Chapter 021_ホントうそ
「もきゅもきゅもきゅ…」
「・・・落ち着いた?」
「…ぅ、うん…。あ、ありがと。フォニア…お、おねぇ…ちゃん…///」
「・・・んふふふっ///」
「「…」」
その後・・・
「…情けない…」
「うぅぅ…」
「・・・まぁまぁ。カルマート様・・・」
カルマート様が準備してくれた“豆だいふく”を食べて
アミちゃんはようやく、
落ち着きを取り戻したのだった・・・
「…フォニア君。アミは最高位の魔族。気を許しちゃダメ…。…隙を見せれば【魅了】の魔法をかけられる…」
「…ちゃいむ?ね様!“ちゃいむ”って…?」
「・・・【魅了】。・・・一部の魔族が宿すとされる、固有魔術よ。」
「…うん…。…相手の意思を自在に操る。【隷属魔法】みたいなモノ…」
カルマート様はアミちゃんに厳しい・・・
・・・ま。
過去を考えれば、当然かもしれない・・・
「そ、そんなコトしないよ!…そもそも。大図書館では魔術を行使できないじゃないか…」
「…どうかしら…?…魔族の宿す魔術は未知の部分が多い。まだ私が知らないコトも。沢山ある…」
・・・でも。
カルマート様は、そんな彼の為に
大図書館全体を魔力が伝達されない空間にして
「カ…カ、カルマートのイジワル!」
「…悪魔に言われたく。ない…」
何千年もの間
彼を守っていたのだ・・・
「・・・そ、それで。カルマート様が言っていた。私に会わせたいヒトというのは・・・アミちゃんで。間違いないのですよね?」
「…うん。そう…」
普通はそんなコト。仇敵とも言える相手に
できるハズがない。
彼に同情の余地があったとか、
可哀想だったとか。
そういった理由もあったんだろうけど・・・
「・・・えぇと・・・ソレは。ナゼでしょうか?」
いち番の理由は、きっと・・・
「…アミ。それくらい…自分で説明なさい…」
「…う、うん…」
カルマート様の“優しさ”だろう・・・
「・・・それで・・・アミちゃん?」
私の膝の上で、ローズさんから受け取ったお手拭きで
大福の粉を拭いたアミちゃんに声をかけると・・・
「え、えと…///」
「・・・う?」
私の膝から『ぴょんっ』と降りて
「フォ、フォニア…どの…」
姿勢を正した彼じょ・・・じゃ、無くて。
彼に
「・・・」
私も
居住まいを正して
「…ボ、ボクの呪いを解いて…そして。一緒に姉様を助けてほしい!」
「・・・」
「お、お願い…します!!」
・・・
・・
・
…
……
………
…
……
………
…
……
………
「えっ…えぐっ…」
「…」
…後にも先にも。
彼が私に危害を加えたのは、その1回きりだ。
「やっと。やっとっ…っっ…」
凍り付いた取っ手の向こうで
痩せ細ってガリガリの彼は…
「っ…ひっく……」
…泣いていた。
「…」
私は…
手が、ちょっと冷たくなってしまっただけで。
ケガを負ったわけではなかった。
そもそも、図書館の中にいる限り、
私は何人にも侵されない存在だ。
やろうと思えば、彼を閉じ込めるなんて簡単だった。
けれど…
「えっく…ひぐっ…」
「…」
…なぜか。
私にはソレができなかった…
「たっ、助けっ……」
彼は…見た目は幼い少じょ…
「…っ!」
い、いえっ!少年っ
「…///」
…む、むぅ…む、無力のように見えるけど…
私たちエルフの宿敵
“魔族”
何千年もこんな環境で過ごしてなお、生きているなんて
他には考えられない。
「えほっ…ゲボッ…」
「…」
私は…すぐにでも彼を封印し。全てを忘れ。
その場から立ち去る“べき”だったのかもしれない…
【不老不死】である高位の魔族を閉じ込めるのに
【大図書館】は“うってつけの場所”と言えるだろう。
…もしかしたら、
大図書館の存続の可能性に気づいていながら
誰一人、この地に近寄ろうとしないのは…
「ひぐっ…おっ、おねっ…がいっ。」
…彼の存在に
気づいているせいかもしれない…
「な…ないっ。でっ…」
私の故郷【グローティカ】を崩壊に導き、
世界樹を枯らせ、
【影の(シャドゥ)エルフ】を全滅に追いやった張本人…
「っ…」
そんな彼を
「…す、けっ……て…」
弱りきった彼を
「…、…」
私は………
………
……
…
………
……
…
………
……
…
・
・・
・・・
「…も、もちろんお礼もするよ!ボクが持っている魔法の知識を全部あげる!!だから…」
アミちゃんは声を大きくしてそう言った。
「・・・アミ・・・殿下。」
けど・・・
「・・・今の時点では、貴方様の願いに頷けるか?判断できません。」
私のその告白に。
「…」
アミちゃんは・・・
「それは…えっと。ひとつ目に関して?それとも…」
「・・・両方です。」
「…」
黙り込んだアミちゃんの横から
「…フォニア君。」
カルマート様が声を上げ・・・
「2つ目の。アミの無茶振りは無視して…」
「カ、カルマートォ…少しはみk…」
「…でも。治癒魔法を宿している君なら呪いを解くのは…」
その言葉の答えは・・・
「・・・先程申した通り。殿下の身に起きているコトが【呪い】・・・治癒魔法で解呪できる・・・であるのか?あるいは、他の何かか?・・・お話を聞いたダケでは判断しかねます。・・・診断魔法を唱えるまでは、できるともできないとも言えません。」
リブラリアでは病気も呪いも、
基本的には治癒術師の領分だ。
でも、実際に治癒魔法で解呪できるのは“存在に綴られた呪い”に限る。
でも、この
“存在に綴られた呪い”
というモノが何なのか?
