Chapter 022_ヒミツの守護者
林檎です。
本話、ちょっとだけ文字数はみ出しちゃいましたっ
すこーし長めですが、お付き合い願えれば・・・
・・・よろしくね。
「うぅ~???」
「・・・ティシアには。まだちょっと難しいな・・・?」
魔導の一般則すら学んでいないティシアには早すぎる知識だろう。
疑問符を3つも頭に掲げた妹に
「・・・この場では説明しきれないから。旅の中でちょっとづつ、教えてあげるね。」
「ん、んぅ…」
約束をして・・・
「…あっ!ソ、ソレよりごめんなさい。ね様、カルマート様!お話、邪魔しちゃったの…」
「…構わない…」
「・・・いいのよ、ティシア。」
妹の謝罪のあと、
「…ソレで…フォニア君は。マナ・フロウの学説を知っている…として。お話して。いいのね…?」
カルマート様のその質問に
「・・・はい。アドゥステトニアにいる【北のエルフ】の主張を基にしていますが・・・」
「…大丈夫。学説は全エルフ共通だから…」
答えると・・・
「…それで…マナ・フロウの学説を知っているなら。理解できると思うけど…。…魔法は。マナが集まって魔力に変化することで発現する。個々人の体内で作られてしまう魔力は、どうする事もできないけど…召喚獣まで“物理的に距離がある”なら…」
「・・・マナが動けないから。魔力も動かない・・・ですね?」
「…うん…」
「・・・それは・・・元からですか?」
「…元から。って…?」
「・・・開館当初から・・・ですか?」
「…違う。最初は“魔法の発現”だけを制限していたの…」
「・・・でも、それだけではアミちゃんを救えなかった・・・ですか?」
「…救うツモリなんて。無かったんだけどね…」
カルマート様ったらぁ・・・
「・・・アミちゃんの。ために・・・」
「…ほ、ほんとに。そんなツモリは…」
そんな事
言っちゃってぇ!!
「・・・んふふふっ!」
「…///」
優しぃんだからっ///
「…ち、治癒魔法は対象に直接触れて、その体内で発現するモノだよね…?…マナの動きを制限したままでも。魔法“さえ”発現できれば…。…でき。ない…?」
優しいカルマート様の為にも、
せめて、診断だけでもしてあげたい。
でも、だからこそ
正直に・・・
「・・・う〜・・・やってみないと。ですね・・・」
・・・確かに。仮説に従えばうまくいきそうな気もする。
でも、そもそも、
この仮説には穴があり、100%正しくはない事が分かっている。
(だからこそ、私は“仮説”と呼んでいる)
確信は持てないけど・・・
「…お願いして。いい…?」
「…お、お願いしますフォニア殿!」
ま、まぁ・・・
“マナは動かないけど、魔法は発現する”という、極めて特殊な環境
(やっぱり【部屋】?)を作り出すコトができるなら・・・
「・・・分かりました。とりあえず、やってみましょう・・・」
「…ありがとう…」
「どうもありがとう!お姉ちゃん!!」
・・・
・・
・
「・・・すー」
翌朝!!
カレント2,187年 星火の月 21日
お天気は晴れ。
大図書館に増築された
【診察部屋】にて
「・・・『祈り込めて擁する』」
簡素なベッドに腰掛けたアミちゃんの手をとり。
十数日ぶりに魔法を唱えると
「ダイアグノーシス!」
その結果は・・・
・・・
・・
・
…
……
………
「ふぅ・・・・」
…アミの手を両手で包んだフォニア君が息を突き
手を離したのは、
淹れたてのお茶が冷たくなってしまうほど
時間が経った後だった…
「・・・」
…そして…更に数分。
彼女は瞑目してから…
「・・・ん・・・」
…小さな声で。
瞳に映った言葉を整理して…
「・・・お待たせしました。診断結果をお伝えします。」
…きっと。
コレまで。何百何千何万人と向き合ってきたであろう、
その瞳で。その言葉で…
「っ…は、はい…。」
…アミの青を。
「・・・結論から申し上げますが・・・」
自身の夜の中心に映し…
「・・・アミ殿下・・・と、殿下の召喚獣は。アミ殿下が交わしたであろう、“紙を介した契約”によって。“縛られて”いました・・・」
…唱えたのだった…
「…紙を介した。契約…?」
「・・・はい。・・・アミ殿下。殿下はこ契約を交わした時のことを覚えておられますか?」
「え?えぇと…ええと?」
…アミは。
姉である炎帝や、臣下たちに何と告げて来たのか?
どうやって【影の森】に来たのか?
なぜ、ひと唱えで命も土地も筆跡も。全てを海に沈める【海神魔法】を唱えたのか…それほどの恨みを買うようなことを。私たちがシタというのか…?
