Chapter 024_珀海
林檎です。
本話、短めです。
よろしくお願いいたします。
因みにタイトルの【珀海】は
「はくみ」と読ませます。
ア・テンポ 32,196年 星火の月24日
お天気は晴れ…
「………」
…朝…
「…ふぁ……」
…朝は。
好き…
窓から見えるお魚ちゃんの自由な姿に
『コポポポポ…』
小さな嫉妬と、
「…食べちゃう。ぞ…」
小さな期待を。
抱けるから…
「…んぅ。しょ…」
そして…
「すぅ…」
「ー…」
何十万回聞いたか分からない
小さな寝息と
「…今日も。涼しい…」
涼やかなぬくもりと
「ふしゅー…」
「…///」
確かなカタチが…
「…起きて…」
「すー…」
「…囚われのお姫様を。助けに行くんでしょ…?」
「んみぅ………」
…この、文字ばかりの大図書館が。
文字だけの世界じゃない。って…
「…くふぅー…」
…そう。
教えてくれるから…
「…ふふふっ…。
…ほんと。迫力のない。アクマちゃん…」
…だから私は。
朝が好き…
「…早く起きないと…
…食べちゃう。ぞ…」
………
……
…
「・・・では、カルマート様。」
「…うん…」
…図書館は開かれたものだ。
誰が入ろうと受け入れる。
誰が出ようと引き留めない。
エントランスの大扉に鍵をかけることも無い。
コレまでも。
そして、コレからも…
「…フォニア君。本当に気を付けてね…」
「・・・んふふふっ。大丈夫ですよ・・・私達には“溟王”様まで付いているのですから!」
「…ソレが。いちばん心配…」
「え゛…カ、カルマートォ…」
…私の物語は、きっと。
もう、2度と開かれることのない、この扉と
同じくらい退屈なものになると思っていた…
何もしなくても、
図書館がある限り私は死ねない。
本なんて読まなくなって、
手に取るだけで内容を把握できる。
その気になれば、意識するだけで
目当ての本を手元に呼び寄せることだってできる。
私の仕事はそういう…大図書館にやってきた、迷える子山羊に道を示す
“端末”であることだ。
案内板や、目録と何ら変わらない。
“あると便利”だけど、“無くてもいい”…そんな。
大図書館に設けられた“付帯設備”
…それが、大図書館の【司書】というモノだ。
でも…アノ日まで私は。
与えられた仕事なんてソッチのけで。ただ、
自分の為だけに本を読んでいた。
来館者なんて邪魔だ。とさえ、思っていた。
読書を奪う。お喋りな子山羊さん…
…そう。思ってた…
「…フォニア君。アミの言う事なんて気にしないで良かったのに…」
「・・・んふふふっ。ご心配には及びません!ソレに・・・私の1番の目的は同郷の彼女を開放してあげることで。そっちは“ついで”ですから・・・」
…沈みゆく街
朽ちていく木々…
…崩れゆく故郷
力なく倒れる世界樹…
…っ、
アノ時…
全部。アノ時だ…
全部が変わってしまったのは。
アノ時だ…
「…フォニア君に“あの本”を読ませた事…。…今は、ちょっと。後悔しているの…」
私は。アノ時
何もできなかった…
「・・・どうか。そんなコトおっしゃらないで下さい。同郷の彼女を知る機会を頂けたこと・・・。私は、とても嬉しく思っていますので・・・」
…今回も。
何もしてあげられなかった…
「…」
あぁ…なんて私は、
無力なんだろう…
「・・・カルマート様。」
沈んでいた私を
「・・・」
小さな魔女ちゃんは、
「…うん…う、うん…?」
慈しみの夜と、小さな手で
優しく優しくすくい上げ…
「・・・カルマート・ライブラリアン・シャドゥ・ジェミニ殿・・・」
「…」
「・・・私は。悠久の時を越えて、なお、職務を忘れず。私達に得難い知識と安らぎと出逢いを与えてくれた貴方様に無上の感謝と、敬仰の念を感じております。」
「…け、けいぎょ…///い、言い過ぎ…」
「・・・いいえ言い足りません!本来なら拝跪すべきお方であるにもかかわらず、私のような田舎者の小娘にも良くしていただき、敬愛の情を抑えることもできません・・・」
「…す、凄いねフォニア君。よく、そんな言葉が出てくるね…///」
「・・・私は、ありのままを言っているだけです!」
するとフォニア君は
私の手を離し、帽子を脱い…
「…へ…?」
「・・・カルマート様。」
跪き!?!?
