Chapter 001_花の里へ
「・・・ふぅー・・・」
カレント2,187年 恵土の月4日
お天気は曇り
「・・・それじゃ、みんな。行くよ?」
「はいっ!」
「にゃんですよ!」
「んーっ!」
「り!」
「…よし。」
「…へー、へー…」
「う、うん…」
私達はチューリップの里・・・花のエルフ勢力圏の最初の里・・・まで
あと少しに迫る、森の中にいた。
「・・・それじゃ、ロワノワール。また、よろしくね」
『ヒュブブブゥ…』
エルフしか宿せないハズの【楓魔法】を人間の私が
行使していたら怪しまれてしまうので、
ココから先はロワノワールを喚ばず。
ヒュドラとセトにはアクセ然と、
大人しくしてもらうツモリだ・・・
「…お嬢様。メガネを…」
「・・・ありがと。ローズさん。」
風のエルフが花のエルフに私の情報を伝えた可能性は
低い・・・と、思う。
なにしろ、
神判魔法の最中に
「・・・言わないでね。」
と、脅しておいたから
たぶん大丈夫だろう。
もし、ギルティ覚悟で訴えられていたら・・・
ソレはもう、どうしようもない。
素直に全面戦争するだけだ。
風のエルフから情報が伝わっている可能性が低いのに
変装する理由は勿論。瞳の色を隠す為だ。
【夜は東に、日は西に】の主人公でもある
黒の魔女【ドゥーチェ】ちゃん・・・
・・・不死である彼女の名前と容姿は
この大陸では”超”有名だ。
かつて、
魔王と結託して神に盾突き、
返り討ちにされた”魔ノ女”
として・・・
「…ね様の瞳。キレーなのに隠さないとイケないなんて。勿体ないね…」
「ホントですよ…」
「にゃんですよぉ…」
「・・・ティ、ティシア・・・ローズさんにシュシュも。あ、ありがとね・・・///」
エルフや、一部の魔族は、
ドゥーチェちゃんこそが魔王を倒した張本人であり、
エルフが“勇者”とされているこの大陸の常識は偽りである
と、いうコトを知っているハズだ。
でも、世代を重ねた人間やドワーフ。そして魔族(魔族といっても
【不死】持ちの魔族はごく少数らしい。大半の魔族の寿命は、人間と
それほど変わらない。)は歴史が”書き換えられた”コトを知らない。
因みに、カルマート様の深読みでは・・・
アミちゃんに影の森(=大図書館)を襲わせたのは、真実を隠す
目的もあったのでは?・・・とのこと。
利権争いで邪魔になる(「一緒に戦争したんだから、自分達にも
土地や奴隷を寄越せ!」と、影のエルフに主張させないために)
影のエルフを葬り。同時に、情報統制の妨げとなる
大図書館を封じるなんて・・・
もし本当に、コレが“唱えた通り”なのならば。
花のエルフは”とんでもなく”合理的で頭が良い。
数百、数千年という時間単位でコンナ計画立てられたら。
ハッキリ言って
人間に勝ち目なんてない・・・
「あはは…でも、ぼくは…もちろん。普段のマシェリィが好きだけど。ソレを着けた君も新鮮で素敵だと思うよ!…要するに、どんなマシェリも大好きさ!」
「・・・・・・あ。そ・・・」
「えぇっ!?そ、それだけ?」
「・・・」
「…マ、マシェリィ…?」
「・・・」
「…マシェ………」
「・・・」
「…(涙)…」
「・・・」
『ガクッ…』
「・・・・・・・・・ばか・・・」
・・・はっ///
は、話を戻すね!
神魔戦争の後・・・
花のエルフの筆により、ドゥーチェちゃんは
神様を脅かした“悪い魔女”に仕立て上げられた。
もちろん。彼女と同時期に生きていたヒトビトが存命の間は
ソンナコトなかっただろうけど・・・
花のエルフは真実を綴った本を規制して・箝口令を敷いて
情報統制をして少しずつ、時間をかけて・・・当時を覚えているヒト
が亡くなるのを待って・・・歴史を改竄していった。
そんな面倒なコトをした理由は、
自分達を神聖化する為だったようだ。
他種族を支配し、統制するためにも
「自分達は強い!偉い!!自分たちは神様だ!
だから言う事を聞け!」と、教育してしまった方が
手っ取り早く治世できると思ったのだろう。
あとは、もちろん。
虚栄心“も”あっただろう・・・
そんなワケで、
ドゥーチェちゃん”が”魔王を倒したという歴史は
邪魔だった。
更に、エルフたちの自尊心の為か?嫉妬の為か?
