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まほー(物理)  作者: 林檎とエリンギ
10th Theory
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Chapter 005_エルフのココロ②

「エルフ…ま、まして哲学者様に!失礼が過ぎるだろう!?我らを愚弄する気か!?」

「・・・」


ふむ・・・



「ザ…ザイロフォン様っ!こ、この方々は私達とは事情が…」

「そんなコトは関係ない!エルフ族が揶揄(やゆ)された…ソレが問題なのだ!!」


私達のやり取りに、だいぶ頭にきてたみたいだけど。

ついに耐えきれなくなったか・・・



「オイ!ソコの…人間の女!」

「・・・う?わ、私・・・?」

「そう、お前だチビ!」

「・・・」


ザイロフォン殿は“エルフである”ことと自分の容姿。そして立場に

御心酔(ごしんすい)されているようだ。


ナルシスト・・・と言えばその通りだけど。

別にソレは悪いことじゃないと思う。


自身の生まれに誇りを持つのはいいことだし。


実際、顔も悪くない。

というか。人間の目で見ればエルフは全員美形である。


そして、

ザイロフォン殿の職業・・・【蒔人(プランター)】とは、

読んで字のごとし。“種を蒔く人”

という意味の職業である。


何をする職業かって?

少子化対策をする職業である。


乙女の口からは、これ以上のコトは言えない。

言えないけど、ソレが尊い仕事であるコトは間違いない。



「貴様ぁ…どうやって哲学者様に取り入ったか知らないが、ちょっと気に入られたからっていい気になるなよ!」

「・・・」

「哲学者様も哲学者様です!貴方ほどのお方であれば引く手|数多≪あまた≫でしょう!?なにも、このような小娘に(うつつ)を抜かすコトはありません!なんなら、このリゾルートなど…」

「に、兄様!?なんてコt…」

「お前は黙ってろ!!」

「っ………」


多くのエルフはザイロフォン殿のように。

“エルフ至上主義” 的な考え方をしているようだ。


そして、リゾルートさんのように。

過去を顧みて、他種族に同情的な考えを持てるエルフは少数派だろう。


この広大な大陸を支配し、

他の種族すべてを従え、

贅の限りを尽くして、

思うがままに、気ままに、

魔王を討ち取った。勇者や神様であるかのように・・・

・・・何千年も。生きてきたエルフに。


“助長するな”と、言う方が

無理な話である。



彼らは本気で、自分達は”神”であると

考えている・・・



「えぇ、えぇ…分かっていますとも。ココにいる女達は…”お戯れ”でございますよね?」

「・・・」


はぁ~・・・

こんな状況で魔王様を復活させたら、大変なことになるに違いない。

当事者である【魔族】と【エルフ】が争う分には、

構わないのかもしれないけど・・・


ほぼ無関係である、

この大陸の人間やドワーフが巻き込まれるのは明白だ。


とばっちりを受けて閉じ込められてしまったカルマート様や

遥々別大陸から連れ出されて。今も苦しんでいるドゥーチェちゃんのような

飛び火の被害者を生み出してしまうに違いない。


歴史は繰り返す・・・それはなにも、異世界に限った話じゃない。



「しかし…そんな泥臭い人間の小娘よりよほどお役にt…」


けど・・・ハッキリ言ってしまえば。

この大陸で起きた問題は、この大陸のヒトたちが解決すべき問題である。


赤の他人でありながら、(自分で言うのもなんだけど)影響力が大きい私が

介入するのは“最適解”では無いだろう。


誰よりも可哀想なドゥーチェちゃんだけ、サッと(さら)って

バイバイするのが。きっと正解。でも・・・



『ヒュ、』

「「「「「!?」」」」」



っ、てぇ!?



「ギィヤアアアーー!!」


馬上から放たれた音速超えの一矢は



「あぁっ!ウデッ!ヤがぁっ!!…い、いでっ、いでぇーよおぉぉ!!」

「に、兄様!?…フィ、哲学者…さまぁ…」


上から目線のザイロフォン殿が

私を指さすために伸ばしていた腕の


掌から肩を貫き、

勢いもそのまま彼の体を運び去り


後ろの大木に縫い止めた・・・



「な゛z…」

「何故かってぇ!?…愚問だね。君はぼくのマシェリィを愚弄した。ソレは万死に値する。…まだ口がきけるだけ有り難いと思うコトだね」

「じがっ…」


『タアァーンッ!!』

「ぐおぉおーーーっっ!!!」

「きゃあっ!?」






「っ・・・」



う・・・う、有無を言わせぬフルートの二矢目は、


矢を番える姿さえ見せずに

ザイロフォンさんの脇腹を・・・



「…黙れ。次は…喉。」

「ぐぶっ…ぐ、ごぶぉっ…」

「ひっ…フィ、フィロソ…」

『ごポッ…ッぶぶっ…』

「ひっ…ひぃっ…ザ。…ザイッ…」


リゾルートさんの命乞いにも・・・



「…君。君も邪魔するなら同じだからね。いいから黙れ…」

「ひっ!?は、はひ………」


・・・ふ、ふだん温厚で愉快なフルートの

思わぬ逆鱗に驚いたのは。も、勿論・・・



「「「「「…」」」」」

「・・・」


・・・わ、私達も。一緒で。


さっきまでの考えを放棄して

押し黙っていると・・・



「よい…しょっ。と…」

『タヒュン!』


矢を番えた()()だった

フルートが・・・



「・・・う?」


何もない・・・森の向こうに三矢目を放った?