私自身、
よく理解できていない。
呪われたヒトや魔物を見たこともあるケド、
呪われる“瞬間”を見たことはない。
当然、どうすれば呪われるのか?も分からない。
(契約魔法による呪いは別だよ!“契約による制限”は、当然だけど、“呪い”じゃない。でも、治癒術師と契約魔法使い。そして、契約を結んだ本人以外には、見分けがつかない。さらに、誰でも簡単に解除できるわけじゃないし、大抵、本人に不利に働く。だから、みんな“呪い”と呼ぶ。ヤヤコシや・・・)
だから結局、
アミちゃんを診断しないコトには、ソレが呪いかどうか?分からないのだ。
「そ、そう…だよ。ね…」
「・・・ですが、大図書館内では魔法の行使ができません。外に出れば出来るのかもしれませんが・・・それでは、アミ様が・・・」
「…」
落ち込んだアミちゃんに代わって
「…フォニア君。診断魔法というのは…治癒魔法のコト。だよね…?」
カルマート様が質問してきた
「・・・はい。治癒属性第1階位【診断魔法】といいます。」
「…最初に逢った時に。唱えていた…?」
「・・・ん!」
私の答に、カルマート様は・・・
「…治癒魔法は。確か…対象に触れて。始めて発現する魔法よね…?」
「・・・う?そ、そうですが・・・」
どうしてそんなコトを・・・?
「…大図書館内部は。【大図書館の魔法】ですべての魔術が発現しないようにしている…って。さっき説明したけど。コレは大雑把な説明…。…詳しく言うと。私は大図書館内部に、魔術に関わる2つの効果を付与しているの…」
「・・・ふたつ・・・」
「…1つは“魔法現象”の発現を制限している。コレは…分かるよね…?」
発現の制限・・・ま。言葉通り、
“魔力を原料に魔法が生まれる”その理を
【改変】または【邪魔】しているという意味だろう。
「・・・」
簡単に書いちゃったけど・・・
カルマート様。“とんでもないコト”やってるね。
それを“どこでも”できるのならば。
リブラリアを征服できるよ・・・
「…だいじょう。ぶ…?」
「・・・う!は、はい・・・」
「…」
私の肯定に小さく頷いたカルマート様は
「…もう1つの効果。それは、マナの動きを制限するコト…」
「・・・マナの・・・そ、そんなコトまでできるのですか?」
「…うん…」
「・・・」
反則のような気もするけど・・・
もし、本当ににそんなコトができるのであれば、
アミちゃんの悩みを解決できるだろう・・・
「…まな?」
納得した私の横で疑問符を上げたのは
妹のティシアだった・・・
「…【マナ】というのは世界樹から放出される…まぁ。魔力の素のコトね…」
カルマート様の言葉を引き継いで・・・久しぶりにっ、
説明しよー!!
【魔力】とは何か?
リブラリア人も、別にこの問題に無関心だったワケじゃない。
古より、この問に答えるため様々な実験がなされ、
仮説が唱えられてきた。
有力視されている説は2つ。
その1つが、主にエルフが唱える
【マナ・フロウ仮説】だ。
マナ・フロウ仮説は、
世界樹より放出された【マナ】と呼ばれる微粒子が
リブラリア全域に満ちており、
魔法とは、
マナを素に生み出された魔力を源にして発現する現象である。
魔力とは、
魔法現象の発現点にマナが集まり、魔力に変化して
生み出される(物事を変化させる)力である。
保有魔力とは、
マナを“変化させる能力の高さ”をいう。
魔纏術や、獣人の技は
個人の体内で変化させた魔力を用いた局所的な魔法である。
・・・という仮説である。
世界が変われば、これが“仮説”ではなく“真実”なのかもしれないけど、
リブラリアではそうもいかない。
もう一つの有力視されている仮設・・・
ドワーフが唱える
【魔力ポテンシャル仮説】
と言ってることがゼンゼン違うし、
それに、
矛盾(立て続けに魔法を発現させても、効果にムラができたりしない。世界樹から離れても効果に影響がない。)や、疑問(誰も(獣人すら)マナそのものを観測できていない)も指摘されている・・・
授業の続きは、また来週!
・・・よろしくねっ