他の理由があったのか?分からないけれど・・・とにかく、
戦争で活躍したドゥーチェちゃんは
徹底的に蔑まされてしまった。
彼女は、
この大陸の全種族に嫌われている
”魔ノ女”だ。
「…はぁ〜…。おい。イチャ着くのもいい加減にしろ?」
「いっ///イチャついてなんか・・・」
「…ほらっ、”フィリア”。お前は王子の背中だろう?持ち上げてやるから来い。」
「・・・む、むぅ〜・・・///」
「…よいせっ「わ」…と。」
「・・・あ、ありがとうございます。”ギル”様・・・」
瞳を隠すのは当然として・・・
さらに、
念には念を入れて。
私とアミちゃん。そしてゲオ様の3人は
“偽名”を使うことにした。
アミちゃんは、もちろんだけど・・・
私とゲオ様はアドゥステトニア大陸で名前が売れていたので。
もしかしたら、アドゥステトニア大陸に住む【北のエルフ】経由の
情報が伝わっている可能性が、あったからだ。
「・・・んふふふ。お願いね、エオリカちゃん。」
『ヒュハッ!』
「さぁ、フィリア!しっかり捕まっているんだよ!…小僧にやってるみたいに。背中にビターっとぉ…」
「・・・ティシア。私とフルートの間に入って。妹が馬上にいるのは不自然じゃないハズだから・・・」
「はーい!」
「………ぇー…」
ココから先・・・別大陸からやって来た私達は
明らかに不審者だ。
でも、花のエルフの里に入らなければならない以上、
不信感は少しでも払拭したかった。
だから私達は全員、
哲学者であるフルートの”お伴”。という設定で
彼らと向き合うコトにした。
エルフ社会は職業が重んじられるので、
(“他民族のエルフ”といえど、)族長に次ぐ地位である
哲学者は融通が効く。
だから、その”お伴”であるならば。
花のエルフといえど、無理は言えないだろう・・・
「…どうせ挟むなら。コイツも「わぁっ!?」な…」
「コ、コイツって…随分失礼な小僧だなぁ、まったく。今のぼくには“アメリア”って名前が…ソ、ソレに!女の子なんだよ!少しは丁重に扱ってよね!」
「…」
「…え?無視…?」
“アメリアちゃん”こと、アミちゃんは
翼さえ隠せば人間の女の子なので、
翼を畳んで。目立たないようにタオルで巻いてもらい。
ローズさんが(何故か)持っていた私のお古を着てもらうコトにした。
「・・・アメちゃんは私達姉妹とは似てないんだけど・・・大丈夫かな?」
「…姉妹でなくても。ハーレムの一員…と。勝手に勘違いするだろ。」
「・・・そ、そうかもね・・・」
実際、美形が多いのでエルフ男性は(エルフ女子のみならず、)
人間の女の子にもモテる。ハーレム築くのは普通である。
アドゥステトニア大陸にもいたなぁ・・・そういう、哲学者様が・・・
「んふふーっ!アメちゃんも仲良くしよーね!…さっ!私の前においでぇ〜」
「な、仲良くって…も、もうっ!意味分かっていってるの!?」
「う〜?…私とは仲良しになってくれないの?」
「へあっ!?ち、ちがっ…も、もう!分かったよ!!」
「…んふふふっ!アメちゃん、アメちゃん!よーしよしよ〜しっ!!」
「わふぁっ///」
ア、アメちゃん!?ティシアまで・・・
お姉ちゃんにくっ付きながらイチャつくとは
ケシカラン!
「よしよしよしー!」
「はわんっ!?つ、翼はメェ〜///」
「んふふふふふぅ!!」
いいぞ妹!
もっとヤれ!!
「…やっ、やぁ///」
「ふっふっふー!…ココか?ココがエエんか!?」
「やっ///…やあぁんっ!」
さすが魔女の妹!!
そのまま悪魔ちゃんを辱めて
骨抜きに・・・
『コツンッ』
「あいたぁっ!」
・・・なんて。本題から大きく脱線して
目の前の恥事を眺めていると・・・
「…調子に乗り過ぎだぞ?テー。」
・・・ギル様が。
ティシアの頭を軽く小突いて、
「うぅ〜…」
「…もうスグ敵の本拠地なんだ。緊張感を持て。」
「…はぁ〜い。ごめんなさぁ〜い…」
「・・・ティシア。ちゃんと、アメリアちゃんに向かって謝りなさい?」
「ごめんねアミちゃん…」
「う、うん…」
・・・う?
一緒になって喜んでいたクセに、
ナニ便乗して、いい人ぶってるんだ!?
・・・ですって?
・・・んふふっ。
だって・・・私、
魔女だもんっ!
「ふふふ…。」
・・・なんて、
ワイワイしていると・・・
「…さぁ、先へ進みましょうね。」
微笑みの表情で私達を見つめていた
ローズさんが空気を読んで誘い・・・
「こっちでーすよー!」
未知の先で大きく手を振るシュシュを
視界に捉えた私は、
「・・・」
森の向こうに在るハズの
静かな湖に浮かぶ亡国の城と、
捉えられたままの
憐れな2人の女の子を想い浮かべ・・・
「・・・すー・・・」
一瞬、
瞼を閉じて
「・・・ん!」
スグに開いて!
「・・・しゅっぱーつ!」
唱えた!!
「「「「「おぉー!!」」」」」
「…くそっ。なんで小僧ばっかりイイ思いを…」
「…何か言ったか?ロリコンエロフ?」
「誰がロリコンだ!?ぼくはノーマr…」
「…ちび3人を馬に乗せた、この状況を見て。お前をロリコンと思わないヤツなんていないだろ。」
「っ!?!?!?」




