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Chapter 020_悪魔と司書

「…と、いうワケ…」


開館当時から大図書館では

魔術が発現“できない”ようにしていた。


ソレは不便だと

批判するヒトもいたけれど。

私は譲らなかった…


…族長様も。

そんな私を支持してくれた…



「…つまり。【中庭の部屋】ならアナタを再び魔力切れにすることができる。と、いうコトね…」

「!?」


でも…

【大図書館の魔法】では、できないコトもあったから。

私以外、誰も入れない部屋に限って魔法を解禁して。利用していた。



【中庭の部屋】は、そんな。私専用の部屋のひとつ。

ドワーフの技術を真似して噴水を作るために

魔法が“発現できる部屋”として、生み出した…



…さらに、【中庭の部屋】は当時の私の“手違い”で、

“取水口”はあるのに“排水口”が無かった。

(…だから。水没しちゃったの。かも…?)



私専用の部屋なので、とうぜん。

“生き物”用の出入口は、私にしか生み出せない。

(…今思えば。お魚が入り込む余地はなかった…。…当時の私。マヌケ…)



そして【大図書館】は、

中からの攻撃には【無敵】という性質がある。



「…それじゃあ。【牢屋部屋】から出ていってもらう…」

「や、やめっ…」


…この悪魔は【不老不死】の他に。

“水と同化する”という非論理的な、唯一無二の

種族特性をもっているらしい…


…まんまと大図書館に入り込んだ悪魔だったけど、

水と同化しても召喚獣の搾取を逃れるコトはできず。


偶然たどり着いた【中庭の部屋】で何千年も

自然治癒による覚醒と、魔力酔いによる気絶を

繰り返していたらしい…



「…出なさい…」

「いや…い、いやっ!!」


…つまり。偶然に偶然が重なった結果。

【中庭の部屋】は悪魔を閉じ込めるのに最適な空間に

なっていたのだ…



「…出ていけ。悪魔…」

「イ、イヤ…ヤだよぉ…」


…なのに。だというのに。

せっかく、悪魔を無力化して

閉じ込めていたというのに…


ある日、

マヌケな司書が好奇心に負け。

後先考えずに、ソレを引き上げてしまった…



「…はぁ~………」


…ほんと。

困る…



………

……






『…パサッ』


1,700年以上経ったある日…



「…【毒花】の勝利宣言書。魔王軍参謀殿の無条件降伏文書付…」


面倒な扉の鍵をいくつも越えて



「んなぁっ!?…ね、ねぇ様は!?」


最後の…いちばん物々しい“開けっ放し”の牢屋部屋の扉の前に立った私は、

牢屋の中に



「…倒されたそうよ。当然だけど…」


1冊の冊子を。そっと置いた。


多色刷りの…無駄に豪奢(ごうしゃ)

その本を…



「うそっ…う、うそ!嘘だ!!」

「…綴られている…」

「ボクは…ボ、ボクは読まないぞ!!絶対に認めない!!」

「…それは。アナタの自由…」

「そんなっ…っ、っっ…そ、そんっ…。そ、そん。なっ…」

「…」

「あっ…ねっ、ねぇっ……っ」

「…」

「あっ、あっ…あぁ~んっ、あぁ~んっ!」

「…、…」


…私は。

騒ぎ立てる悪魔に…



「………」


…本当なら。

「…ざまぁ。みろ…」って…


…そう言う。

予定だったのに…



「あぁ~ん、あぁ~…んっ…」

「…」


…子供のように。

泣きじゃくる彼の姿に…



「ひぐっ…っ、っっ…あっ、あぁ~!」

「、…」


…何も。

言えなくなっちゃって…



「…っ」


…なぜか。

涙が込み上げてきて………



「…あくま。のっ…っ…ばかっ…」




………

……





















「あぐっ…ひぐっ…」


その日の夕方…



「…」


…私は。



「………」


茜の廊下を過ぎ



「…、……。。…。」


斜陽の扉をくぐり



「…っ…ぐずっ…」


灯りの脇を通り



「…ひっく、…ひっく、…」


牢屋部屋を訪れ…











「っく…、ねぇ…さま…っっ、…」

「…」


鉄格子の間から…








『…コトッ…』

「っ…」


…お皿を。

ひとつ…






「…食べるといい…」





「へっ…」




「…」



「えっ?あっ………ま、豆…だいふく…?」


「…半島の先…今は無き島国の民族料理。調べるの。大変だった…」

「っ…!」


ここは大図書館。

どんな資料だって揃う…



「…美味しくできた。と、思う…」

「…」


溟王アミと炎帝カエン…


彼らの故郷が、もはや存在しないということも。

彼ら姉弟を神と崇めていた人間に裏切られたということも。

裏切られてなお、守ろうとしたことを…



「…アナタの故郷がないように。私の故郷も今はない…」

「…」

「…でも…故郷のレシピは。ちゃんと残っていた。

 筆跡は…確かに。大図書館(ここ)に在る…」

「………」


…彼らの故郷の人間を騙し、その人間もろとも海に沈めたのが

私達。影の(シャドゥ)も含めた森人(エルフ)だったということも…




「…私は。魔族が嫌い。悪魔が嫌い。故郷を奪ったアナタがキライ…」


悲しい夜も

思い出に浸った夕方も

涙した午後も

無気力な日中も

孤独に苛まれ、ぼおっ…、と、海を眺めていた… 朝も



「…でも…」


泣くだけ泣いて。涙も枯れて。

ソレでも…



「っ…」



どうして…



「…ながい…とても永い。時間が経った。のも。事実で…」


ねぇ、

どうしてっ!!!