「みゃっ!?も、もしかして…」


ハテナ?な

私の横で驚いたシュシュに



「あー…お耳ちゃん。悪いんだけどさ。持ってきてくれないかい?”縫い止めておいた”から…」


フルートは声をかけ・・・



「うにゃん!?も、森の中で…こ、この距離をですか!?…と、いうか。気付いてたんですか!?」

「まぁねぇ…」


「・・・う?う?」


ナンノコト?

と、シュシュに視線を向けてみると・・・



「…先程お伝えした”もう1人”の監視役を…捕まえたそうです…」

「うぅ!?」


はぁっ!?

いや、だって!


シュシュが言うには、私達を尾行していた

(3人目の)エルフの監視役は、魔法の効果範囲の外・・・100m以上・・・離れた場所

にいるって話だったよね!?


獣人でもないのに

それに気付いたの・・・??



「いや、うん。まー、ホラ!ぼく、一応エルフだし!森は、ぼくのフィールドなんだよ!」


いや、でも!だとしてもっ!?

鬱蒼(うっそう)とした森の中で狙撃(しかも弓矢)って・・・



「弓術には自信があるのさ!」


・・・



「…あははは!惚れ直してくれたかい?」

「・・・懐疑(かいぎ)的。」

「あ…あはは…は…。き、厳しいね。相変わらず…」






はぁ〜・・・



「・・・・・・シュシュ。お願い。」


・・・でも、

とりあえず。は・・・



「にゃんです!願われたのですよ!!」

「・・・あ!殺しちゃメよ!」

「にゃー…ん……」


まだ見ぬ追跡者さんは・・・ま。

2人の反応からして

生きているし。そこまで重体でもないのだろう。


一応、釘もさしておいたので、

シュシュに任せて大丈夫だろう。



「・・・さてと・・・」


お次は・・・



『ガ…ブッ、ブジュ…ユ…』

「にっ…まぁっ…っ。。。し…りっ…っひっぐっ…お、おねっ…ひぐっ…」

「・・・」


青い顔でガクガクと震え始めたザイロフォン殿は

・・・お喋りが難しそうなので



「・・・リゾルートさん。このままではザイロフォンさんが失血死してしまいますが・・・どうしましょう?」

「ど、どど…ど…?」


その隣で、

ダクダクと血を流しているお兄様を前に、

どうすることもできずに泣きはらしている

リゾルートさんに声をかけ、



「・・・薬を与えて。外科処置もしないと・・・」


言われたことは、もちろん。頭にきているけれど・・・

今の時点でエルフと争うのは得策じゃない。


治療を提案すると・・・



「おっ!お願いっ!!お願いしますっ!!」


リゾルートさんはザイロフォン殿を抱きかかえたまま私に腕を伸ばし



「お、おねがっ…いっ…あ、謝りますから!!ご、ごめんなさい!ごめんなさい!!ごめんなさいー…!!お、お願いだからっ…お、お兄しゃ…をっ…」


必死の訴えを・・・



「ね、ね様…」


・・・そして、

ゲオ様に肩を抑えられながら小さな声を上げた妹に・・・



「・・・んふふっ。大丈夫よ。お薬。いっぱい持っているからね・・・」

「お薬…う、うん………。そ、そうだね…」


たぶん・・・ティシアは、本当は。

”治癒術”を使えばスグなのに!と、思っているのだろう。


でも、変装中の今

仲間のピンチでもない限り

手の内は明かしたくない。



「・・・ローズさん。鞄を・・・」

「こちらに…」

「・・・桶7つ用意して、全部お水で満たして!3つは熱湯に!」

「はい!」


「…よし。オレがやろう。」

「ぼ、ぼくも手伝うよ!」

「アメ!お前は水を!熱はオレがやろう!」

「う、うん!」


「清潔なタオルと端布(ハギレ)。ありったけ!」

「はいっ!!」

「て、テーも手伝うよ!」


「ルクス!あなたはナイフを10本準備して!【鋭利化魔法】で限界まで研いで!」

「…へーへー…っと!」


・・・一命は。

取り留めてみせる。



「・・・フルート。」


・・・そして。

最後に・・・



「…なんだい?マシェリ?」

「・・・いいね?」

「君が決めたことなら…」


それじゃあ



「・・・清潔な空間が必要よ。常に新鮮な風が送り込まれて。虫や病原菌が一切入り込まない“無菌室”が。」

「…」


・・・いまだ。

弓矢を構えたままのフルートに



「・・・貴方にしか頼めない。」

「…」


“ありのまま”を伝え・・・



「助けて・・・くれる?」


後は・・・



「………」



・・・信じて。

答えを待つばかり・・・

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