「…ちょっ、///」
(アミ以外の)全員も、
彼女にならい!?
「・・・本当に。ありがとうございました!!」
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
〜///
「…や、やめ…///」
私の思いを知ってか知らずか…
お、おそらく知っている彼女は
「・・・んふふふっ!」
悪戯に微笑みながら
『パッ!』と立ち上がり
「・・・カルマート様!」
『ギュッ!』と
帽子を深く被り
「・・・貴女様が望んだ通りの物語を、必ず!唱えた通りに綴ってみせます!・・・どうか、楽しみに待っていてくださいね!!」
我儘放題、
言いたいコト言って…
「・・・行ってきます!」
大きな胸と帽子を揺らして
軽やかにターン!
「・・・いくよっ!みんな!!」
自信満々、大扉をくぐっていったのだった…
「…ふふふ…
…楽しい時間を。ありがとう…
…いって。
らっしゃい…」
………
……
…
「…」
彼が、彼女が
去ったアト…
「…」
…アトには。
静寂が満たす古代遺跡と、本の海
そして…
「…」
…孤独な司書が。
司書だけが。
唱えられた通り、
残されていた………
「………また…ひとりに
………
……
…
…なっ。ちゃっ。た………」
…ずっと。ずっと…ずー…っと忘れていた
“独り”という事実を思い出して海を眺め…
…嘘ついた。
眺めてたんじゃナイ。
ただ、窓の外に顔が向いていたダケ…
「…」
…読書も。
本のお世話も。
材料のお世話も、
やる気がでない…
「…」
…悪魔や魔女のお世話も。
お喋りも。
な〜…んにも。
必要なくなっちゃった…
「…」
孤独色の
「…、」
瞳の…
『キュー…ィ…』
前に…
『キュー…ゥ………』
…現れた。
のは…
「くじらさん…」
『キュルルルゥ………』
「…ふふ…」
『…』
「…くじらさん。
くじらさん…。
…今日は。こんなところまで
お散歩かしら…?」
『…』
…それとも、
「…お客様を連れて帰った。
帰りかしら…?」
『………』
「…なんて。ね…」
…つい、数日前まで。
魔女君が教えてくれるまで…
『キュー…ゥ…』
「……ねぇ、くじら。さん…?」
『クー………』
…ずっと。
【敵】だと思っていた…
「…私を。嫌わないでいてくれる…?」
…そんな私を。
『クュフルルルルルゥ…』
…大きなくじらは。大きな青で。
丸ごと図書館を包み込み…
「…」
『ヒュルルルル…』
…身じろぎ、ひとつ。
するコトなく…
『…』
…静かに、ゆったり。
揺蕩って…
『…』
「…」
『…』
「…、」
…私のコトなど。
お見通しだと…
「…」
『クフー………』
…全部分かっている。
全部見ていると…
「…」
『…』
…そう言いたげに。
余裕のうたた寝をはじめ………
「…」
『…』
「…」
『…』
「……………
…ねぇ。
わた…を…
…私も。
…って…。
くじらさん…」
林檎です。
本話は、本章の終話となります。
短い上に恐縮ですが・・・キリがよいので、
本日は1話のみの投稿とさせていただきました・・・
ご、ご容赦くださいませっ




