Chapter 004_エルフのココロ①
「…そ、そうですか。旅立たれますか…」
翌日
残暑の日射す
秋の日・・・
「ざ…ざ、残念ですが仕方ありませんな!ど、どうぞ哲学者様、お気をつけて!」
朝ご飯の最中に、
今日の午前中には出立すると告げた私達に
里長様はココロの中で喜びながらそう言った。
若干笑顔なのは本心からなのか?
それとも、愛想笑いからなのか・・・
・・・う?
その両方・・・だって?
ま。ソレもそうか。
ところで、続きは・・・?
「…で、では哲学者!次の【デイジーの里】まではこの2人…ザイロフォンとリゾルートに案内をさせましょう!」
・・・ふむふむ。
監視役の2人はチューリップの里の次代を担う逸材。
デイジーの里への使者として相応しい。
優秀な2人なら不測の事態にも対応できるだろう。他所者である私達に
好きはさせない!か・・・
・・・うん。
“アミちゃん”の正体や私達の目的もバレてないね。
監視役が付くのは・・・ま。
想定内かなぁ・・・
「蒔人のザイロフォンです!哲学者!よろしくお願いいたします!」
「狩人のリゾルートです!ご尊顔賜り光栄に御座います!!どうぞよろしくお願いいたします!」
ウリエル。今後は
この2人の副音声もお願いね!
「案内って…いっぽん道なんだろ?そんなモノ要らないよ…」
・・・うんうん。
フルートのこのセリフは予定通り!
アミちゃん提案の改心策が効いたのか・・・
今のところは冷静ね。
・・・ま。油断はできないけど・・・
「そ、そう仰らずに…も、森には強力な魔物が棲息しております!この森を熟知している2人ならきっとお役に…」
「ぼくを誰だと思っているんだい?」
「そ、それは…」
「て、哲学者!我々は夜番も…」
「シュシュは”分けて寝れる”から、交代する必要もないのですよ!」
「なぁっ!?くっ…さすが獣人。ズルい…」
「っ…キャ、キャンプのお世話を!」
「…レンバスを食えというのか?もしそうなら”間に合ってる”がな…」
「「「…」」」
シュシュとギル様含め。
みんな順調だね!
でも、
問題はこのアト・・・
「し、しかしですね…」
私達がゴネたとしても、
最終的に里長様は、無理にでも監視を
同行させるだろう。
・・・そうしないと。
他の里長に・・・もしかしたら、“族長”様にまで・・・怒られちゃうからね。
側に監視役がいると正体がバレる可能性も増すし、
魔法や魔道具の制限もあって不便だ。
けれど逆に、私たちが
花のエルフの生の声を聞いたり、装備や技を観察できる
という側面もある。
大図書館で予習してきているとはいえ、
現地でしか分からないことも多い。
これから“大それたコト”をしようとしているのだから、
情報は多い方がいい。
なので、向こうの申し入れを無理に断る必要はない。
でも・・・
明らかに怪しい私達パーティーが
アッサリ監視役を受け入れちゃったら、
ソレはソレで不自然だと思わない?
だから、自然な受け答えで・・・
邪見にする体(因みに、シュシュとギル様のやり取りは2人のアドリブである!)から入り、最終的に
主人(役)であるフルートが受け入れて・・・懐の大きさを示して・・・
不信感を払拭するのが目的なんだけど・・・
「あー…」
・・・はたして。おーじ様は
うまくやってくれるかな?
「…君達にも立場とかあるしね。よろしく頼むよ」
・・・いよっし!
「・・・よろしくお願いいたします。」
「…まぁ…人数が多ければ助かるしな。」
「…エルフ様は頼りになるしな…」
「わ、私達の為にありがとうございます。」
「ありがとうございますです!」
「ザイロフォン様!リゾルート様!よろしくね!!」
他のみんなも、フォローを入れて・・・
「「は、はい!よろしくお願い致します!」」
「それじゃ、みんな。しゅっぱーつ!」
「「「「「おー!」」」」」
・・・うむうむ。
やればできるじゃないかフルート君!
「・・・」
「…フィ、フィリアも…い、いいね?」
引き続き頑張ってね!
「・・・」
「お、おーい…」
「・・・」
「フィリアさーん…」
「・・・」
「…」
「・・・」
『ガクッ…』
「い、行こうか………」
「「「「「お、おー…」」」」」
「・・・」
・・・
・・
・
…
……
………
「・・・ふわぁ・・・」
哲学者様との旅路は
順調そのものだった…
「!フィ、フィリア!?どうしたの眠いの?」
「・・・ふぁ?・・・」
順調そのもの…ソレはソウだろう。
なにせ、流通を担う【デイジーの里】までの道は
荷車の通行も頻繁で、定期的に魔物の掃討も行われている整備された道だ。
稀にトールビーやクイックモンキーといった厄介な魔物が出没することもあるが…厄介な”だけ”で、強い魔物では無い。
「大丈夫かい?フィリア!?何なら休憩を…」
「・・・」
「え、えぇと…」
「・・・」
我々などいなくとも、
哲学者が危機に陥るコトは無いだろう…
「フィーリィア。さー…ん…」
「・・・・・・」
里長…お父様…は
私と兄のザイロフォンに
「彼らに同行して怪しいところがないか探れ。」
と、仰った…
他大陸からの訪問者など数千年ぶりだというから、
その警戒は正しいコトだろう。
だが…
「ぐずっ…フィ、フィリアァ…。…き、昨日はぼくが悪かったってばぁ!…何度でも謝るから、どうか機嫌を直してよ〜…」
「・・・」
「おー…いぃ…」
「・・・」
「…(泣)。。。」
「・・・」
こんな…和やかに痴話喧嘩をしているヒト達が果たして、
警戒すべきヨソモノなのだろうか…?
