エロフの矢が幹に深く刺さっていたため抜けず。
↓
〇結果的に逆さ吊りになり。
動転して泣き叫んでいたそうだ。
もちろんシュシュちゃんは、
お嬢様の敵とあらば、容赦なんて一切しないので
矢をそのままに、
“エロフの体”の方を引き抜いて地面に落とし、
色んな汁をぶちまけさせて…失神までさせて…
矢の傷に加え、
擦り傷・切り傷沢山つけた体を
引き摺って…
…私達の前に現れた。
この間。僅か40秒ほど。
「…本当か?」
「ほ、本当でございます!」
エロフ♀2の処分に困った私達だったけど、
横目でチラッと、その様子を見た天使様から
「消毒して、薬塗って包帯巻いとけば大丈夫!」
とのお達しだったので
ヒマそうにしていたエロフ♀に薬と端布を渡して
すべてを任せるコトにした。
そんなエロフ♀2が目覚めたのは、つい先程のコト。
キレイなお顔が台無しな上、
まだ、足が痛むのか…立てないみたいだけど、
でも、天使様が大丈夫と言ったのだから大丈夫なのだろう。
現にこうして、数時間で目覚めたワケだしね…
「…なにか…里長?は?チ…ゴホンッ!…フィ、哲学者様のコト。風の森の事。フィリアのコト。…言っていなかったか?」
「…は?えぇと…と、特には…?」
至高の天使様の生活を覗き見ようなどという不届き者は
死ぬべきである。
慈悲で生かされているコトを知るべきである。
鮮烈な拷問で「殺して下さい!」と縋るまで痛めつけ、
生まれてきたコトを後悔するような恥辱を与えるべきなのに…
拘束は、縄で腕を縛るだけ。
夕食まで与えるなんて…
…ギル様はエロフに情を感じているのかしら?
まったく。とんだ日和様だコト…
「…どう思う?」
「…本当に何も知らないんじゃないか?…ほら。あの里長。アホっぽかったし…重役しか出席できないと聞くエルフ会議に出してもらえるとも思えん。」
「…ふむ…そもそも。風のエルフが他のエルフに知らせたかどうかも分からんしな…」
やり方は気に食わないケド…
…でも。
ギル様の尋問はソコソコの成果をあげていたし、
佩いた剣を『カチンカチンッ』と、指で出し入れする奴隷の脅しも
ソレナリに効果があるらしい。
…まぁ、私は。
つべこべ言わさず、腕の一本でも切り落としたほうが
手っ取り早いと思うんだけどねぇ…
「「…??」」
「…分からないのなら忘れろ。」
「…だな。命が惜しくば…って、ヤツだ。」
…お嬢様は。
”まだ”エロフを殺す気は無いみたい…。
成果を上げているうちは
放おっておいていいだろう…
「ひっ!?は、はい!!」
「わ、忘れました!忘れましたとも!!」
…さてと。
尋問は2人に任せるとして…
ソレより私は、
いつ目覚めるともしれないお嬢様様の為に
お夜食の支度と、尋問の内容を一字一句漏らさず
記憶するコトに集中しなくっちゃね…
「…何処かに誘導しろとかは?」
「い、いえ!お望み通りデイジーの里へ。と…」
「…遅れてきたオマエ。オマエは?」
「わ、私も!単に皆様全員に不審な動きがないか見張れ!とだけ…」
お夜食は…まぁ。
夕食として私達も頂いた。カルマート様に分けてもらった
オコメを炊いた”ご飯”を。”おにぎり”に握るだけ。
なんだけどね…
「…しょっ…と…。う〜ん…大きさは…コレくらい。…かしら?…いくら、沢山召し上がる。と言っても。かわいいお口に大きなおにぎりは似合わないものね…」
炊いた”ご飯”。
それと、お水とお塩が少しあれば作れる”おにぎり”は
料理…と、言っていいのか分からないくらい簡単な料理だ。
「…ふふふっ///…おいしくな〜れっ、おいしくな〜れぇ…」
…お嬢様はとにかく、この”おにぎり”が大好物!
かく言う私も。
自分の手で包んだ料理を大好きなお嬢様が笑顔で食べてくれるから
とっても嬉しい!
1つで2度美味しい!とは、正にこのコト!
「…ローズちゃん。ソレ…おにぎり?」
「あら?アメ様。…えぇ。お嬢様がお目覚めになったら…と、思いまして。」
「…ぼ…じゃ、なくて。わ、私も手伝うよ!」
「…そうですか?」
「うん…フィリアお姉ちゃん。頑張ったもんね…」
「………えぇ。では、お願いいたします…」
「願われたよ!…って、(アドゥステトニアでは)言うんだよね!?」
「うふふっ…えぇ。おじょーず、です…」
「…ちなみに?デイジーの里に着いたあとはどうするツモリだったんだ?」
「そっ…、れ。は………」
「…んだ?足一本じゃ足りな…」
「!?っ〜…デ、デイジーの里長へ…繋げ。と…」
「…繋げ?だと?…具体的には?」
「………こ、この…テ、テガミを」
「…よこせ。」
「っ………は、い…」
「…そういえば、ローズちゃん。」
「…はい?なんでしょうか?」
「この、おにぎりって料理…実は。ヴェルム・ウェルム大陸発祥じゃ”無い”って知ってた?」
「………はい?」
「お米は確かに、この大陸の主食なんだけど…。こうやって…お水と塩で三角形に握る…時には、中に具材さえ入れる…なんて食べ方。もともとこの大陸には無かったんだよ。お米は冷えると美味しくないから、旅先でも炊いて作るのが基本だったし、どうしても携帯したいときは箱に詰めて乾燥させたお米に現地でお湯を注いで解していたのさ…」
「はぁ…」
「…どれ………」
「「っ……………」」
「…なんて書いてあんだ?オッサン」
「…ふっ…読んでみるか?…なかなか興味深いぞ?」
「…ほぉ〜。どれどれ…」
「「………、、、」」
「…けれどある日…8,000年ちょっと前かな?…突然、この【おにぎり】という料理が花のエルフのレシピ本に登場した。」
「…うん?ソレは単に。花のエルフが発案したというだけでは…?」
「あははは!…自分達じゃ何も生み出せない毒花に。こんな”まごころ”こもった料理を生み出せるハズないだろ?…でも、発案者は現地の人間やぼくら魔族でも無い。と、なると…」
「…ナルホド。毒花にも気配察知に優れたヤツがいた…と、いう訳か…」
「くっ…」
「…エルフ…ではなく。配下の獣人か魔族の仕業ではないのか?何の効果も現していない上、擬態までしているフィリアの召喚獣に気付けるヤツなど、ソウはいまい…」
「…どーなんだ?」
「っ~…はあぁぁっ…。…モ、一角鼠族…という。魔ぞ…」
「…やっぱりか。…どんな容姿の魔族だ?…オレ達に接近した…世話役の…どれかだろう?」
「ち、小さな。一見、小石に見える角を1つ生やした。リスのような大きな尾の…」
「「…あぁ。アイツか…」」
「…もしかしたら。発案者は【黒の魔女】ちゃんだったのかもしれないね…」