…彼は何一つ。
覚えていなかった…
「・・・やはり。そうでしたか・・・」
「…やはり?」
「・・・さすがに。当時何があったのか?までは、計りかねますが・・・」
…そこで。ローズ君が淹れ直してくれたお茶をひと口含んだフォニア君は…
「・・・殿下が交わした契約は。端的に言って悪質です。」
カップの水面に視線を落とし。
呟いた…
「…あくし。つ…?」
…その真意を知りたくて。
尋ねると…
「・・・」
「…?」
…フォニア君は。私の瞳だけを見つめ…
…手だけで。ローズ君が差し出したソーサにカップを置いて。
「・・・すー」
吸って…
「はぁ〜・・・・」
吐いて。
「・・・・・・ん。」
アミと私を瞳に映し
「・・・契約達成条件は【影のエルフ】の全滅と、痕跡の全損。」
「はあっ!?」
「・・・達成時の報酬は“死”」
「…し…?」
「・・・アミ殿下“の”と、いう意味です。・・・ちなみに、契約魔法の“死”は理論上“不死”にも届いてしまいます。」
「っ!」
「・・・未達成時のペナルティは“魔王の殺害、後の自害”」
「なっ…」
…あ、あまりの。
言葉に…
「「…」」
…私とアミ。だけでなく…
「っ…」
ローズ君は。胸を押さえて…
「…」
お耳君は。手を握る力を強め
「え…え?え??」
ティシア君は。
動揺しながら…
「…ね、ね様。それって…ど、どうやっても。アミちゃんが…」
…彼女のその言葉を
「・・・大丈夫よ。そんなコトさせないから。」
フォニア君は
力強い言葉で遮り…
「・・・殿下。」
「っ…」
今度はアミを…
「・・・殿下の召喚獣は、きっと。貴方様を守るために今の状況を創り出したのだと思います。」
「えっ…」
…そして。アミの背中の窓の先…
紺碧を漂うクジラを瞳に映し
「・・・召喚獣は術者を親のように感じるといいます。現に私も、自分の召喚獣から強い愛情と庇護を感じております。」
…フォニア君は。指から這い出て舌を伸ばす蛇と、
頭の上でリングを回す星に慈しみの視線を送ってから…
「・・・ですので・・・貴方様の話を聞いて強い違和感を感じました。召喚獣が・・・果たして。本当にそんなコトをするだろうか?と・・・」
「…」
「・・・それに、貴方様の召喚獣は第12階位という高みにいる召喚獣ですよね?それ程の精霊が・・・なぜ。この建物を壊さなかったのでしょうか?」
「…え…」
「・・・攻撃の一つもせず・・・まるで。ここを守るかのように・・・」
「っ…」
…大図書館は内側からの攻撃には【無敵】だけど。
外側からの攻撃には【堅牢】止まり…
…これは、つい昨日。フォニア君に教えたばかりの情報だ。
彼女は信用できると思ったからこそ。伝えるコトができた…
「・・・高位の召喚獣は知能も高いです。術者の置かれた状態を理解する能力もあると思います。・・・ジンちゃんは。殿下を守りたくて・・・その為にあえて、命令を無視し続けたのでは無いでしょうか?・・・大図書館を遺すことで契約条件の達成を阻止し、かつ、殿下を隠す。そして、窓の外から見守り続けた・・・。少しばかり乱暴ではありましたが、しかし。ジンちゃんが考えうる最良の方法だったのでは無いでしょうか・・・?」
「ジン…が…ボ、ボクの為に…?」
「・・・契約魔法の行使には契約者の同意・・・直筆の署名・・・が必要です。もし、殿下に。“このような”理不尽な契約を結んだご記憶が無いのであれば。ジンちゃんが強硬策に出たのも、そのためだったのかも、しれません・・・」
「…で、でも。魔力を無理矢理…」
「・・・それは・・・もしかしたら。因果律を働かせたのかもしれません・・・」
「いんがりつ!?」
「・・・殿下は水属性魔法の著者なのですよね?だとすれば、ジンちゃんの存在を支えているのも、アミ・シアリア・メフィスト=アオン様・・・殿下ご自身なのでは、ないでしょうか?」
「えっ!?そ、それは…」
「・・・これは私の“勘”・・・“推測”ですが。・・・殿下は。水属性魔法の著者であると同時に、その“原書”でもあるのではないでしょうか?・・・著作物が自身が綴られている本を壊すなんてできません。ですが・・・何かしらの理由で。それが“できた”と仮定します。するとどうなるでしょう?当然ながら、原書を壊した著作物自体も破壊されてしまいます。ですが・・・現実に水属性魔法は存在しており。万人に広く知られています。当然ですが、その、第12階位に位置する召喚獣も存在して“いなければなりません”。」
「えっえぇっ!?ちょっ…カ、カルマート!?…ま、まだ。お姉ちゃんには…教えてない。よ、読んでない…よね!?」
「…その。ハズ…」
「・・・私も“けっこうやっています”が・・・リブラリアの魔法・・・“定理”には。“解釈”の余地があります。・・・魔法が“ヒトが作ったものである”と確信できる理由はココですね。ヒトが作ったモノであるからこそ、【穴】がある・・・」
「っ…」
「・・・ジンちゃんは召喚獣の身でありながら、自ら。術者に代わって。先に述べた因果律を論拠に。術者・・・と、いうか。著者・・・と、召喚獣の関係を“解釈”し直して。“水属性魔法の補完”のために。“著者から”魔力を徴収していたのではないでしょうか?・・・要するに、ジンちゃんは著者である殿下に「綴った責任を持て。廃版なんて許さない。」と、言っている。・・・どうでしょうか?」
「ちょっ…」
…フォニア君の。今の話は…
「・・・と。ココまでいろいろ申しましたが。殿下に契約魔法がかけられているコト以外は、すべて私の想像です。」
「あっ…」
…そこで立ち上がって。
アミの手を握りなおしたフォニア君は…
「・・・ですので。あとは・・・」
…黒に、
「お、お姉ちゃ…」
青を反射させ…
「・・・紙を破って。聞きに行きましょう・・・」
…唱えた。