「…フルート君。昨日テーが寝たあと。ね様に何かしたの?」
「何もしてない…ドコロか!いつも通りにサれたくらいなんだよ!なのに、今朝になったらこの有り様で…」
「ふーん…じゃあ。何もシてないのに謝ってるの?」
「だって、口をきいてくれないんだもの!謝るしかないじゃん!」
「フルート君。ね様に嫌われちゃったんだね…」
「あぁーっ!…ゾンナ゛ばッギヴィ、ヴィヴァバイゔぇーっ!!」
「あ、あははは…」
「…オイ。さすがにウルサイぞ。」
「っ!…ゴ、ゴメ゛ン゛よ゛ぉ…」
………少なくとも。
私にはソウは見えない…
「・・・ティシア。アメちゃん。ウルサイし先に進まないから。私、下馬する。」
「フィリアさぁんっ!?」
「う〜?…ね様が下りるならテーも下りるー!」
「妹ちゃん!?」
「ぼ…わ、私。も…」
「アメ君すらも!?」
「・・・エオリカちゃん。止まって。」
…ここ、花の森では
エルフとソレ以外の種族の立場が明確に異なる。
私達、花のエルフは彼らに…神様として…崇められている。
一方、私達も彼らを奴隷のように…”物”として…扱え!と、
教え込まれてきた。
…数千年に及ぶ支配と搾取が彼ら…そして私達の…
ココロを。自由を。生活を。文化を。
何もかもを書き換え、
リブラリアに綴ってしまったのだ…
『ブフフフッ…』
「うわぁっ!?…と、止まるの!?止まっちゃうのエオリカ!?主人は何も言ってないよ!?」
『ヒュッ…』
「エオリカの薄情者ー!!」
けれど最近…ようやく…
彼らと平等に…”ヒト”として…向き合おうという
考え始める花のエルフが現れた。
権力者達の酒池肉林の毎日…
傲慢な態度や淫靡で自堕落なアノ生活を垣間見れば、
きっと、誰だって
人間や魔族に同情的になる。
アンナコトを数千年間も続けてきた末に、自分が産み落とされた…
なんてコトを知れば、
きっと、誰だって
自らの生まれを恥じるだろう。
…ナニが神だ!
正義なんて無いじゃないか!?
キタナイ欲望をぶちまけている
お前達…わ、私達こそが
悪魔だろう!
と…
「…ん。」
「・・・ありがと。ルクス。」
「…お嬢様。さぁ、お御足をどうぞ。」
「・・・ローズさんも、ありがと。」
「…テー…」
「ありがとギル様ぁ!」
「…ほら…って。…どうしたテー?手を離…」
「えー!このまま行こうよぉ!ギル様ぁ…」
「…ふっ、仕方のないヤツめ…」
「・・・アメちゃんは私の後にね。」
「う、うん…あ、ありがとう…」
「・・・・・・私達も・・・手。つなぐ?」
「っ///…ぅん………」
「ご主人様ご主人様…」
「・・・う?どうしたのシュシュ?」
「実は…ごにょごにょ…」
「・・・・・・・・・ん。引き続き・・・ね・・・」
「にゃんですよ!」
…残念ながら。ソウ考えられる仲間の数は少いし…
それに、そもそも
そういう“正しい”考えを持てるエルフは
私のように(ナンの権力もない)若い者が殆どだから
彼らに何かしてやるコトもできない。
老人たちの考を変えるのは生半可なコトじゃないだろう。
大きな“キッカケ”が必要だろうし、
時間もかかるに違いない。
私ももっと、勉強が必要だ。
だから…
『ブフフフッ…』
「「そして誰も居なくなった…」…だって?
…そうだよ、そのトーリだよ!!
なんだ!?なんだその目は!?
…ど、同情なんて要らないんだよ!!要るのは同乗s…」
「…乗ってやろうか?」
「ッ!?!?お、…わっ、くうぅぅ…!?…こっ、小僧なんて嫌いだー!!」
…だから。
コレはチャンスだ!
他種族と友好的な関係を築いている
この哲学者様から、その秘訣を沢山学びたいと思う!
このままじゃ…今のままじゃ、
いけないと思うからっ
「ぁ、あのっ!」
彼らの言葉を聞きたくて…
「オイッ!い、いい加減にしろオマエら!!」
「「「「!?」」」」」
ザ、ザイロフォン様!?
「エルフ…ま、まして哲学者様に!失礼が過ぎるだろう!?我らを愚弄する気か!?」