「…っ…」


私ばっかりっ!!!



「ゆぅ、許せないっ゛…けどぉっ…!!」


ねぇっ!!

どうしてなのよおおおおぉーっ!!!











「………でも。

 私は…」



…私は。

ただの無力な…


「…故郷の窮地に何もできなかった。から…

 …アナタを恨む権利なんて。な…、、っ…。…な、

 …ない。っ…っっ…。。。なっ、なぃ、からぁっ…」


…綴られたインクの隅で何が起きたのか?

いなくなったヒトは何を思っていたのか?

残されたヒトは何を想うのか?


リブラリアは綴られているけれど…

綴られた文字“だけ”が、リブラリアの“全部”じゃ無い。

って…


…故郷を失って。

仲間も失って。

孤独に苛まれて。

数千年の時を経て…


…ようやく。



「…だ、だから…今は。この、忘れられた“本の海”に遥々やってきてくれた読者様に。ただただ、誠心誠意。尽くすことにする…




…私は。

ただの“しがない”司書だから…」


…ようやくソノコトに。

気付けたから………



「…ようこそ、悪魔さん。

影の(シャドゥ)エルフが誇る

知の殿堂。


大図書館(グラン・リブラリア)へ。


ようこそ…」



………

……











「…さっさと出なさい…」

「え、えぇとぉ…」

「…“生き物”がいると部屋を解体できない。ルームinルームで牢屋部屋と図書館を繋げた。魔力は伝達されない…。…もう、魔力を吸われるコトはない…」

「そ、そう言われても…こ、怖いものは怖ぃ…」

「…えいっ…」

「うわぁあっ!!ちょっ!カ、カルマートさん乱暴!!」

「…ちょっと引っ張っただけ…。…まったく。溟王が聞いて呆れる…」



………

……



「…た。たたぁ…みぃ…?」

「…畳」

「…た。たみ…?」

「畳…む、無理しなくても…」

「…。…イグサ(?)を干して。()って。畳(おもて)を作って…。…さらに、干した稲藁(いねわら)を畳(どこ)として。そのふたつを織り込んで…。…面倒…。」

「そ、そう。かも…というか。ボクも畳の製法なんて知らなかったよ。そんな本、出版されてたんだね…」

「…アナタの島の誰かが…。…だと。思う…」

「そっ…か…」


「…それで。畳だけど…要するに。アナタの寝床は【干し草部屋】でいいってことね…」

「そうそう!ほしく…えっ!?ちょっ!?まっ!!違くない!?」

「…もう。作っちゃった…」

「えぇー…」



………

……



「…」

「…カルマート?」

「…」

「…ど、どうしたんだい?昨日はあんなに嬉しそうにタコ飯を食べていたのに…?」

「…」


「…なにか…あったのかい…?」

「…」


「…」

「………なかま…」

「…え…」

「…影のエルフの…最後のひとりが。永久(とわ)の航海に。旅だってしまった…」

「………」

「…これで。私は。ひとりぼっち…」

「カルマート…」

「…また。ひとr」「カルマート!」


「………な、なにをする。あくま…」

「…カルマート。君は…ひとりじゃない。ボ、ボクが…」

「…思いあがるな悪魔。故郷を奪ったアナタに何が分かる…」

「故郷を奪われたのはボクも同じさ…」

「っ…ア、アナタと一緒にするな…」

「そんなつもりは無いさ。カルマートはカルマート。ボクはボク…」

「…そ、そう。アナタと私は違う…」

「…そうさ。カルマートとボクは違う。カルマートと花のエルフも違う。ボクと他の魔族も違う。みんな違って、みんなひとりで…。みんな、ひとり“じゃない”だろう…?」

「…」


「…それに、ここには沢山の偉人が残した本もある!みんな、カルマートの子供みたいなものじゃないか!」

「………本は。私の子供じゃないわ…」

「えっと…」

「…みんな。私の親で。先生で。恋人よ…」

「あ、あははは…」

「…でも…」

「…?」

「…ありがとう。アミ………」



………

……



「…これ。本当に…?」

「い、いちおう…ま、まぁ。ボクより姉様の方が理解は深いけどね…」

「…少なくとも私には。この本に不備があるようには見えない…」

「なら、よかったよ…」

「…【魔法言語】の解説本。たしかに。納めさせて頂きました…」

「…今となっては。何の役にも立たな…」

「…そんなコトない!」

「カ、カルマート!?」

「…この本は。いつか必ず誰かの瞳に触れる!誰かの(しるべ)となる!綴るとはそういうこと。大図書館はその為にある!」

「…」

「…私は。それを。信じてる…。…だから。今この瞬間も。司書でいられる…」


「カルマート…」

「…アミ。あなたの言葉は…確かに。綴られた…」

「………ありがとう。カルマート…」

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